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『THE GUILTY ギルティ』感想(ネタバレ)…聴覚と想像力を研ぎ澄ませ

THE GUILTY ギルティ

聴覚と想像力を研ぎ澄ませ…映画『THE GUILTY ギルティ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Den skyldige
製作国:デンマーク(2018年)
日本公開日:2019年2月22日
監督:グスタフ・モーラー
児童虐待描写

THE GUILTY ギルティ

ざぎるてぃ
THE GUILTY ギルティ

『THE GUILTY ギルティ』あらすじ

緊急通報指令室のオペレーターとして働くアスガーは、交通事故の搬送を遠隔手配するなど、電話越しに小さな事件に応対する日々を送っている。そんなある日、アスガーは、誘拐されているという女性からの通報を受ける。電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに、事件に対処しなければならず…。

『THE GUILTY ギルティ』感想(ネタバレなし)

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その手があったか(何度目?)

2019年2月、世界保健機関(WHO)と国際電気通信連合(ITU)は世界の人々の聴覚を守ることを目指し、オーディオ機器の製造と使用に関する拘束力のない国際基準を発表しました。この背景にはポータブル音楽プレイヤーやスマホの普及にともない、10億人以上の若者が聴覚障害のリスクにさらされていると問題視されているためです。基準によれば、85デシベル超で8時間、100デシベル超で15分の音量にさらされるのは安全でないらしいですけど、こう言われてもわからないですよね。普段日常的にやっているボリュームの上げ下げではそれが何デシベルかなんて判断できないのですから。

ちなみに私はいつもパソコンで作業するときなどは耳にイヤホンをしています。音楽を流すことはなく、イヤホンをしているだけ。なんか落ち着くんですよね。ノイズを減らして静かな環境になるからなのかな。だから映画の公式サイトや映画館の劇場サイトにアクセスするといきなり予告動画が流れることがありますけど、あれは本当にやめてほしい…。

ともあれ、私たちにとって「音」は大事な要素。意識しているにせよ、していないにせよ、音から想像以上に多くの情報(不必要なものも含めて)を得ているのは間違いありません。音の鳴りすぎは不健康につながるのでしょうけど、音自体は悪いものでは当然ないです。

考えてみると、映画というのも生まれた初期では「音」のない創作物でした。サイレント映画からトーキー(音声のある映画)に発展したことで、実に多様な演出や表現ができるようになり、映画の幅も広がりました(もちろんサイレント映画独自の趣も捨てがたい魅力ですけど)。

そして、平成も終わろうとしているとき(お約束のフレーズ)、音を味方にした映画の歴史の果てに、ついに「音を最大限に斬新に使った究極の映画」を生み出しました。それが本作『THE GUILTY ギルティ』というデンマーク映画です。

本作は非常に評判が高く、なんとアカデミー賞外国語映画のデンマーク代表として選出されるなど、いわゆる受賞を狙えるレベルの評価の高さ。

何が凄いって「音」です。本作は主人公ひとりしかほぼメインでは画面に映らず、その主人公が部屋で聞くことになる通報や電話の音声だけを頼りに、ストーリーテリングをしていきます。まさに音に全てを賭けている映画で、この斬新さが批評家や映画ファンにウケました。もちろん、それだけで中身はテレフォンセックスをしているだけだったらボロクソに叩かれたでしょうし、ちゃんと語られるストーリーの秀逸さも評価のポイントですよ。

一応、音を頼りに物語が進む映画はこれまでにもあるにはあります。例えば、車で移動する運転手の主人公が道中の車内で電話しながら物語がずっと進む『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』とか。はたまた、棺の中に閉じ込められた主人公が脱出を図る『[リミット]』とか。でも、これらは音以外の要素(運転や脱出)も目立つので決して「音・映画」としての究極性はそれほどでもなく。対する本作はずば抜けています。なにせ主人公の職業が緊急通報指令室のオペレーターというのが大きいですよね。

最近は『search サーチ』という「全編PC画面」だけで物語が進行する映画が話題を集めたりしましたが、この究極なまでに要素を削ったスタイルは、これからもたびたび私たちに意外な変化球で驚きを与えてくれそうです。

