壁で何が守れるのか?…映画『ザ・ウォール』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年9月1日
監督:ダグ・リーマン
ざうぉーる
『ザ・ウォール』物語 簡単紹介
『ザ・ウォール』感想(ネタバレなし)
壁は、案外、頼りない
何かを守りたいと思ったときによく頼られるのが「壁」です。
あなたの家や部屋も壁で覆われているでしょうし、車道と歩道を隔てるガードレールも壁、川の氾濫を防ぐ堤防も壁、押し寄せる波を弱める防波堤も壁、農作物を害獣から守るためのフェンスも壁。どこかの国のトランプさんも移民を防ぐために壁を増強する気満々です。
でもこの壁というものは、案外、頼りないものです。ほら、『パシフィック・リム』だって『進撃の巨人』だって、壁、全然役に立たないじゃないですか。『グレートウォール』は割と健闘していたけど、あれは壁が凄いというか人間が凄かったから…。
もう「壁でも作ってろよ」という言葉を「意味のないことに精を出している人」に向ける慣用句にしてもいいと思うくらいですよ。
そんな壁がまさにタイトルになっている本作『ザ・ウォール』は、壁に頼るしかない危機に陥った人間の極限状態を描いたシチュエーション・スリラーです。
イラクの砂漠にあるパイプライン建設現場の偵察に来たスナイパーのシェーン・マシューズとスポッターのアラン・アイザック。眼下には複数の死体が転がっており、よほどの手練れが襲ったと判断して慎重に監視を続けますが、何の動きもなく20時間以上が経過。しびれを切らしてマシューズが死体の方へ一人歩いていくと、どこからともなく狙撃されてその場に倒れこみます。焦ったアイザックはすぐさま駆け付けますが、同じく脚を狙撃され、なんとか近くにあった壁に退避。壁に隠れながら、全く身動きが取れなくなるアイザック。この絶体絶命の窮地を脱することはできるのか…。
…といった感じの超シンプルなストーリー。登場人物も実質ひとりです。
ひとりシチュエーション・スリラーといえば、ライアン・レイノルズが棺に閉じ込められる『[リミット]』などがありましたが、そういうのが好みの人は楽しいはず。
孤軍奮闘する主演は『GODZILLA ゴジラ』の“アーロン・テイラー=ジョンソン”。『キック・アス』の頃の面影は全くありませんが、やっぱり20歳以上年上の人の結婚したら変わるんだなぁ(何の話)。
監督は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の“ダグ・リーマン”監督です。
緊迫のスナイパー戦の行方が気になる人はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
『ザ・ウォール』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):壁しかない
2007年、イラク戦争も終わりに近づき、アメリカのブッシュ大領領も勝利を宣言していた頃。治安の回復が進みつつあり、これでもう激しい戦闘もないはず。そう思っていました。実際はそうではないということも知らずに…。
アメリカ軍の狙撃手であるアイザックとマシューズ。2人はある現場にいました。アイザックがスポッターで、ベテランのマシューズは射手。スコープである地点を覗いていました。
何にも動きがなく、人影もなし。ここに来て20時間です。作業員らしき死体が6体、護衛団の死体が2体。隠れようとした形跡もなく、かなり早撃ちのスナイパーだと推察されます。無線機を持った兵士がひとりだけ頭は撃たれていないようです。
岩壁がポツンとあります。あの壁の裏に敵は潜んでいるのか。アイザックはいないと考えているようです。
マシューズは向こうにスナイパーがいるわけないと立ち上がります。暑すぎるので苛立っていました。死体から無線機をもらおうとマシューズは前方に歩いていきます。
それをアイザックはスコープで見守ります。ケツを振ってはしゃぐマシューズと、それを囃し立てるアイザック。敵は全方位、見当たりません。壁の裏には誰もいませんでした。
砂煙でスコープが見えなくなります。立ち上がって確認するアイザック。これは死んだディーンのもののようです。
放置された車を確認するマシューズ。何かおかしいと違和感を感じます。全員頭部を射抜かれているのはいくら何でもできすぎです。
するとどこからともなく撃たれるマシューズ。その場に倒れます。遅れて銃声音。
急いで助けに行くアイザック。どんどん撃ってくるのでジクザクに走るアイザックでしたが、自分も足を撃たれてしまいます。
後退して壁の裏に飛び込み、隠れます。壁といってもそれはレンガを雑に積み上げたもので、簡単に崩れてしまいます。負傷した足はかなり酷いありさまで歩けません。
