え、あなたも霊長類?…映画『おさるのベン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2026年)
日本公開日:2026年2月20日
監督:ヨハネス・ロバーツ
おさるのべん

『おさるのベン』物語 簡単紹介
『おさるのベン』感想(ネタバレなし)
チンパンジー事変
日本でも大衆に名前は知られている「チンパンジー」。本来はアフリカのセネガル南部からタンザニア西部、ウガンダ西部までにわたって断続的に生息する生き物です。そして人間による開発のせいで危機に瀕しており、推定個体数は17万~29万頭とも言われ、IUCNの分類では「絶滅危惧種(Endangered: EN)」に指定されています(IUCN)。
チンパンジーは、世界中で研究目的などで飼育されてもいて、動物園でみられるチンパンジーはあくまで学術的な展示という名目です。
今回紹介する映画は、そんなチンパンジーと仲良くなる話…では全くない、むしろその逆の作品です。
それが本作『おさるのベン』。
邦題は『おさるのジョージ』のパロディみたいなノリで安直につけられていますが、猿が主題である以上の関連性はないです(そもそも『おさるのジョージ』はチンパンジーではない)。原題は「Primate」で「霊長類」を意味します。
『おさるのベン』はいわゆる「アニマルパニック」ものであり、動物が人を襲ってくるジャンルのことですが、もちろん今回はチンパンジーが人を襲います。ええ、八つ裂きです。
かなりゴア描写も気合が入っており、あらゆる手段で残酷に人が死んでいきます。相手がチンパンジーなだけあって、殺しかたにも創意工夫がありますよ。
なんでしょうね、これだけわかりやすいコンセプトの映画なのだから、どうせパロディな邦題をつけるなら、もっと日本の作品をいじればいいのに…。度胸がないな…。
この『おさるのベン』を監督したのが、イギリスの“ヨハネス・ロバーツ”。2001年に『Sanitarium』という映画でデビューし、以降しばらくは低予算ホラーを生み出し続けてきました。“ヨハネス・ロバーツ”監督はとにかくさまざまなホラー・サブジャンルに手を出しまくっており、マッドサイエンティスト、ピエロ、アンデッド、堕天使、殺人鬼、幽霊、モンスターと、カバー範囲は広いです。
当然のようにアニマルパニックにも手をつけていて、2011年の『Roadkill』は鳥でしたし、2016年から始まって自身の最大の成功となった『海底47m』シリーズはサメでした。
そして『バイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』から舞い戻って、またライフワークとも言えるオリジナル・ホラーに帰ってきたわけですけども、チンパンジーをチョイスしてくるとは…。
『おさるのベン』の俳優陣は、ドラマ『デクスター:ニュー・ブラッド』の“ジョニー・セコイヤ”、『俺の過ち: ロンドン編』の“ヴィクトリア・ワイアント”、ドラマ『Amadeus』の“ジェシカ・アレクサンダー”、ドラマ『Sherlock & Daughter』の“ジア・ハンター”、『CODA コーダ あいのうた』の“トロイ・コッツァー”など。
この映画、致命的な欠点があるとすれば、チンパンジーが可哀想ってことですかね。モンスターならまだしもチンパンジーは同情したくなりますもんね…。
絶滅はしないでおくれ…。
『おさるのベン』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 残酷な殺人や暴力の描写が多いです。 |
『おさるのベン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ハワイの大自然に囲まれた辺鄙な地に建つ家。夜、懐中電灯を手にした獣医師のダグ・ランバートが家の傍の野外のフェンスに囲まれた動物舎に入り、そこで飼育されている1頭のチンパンジーの様子を確認します。今回は診てほしいと家主に依頼されたのでした。
そのチンパンジーは妙に大人しいです。そして世話しようと近づくと、いきなり腕を掴まれ、顔面の顔を剥がれてランバートは暗闇で死に絶えます。
