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アニメ『アークナイツ』感想(ネタバレ)…ウサギと悲壮な世界と白すぎる問題

アークナイツ

ウサギと悲壮な世界と“白すぎる問題”…アニメシリーズ『アークナイツ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Arknights
製作国:日本(2022年)
シーズン1:2022年に各サービスで放送・配信
監督:渡邉祐記

アークナイツ

あーくないつ
アークナイツ

『アークナイツ』あらすじ

鉱石病(オリパシー)と呼ばれる病気が蔓延している世界。さまざまな種族たちはこの感染症をめぐって憎み争い合っていた。迫害と鉱石病から人々を保護するために活動している組織「ロドス」の前に、迫害を受け続けた感染者組織である「レユニオン」が軍事勢力として立ちはだかる。主義や思想の隔たりは新たな対立を生み、それでもロドスの者たちは迷いながらも前に進むしかないと覚悟を決める。

『アークナイツ』感想(ネタバレなし)

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中国は“ゲーム”から“アニメ”へも発展する

中国は長らく「ゼロコロナ」政策を展開し続け、世界のどこよりも厳格なパンデミック対策を徹底していましたが、2022年後半の感染者数の急激な増大と、厳しすぎる自由制限への国民への不満が爆発したことで、既存の政策を一転。一気に規制緩和に舵を切りました。

この一件で印象に残るのは、あの厳しい国民統制を軸とする中国でさえも、怒りが膨れ上がった庶民を都合よくコントロールするなど到底できないということ(もちろん対外的には中国政府は今も「コントロールしてますけど?」みたいなすまし顔をしてますが)。

それだけパンデミックというのはひとたび起きれば社会に巨大な激震を起こすものなんですね。中国の感染症対策が適切かという話はさておき、パンデミック対応は極めて難しいということ。コロナ禍を経験する前は、よくSFとかで「パンデミックで世界中の社会が崩壊する」なんて描写があるフィクションを見たりしたとき、「そうは言っても現代はこんなあっさり崩壊はしないのでは?」と思わなくもなかったのですが、コロナ禍を体験してしまうとそうは絶対に言えなくなりました。これは起きうる話なんだ、と。

そんなニュースを眺めつつぼーっと考えていたら、なんだか似たような状況の世界観のアニメシリーズ、しかも中国出身のアニメ作品が同時期に放送されていて、時代のシンクロを感じたりしました。

それが本作『アークナイツ』です。

この作品はそもそもの原作が中国のゲーム会社「Hypergryph」が開発し、運営・配信されているスマートフォン向けゲームアプリとなっています。中国のスマホゲームは今や日本のみならず世界でも人気で、とくに日本のアニメや漫画(昔の言葉で言えば“萌え”に該当するタイプ)を意識したキャラクターデザインとなっている作品が日本のターゲット層にウケています。

中国が凄いのはその開発力と展開力の高さで、やはり日本とは資金の潤沢さが違うのか、オリジナル作品でも堂々と成功させてきています。この「アークナイツ」も日本でもスマホゲームは人気ですが、おそらく日本でゲーム展開すると同時にアニメーション制作も考えていたのでしょう。「Yostar Pictures」というスタジオを並行して始動させ、PV用のアニメーションを作らせつつ、ついには2022年に本格的なアニメシリーズを開幕させました。

そのアニメシリーズの正確なタイトルは『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』となっており、全8話(1話あたり約24分)しかないのですが、内容も本当にプロローグという感じです。ただ、これは第1期であり、すでに第2期となる『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』の製作も発表済み。完全に計画が練られていますね。

世界観がかなり壮大で、アニメシリーズ内でもキャラクターによる説明がちょこちょこ入るのですが、それでも把握しづらいところがあるのがやや難点。下記に解説した用語くらいは押さえたうえで鑑賞するといいと思います。

特殊な感染症が蔓延した架空の世界で、対立する2つの組織とそれを取り巻く者たちを描くSFファンタジー。ミステリアスな要素も多々あるので、少しずつ明らかになっていく世界の全容を視聴者は頭で整理していくことになります。とにかく情報量が多いです。