マシューズは荒野のど真ん中で罵詈雑言をぶちまけるしかできず、倒れたまま。止血帯を使えとアイザックは言いますが、マシューズは無線で助けを呼べと指示します。
とりあえず自分の足を止血。痛みに顔を歪ませながらもなんとか完了。そして無線をかけます。「応答せよ、応答せよ」
しかし、生命線となる無線はアンテナを撃たれたことで使用不可になったようです。
絶体絶命。孤立無援。
敵は見えません。マシューズはやり返してやるとがむしゃらに行動しようとします。アイザックは絶対に反撃されると必死に止めます。
どこから撃ってきたのか。着弾から銃声の音が聞こえるまでの時間で距離を判断できます。ただそんな暇もなく、混乱していました。
アイザックの手元にあるのはスコープ。壁の一部をなんとか崩し、穴をあけ、そこからスコープで覗こうとします。しかし、思った以上に壁が崩れ、指を負傷。それでもなんとかスコープを挟めるだけの隙間ができました。
マシューズに報告しますが、反応はなくなりました。出血死したのではないか。そういう自分の足の怪我も酷いです。弾をほじくりだして、手当てします。泣き言を言っても誰にも届きません。
意識も朦朧とし、気を失うアイザック。
ふと目覚めます。どれくらい時間が経ったのか。無線が繋がっています。「聞こえたら応答せよ」
急いで連絡をとり、敵の攻撃と負傷者の発生を伝えます。「了解、待機せよ」
これで助かった…。そう思ったのもつかの間、「救急ヘリを出すにはチャレンジコードがいる」と言われます。
「なんだそれ…」
聞いたこともないです。そもそもそんなやり取りは手順にありません。
「お前は誰だ?」
壁越しの極限状態
シチュエーション・スリラーらしさといえば絶望的なまでの絶体絶命な状況。それは本作にもたっぷり詰まっていました。
「スナイパー」という題材は戦争映画における緊迫感をもたらすお約束の要素ではあり、狙われているだけで常に絶体絶命なんですが、本作は足を撃たれて動けない、通信機器も壊されて救助要請もできない、水筒も撃たれて飲料水もない…まさに手も足も出ない状況。おまけに身を隠している壁も、壁というにはあまりにお粗末な、レンガのような石を積み上げただけのものなんですが、頼りなさすぎるけれども頼るしかない。案の定、ボロボロ壊れていきます。
本作でスリルをさらに増すのにいい味を出しているのが、敵の正体が不明で、しかも、かなりこちらの状況を手玉にとるほどのやり手だということ。狙撃の腕も一流ながら、無線で別人になりすますなど頭も切れる。この謎の敵との無線おしゃべりを続けながらの駆け引きが本作の大半を占めるわけですが、人によっては飽きるかもしれません。でも、いったいこの犯人は何者なんだと没入できれば、無線で聞こえてくる相手のバックボーンに想像を含ませることもできて楽しいでしょう。
ただ、不満を言うなら、タイムリミット感がわかりにくいのが難点でしたね。主人公も出血してるし、ほっとけば命が危険なのはわかりますが、具体的にどうなったらアウトなのか不明瞭なまま物語が進むのが残念です。
この「状況」を逆に利用するのがシチュエーション・スリラーの醍醐味であり、本作でも壁を利用する展開はありましたが、せっかくなら無線を逆手にとる展開も用意してほしかったところ。
実在した?ジューバ
『ザ・ウォール』は“ドウェイン・ウォーレル”が書いた、優れた脚本を一覧にする「ブラックリスト」にも選出されたストーリーが基になっています。ただ、本来はアイザックが無事救出されて、敵のスナイパーも殺されるという綺麗なオチだったそうで、完成した映画版ではひとりシチュエーション・スリラーらしい後味悪さの残るオチになっていました。
狙撃でヘリを落とすのはやりすぎな気もしますが、まあ、ケレン味ということでいいか…。
でも、本作の敵となるスナイパーは、スンニ派武装グループで実在したとされるスナイパー「ジューバ」がモデルなんですよね。本当に存在していたのかさえ不明なので曖昧なんですが、こういう史実もかじってくる要素をフィクション満載でエンタメ世界の恐怖の対象にしていいのか、若干のひっかかりがありますが…。
それでもシチュエーション・スリラーとしては一定の面白さがあって私は普通に楽しめたので良しです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 65% Audience 42%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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以上、『ザ・ウォール』の感想でした。
The Wall (2017) [Japanese Review] 『ザ・ウォール』考察・評価レビュー