それにしても『search サーチ』もそうでしたが、『THE GUILTY ギルティ』も“グスタフ・モーラー”監督の本格的デビュー作だそうで、天才ってなんでこうも天才なのかな…(凡人の呟き)。

「音だけだったら目をつぶってても面白いのか、じゃあ、別作業でもして“ながら聴き鑑賞”でいいな!」と思ったそこのあなた(いや、そんな人いないと信じてます)。それは無理です。「guilty(罪)」です。

ぜひとも事前のネタバレ情報を一切頭に入れずに鑑賞することを強くオススメします。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『THE GUILTY ギルティ』感想(ネタバレあり)

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無駄の無さに脱帽するしかない

『THE GUILTY ギルティ』は「音」が物語を読み解くうえでの情報源の大部分を占める映画ということで、映像の分量はそうでもないのに、観終わったあとは集中力を使ったせいか、私はすっかり疲れてしまいました(歳かな?)。しばらく耳は使いたくない気分…。

でもそれは徒労ではなく、あの鑑賞体験は全く無駄ではないと断言できるほど、とにかくサスペンスフルな一作で、あっという間の上映時間でした

本作はまず「音」の要素はさておき、サスペンスとしてはシンプルです。事件が起きて、その真相を追う…それだけですからね。

さまざまなサスペンスの形態がありますが、主人公と観客の保有している“情報”という点で分類するなら、①「“主人公の方が観客より情報に乏しい”系」、②「“主人公と観客の持つ情報が同じ状態にある”系」、③「“観客の方が主人公より情報に乏しい”系」の3つに分けられます。このうち本作は事件という観点では②に該当しますが、観客は主人公の過去を知らない状態でスタートするので、その観点では③にも当てはまります。逆に①の状態になることはありません。観客が主人公より情報を得ることは許さない、非常にシビアなマネジメントが効いているストーリーテリングです。

観客は、映画を通して、通報のあった「イーベンの事件」と、主人公である「アスガーの過去」の2つの真相を、音という情報を頼りに探っていくことになります。この2つは直接的にリンクすることはありませんし、それどころか限りなく無関係に近いものです。

でも、観客がイーベンの事件で何が起こったのかという事実と、アスガーの抱える大きな問題の全容を知ることになる終盤になって、「あ、なるほど。アスガーがここまでこのイーベンの事件に執着していたのは、このせいだったのか」と初めて合点がいき、タイトルである「guilty(罪)」の意味もわかる…実にスマートじゃないですか。

そして、観客と主人公の情報が完全に追い付いて等しくなったとき、物語は次のステージへ動き出し、アスガーは職場である緊急通報指令室から作中で初めて出て、その先の扉に待つのは…。ここで映画は終わり。

正直、これ以上、最小構成要素でミニマムかつストレートに完結する映画はそうそう出会えません。最近観た情報の過剰洪水状態の『アクアマン』とは大違いの雲泥の差ですよ(あれも私は大好きですけど)。無駄の無さで言えば、『search サーチ』よりも洗練されている印象です。

本作に関しては素直に「完敗です。やられました」と言わざるを得ないし、ここで文句をつけようと粗探しをしても自分がみっともないだけな感じがして…とにかく“グスタフ・モーラー”監督、凄いです。

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巧みな情報の小出し演出

もう少し具体的に物語を振り返っていくと、まず冒頭、緊急通報指令室で働くアスガー・ホルムという男。

アスガーを演じている“ヤコブ・セーダーグレン”という俳優の独特な無機質な佇まいのせいもあってか、この時点ではこの人物の性格や背景が全然伝わってこなく、観客としても非常に警戒するような第3者視点でついつい観察してしまいます。

それでもこの序盤で伏線は張られています。なんとなくやる気のないように見える態度。私用電話は禁止ですよと同僚に注意されたり、仕事中に他の上司らしき人と通信で雑談したり、普通に考えれば職務怠慢なダメな奴なのかと思ってしまいます。

