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『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』感想(ネタバレ)…ブラッド・ピットについてこい!

ウォー・マシーン: 戦争は話術だ

ブラッド・ピットについてこい!…Netflix映画『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:War Machine
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:デヴィッド・ミショッド
ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!

うぉーましーんせんそうはわじゅつだ
ウォー・マシーン: 戦争は話術だ

『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』物語 簡単紹介

輝かしい功績を誇る陸軍大将が誰も望まない戦争のアフガニスタン駐在軍司令官に任命された。それでもこの威勢のいい大将は、絶対に勝ってみせると心に誓い、周りの混乱や意見はお構いなしに突き進む。自分を止められる者は、味方の中にも、敵の中にもいないという自信があった。実際、アフガニスタンでもこの司令官は我が道を突き進む。戦争に人生を捧げてきた彼が、行きつく先はどこなのか。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』の感想です。

『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』感想(ネタバレなし)

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リーダーになるのはいつも…

最近のリーダーシップに関する研究によれば、「俺についてこい!」なんて言うようなタイプの人間はリーダーに向かないのだそうです。しかし、世の中は不条理。たいていリーダーになりたがるもしくはリーダーを任せられるのは「俺についてこい!」なんて言うようなタイプの人間なのです。“リーダーに向かない奴がリーダーになってしまう現象”ですね。一体どれだけの人がこの現象に悩まされているのだろうか…。

ここから先は私の推論ですが、たぶんそういう間違ったリーダー像を確立したのは「戦争」なんじゃないでしょうか。戦争では、常に好戦的で先頭に立って声を荒げる奴が出世する仕組みになっています。たとえその裏でどんな問題が起きていようとも、勝てばいいのです。

そんな戦争における“リーダーらしい”リーダーを描いた喜劇が、Netflixで配信された『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』

制作は今や『ムーンライト』など高評価作品を連発する「プランBエンターテインメント」。主演は「プランBエンターテインメント」の創立者にして、俳優業よりもプロデューサー業の方が成功している気もしなくない“ブラッド・ピット”『マリアンヌ』では感動的ロマンスを売りにした彼でしたが、今度は笑いを売りにします。忙しいなぁ…。

本作は「The Operators」というルポルタージュが原作で、アメリカ陸軍大将のスタンリー・マクリスタルの実話を基にしたフィクションです。日本の一部メディアでは「戦争アクション・エンターテイメント映画」と紹介されてますが、アクション要素は皆無に等しく、戦争映画らしいドンパチはほぼありません。どちらかといわなくても、本作ははっきりとしたブラック・コメディ『マネー・ショート 華麗なる大逆転』が気に入っている人は好きなのではないでしょうか。

「戦争は話術だ!」という邦題もいいですね。毎度思いますがNetflix独占配信の邦題は劇場公開作品のそれとは違ったノリがありますよね。Netflix日本法人が考えているのだろうか。個人的には好きです。

とにかく“ブラッド・ピット”のクセが強すぎるキャラを楽しみながら、“リーダーに向かない奴がリーダーになってしまう現象”をヤレヤレと哀憐の情で眺めようじゃありませんか。

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『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』を観る前のQ&A

Q:『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2017年5月26日から配信中です。
日本語吹き替え あり
堀内賢雄(グレン)/ 綱島郷太郎(カレン)/ 谷昌樹(グレッグ)/ 星野健一(コリー)/ 水中雅章(アンディ)/ 長谷川俊介(ピート)/ 竹越義秋(ウィリー)/ 宮本崇弘(サイモン)/ 小松史法(マット)/ 長谷川敦央(バディ)/ 堀越富三郎(カルザイ)/ 塙英子(ジニー) ほか
参照:本編クレジット
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):良きリーダー?

何事にも冷静に対応する堂々としたリーダーであり、世界に平穏をもたらす国。その国家の名前は? もちろんアメリカです。

では戦争に勝てなかったら? 勝てない司令官をクビにして後任を送るだけ。

その戦争とは2009年のアフガニスタン。後任者とはグレンです。

「準備はいいか!勝ちにいくぞ!」と部下に言葉をかける男。グレン・マクマーンは4つ星の陸軍大将。軍人一家の息子として生まれ、優等生であり、トラブルメーカーでもありました。

そしてこの戦争に勝てない理由は指揮の悪さだと考えていました。イラクに駐留している間、リーダーシップに関する本を執筆していました。タイトルは「一度に一歩ずつ皆と同じように」。その中ではこう書かれています。男は不完全な生き物で、放っておけば股間をいじるかチキンを食べるか…と。

グレンは計算高い謙虚さ。ストイックで毎朝11キロも走っていました。組織作りのプロでもあります。国ごとにオフィスを分けるのをやめて、オープンにしたいと熱望し、改革に着手します。

