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『ウォー・ドッグス』感想(ネタバレ)…戦争には反対! 戦争で金儲けには賛成!?

ウォー・ドッグス

戦争には反対! 戦争で金儲けには賛成!?…映画『ウォー・ドッグス』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:War Dogs
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー
監督:トッド・フィリップス
恋愛描写
ウォー・ドッグス

うぉーどっぐす
ウォー・ドッグス

『ウォー・ドッグス』物語 簡単紹介

イラク戦争の真っただ中、マイアミビーチに住む20代前半の若者2人は、戦争とはかけ離れた世界である儲け話を本格化する。知名度の低い公募入札を利用して、零細企業でありながら米軍相手に契約を取り付けることに成功する。これは意外に面白いほどに上手くいった。事業をどんどん拡大してやがて大金を稼ぐようになり、2人の人生はハイテンションになるくらいに絶好調。しかし、それは長くは続かなかった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ウォー・ドッグス』の感想です。

『ウォー・ドッグス』感想(ネタバレなし)

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トッド・フィリップス監督、戦争に手を出す

2000年代以降のアフガニスタン・イラク戦争をシニカルに描いたコメディ映画がアメリカでも増えてきました。最近もNetflixの『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』で、アフガニスタン駐在軍司令官に任命された軍人役を演じたブラッド・ピットが変顔連発芸を披露しながら、戦争のどうしようもなさを描いてましたし…。

アメリカがおっぱじめた戦争という意味では非常にセンシティブな題材だったこの問題も、さすがにここまで年月が経過したことでシリアスなムードも収まってきて、今では少し客観視して皮肉を言えるぐらいのステージに変化したのでしょうか。

そんな現代戦争コメディの世界に“トッド・フィリップス”監督が参戦です。

“トッド・フィリップス”監督といえばコメディジャンルで名をあげた人。多くの作品は日本では劇場未公開だったため、全く知名度が低かったのですが、日本公開が実現した「ハングオーバー」シリーズで一躍有名に。バチェラー・パーティーでハメを外しすぎた男たちの珍道中を超絶不謹慎ギャグ満載で描く、とにかくクセの強い作品です。子どもであろうが、動物であろうが、人種であろうが、宗教であろうが、障がい者であろうが、“トッド・フィリップス”の手にかかれば情け容赦なく笑いのネタの餌食になる。爆笑orドン引きの2極化は避けられない、困った監督です。もちろん私は手を叩いて喜んでいましたが…。

そんな“トッド・フィリップス”監督の最新作が戦争。これを聞いたら、この作家性を知っている人は誰しも「おいおい、大丈夫か!?」となります。だって宗教も平気でコケにするような監督ですよ。どんな人種であろうと動物であろうと等しく皆殺しにするような監督ですよ。どんな映画になっちゃうんだと。もしかしたらイラクに派遣された米兵がフセインと一緒に核兵器を自由研究で作ってしまうストーリーが待っているかもしれない。いや、酔っぱらった勢いで新しい国を建国して新生アメリカの大統領がわけのわからないジジイになるかもしれない。ハメを外し過ぎて北朝鮮にガチで怒られたセス・ローゲンの『The Interview』みたいなことになるのかと、ハラハラしながら(満面の笑みで)見守っていましたよ。

そんなこんなで問題の本作『ウォー・ドッグス』。とくにクレイジーさで突き抜けている感じはありませんでしたね。それもそのはず、実際の中身はそこまでこれまでのぶっとび具合ではないです。まあ、ちょっと頭のネジが2、3本落ちている奴らが主人公ではあるのですけど。

ストーリーは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に通じる違法ビジネス成功転落劇ですから、そういう系が好きな人は必見です。

主演は“ジョナ・ヒル”“マイルズ・テラー”。“ジョナ・ヒル”は本作でゴールデングローブ賞にて最優秀主演男優賞(コメディ/ミュージカル)にノミネートされました。『セッション』で脚光を浴びた“マイルズ・テラー”も相変わらず良い演技をしています。なんかチョロそうに引っかかるキャラクターが似合っている…。

今回の“トッド・フィリップス”監督作は、日本ではまたもや劇場未公開に戻ってしまったのですが、見逃すのは惜しい挑戦的意欲作です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウォー・ドッグス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):戦争の犬になって儲けよう

2008年1月1日、車のトランクから引きずりだされて覆面の男たちに殴りつけられるひとりの男。突きつけられる拳銃は「ジェリコ941」。闇市場なら300ドルで買えます。

デビッド・パッカウズは武器商人でした。彼にとって戦争はビジネスです。巨額のカネが動きます。戦争は経済行為そのものなのです。

2005年。マイアミビーチにいた頃のデビッドは戦争のことなんて何も知りませんでした。デビッドは高級住宅地で暮らす富裕層相手にマッサージをして稼いでいました。大学は中退。転職も6回。目標もなく、くすぶっているだけ。22歳のデビッドは時給75ドルの生活を変えるアイディアを考えていました。

南フロリダの老人ホームに高級シーツを売る…この計画ならどうだろうか。しかし、甘い考えでした。老人のガサガサの肌に高級のカシミアは不必要…。残ったのは大量の在庫です。

そんな中、親友の葬儀で幼なじみのエフレム・ディベロリと再会します。随分と身なりがいいです。エフレムはロサンゼルスで警察の銃の押収品を売りさばいているそうです。学校時代は2人で羽目を外したものでした。