なんかこう…読み込みというか、考察を自然と要求される作品ですね。元のゲームはストーリー部分はテキストスライド形式で進んでいくからなのかな。アニメ化して多少ビジュアル的にわかりやすくなりましたけど、あくまで表面的にアニメーションがついただけで、肝心の世界の詳細は相変わらず謎めいています。

アニメ『アークナイツ』を鑑賞して「世界観をもっと教えてくれ!」となったら、ゲームをプレイするのも良いでしょう。それこそ作り手の狙いどおりかな。

中国本国のアニメも続々日本に輸入されていますし、こうして中国のゲームがアニメ化されるのも当たり前の風景として定着するのでしょうか。

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『アークナイツ』を観る前のQ&A

Q:専門用語ばかりで難しい?
A:いくつか専門用語が登場しますので以下に解説しておきます。
【テラ】
この作品の舞台となる広大な世界。様々な種族(総称して「先民(エーシェンツ)」と呼ぶ)が混在しており、その多くは移動都市で生活している。
【鉱石病(オリパシー)】
エネルギー源となった鉱石「源石」との接触によって発症する感染症。「天災」と呼ばれる大災害の後には源石が観察される。まだ謎も多い。
【ロドス】
正式には「ロドス・アイランド製薬」という組織。鉱石病の研究を行い、困っている人々を助けようとする。レユニオンと対峙することになる。
【レユニオン】
正式には「レユニオン・ムーブメント」という組織。迫害に怒り、より実効的な行動をとるべく集まった反体制的な集団。ロドスと対峙することになる。
✔『アークナイツ』の見どころ
★謎めいた世界でのキャラクターたちの人間模様。
✔『アークナイツ』の欠点
☆世界観はかなり全容がわかりづらい。
日本語声優
甲斐田ゆき(ドクター)/ 黒沢ともよ(アーミヤ)/ 松山鷹志(Ace)/ 種﨑敦美(ドーベルマン)/ 坂本真綾(タルラ)/ 松田利冴(スカルシュレッダー)/ 石上静香(チェン)/ 安野希世乃(ホシグマ)/ 山寺宏一(ウェイ)/ 加隈亜衣(フランカ)/ 石川由依(リスカム)/ 石見舞菜香(エクシア)/ 佐倉綾音(ニアール)/ 竹達彩奈(W)/ 松田颯水(ミーシャ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:世界観が好きなら
友人 3.5:ゲームも勧めやすい
恋人 3.5:趣味が合う者同士で
キッズ 3.5:直接的な暴力描写は薄め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アークナイツ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):また会えてうれしいです

「ドクター!」と呼びかける声。コールドスリープから覚醒した人物が虚ろに目を開けると「お久しぶりです。アーミヤです」とホっとしたような顔が目の前にありました。「やっと迎えに来ることができました」

「アーミヤさん、ドーベルマン隊長から緊急連絡です。レユニオンと思われる武装集団を確認。速やかに現場を離脱し、接触を回避せよ…とのことです」とそのアミーヤと呼ばれた者に緊迫した声で知らせる別の者。「どうしてレユニオンはこんなところまで」「もしかして彼らはドクターを?」「いいえ、彼らはドクターの存在を知らないはずなんです。急いで撤収しましょう」

ドクターはアーミヤに抱えられながら、一同は階段を降ります。どこかの施設のようです。でもドクターは呼吸が苦しいようで座り込みます。合流ポイントにもレユニオンがおり、計画を変更するしかありません。

ところが敵と接触してしまい、連行されそうになったとき、ドーベルマンの部隊が敵を倒してくれました。

ドクターの指揮を求めるアーミヤ。しかし、ドクターは何も思い出せないと口にします。自分が誰なのかも、君が誰なのかも…。

それを耳にしてこれまでにない深刻な表情を浮かべ焦るドーベルマン。アーミヤは「大丈夫です」と気丈に振舞います。「ドクター、あなたは私たちの大切な仲間なんです。きっと思い出せますから」