その36時間前。大学生のルーシーは友人たちと一緒に飛行機に乗ってハワイに向かっていました。実家がハワイなのです。しかし、何年も帰っていませんでした。同行するのは親友のケイトでしたが、ハンナも呼んでいたことを機内で知ります。ハンナのことはあまり良い印象は感じていません。
ハワイの空港に到着すると、ケイトの兄のニックが迎えてくれます。そして、車で自然に囲まれた家に辿り着きます。中には父のアダムがいました。聴覚障害のある父とは手話で会話します。有名な小説家で仕事が立て込んでいるようです。
家にはもうひとりの家族がいます。妹のエリンです。部屋でゲームをしており、愛想のない反応。ルーシーが長い間帰ってこなかったことを根に持っています。
さらにもうひとりの家族、それは幼い頃から一緒に暮らしてきたチンパンジーのベンです。言語学教授だったルーシーの亡き母との縁で家族に加わったチンパンジーであり、ベンはルーシーたち人間にとても慣れており、タブレットで音を出すことである程度の簡単なコミュニケーションをとることもできます。
ルーシーからテディベアをプレゼントされると、ベンは子どものように大喜び。初めて会うハンナの前でも愛嬌たっぷりです。
夜中、ひとりプールに佇んでいたハンナは、隣にベンが気配もなくいてびっくりします。何か様子が変です。さっきまでの無邪気さがない…。
そのベンは急に腕を掴んできますが、アダムのホイッスル音で大人しくなります。アダムいわく、見知らぬ人が苦手なのだとスマホに入力して教えられ、ひとまず納得するハンナ。
アダムはベンを家の傍のフェンスつきのケージに戻します。すると中にマングースの死体があるのを見つけます。ベンの体を調べると噛まれた傷跡があります。
翌朝、父はルーシーとエリンの娘2人にマングースの件を報告し、サイン会に出かける前にダグ・ランバートに検査を依頼しておくと言います。
こうして若者たちだけになり、夜にのんびりパーティで楽しみますが…。

ここから『おさるのベン』のネタバレありの感想本文です。
悪趣味な知恵比べ
『おさるのベン』は冒頭で「狂犬病」(恐水病の別名もある)が説明されるように、感染症がその動物の攻撃のトリガーになっているという設定です。
この設定でアニマルパニックものと言えば、“スティーヴン・キング”の小説を映画化した『クジョー』(1983年)が有名で、今回の『おさるのベン』もそれを意識した企画のようです。『クジョー』の場合は、コウモリに咬まれて狂犬病を発症した犬のセント・バーナードが、人間の家族を恐怖に陥れる物語であり、犬好きにはかなりツラい映画です。
なお、一応補足しておくと、狂犬病になったからといって必ずしも攻撃性が増すとは限りません。たいていは正常な行動能力が低下し、衰弱し、死に至ります。
本作は狂犬病のリアルではこれっぽっちもなく、観たらわかるように、チンパンジーのベンはあからさまに醜悪化しています。狂暴化とは全然違う次元です。もう「ペニーワイズが乗っ取っているのか?」というレベルの悪鬼となり果てています。
非常に“ヨハネス・ロバーツ”監督らしい露悪的なアニマルパニックでしたね。今回はチンパンジーであるという対象の設定を極めて意地悪に応用していて、人間と知恵比べさせることでいたぶるという展開が目白押しです。
舞台となっているのもあの家のみ。さながらあそこは「チンパンジーvs人間」の頭脳戦の実験場です。「さあ、人間さんたち、チンパンジーより賢いと証明できますか?」というニヤけたナレーションが聞こえてきそうです。
まず早々にプールから出られなくなるという状況に追いつめられるのですが、サメ映画とは真逆の「水から出られない」という設定がなんとも陰湿ですよ。しかも、わざわざそのプールを崖に接したインフィニティ・プールにするという嫌らしさ(ちゃんとノルマのようにひとり落下死する)。
お次は「室内でスマホを見つけられるか?」ミッションが発生。絶妙にマヌケなタイミングでテレビがついたり、定番のクローゼットに隠れる展開があったり、ガラスドアが役に立っていなかったり、あらゆるところで人間側が苦しむことになります。
そして追加でアホな男2人も生贄に。「ドンキーコングだね(汗)」の声かけも虚しく必殺顎外しの技をくらう男に「Nintendo Switch 2」でもプレゼントしてあげたい…。
極めつけはあのハンナが体験する車に逃走するシーン。あそこの鍵の使い方といい、これはチンパンジーならではのイジメでしたね。
