インド映画界の未来は最強爺に導かれる…映画『カルキ 2898-AD』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:インド(2024年)
日本公開日:2025年1月3日
監督:ナーグ・アシュウィン
かるき2898えーでぃー
『カルキ 2898-AD』物語 簡単紹介
『カルキ 2898-AD』感想(ネタバレなし)
2898年でもインドの神話が元気すぎる
インド映画界にたいして詳しくない私でも最近のインド映画の大作傾向は火を見るよりも明らかです。とにかく製作規模がインフレ化しまくっており、巨大シリーズを前提したものが多いこと。
おそらく2015年~2017年の『バーフバリ』二部作の歴史的大ヒットに端を発し、さらに「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の『アベンジャーズ エンドゲーム』(2019年)がインドでも大ヒットしたことが流れを変えたのでしょう。
コロナ禍を乗り切った2020年代以降、インドではシェアード・ユニバースを銘打つ映画が続々と公開されてきました。
「アストラバース(Astraverse)」を引っ提げる『ブラフマーストラ』(2022年)、「YRFスパイ・ユニバース」を引っ提げる『PATHAAN/パターン』(2023年)…毎年何かしらのシェアード・ユニバースが登場しています。
そして2024年は新参の超大型プロジェクトとしてコイツが投入されました。
それが本作『カルキ 2898-AD』です。
本作は「カルキ・シネマティック・ユニバース(Kalki Cinematic Universe)」という巨大フランチャイズの映画第1弾であり、インドでは2024年に公開。オープニングから威勢のいい成績をおさめ、2024年12月時点でこれまでのインド国内のインド映画興行収入トップ4に輝いています。
世界観はインドに文化的に深く語り継がれる大叙事詩『マハーバーラタ』を土台にしており、その点では『ブラフマーストラ』に類似しています。
しかし、この『カルキ 2898-AD』はタイトルにあるとおり、2898年が舞台で、はるかに未来なんですね。終末後の荒廃した地球に唯一君臨する未来都市ディストピアで繰り広げられるSFファンタジーなのです。ハリウッドで言えば『ブレードランナー』みたいな…。
この未来SFにインドの神話をぶちこんで合体させたのが、この『カルキ 2898-AD』の最大の特徴になっています。ということでボリュームが特盛りです。正直、別のジャンルの映画3本分くらいが一気に流れ込んでくるみたいな物量なので、鑑賞していて眩暈がしてきましたよ…。
当然、VFXも大量です。ここまで世界観レベルでCGに依存して構築しまくっている未来SF映画はインドでも珍しいでしょうけど、ここまでやれるぞ!という一種の力の誇示にもなりました。
でもひとつ言っておかないといけないのは、本作を観て、「インドのCGIはハリウッドに匹敵するか」みたいな論点で語るのは間違ってますよ…ということ。なぜなら本作のCGを主に手がけているスタジオ「DNEG」はそもそもハリウッドの大作映画のCGに携わっているところだからです(それこそ『ブレードランナー 2049』も)。もともとロンドンで創業したスタジオでしたが、インドのスタジオと合併し、今に至っています。なので「ハリウッドに匹敵する」じゃなくて「ハリウッドのCGの一部はインドが作っている」のです。ちなみに「DNEG」はアニメーション・スタジオも持っていて『ねこのガーフィールド』とかを作っています。
ということで『カルキ 2898-AD』の映像の迫力も申し分ないです。いつものインド映画らしいケレン味で押し切る映像技ですが…。
そして『カルキ 2898-AD』を引っ張る主演として立つのが、“プラバース”です。『バーフバリ』二部作で一躍「時の人」となった“プラバース”でしたが、以降は『サーホー』や『SALAAR/サラール』などバイオレンスなアクション映画で主役をしていました。今回の『カルキ 2898-AD』では軽妙な役柄なのかなと思いきや…まあ、この先はネタバレなので伏せておこう…。
共演も豪華で、インド映画界の名優にして巨匠である”アミターブ・バッチャン”、こちらも大御所の”カマル・ハーサン”、『パドマーワト 女神の誕生』の“ディーピカー・パードゥコーン”など、贅沢な顔ぶれです。また、カメオ出演も多い…らしいのですが、私はそんなにインドの人に詳しくないので…。『バーフバリ』の監督である“S・S・ラージャマウリ”もいるので探してみてください。