地上に出ようとした瞬間、罠で挟み撃ちに。仲間のAceの助けで切り抜け、廃墟となった死体の転がる店で休みます。「PRTS」という端末をドクターに教えるアーミヤは、続けてドクターにレユニオンについて解説します。

レユニオンを避けながら街を抜け出そうとする一同。アーミヤは住人を助けようとしますがドーベルマンは「お前は最高責任者なのだから優先順位を考えろ」と一喝。けれどもドクターはPRTSを使いこなして指揮をとり、的確な作戦でレユニオン部隊を一掃。「ミッション完了」と端末は告げます。

しかし、住人を無事に助けたものの、助けたうちの母は「この子に触らないで。あなたも感染者なんでしょう?」と冷たい目を向けます。

感染症について記憶の無いドクターに解説するアーミヤ。治療法は確立されておらず、ロドスに所属する多くの人たちも感染者でした。

「私たちロドスは感染者・非感染者に関係なく病に怯え苦しむ人々を救い、オリパシーが引き起こす全ての問題を解決するための組織です」「オリパシーの治療法を発見し、争いの根源を絶つ必要があります。その希望はドクター、あなたです。ドクターの研究で治療法が確立できれば…」 

アーミヤは一瞬言葉に迷いつつドクターに告げます。「あなたは私にとって一番大切な…大切な仲間です」

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もっと違う切り口も観たい

冒頭からノンストップで緊迫した状況から始まるアニメ『アークナイツ』。元になったスマホゲームは、いわゆる「タワーディフェンス」というジャンルで、自分の領地に侵入してくる敵を倒すためにキャラクターを戦略的に配置して戦います。作戦を考えながら駒を操るリアルタイムなチェスみたいなものですね。

戦略性を問われるリアルタイムストラテジーなゲームのアニメ化と言えば、2021年も『アーケイン』があったのですけど、ゲームのインタラクティブな面白さをそのままアニメに反映するのは難しいシステムなので、アニメ化では思いっきりキャラ要素を濃くして、ストーリードリブンで押し出していました。

アニメ『アークナイツ』も方向性は同じです。そもそも元のゲームの時点で多彩な個性豊かなキャラが揃っており、これはキャラ作品になる以外に道は無いだろうという感じです。

しかし、その一方でこのアニメ『アークナイツ』はかなりストイックというか、ゲームをなぞる軸を外れていません。ゲームと同じくドクターというプレイヤーの分身となるキャラクターがいて、記憶喪失という設定になっているので、そこで都合よく怒涛の世界観説明が始まります。

このアプローチは賛否があると思います。私もこれだけ世界観が広く構築されているのだから、いっそのことゲームとは趣向を変えて、全く別の主人公で新ストーリーを開幕しても良かったのでは?と感じたり…。『アーケイン』はその方向性で上手くやっていましたが…。

1期となる『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』は、弟スカルシュレッダーを殺されたミーシャの怒りと、慟哭するアーミヤの「憎しみの連鎖を断ち切りたい」という道の困難さを突きつけるエピソードでは、これはこれでとてもズシンときますが…。それにしても本作、シリアスだけど血とか全然描かないんですね(プロモーションとかに使うことも想定してかな)。

あとアニメ『アークナイツ』のこのゲーム的導入の欠点として、世界のスケールが全然わからないというのが気になります。スケールを示す映像が無いのです。例えば、人々の暮らしを丁寧に描いていったり、鉱石病(オリパシー)と社会がどう向き合っているのか描いたり…。ロドス含めて各キャラの解説台詞だけで想像させるには限界があります。SF的なリアリティの見せ方の部分ですね。

本作はドクター視点で世界を見渡している直線的な物語なのですが(それがミステリー要素を生んでいるのでそれも大切でしょうが)、やはりアニメならではの視点の広がりが見たかったところ。たぶん既存のファンももっといろんなキャラの別視点で物語を見てみたいと思う人は少なくないでしょう。

