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『トリプル・フロンティア』感想(ネタバレ)…Netflix;やめられない男たち

トリプル・フロンティア

やめられない男たち…Netflix映画『トリプル・フロンティア』(トリプルフロンティア)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Triple Frontier
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:J・C・チャンダー

トリプル・フロンティア

とりぷるふろんてぃあ
トリプル・フロンティア

『トリプル・フロンティア』あらすじ

南米に根城を構える麻薬王から大金を奪う強盗計画を企てた5人の元特殊部隊の兵士たち。最短の時間、最小限の殺害。計画どおりならすぐに終わる。だが、この念入りに計画したはずの強奪が不測の事態に見舞われたとき、彼らのサバイバル能力と絆が試されることになる。

『トリプル・フロンティア』感想(ネタバレなし)

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ベン・アフレックは身をもって語る

日本ではつい先日、大物バイプレーヤーとして知られていた俳優がコカイン使用の容疑で逮捕された一報が大きな話題として世間を駆け巡りました。毎度のことながらまた「作品自粛」が大衆の一番の関心事のようになっていますが、当人にとって最も大変なのは「ドラッグを絶つこと」の難しさです。反省すればいいものでもなく、意志を強く持てばいいものでもなく、社会が温かく赦してくれればいいものでもない…ドラッグは依存性が高いのはご存知のとおりであり、絶ち切るには“治療”が必要です。

世界を見渡せば依存症とずっと闘っているような俳優は結構います。

そのひとりで最近も話題になりがちなのが“ベン・アフレック”です。子役時代から俳優としてのキャリアを積み重ね、脚本家としても優れた成果をおさめ、ついに監督としてアカデミー賞作品賞を受賞する栄光に輝く。まあ、言ってしまえば、最高なかたちで映画人生の階段を上っていった人物…のはずでした。

ところが“ベン・アフレック”はアルコールとギャンブルに重度の依存体質を抱えていて…。結局、それがどこまで原因なのかはわかりませんが、仕事もプライベートも幾度となく頓挫。クリント・イーストウッドの再来ともてはやされた一時の絶頂期はどこへやら、最近は勇んで主演したアメコミ映画大作の不調もあって、名声的にも「バットな男」になってしまいました。

そんな彼ですが、最近までアルコールリハビリの治療を受けていたようで、2018年10月に復帰して公に顔を見せたとき、こう発言しています。

「あらゆる依存症の治療は一生続く難しい闘いになる。この治療はいつ始まっていつ終わるというものではなく、24時間コミットしなければならない」

彼らしい人生の重量感を感じさせる言葉でした。

その“ベン・アフレック”の久々(と言っても1~2年ぶりですけど)の主演作となった本作『トリプル・フロンティア』

本作の内容も、偶然なのか、“ベン・アフレック”の通ってきた依存症との闘いを連想させるような作品になっていました。

なんとなくな作品の雰囲気からは、エンターテインメント娯楽寄りなアクション・サスペンスという感じもしますが、そんなチームミッション系の軽い作品ではありません

なにせ監督が“J・C・チャンダー”です。長編デビュー作『マージン・コール』でいきなり高く評価され、つづく監督作『オール・イズ・ロスト 最後の手紙』や『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』も批評家から称賛。その硬派な作風の根幹にあるものは、“資本主義”や“老い”といった個人では抗えない絶対的な存在に翻弄される人間模様を描くこと

実は本作は2010年頃から企画だけあって、その当時は『ゼロ・ダーク・サーティ 』や『デトロイト』で今やおなじみのキャスリン・ビグローが監督する予定だったとか。原案・脚本にキャスリン・ビグロー監督作ではよく見る“マーク・ボール”の名があることからも、本作がシリアス寄りになっていることはわかると思います。

実際、完全なシリアス一色の映画でもなく、ところどころに“ベン・アフレック”監督作に通じる雰囲気も感じられ、なかなか多面的な味わいのある映画です。

俳優陣も豪華で、“ベン・アフレック”の他に、“オスカー・アイザック”、“チャーリー・ハナム”、“ギャレット・ヘドランド”、“ペドロ・パスカル”の計5人がメインの登場人物。ものすごく男男していますが、そこも物語上の意味がある…かもしれない。

そんなこんなでNetflixオリジナルとして配信されている映画としては少し重さが違うと思いますが、時間があるときにじっくり鑑賞してみてはいかがでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(とくに俳優好きに)
友人 ◯(暇つぶしにはじゅうぶん)
恋人 ◯(ほぼ男だけのキャストだが)
キッズ △(やや暴力的:殺害など)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『トリプル・フロンティア』感想(ネタバレあり)

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戦士になる代償の意味

『トリプル・フロンティア』は話の大筋はいたってシンプル。軍隊特殊部隊として前線で活躍してきた元軍人の男たちが退役後にくすぶっていた中、ある南米の麻薬組織で力を持つガブリエル・マルティン・ロレアという人物を殺して、そいつのアジトにある大金をついでに奪っちゃおうぜという計画に再度集結する…そんなあらすじ。

これだけならチーム強奪モノですし、しかも最近アメリカ映画では流行の麻薬カルテル題材ですから、個人的には「またこのタイプか…」と若干食傷気味だったのも正直な気持ち。

でもそんな単純なお話ではありませんでした。

まず本作のメイン登場人物である男たち…トム・デイヴィス(レッドフライ)、サンティアゴ・ガルシア(ポープ)、ウィリアム・ミラー(アイアンヘッド)、ベン・ミラー(ベニー)、フランシスコ・モラレス(キャットフィッシュ)…彼らは退役軍人として“ある問題”を抱えています。

