それしかできないんだ…「Apple TV+」ドラマシリーズ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にApple TV+で配信
原案:ジョン・シャイバン、ジョン・オーロフ
人種差別描写 性描写 恋愛描写
ますたーずおぶざえあー
『マスターズ・オブ・ザ・エアー』物語 簡単紹介
『マスターズ・オブ・ザ・エアー』感想(ネタバレなし)
スピルバーグは子を空へ送る
映画業界で時折、問題視されるのが「ネポティズム(nepotism)」です。
ある業界で有名な俳優や監督がいるとして、その息子や娘など子どもも俳優になることがあります。そうした二世となる子は、俳優として注目を集めやすく、仕事も得やすいです。それは不平等だという批判視点がネポティズムです。
もちろん誰でも俳優になる機会はあるので、有名俳優や著名監督の子どもは俳優にはなっていけないという安易な話ではないのですが…。
ネポティズムはさておくにしても、「え! あの人の子どもが俳優してたの!?」と驚くことはありますよね。
例えば、“スティーヴン・スピルバーグ”。はい、あの名作を世に送り出したレジェンドの監督です。“スティーヴン・スピルバーグ”には6人の子どもがいて、そのうち”サーシャ・スピルバーグ”、“デストリー・スピルバーグ”、“ソーヤー・スピルバーグ”の3人は俳優として活動しています。
そのひとり“ソーヤー・スピルバーグ”は“スティーヴン・スピルバーグ”監督作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2017年)で目立たない役で長編映画デビューしていたのですが、『Honeydew』(2020年)で主演を獲得。日本だと見かけるのが難しかったですが、日本でも見やすい作品でついに顔を現しました。
それが本作『マスターズ・オブ・ザ・エアー』。
本作はドラマシリーズで、第二次世界大戦の戦争モノ。具体的には、ヨーロッパで活動したアメリカ空軍の「第100爆撃群」を主題にしており、それに所属していた実在の人物に焦点をあてた群像劇です。
つい2年くらい前には『トップガン マーヴェリック』が大ヒットしたばかりですが、今回は爆弾を地上に落とすことに特化した爆撃機が主役。群像劇なので、いろいろな登場人物が乱れ、人間模様も多彩です。カリスマ性のあるパイロットがひとり目立ちすることもなく、戦争の現実を突きつける展開も多いです。
この『マスターズ・オブ・ザ・エアー』を製作総指揮するのが、“スティーヴン・スピルバーグ”と“トム・ハンクス”。『プライベート・ライアン』からの戦争モノでの付き合いであるこの2人は、それ以降、戦争ドラマをよく企画しており、これまで『バンド・オブ・ブラザース』(2001年)、『ザ・パシフィック』(2010年)と手がけてきました。今回の『マスターズ・オブ・ザ・エアー』はその最新作。まあ、2人の趣味ですよ…。
それで“ソーヤー・スピルバーグ”が爆撃機に搭乗するひとりとしてでているのですが、出演者は他にもたくさんいます。メインでよく顔が映るのは、『デューン 砂の惑星 PART2』の“オースティン・バトラー”(今回は頭に毛がある!)、『ファンタスティック・ビースト』シリーズの“カラム・ターナー”、『テトリス』の“アンソニー・ボイル”。
他には、『Saltburn』の“バリー・コーガン”、『リコリス・ピザ』の“ネイト・マン”、ドラマ『ヴァイキング ~ヴァルハラ~』の”ニコライ・キンスキー”、ドラマ『正義の異邦人:ミープとアンネの日記』の”ベル・パウリー”など。
やたらと登場人物は多いので第1話で混乱すると思いますが、はい、大丈夫です。察しがついた方もいると思いますが、ばんばん死ぬので…。
『マスターズ・オブ・ザ・エアー』のエピソード監督を務めるのは、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の“キャリー・フクナガ”、『キャプテン・マーベル』の“アンナ・ボーデン”&”ライアン・フレック”、『マッドバウンド 哀しき友情』の”ディー・リース”、ドラマ『ペリー・メイスン』の“ティモシー・ヴァン・パタン”。
ドラマ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』は全9話。1話あたり約60分。「Apple TV+」で独占配信中です。
空戦は圧巻の映像クオリティで、劇場で鑑賞したいくらいです。なるべく大きい画面で楽しむのを推奨します。
『マスターズ・オブ・ザ・エアー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :映像を一緒に満喫 |
恋人 | :恋愛要素は薄め |