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白すぎる問題が東アジアに蔓延中

アニメ『アークナイツ』のキャラクターは基本は獣人です。だいたいは人間の身体に動物耳がちょこんとついている程度。アーミヤはウサギ(ウサギは医療実験動物だからなのかと思ったけど、とくに関係はないのかな)、ドーベルマンは…。ただ、結構なバリエーションがあって、チェンにいたってはですし、ホシグマは、エクシアは天使、Wは悪魔だそうです。しかも、一部のキャラ(ウェイとか)はもろに顔も動物になっていますからね。なかなかそのあたりの設定は緩いというか、広い意味での「何でもあり獣人」って感じですね。

この『アークナイツ』の魅力の顔となっているキャラクターに関して、私は「むむむ…」と気になるのはやはり「白すぎる問題」です。これは『ウマ娘』でも観察できる問題なのですが…。

要するにほとんどのキャラクターの肌が白いということ。アニメだけでなくゲームもどうなのかと調べたのですけど、有色の肌のキャラはほぼおらず、濃い色の肌にいたってはほんのわずかでした。「そういう設定なんだよ」みたいな思考停止の反論は話にならないのでさておき、なぜそうなるのかということです。冷静に考えれば、動物を擬人化するなら肌が白くなる方が変です。白い動物はむしろ自然界では珍しいんですから(白色個体かアルビノか)。

これは元も子もない答えを言えば、動物を擬人化はしていないんですよね。あくまで日本の萌えキャラ的なデザインとして獣耳をつけているというだけです。

当然、獣人であること自体が「差別される者」のメタファーとして解釈することは容易いですけど(そしてこの作品はそう意図させたいのはよくわかる)、問題は獣人ではありません。獣人であることで“無かったこと”として誤魔化せない…むしろ獣人であることで代替えできると安易に思ってしまうその感覚を視聴者にすら与える…そこが論点なのかな、と。

本作の世界観は現実の地球の世界をモデルにしています。序盤で舞台となるウルサスはロシアでしょうし、龍門(ろんめん)のある炎国は中国。他にも各国に由来する地域が色々あります。そうなってくるとなぜ黒人はいないのかという疑問が浮かびます。

この「白すぎる問題」は実はアニメ&ゲーム系の海外メディアではよく問題点として取り上げられやすく、最近だとこちらも中国開発の人気ゲーム「原神」においても同様の批判がありました。そちらのゲームでは南アジアをモデルにしたエリアが導入されたにもかかわらず、有色人種キャラが全然いないと指摘されていました。

「白すぎる問題」は中国や日本など東アジア圏のアニメ・ゲーム系コンテンツに多く見られ、おそらく特有の構造があります。社会に無自覚に染み込んでいる白人至上主義的な前提がそうさせるのか…キャラクターデザインのステレオタイプです(当人は自覚ないですけど日本や中国って想像以上に白人至上主義なんですよ)。

『アークナイツ』は感染症を軸に差別問題を根底のテーマとして大きく扱っているのですが、自作の差別には黙認と言いますか、差別を語るのに別の差別を周縁化している状態で、あまりスマートと言える感じではありません。獣人や感染症でメタファーにするにしても、メタファーって言葉に容易に乗っかりすぎだとも思います。何でもメタファーにはできないんですから。

調べていて気付いたのですけど、「サーミ」なんて地名もあるんですね(スカンジナビア半島がモデルと思われる)。これなんかも先住民族問題に無頓着すぎるネーミングではと思ったり…。

こうした顕著な問題にどう向き合うかが、東アジア圏アニメの世界的進出における岐路なんじゃないかなと思いつつ、今後も成り行きを見ていこうと思いました。

『アークナイツ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『サイバーパンク エッジランナーズ』

・『リコリス・リコイル』

作品ポスター・画像 (C)Yostar, Inc. All Rights Reserved.

以上、『アークナイツ』の感想でした。

Arknights (2022) [Japanese Review] 『アークナイツ』考察・評価レビュー