それは冒頭からハッキリ示されます。多くの軍人たちを前に講演するウィリアム。話し出したのはスーパーマーケットでの自分の行為。カートをどかさなかったことを理由に他人を破壊締めにしたことを、やけに威風堂々と口にする語り口。彼はこれを「戦士になる代償」と表現します。

でもこれはよく考えなくてもわかりますが、典型的なPTSD的症状です。些細なことでも身の危険として過大判断して反応してしまう(これは後のシーンでそのとおりの展開が起きますが…)。また、暴力という力の誇示でしか自分を表現できない。「戦士になる代償」なんてかっこよい言葉でキメるまでもなく、これはれっきとした「依存」です。

それは他の4名も同じ。不動産営業をしているもこの虚しい仕事にまるで意味を感じていないトム。赤ん坊ができたばかりで家族がいると言っていたフランシスコ。格闘技で己の腕を披露する場を得ているベン。そして、今回の計画の首謀者であるサンティアゴ。

全員が心の奥底で空白を埋める“何か”を求めていて、そこにピタっとハマったのがあの計画なのでした。

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抜けてもいいぞ

もちろん彼らはそんなバカではないはず。技術的にもスペシャリストであり、経験も豊富。だからこそこの計画にも自信を持っています。そもそもウィリアムだって「甘い話にのるな」と後輩の軍人たちに弁論していたわけです。でも…という。

その部分こそこの依存の怖いところ。自分たちなら大丈夫、それにこれは悪い奴を倒すためだから正義だし…そうやってどんどん自分の都合のいいように思考を補強していく姿。

印象的なのは「友情」が依存を高める効果を与えてしまっている点。たぶんひとりならこんな計画には乗らなかったのでしょう。でもアイツがやるならというノリで互いが互いの背中を押すという現象が起きてしまい…。

作戦前の最後のミーティングでトムは言います。

「これからやることは犯罪だ。祖国のための任務ではない。今なら抜けてもいい。今ここで抜けても最高の仲間であることには変わりない

でもこんなセリフ、余計に異を唱えづらくなるだけで意味ないですよね。この男たちは自分の意志で抜け出すことは不可能なところまで追い詰められています。ただ全然自覚がないだけで…。

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計画は完璧(だと思いました)

そしてついにプランが始動。入念に練った手順どおりに的確に連携して行動していく面々。ここらへんはさすがプロという仕事っぷり。雨の中のジャングルに佇む屋敷に潜入。しかし、ここで建物内にいた男ひとりと鉢合わせ。考えるよりも先に脚に発砲、拘束。若干の予定外ながら、まだ何も問題は起きていないので続行。けれども大金どころかターゲットのロレアもおらず、書斎で途方に暮れる一同。

ここでこの家自体が金庫であることに気づき、壁を壊すとそこには金、かね、カネ。想定していた以上の大金にテンション爆上がりの5人は無我夢中で紙幣をバッグに詰め詰め、逃走用のバンに運びます。この時点で完璧(だと当人は思っている)計画がガラガラとその壁のように崩れているのですが、まだそこには認識が到達していない精鋭部隊。

そうこうしていると秘密の部屋に隠れてきた敵に不意打ちをくらい、負傷するウィリアム。しかも、教会に行っていた警備員が続々帰ってきて、完全に銃撃戦に発展。殺しはひとりなんて事前のルールは吹き飛び、その場を乗り切るのに必死。それからの展開はグダグダもグダグダ。山脈を越えられず、不時着するヘリ。不時着した村では村人と揉め、反射的に発砲して殺してしまうトラブル。村からなかば強引に買ったラバのうち1頭が断崖から落ちて死亡。

不測の事態が起こるたびに強奪した2億5000万ドルもの大金は減り続けます。でも彼らは案外金なんてどうでも良かったのかもしれないと思わせるのが、紙幣を燃やして暖をとるシーン。じゃあ、彼らの目的は…それはきっと「かつての仲間と一緒になんかやりたかった」…そこに尽きるのでしょうね。結局、この世界でしか生きがいを見いだせていない、そんな男たちなのです。

しかし、そこに本当の意味での「代償」が発生。生き残ってなんとか帰り着いた4人には、作戦前のような威勢の良い発言をする気力はまるでなく。減り減った報酬の取り分を亡きトムの遺族基金(家族信託)にすることを決め、それぞれ立ち去ります。

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代償を払ってもまだ依存は続く

対比として面白いのは、例えば女性たち。トムの娘のテスは「パパは退役以来ちゃんと仕事していない」と諦めたように呟き、計画に参加するかわりに弟と国外逃亡した女性は「仲間を信用できるのか」と尋ねます。要するに男たちの無様さを誰よりも客観視して見つめているんですね。

また、村人の住人や終盤に追ってくる少年兵たちといい、彼らは麻薬で成り立つ資本主義社会に囚われていますが、そこから抜け出して真っ当に生きたいとも思っているはずです。一方、この主人公組は麻薬で稼いだ大金を求めて自らこの世界に突っ込んでいる。その相反する虚しさも映像から伝わります。

これからどうするのか…それは雑踏に消える彼らにもわからないのでしょうけど、とある緯度経度を記した紙をウィリアムから渡されたサンティアゴの姿で終わるエンディングからは、やっぱり代償を経験しても抜け出せない怖さが残り…。またあの大量に廃棄した大金の元に集まるメンバーはいるのでしょうか、そのとき今度はどんな代償を払うのでしょうか。

とりあえず本作で痛感したのは「依存って怖いよ」という死体“ベン・アフレック”からの実感こもったメッセージですかね。

『トリプル・フロンティア』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience 82%
IMDb
8.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『トリプル・フロンティア』の感想でした。

Triple Frontier (2019) [Japanese Review] 『トリプル・フロンティア』考察・評価レビュー