キッズ | :やや残酷描写あり |
『マスターズ・オブ・ザ・エアー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
1943年、バッキー(ジョン・イーガン)とバック(ゲイル・クレヴェン)はオシャレなバーでリラックスしていました。この若き男2人はともにアメリカ空軍所属。バックは明日飛び立つ予定で、バッキーは第100爆撃群の飛行副官に任命されていました。
「幸運を」と仲間に告げ、2人は一緒の時間を最後まで味わいます。ニックネームも似ていて似た者同士の腐れ縁で、ダンスや酒の趣味など全然違うのに、妙に馬があっていました。
ずっと座っているバックの隣でべったりと寄り添っていた恋人マージが席を立ち、2人きりになった男たちは「いよいよだな」と噛みしめます。バッキーは昇進して基地勤めなのでもう危険な飛行を経験しなくていいのですが、最後に偵察任務の操縦士として乗せてもらうとバッキーは気楽です。「死ぬなよ」「約束できない」と2人は会話を交わします。
1943年5月21日、ドイツ上空。第389爆撃群は急降下で消火していました。態勢を立て直すも敵機の攻撃を受け、大きな損害を発生。バッキーは現実を知ります。
いよいよ第100爆撃群は長旅のすえ中継地となるグリーンランド基地に着陸。すでにそこにいるのはブレイクリー、デマルコ、ダグラス、ハムボーン、クランク、バブルズ、クロスビーなどの面々です。
ヨーロッパはドイツ・ナチスの猛攻で連合国側は苦戦を強いられています。少しでも敵の戦力を削ぐには爆撃が要です。爆撃機の応援は急を要します。
バックたちの部隊は目指す基地に向けてまた出発。しかし、次の飛行では、他の機とはぐれてしまい、あげくに航空士クロスビーは乗り物酔いで吐きまくり。雲に覆われて視界不良の中、イギリスではなくフランスの空に入ってしまい、戦闘真っ只中でパニック。ヒヤっとしながらソープ・アボッツ空軍基地に着きました。
その基地では少佐のバッキーが出迎えます。バッキーはハグリン大佐に自分は副官よりも飛行隊長で現場にでたいと申し出ますが、却下されます。
1943年6月25日、バックの隊の出撃の日。朝食をとり、作戦会議。任務の目標はブレーメンでドイツ・ナチスのUボートを破壊すること。エンジンをひとつひとつ起動し、B-17各機は空へ舞い上がります。それをバッキーは見送ります。
分厚い雲で信号弾も見えない状況でした。互いの機がぶつかりそうになり、編隊も組むのも四苦八苦。ヴィール率いる349隊の1機の第1エンジンが不調で、引き返すことになります。
すると対空砲火を受けます。機体に穴が開いていき、急いで空爆をしないといけないですが、爆撃地が雲で見えません。やむを得ずバックは任務中止を決めました。
そのとき、さっきまでと打って変わって対空砲火が止まります。途端に敵機が出現。空戦となり、どんどん無惨にやられていく仲間の爆撃機たち。349隊は残り2機となり、爆弾を投下できず、多大な犠牲で基地に戻るしかありません。戻ったのは引き返したのも含めて全体で19機中16機。30人の仲間を失っただけです。
バックはショックでした。すでに2回飛んだことがあるバッキーに「なぜこれが現実だと言わなかった?」と呟きます。
戦争はまだ牙をむいたばかり…。
青二才・オブ・ザ・エアー
ここから『マスターズ・オブ・ザ・エアー』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『マスターズ・オブ・ザ・エアー』はタイトルはいかにも熟練のベテランって響きですが、実際の中身は未熟も未熟、青二才たちの物語です。
毎回のオープニング映像だけが美しいビジュアルと共に戦意高揚らしさ満載なのですが、カッコいいのはそこだけじゃないかってくらいに、本編はズタボロです。
第1話の冒頭のバーのシーン。ここもわざとらしいほどにベタな会話となっています。死亡フラグを乾杯して飲み干しているような男たち。
その後に第1話で起きる展開は壮絶。航空士が飛行機酔いしていたり、方向をミスって空戦に突入したり、「大丈夫か、こいつら…」という空気を濃厚に漂わせながら、ついに本格的な爆撃ミッション。そこでもろくに編隊飛行できなかったり、グダグダなのですが…。
第100爆弾隊(ブラッディ・ハンドレッズ)が乗っているのは「B-17」。大型戦略爆撃機で、「フライングフォートレス(空飛ぶ要塞)」の愛称で親しまれました。欧州戦線でも重宝されましたが、本作で描かれる「B-17」は「空飛ぶ棺桶」でしたね。確かに丈夫なのかもしれないし、穴が開いても飛べていましたけど、乗っている側にしてみたら恐怖であることには何も変わりなく…。
第1話のラストは某日本作品を彷彿とさせる「何の成果も!!得られませんでした!!」状態。