エフレムは黒人の売人にカネを騙し取られても、陽気に車のトランクからライフルを取り出して威嚇してみせます。とんでもない肝っ玉です。

少しハイになりながらデビッドは家に帰宅。恋人のイズが待っています。

高級シーツは相変わらず売れません。エフレムの事務所に行ってみると、今は米軍相手に商売していると言います。国防総省に、銃、銃弾、防弾チョッキ、ありとあらゆるものを売るとか。

友人のよしみで、そのビジネスを見せてくれます。「FBO」という連邦政府の入札情報サイトにアクセスすれば、入札対象の軍事契約がわかります。大手が見向きもしない小口契約が狙い目だそうで、それでも国防総省が相手なので高額の儲けになります。売る相手が不足していたデビッドには信じられない商売です。

ある日、イズから妊娠したと聞かされ、デビッドは生活費がちゃんと必要になったことを痛感します。困った…。

それを相談するとエフレムは「俺のところで働け」と誘ってくれます。「前から仲間を探していた。お前は信頼できる。戦争の賛否は関係ない。儲けるだけだ」

そこで戦争嫌いなイズには米軍にシーツを売ると嘘をつき、デビッドもこの商売の世界に飛び込みます。

エフレムから軍事の業界の知識を得まくり、ウェブサイトを睨み、狙い目の契約を探す日々です。交渉術も身に着けました。

こうしてデビッドは「戦争の犬」になりました。戦場も知らずに戦争で稼ぐクズに…。

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戦争ビジネスの手のひらの上

戦争、始まっちゃったよ。あれ、じゃあ、武器を売れば儲かるんじゃない? それだ!

「金を掘るな。つるはしを売れ」というのはビジネスの世界ではよく聞くフレーズで、それは目先の利益に群がるのではなく大局的な視点で一番需要のあるものを見抜きなさいという教えなわけですが、それを戦場という舞台で実にシンプルに実行した奴らの話。

本作は“トッド・フィリップス”監督のフィルモグラフィの中でもかなりの異色です。戦争を題材にして、加えて実話ですから、これまでの彼の持ち味である超絶不謹慎ギャグ満載とはなかなかいかなかったのでしょう。だからゲラゲラ大笑いできる従来どおりの作風ではなくて、肩透かしな人もいたかもしれません。

でも、随所に“トッド・フィリップス”監督らしさが見られました。それも序盤も序盤から全開です。デビットがマッサージ師として働いていた時期を描くシーンでは、なにもあんな気持ち悪そうな客にしなくてもいいのに、あえてそうするあたりとか。また、老人ホームに高級シーツを売ろうとする場面での「君ならトカゲをカシミアで包むかい?」という、お年寄りに慈悲もなくボロクソな口ぶりとか。基本、隙あらば不謹慎を叩きこむその姿勢、ブレてない…。

監督の得意技は、ただ不謹慎ギャグを連発するだけでなく、アメリカ定番のロードムービー要素を絡めてくるところ。今作もありました。劇中中盤、空路を使えなくなったデビットとエフレムが、ヨルダンからバグダットへ銃を届けるためにトラックを使って陸路で800キロを走り抜けて運搬するというエピソードが挟まれます。ここなんて完全に“トッド・フィリップス”の十八番です。初期作『ロード・トリップ』から、有名作「ハングオーバー」シリーズまで、“トッド・フィリップス”監督作といえば「旅」の要素が欠かせません

道中、ファルージャの武装集団に追いかけられてカーチェイスするシーンは、さすがに実話ではなくフィクションっぽいですけど、監督らしいケレン味がありました。ラスト、AEY社の大成功で手に入れたマンションの自宅から二人が決裂しながらエレベーターで降りていく姿は、そのまま彼らの人生の失墜を表現していて、監督特有の皮肉が効いてましたね

本作においても、ある種の戦争の闇をアメリカン・ドリームの流れで楽しく描くのは不謹慎じゃないかという指摘もあると思います。

ただ、本作で成功・転落するあの二人は、戦争ビジネスという歪んだシステムのホントに下っ端の奴らなんですよね。本流の悪玉は罰せられるどころか、表で出てくることさえしていない。二人は手のひらの上で踊らされているだけであり、その道化っぽさはコメディでこそよく表現できるのではないでしょうか。

本作が描いたのは戦争ビジネスの先っちょだけ。たぶんこうやって操り人形のごとく糸で引っ張られているだけの人たちはこの世にごまんといるのでしょう。しょせんは戦争の犬。笑う以外にはありませんね。

アメリカにおける2000年代以降の対テロ戦争は、どうしても兵士を主軸にしがちですが、こういう末端の戦争の犬として題材になる人たちはきっとまだまだいるでしょうから、もっと映画ができるかもしれません。ほんと、アメリカは戦争映画のネタに事欠かないです…まあ、それが良いかどうかは別問題ですが…。

ちなみに主人公となった実在の二人。エフレム・ディベロリの方は釈放後に何をしているのかは不明ですが、この映画を訴えています。一方のデビッド・パッカウズの方は「Singular Sound」という音楽テクノロジー会社を立ち上げ、本作にもカメオ出演しています。なぜか差がついてしまいましたね。

文句を言うなら、“トッド・フィリップス”監督には、もっとこう、戦争ビジネスの闇にぐいぐい土足で踏み込んでいくバカなくらいの勢いに期待したのですが、ちょっと真面目すぎたかな。

ふざけるのも大変です。

『ウォー・ドッグス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 60% Audience 68%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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関連作品紹介

トッド・フィリップス監督作の映画の感想記事です。

・『ジョーカー』

作品ポスター・画像 @Warner Bros. ウォードッグス

以上、『ウォー・ドッグス』の感想でした。

War Dogs (2016) [Japanese Review] 『ウォー・ドッグス』考察・評価レビュー