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『ユニコーン・ストア』感想(ネタバレ)…Netflix;あなたの夢は?

ユニコーン・ストア

ブリー・ラーソン監督作…Netflix映画『ユニコーン・ストア』(ユニコーンストア)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Unicorn Store
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ブリー・ラーソン

ユニコーン・ストア

ゆにこーんすとあ
ユニコーン・ストア

『ユニコーン・ストア』あらすじ

ユニコーンの飼い主になることを夢見ていた少女だったキット。大人になった今、芸術の世界に進むが、どうにも芽が出なかった。挫折したキットのもとに謎の商人からの案内状が届いた。キットがその店へ向かうと、商人は「あなたが一人前の大人であると証明できれば、ユニコーンを売ってあげましょう」と申し出てきた。

『ユニコーン・ストア』感想(ネタバレなし)

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ブリー・ラーソン、監督デビュー作

カリフォルニア州サクラメントの町にひとりの少女がいました。両親がフランス系だったため、家ではもっぱらフランス語を話していたこの少女は、6歳の頃、ある夢を抱くようになりました。それは「女優」になること。しかし、両親が離婚。少女の生活も大きく揺さぶられます。それでも母は女優を夢見る娘を想い、映画の都であるロサンゼルスへ一緒に引っ越ししてくれます。

彼女は成長し、役者の世界へと飛び出しますが、上手くいかないことだらけ。せっかく出演したテレビシリーズが放映中止になったり、番組が打ち切りになったり…。結局、手にできる仕事は主にコメディ系の小さい端役ばかり。『童貞ペンギン』のようなパロディビデオで声をあてたりもしました。

一方、彼女は音楽活動にも興味を持ち、シンガーソングライターとしてミュージシャン・デビュー。自分で個人ウェブサイト上で活動するなど、その努力は地道。しかし、こちらもあまり花開くことなく、話題にもならず。『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』という映画の中でバンド出演していますが、誰も気に留めません。

しかし、目立たない低空飛行を続ける彼女にも転機が訪れます。

2012年に『21ジャンプストリート』というコメディ映画でヒロイン役をゲット。この映画が評価も高かったため、注目を集めました。そして翌年。『ショート・ターム』という映画にて主演をつとめ、これが非常に高評価。コメディではない作品で繊細な演技を披露して認められたのです。

そして、そこまで年月もたたない2015年。レニー・エイブラハムソン監督の『ルーム』にて主演をし、その力強い演技でアカデミー賞主演女優賞を受賞。いきなり映画界のトップに立ったのでした。

さらに2019年。アメコミ映画『キャプテン・マーベル』で女性ヒーローを熱演。作品を大ヒットに導き、今では社会の前線に立つ女性の代表でもあります。

もう映画好きの人ならおわかりでしょう。この女性の名前は“ブリー・ラーソン”

このキャリアの経歴を見てのとおり、世の中には子役の時点で大ヒットしてスタートしている女優も珍しくないなか、“ブリー・ラーソン”はかなり遅咲きの映画人生でありながら、本当につい最近になってキャリアを爆上げしている人です。

そしてそれだけ不遇の低調時代に耐えてきただけあって、かなり挑戦することに一直線な人柄も窺えます。近年はフェミニズム活動にも熱心で、ゆえにミソジニー(女性嫌悪主義者)から悪質なバッシングを受けたりもしているのですが、本人はいたって前向き。『キャプテン・マーベル』の宣伝でも積極的にファンと交流を持ち、自身のキャラのコスプレをしてくれる女の子とも嬉しそうに写真を撮ってあげる姿が印象的。

“ブリー・ラーソン”はきっと知っているのです。“辛いことはある。でも夢を持ち続けることは大事だ”と。
そんな“ブリー・ラーソン”がまたもや新しい挑戦の場として監督デビューに挑んだ作品が本作『ユニコーン・ストア』です。主演と製作にも関わっています。

本作は夢を叶えられずにモヤモヤ生きる若い女性の物語であり、非常に“ブリー・ラーソン”の人生と重ね合わせることのできるストーリーとなっています。なので前述した“ブリー・ラーソン”のこれまでの人生史を頭の片隅に入れておいて本作を鑑賞すると、また興味深い深掘りができるかもしれません。

共演には『キングコング 髑髏島の巨神』や『キャプテン・マーベル』でも一緒に参加していた“サミュエル・L・ジャクソン”が登場。『キャプテン・マーベル』に続いてまたもや隣合わせで二人が見られます。たぶんプライベートでも仲が良いのでしょうね。

自分の子どもの頃の夢を思い出しながら、ぜひとも鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(子ども時代を思い出して)
友人 ◯(夢を語り合うのも良い)
恋人 ◯(夢を語り合うのも良い)
キッズ △(基本は大人向けの物語)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ユニコーン・ストア』感想(ネタバレあり)

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ユニコーン、ご用意します

ホームビデオに映る純真無垢な女の子、キット。すくすくと成長しながら、自分のやりたいこと、描きたいものを素直に表現して、周りの大人に笑顔を振りまく少女は自身も大人になりました。

しかし、大人になって少女時代にやっていたことをそのままやってみると、どうでしょうか。周りの大人は容赦なく低評価。キットは自分が通用しないことを痛感します。

意気消沈して実家に舞い戻ったキットは両親に見守られ、ぐうたらと過ごす日々。ちなみにここでキットが寝転がるソファの上にあるライギョみたいなデカイ魚のぬいぐるみ…個人的に欲しいのですけど、どこかで売っているのですか(唐突な質問)。