第2話では前回でダメダメだった航空士のクロスビーがちょっとだけ汚名返上して、少し気分が高揚するのですが、その少しばかりの希望を木端微塵に撃ち落とすのが第3話。ドイツの航空機産業を麻痺させる狙いで実行されたシュヴァインフルト・レーゲンスブルク作戦は、後に爆撃の失敗事例として語り継がれるほどに大失態となってしまいます。21機中11機しか生存できず、最大の犠牲をだしてしまって…。
続く第4話ではブレーメン爆撃でバックは戻らず、第5話ではローゼンタール中尉操縦機を除いて全て撃墜され…。いつの間にか当初の和気あいあいなアイツらがもういない…。マスターする前に死んでしまう…。
それでも作中ではあの男たちは青臭いまま、任務以外では常にふざけ合い、喧嘩したり、自転車レースしたり、騒いでいます。大失敗した後でもです。無神経な振る舞いに思えますが、当人たちはそれが現実逃避であることを自嘲気味に語るシーンもあります。
爆撃機部隊の死亡率の高さは誰でも自覚しているし、自分たちにできることには限界がある。彼らの中には一応の愛国心はあるにはあるのですが、いざ現地に立てば開き直りしかできない。虚しい現実がドラマの随所にこぼれていました。
輝かしい昇進ではない
『マスターズ・オブ・ザ・エアー』は青臭いブロマンスで満ち溢れていますが、その中でちょっと浮いているのがクロスビーです。このキャラはなんか“スティーヴン・スピルバーグ”や“トム・ハンクス”が好きそうなタイプですよね。
クロスビーは序盤から航空士としての腕は危なっかしく、偶然たまたまというレベルで実績を一発当てます。すると、まあ、この戦場は常に人手不足ですから「お前、優秀らしいな」ということで白羽の矢が立ち、あれよあれよ昇進することになります。クロスビーは謙虚な男で、「本当に自分でいいんですか?」と疑問も口にするのですが、それに対する上官の答えが「わからん」なのがリアルで、こういう戦争では実力を冷静に評価している余裕すらないわけです。
オックスフォード大学で学びながら、クロスビーは見識を広げるも、わかったのはこの戦争の無謀さ。明らかに死なせにいくような戦術をとらざるを得ず、それを指揮の場で立案することへの罪悪感を蓄積していき、過労も溜まってヘロヘロになってしまいます。
空を飛ぶ側であれ、飛べと命じる側であれ、そこに理想はありません。美化されがちな戦争の勝敗の実情を突きつけるものでした。
とは言え、『マスターズ・オブ・ザ・エアー』は後半になるにつれ、やや戦局が沼にハマっていくこともあって、物語も散漫になります。散らかっている感じは少し欠点です。
バックやバッキーが捕虜収容所「スタラグ・ルフト III」でかつての仲間たちと再会し、第99飛行隊の黒人部隊である「タスキーギ(タスキギー)・エアメン」とも合流しながら、脱出の策を練っていくあたりは、視点の切り替わりが激しすぎてそこまで緊張感をだしきれていません。
収容列車のユダヤ人など、迫害の様子をところどころで垣間見せるのも、これだと中途半端すぎる気もします。
本来なら個々のエピソードがそれだけで一本のドラマになるくらいのインパクトはありますから、寄せ集めたエピソード集のようで印象がもったいないです。
最終的には実在の人物に繋げて、その苦労を讃えるという定番な終わりで締めくくられるので、ジャンル的な面白みは薄味だったかな。私は序盤の畳みかけるような容赦なさが良かったぶん、後半は物足りなく感じました。
間違いなく良かったのは空戦の迫力です。本物の「B-17」は当然引退しており、今はいくつかが博物館にあり、撮影にたっぷり使えるものはないです。そこでレプリカを用意して、デジタルスクリーンを背景に、リアルタイムなシミュレーションのように撮っているという最近の方式なのですが、これがやっぱり臨場感がありますね。役者の人も相当に本物らしい体験ができたでしょう。この撮り方の発明によって近年の空戦系の映像は飛躍的に進化しましたので、これからも楽しみになる出来栄えでした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 85% Audience 69%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
戦闘機や爆撃機を主題にした作品の感想記事です。
・『ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン』
・『シャドウ・イン・クラウド』
・『ダンケルク』
作品ポスター・画像 (C)Apple マスターズオブザエアー
以上、『マスターズ・オブ・ザ・エアー』の感想でした。
Masters of the Air (2024) [Japanese Review] 『マスターズ・オブ・ザ・エアー』考察・評価レビュー