『マハーバーラタ』を知っているほうがわかりやすいでしょうが、基本は勢いで押し切る映画なので『マハーバーラタ』を知らずに『カルキ 2898-AD』を観てもたぶん大丈夫です(責任はとれないけど)。なんかこれ見よがしに「お前は…○○!」と有名そうな名前がでてきたりしたときは、「あ、これがマハーバーラタにでてくる存在なんだな」と察してもらえれば…。
『カルキ 2898-AD』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも観れる内容ですが、とにかく上映時間は長いです。 |
『カルキ 2898-AD』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
権力をめぐって勃発したクルクシェートラ戦争の惨状が生々しい死屍累々の大地。片方の勢力についていた戦士であったアシュヴァッターマンは王女ウッタラーの胎児を殺そうとしていました。ところが、神であるヴィシュヌの8番目の化身であるクリシュナが颯爽と現れ、淡々と告げてきます。
なんでもアシュヴァッターマンは不死者に変えられ、この地上をひたすらに彷徨い、愚かにも退廃していく人類の悲惨さを目撃し続けるというのです。そしてアシュヴァッターマンの額にあった神聖な宝石も取り除き、能力を奪います。世界が終わる頃、ヴィシュヌの10番目で最後の化身であるカルキの母親を守ることによってのみ、アシュヴァッターマンは救済されるという運命を言い残して…。
それから6000年後の西暦2898年。
世界は荒廃してしまい、かつての人間の社会文明は滅んでいました。地上に残されているのは最後の都市であるカーシーです。この地は、200歳の長命の支配者であるスプリーム・ヤスキンが支配しており、空に浮かぶ巨大要塞コンプレックスだけが繁栄を手にしていました。
そのコンプレックスの傍にある市街地は無法状態であり、貧困と暴力が蔓延しています。その市街地に集められた奴隷たちが到着します。その中から妊娠可能な女性だけが選別され、違う目的のために移されます。
実は「プロジェクトK」と呼ばれる計画がヤスキンの指導で進められていました。これは女性の産む胎児を使って血清を作る実験であり、その血清があればヤスキンはさらに強大な力を手にできるのでした。しかし、多くの女性が管理下の中で強制的に人工妊娠させられるも、既定の150日を過ぎた妊娠が達成できたことはなく、失敗が続いていました。
まだ誰も知りませんが、幼い頃からコンプレックスで管理されていた被験者番号「SUM-80」の女性だけは、妊娠150日を超えていました。それが何をもたらすのか本人も理解しておらず…。
司令官マナスはヤスキンの期待に応えようと市街地を恐怖で戦慄させていました。
集められる女性は女の子でも例外ではありません。男の子に変装した少女ライアは逃げだし、シャンバラという反乱軍に助けられます。
一方、賞金稼ぎのバイラヴァは金を貯めてコンプレックスに移住することを夢見ていましたが、優柔不断な性格でもあり、人工知能の相棒と気ままに生きていました。
それぞれの運命が交錯していくことになり…。
アイツvsアイツ
ここから『カルキ 2898-AD』のネタバレありの感想本文です。
『カルキ 2898-AD』、私の感想をひと言で表すなら「大雑把」。この言葉に尽きます。とにかくこの映画はいろいろ盛りすぎて、見た目は派手ですけど、何から食べて味わえばいいのかもわからないほどに具だくさんなのです。おせち料理より具が多いですよ。
結果、ものすごく映画のトーンがとっ散らかった感じになっていました。
冒頭の戦争シーンはさておき、2898年の主な舞台が始まると、その世界観は『ブレードランナー』というよりは、上層と下層で明確に社会階級が分離している管理社会…『アリータ バトル・エンジェル』みたいな構図です。となると、下層のものが上層に下克上をかましていく展開なんだなと簡単に想像がつきます。
実際にそのとおりなのですが、本作はやけに遠回りです。
まず“プラバース”演じるバイラヴァというひょうきんな賞金稼ぎの男がふてぶてしく登場。AIの相棒と漫才をしまくりつつ、超軽いノリで敵を倒していきます。