それにしても今回のチンパンジーのベンはめちゃくちゃに悪い顔をしています。当然、本物のチンパンジーを使わずに、多くのシーンでは人間の実演(もしくはアニマトロニクス)による作り込みで表現しているのですが、「チンパンジーってここまで悪者顔ができるのか」というギリギリを攻めていました。
今回のチンパンジーのベンは完全な成獣ではなく、まだ子どもの体型をしているのですけども、それもまた意地悪さを的確に狙っていますし…。
体格が子ども型ゆえに、いくら人間よりも力の強いチンパンジーとは言え、互角に戦える手段はいくらでもありそうなのですが、本作はそこを上手く引き延ばしてジワジワと苦しめることに全身全霊を注いでいます。
結局、最後の最後まで足枷になってしまうのは「あんなに家族同然だった生き物を殺したくない」という感情…そのあたりはこのコンパニオン・アニマルを軸にしたサブジャンルの外せない宿命です。
総合的にみて、“ヨハネス・ロバーツ”監督はアニマルパニックの面白さをしっかり確保して、職人技でコンパクトにまとめていたと思います。
私の観たかったチンパンジー・パニック
私は基本的にアニマルパニックのジャンルが好きなので、どんな作品でも高評価になりやすいのですけども、『おさるのベン』はちょっと不満点がないわけでもなく…。
例えば、本作は「チンパンジーが人を襲う」というシチュエーションだけのスリルに特化しており、世界を拡張しようという気は一切ないですが、そのへんは全然OKです。
それこそやりようによっては感染症の拡大とか、いくらでも物語は広げられます。それをやったのが『猿の惑星:創世記』ですが、まあ、でも別に「猿の惑星」の二番煎じを観たいわけではないですからね。人語を話す猿は他の映画で観れますから。
それよりも私が気になるのは、『おさるのベン』は前述した『クジョー』の設定をそのままチンパンジーに適用しているのが安易だったかな、と。
もしチンパンジーを主題にするならもっとチンパンジーらしい背景を含めた設定があってもいいと思うのです。
そもそもドキュメンタリー『チンパン・クレイジー』で取り上げられているとおり、ペットとして家庭で飼われていたチンパンジーが残忍に人を殺すという事件はたびたび起きています。そのチンパンジーは狂犬病にかかったわけでもありません。一般的な普通のチンパンジーです。
要はチンパンジーってもともと人を襲う生き物なんですよ。それだけの力を持っている動物です。それは狂暴だからとか、危険な性質だからとか、そういうことではない…動物としての有する筋力…身体的なアドバンテージの問題です。
もしチンパンジーでアニマルパニックものを作るなら、そういう現代における「チンパンジーをペットにする問題」に向き合ってもいいんじゃないかと思います。
今作のチンパンジーのベンも、言語学者の母によって飼われているという背景も、正直に言えば変です。時代錯誤な感じです。『Bedtime for Bonzo』の時代ではないのですから。
私が映画のストーリーを考えるなら、まず家族同然のチンパンジーが同居の親しい人を急に襲うようになり、その襲った理由がなぜなのか、本編中ずっとわからないままにし、それを心理的なスリルにすると面白いのでは?と思ったり…。そうやって「なぜチンパンジーが人を襲うのか?」を追求する裏テーマがあると、このジャンルの深みもグっと増すでしょう。相手が人間に近いチンパンジーであれば、なおさらにその問いかけはいろいろな人間社会の問題にも重ねられるでしょうし…。
そんなこんなで私にとっては『おさるのベン』は惜しい映画でもありました。
『おさるのベン』を楽しんだ人はぜひとも『チンパン・クレイジー』の視聴をオススメします。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『おさるのベン』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures.
Primate (2026) [Japanese Review] 『おさるのベン』考察・評価レビュー
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