そんな風に観客は思っていると、アスガーのもとにひとつの通報がかかってきて、これがアスガーの人生さえも揺さぶることになります。

通報してきたのは「イーベン」と名乗る女性。でもなんだか様子が変で、詳細を語ろうともしません。イタズラのようにも思えますが、真剣な空気感が音で伝わってきます。しかも、近くには別の男性らしき人間もいるらしく、その人にバレないようにこっそり電話してきたのではないかという感じ。アスガーはこれは「誘拐」だと推測。なんとか「白いワゴン」という情報を入手し、通信指令室につなぎ、電話基地局の範囲から割り出した高速道路に警察を向かわせます。しかし、車の発見には至りませんでした。

ここで本来の緊急通報指令室の仕事は終わりのはず。しかし、アスガーはここから通常の職務を逸脱し、イーベンの個人情報から自宅電話番号にかけてみます。

なぜイーベンはここまでの強行にでるのかというと、これも作中で徐々に明らかになることですが、どうやらアスガーは現場警察官時代に何かの不祥事を起こしてこの緊急通報指令室に左遷されてきたらしいことがわかります。彼は現場型の人間だから、自分で居ても立っても居られないで独断行動に出た…そう考えられます。

イーベンの自宅に電話すると、6歳のマチルドという子ども。話を聞けば、ママはパパと一緒に出てったそうで、パパの名前は「ミケル」、パパはママに怒っていて暴力を振るったような情報を得られます。すぐさまこの誘拐の犯人はこのミケルが怪しいと睨み、マチルドを保護するために警官を向かわせます。マチルドは同じ家に弟で赤ん坊のオリバーがいるらしく、一緒にいて待っていてと優しく告げるアスガー。

ここでサブの通信室へ移動したアスガーは独断行動をさらに進めます。一方、アスガーの情報も少しずつ明らかになり、心理カウンセラーを勧められているということ、ラシッドという同僚に電話した際は、明日法廷で証言するという話から、アスガーは何か罪を問われる事件や問題に関与していることが推察できます。

結末を知ってから考えると「ここもつながる!」と手を叩ける部分がチラホラ。本当に情報の小出しが上手い映画です。

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声を聴いてあげてください

この後は結構、怒涛の展開。

イーベンの自宅に警察からマチルドを保護したと連絡するも、赤ん坊のほうは“腹を切り裂かれて”死んでいることが発覚。このシーンで「ちゃんと死んでいるのか確認しろ」と視覚情報がないゆえに要求してしまうのが残酷であり、加えてなによりもマチルドに無残な弟を見せてしまった自分の失態に怒るアスガーがまた可哀想。

犯罪歴のあるミケルに電話し、完全に犯人扱いで怒鳴るアスガー。ここからは一種のビジランテものに早変わりした展開を見せます。

イーベンに隙を見て反撃するように指示するなかで、衝撃的な事実が判明。オリバーを殺したのはイーベンの方であり、彼女は精神科に隔離されるような状態だったのでした。ミケルは、自治体も医者も警察も助けてくれないと孤独に悩んでの今回の行動だったようで、アスガーの当初の予測は全て覆ります。

そして同時にイーベンはアスガーのもうひとつの“あったかもしれない自分の姿”にすら重なってきます。アスガーもまた職務の中で19歳の少年を射殺していたのでした。

愛する子を殺めてしまったことを知り、身を投げ出そうとするイーベン。それを電話で止めようとするアスガー。結末は…。

本作の物語は非常に現代社会、とくにSNS社会に重複する内容だと思います。私たちもつい「この人は良い人だ」「悪い人だ」と乏しい情報だけで評価して、勝手に行動しがちです。でも、結局、本当にできることは「社会の片隅で苦しむ人の声を聴いて、寄り添ってあげること」だという本作のメッセージ。偶然にも最近鑑賞した『ソニ SONI』という映画と重なるのですが、今の時代はやはりこの視点こそ大事にされるべきということなのでしょう。

その声が聴こえなくなったら、私たちの耳は聴覚障害以上の大きな問題を抱えていることになるのですから。

『THE GUILTY ギルティ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 99% Audience 90%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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・『THE GUILTY ギルティ(2021)』

作品ポスター・画像 (C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

以上、『THE GUILTY ギルティ』の感想でした。

Den skyldige (2018) [Japanese Review] 『THE GUILTY ギルティ』考察・評価レビュー