そんな夢破れたりなキットのもとに、いかにも怪しい手紙が届きます。やたらと派手で情報が不足している主張だけが激しいデザインの手紙。いまどきスパムでもこんな怪しくないです。その謎の手紙がしつこく届くので、「The Store」という店の招待に従って、実際にその場所に行ってみることにしたキット。怪しい建物、怪しいエレベーター、怪しいドアを通り抜け、広々とした部屋で待っていたのは最高に怪しい全身ピンクのセールスマン。“サミュエル・L・ジャクソン”だったら別にピンク色じゃなくても怪しいのに、余計に輪をかけて怪しくなってますよ…。

しかも、「ユニコーンを用意してあげよう」と信じられない発言をし、それを後押しするように後ろのモニターにユニコーンの映像が映し出されます。キットの子どもの頃の夢は「ユニコーンを飼うこと」なのでした。

社会に冷めきっていたキットの心を大きく揺さぶるユニコーンの誘惑。でも「必要な条件がある」とそのピンク・セールスマンは言葉を続け、「適切な人物でないといけない」とキットにクリアすべきミッションを与えます。そのひとつが「ユニコーンにふさわしい家を建てる」ということ。そして愛に溢れる環境でなくてはいけないらしく。

こうしてキットは子ども時代に欲しかったユニコーンを迎え入れるべく、奮闘していく…それがざっとまとめた本作の序盤のあらすじ。

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夢は次につながる

本作は非常につかみどころのない寓話的な物語であり、わかりやすいエンタメでもないので、テキトーに観ているとよく掴めないままエンディングを迎えてしまいます。

でも主軸となる物語はシンプル。見続けた夢に破れて燃え尽きかけた女性が、その夢ともう一度向き合い自分らしさを取り戻し、前よりも新しい自分の可能性に気づいて、また次の一歩を踏み出していく…そんな人生応援映画です。

そもそもユニコーンというのはもちろん架空の動物ですが、その“存在しない”ということを関連させて「叶わない夢を追いかけ続ける子ども」を象徴させるモノとしてもよく使われます。

キットはピンク・セールスマンの誘いに乗っかり、また夢を追いかけ始めるわけですが、最終的にユニコーンと対面できたものの、キットは別れを告げます。つまり、あのユニコーンを飼うという夢はあくまで子ども時代の夢であり、これから追い求め続ける夢ではないという選択でもあります。でもじゃあ価値がないのかといえば、そうでもなく、人生を低迷させてエネルギーを失ったキットを再び復活させるだけの着火剤にはなる…だから子ども時代の夢は大切だ…そんなスタンスも読み取れます。

それにユニコーンを・ハウスを作る過程で、偶然出会ったヴァージルなど新しい出会いを経験することで、このユニコーンを追い求める寄り道は無駄ではなかったとも示されます。

ユニコーンにキットが告げる言葉…「永遠に感謝するわ」「他の女性が待っている」「愛してあげて」…それらのセリフはやはり成功を手にした“ブリー・ラーソン”の想いと重なるものなのでしょう。ラストですれ違いで店に入っていくおそらく“キャンセル待ちの女性“。自分の夢は自分に対しては役目を終え、次の人にバトンタッチされていく…すごく“ブリー・ラーソン”らしいストーリーラインだと思いました。

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差別的な社会はお断り

また、本作は夢なんて見ていないで現実を見ろというありきたりな説教には当然なっておらず、加えてその現実のなんともいえない“残念さ”をしっかり提示しているのも印象的。

とくにキットが働く広告会社の一連のシーン。このあたりはフェミニストとして活動する“ブリー・ラーソン”の着眼点も上手く活かされており、女性のポテンシャルを食い物にする現代社会がそのまま投影されている感じです(もちろんオーバーですけど)。

「雑誌、知ってる? コピー機、知ってる?」と半ば基本的リテラシーさえ疑われている酷い扱いでスタートするキットの労働生活。ゲイリーという男にやたらと話しかけられ、真意がわからず、ただ「君の奥底にスーパースターが眠っている」などと上手い具合に持ち上げられていきますが、結局、こいつもキットを本気で信じているわけではなく。このゲイリーの描写…私の勝手な憶測ですけど、おそらく“ブリー・ラーソン”も役者を始めた頃はこういう男の上司に直面したのではないですかね。「才能あるよ」と言い寄ってきて、でもセクハラまがいの鬱陶しさしかなく、実際は何の役にも立たない奴。まあ、ごろごろいますよね、どこの世界にも。

掃除機のプレゼンのシーンでは、セクシーな女性が起用されたいかにもジェンダーバイアス全開の宣伝に代わる、新しい斬新さに満ち溢れたイメージを大々的にアピールするも、お偉いさんからは総スカン。このへんも、“ブリー・ラーソン”のキャリア的に本人の体験談込みな誇張エピソードな感じでしょうか。いやでもちょっと話逸れますけど、本当に家事関係の商品における無意識の偏見にみちたジェンダーの押しつけは酷いもんですよ…。

要するに本作は、“子どもの夢なんていつまでも見ていないで社会で生きろ”という思考にも“クソくらえだ”と言っているわけで。そんな差別に満ちた社会に迎合する必要はカケラもない。自分で自分の道を進む。そういうラストのエンディングだったと私は思っています。

監督一作目でここまで個性を全力投球しているのですから、やはり“ブリー・ラーソン”は直球ストレートでぶつかっていくタイプなんでしょうね。

“ブリー・ラーソン”監督の真面目な他人想いの心が伝わってくる、優しい映画でした。

『ユニコーン・ストア』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 62% Audience 42%
IMDb
3.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ユニコーン・ストア』の感想でした。

Unicorn Store (2017) [Japanese Review] 『ユニコーン・ストア』考察・評価レビュー