このテンションは完全に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主人公ピーター・クイルそのもので、たぶんインスピレーション元になっているんじゃないかなと思うくらいには、持っているアイテムとか振る舞いがそっくりです。
じゃあ、このバイラヴァを中心に反逆のためのチームメンバーが集まるのかなと思うじゃないですか。
そうはならなくて…。もう最後のオチを言ってしまいますけど、バイラヴァはカルナ(『マハーバーラタ』に登場する英雄)の生まれ変わりかはたまた子孫か、どっちにせよ深い関係のあるキャラだと判明し、能力が一時覚醒します。
さらにこの世界を支配するスプリーム・ヤスキンは最後に少し若返ってアルジュナの弓を手にする不敵なシーンで終わります。アルジュナは『マハーバーラタ』における登場人物でカルナの宿敵ですから、すなわち本作は「カルナvsアルジュナ」という6000年の時を超えた因縁の対決が勃発するというわけです。
こうなってくると下層の者たちがどうこうみたいな下克上の図式はなんかどうでもよくなってくるところはありますよね…。
あの『スター・ウォーズ』のレジスタンスっぽいシャンバラの人たち、今後は出番があるのだろうか…。蹂躙されるだけで終わってしまっていたけど…。
主人公のバイラヴァがあまりに圧倒的に強すぎる属性持ちなので、これからの展開は例によって例のごとく『バーフバリ』的な一強押し切りになるのか。個人的にはチームアップであってほしいです。せっかく面白そうなメンバーの原石はいるのですから。
インドはどうしてもスター俳優のワンマンショーに依存しすぎるのがワンパターン化を招いているなとは思います。
ずっと戦っていました
『カルキ 2898-AD』は盛りつけまくっている世界観やキャラクターをあまり活かせていないのがすでに1作目の時点で惜しすぎます。
例えば、スマティのエピソード。コンプレックスのあの女性たちの状況はまさに生殖管理ディストピアであり、強制的に妊娠の母体として利用され、使えなくなった女性は焼却処分される惨状が生々しく描かれています。
スプリーム・ヤスキンの権力構造も、実際のインドが長らく保守的な長期政権にあることを考えれば、風刺としてはじゅうぶんです。
近年のインドは社会における女性差別の問題も認知されていますから(『花嫁はどこへ?』でも描かれるような女性の役割の固定化に始まる)、この設定はそれを投影したものであり、きっと女性のエンパワーメントに繋げていくのかなとこちらも思うじゃないですか。
でもこっちもそうはならなくて…。結局、この映画単体だけではスマティは宿命の子を産む役割くらいしか現状で期待されていることはなく、味気ないキャラクターにしかなっていません。要はパワーアイテムみたいな役目ですから。あの炎を物ともせずに脱するシーンも空ぶってるようなものです。
せめてスマティも何かの英雄に覚醒でもしていれば、まだ印象は違っただろうに…。
160分以上もあるのにチーム集めもせずに何をしていたんだという感じですが、まあ、前半はキャラクター紹介で、残りの後半はずっと最強爺と戦っていたんですね。
ただ、『カルキ 2898-AD』で一番面白かったのは、バイラヴァとアシュヴァッターマンの対決だったというのも確かで…。
アシュヴァッターマンがめちゃくちゃ強い最強爺で、「これは勝てないだろう」という強さなので、その相手に対して果敢に挑んでいくバイラヴァという構図は普通に見ていて楽しいです。
1戦目では善戦するもパワー負けしつつ、2戦目では車をゴリラみたいな格闘モードに変形させてリベンジする。その懲りていない感じであのバイラヴァというキャラの愛されやすさを増していました。基本は善良な奴ですしね。
わかりきっていることですが『カルキ 2898-AD』は2作目に続きます。「カルナvsアルジュナ」だけでなく、他の『マハーバーラタ』関連の存在も参戦するのか。この世界観は本当に必要なのか。もはやそれは神のみぞ知る…。
それにしても、インド映画でも唐突にでてくるよくわからない日本語看板をみれるとは思わなかったな…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
以上、『カルキ 2898-AD』の感想でした。
Kalki 2898 AD (2024) [Japanese Review] 『カルキ 2898-AD』考察・評価レビュー
#インド映画 #ポストアポカリプス