仲間もいます。副官のコリー・スタガードグレッグは士官学校での同期で怒りやすいです。ITを得意とするアンディ。ネイビーシールズのピートサイモンは報道官で、マットは広報顧問。ウィリーはグレンの付き人。雑用係です。みんなグレンを愛し、グレンも彼らを慕っていました。

まず大使と面会。「手始めに調査し、そのあとに我々は何をすべきか教えてほしい」と頼まれます。戦争を終わらせないとオバマ大統領は思っているが、それをどうやって現実のものにするか。「とにかく増兵だけはするな」と釘を刺されます。

グレンは冷静でした。勝利を信じています。

次にカルザイ大統領と面会。部屋につくとカルザイ大統領はブルーレイプレイヤーの接続に手こずっていました。互いに座り、ぎこちなく会話。ハミドと呼んでくれと言われ、前任の司令官は好きだったとも。「大事なのはアフガニスタンの再建です」と熱弁するグレン。「昔の方向とそう変わりない気がする…」と大統領はポツリ。ぎこちないまま会話は終了。

それはさておき、各基地の調査に動き出すグレン。武装勢力は自分の国によそ者が来たから武器をとるもの。なので侵略ではなく助けに来たのだと信じ込ませるしかありません。

いろいろな意見が耳に入ってきます。アメリカ人は立ち小便をするし、マザーファッカーとすぐ呼ぶ。現地の兵士はやる気がない。ヘロインが唯一の産業で、他を栽培するとアメリカの産業のライバルになってしまうので補助金は出ない。ヘルマンドは戦略的に捨てるべきです…。

黙々と話を聞くグレン。結論はでました。

グレンは上手くいかない原因を「やりかたの問題」と考えます。

「ヘルマンド州を制圧するぞ」「みんな無理だというからやるぞ」「私はこの戦争をただ終わらせにきたんじゃない。勝ちに来たんだ」

忠実な部下はリーダーの言葉を疑わないものです。リーダーの言葉にうっとり聞き惚れる一同。

よし、増兵を依頼しよう!

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ブラッド・ピットの独壇場

『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』は観ればわかるとおり、最初から最後まで“ブラッド・ピット”がぎっしり詰まった映画です。固定機銃から撃ちだされる弾丸の如く、“ブラッド・ピット”演じるグレン・マクマホン大将の芸が炸裂。常に非対称な顔がうざいし、二足歩行ゴリラっぽい走り方がきもい。本当にクセが強すぎます。ちなみに元になったスタンリー・マクリスタルはこんな顔じゃないですからね。

“ブラッド・ピット”のここまでのコメディ感の濃いキャラは『イングロリアス・バスターズ』以来じゃないだろうか。クエンティン・タランティーノの世界観にいそうです。

このグレンだけじゃなく、グレンのチームメンバーもアホ描写が多く、割としょうもないギャグを裏でしてたりします。漫才集団なのか…。

つい最近あった戦争をこんな笑いにするなんて不謹慎という意見もあるかもですが、私は逆にアメリカ自身による自己批判精神として評価したいところです(監督はオーストラリア出身ですけど)。

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巻き込んでくれて感謝するよ

グレンは本当に典型的な“リーダー”です。

口では威勢のいいことを言いまくり、「誰が敵か味方かわからないんですけど」と困惑する兵士には「混乱しないようにしろ」と、抽象的な指示と激励を投げつける。無論、口だけではありません。兵隊たちに元気がないとみれば、危険な戦場へ付いていき、報告書がメディアにリークすれば、自らがテレビに出る。まさに前に出るのがリーダーの仕事だと言わんばかりに。実際、彼はリーダー論の本を執筆するくらい、リーダーとしての自覚が人一倍強く、43か国の連合国をまとめる立場に燃えています。野心がある…リーダーにぴったりじゃないですか。

ところが世間の彼の評価はイマイチ。ジャーナリストも、政治家も、地元住民も、「妄想に基づく野心だ」とか「帰ってくれ」とか冷たい言葉ばかり。頑張ってるのに…。

本作はそんな野獣であるビッグ・グレン個人を笑い飛ばす映画なのかと言えば、そんな単純なものではないでしょう。

「ウォー・マシーン」というタイトルが表すように、彼もまた機械のように自動化された戦争の歯車のひとつにすぎなく、クビにして後任を送るだけ。後任のボブがグレンらしい歩き方で進軍するさまは、まさにベルトコンベアーで運ばれてくる量産製品のよう。

もっと言えば、これは戦争の枠に超えて私たち社会全体の問題といえるでしょう。グレンは、『キングコング 髑髏島の巨神』に登場した“サミュエル・L・ジャクソン”演じるアイツのような戦闘狂では決してないのです。

ストイックな性格で健康を大事にする、仲間には愛されている、部下のことだって大切に思っている、穏便に話をまとめようとする、礼儀をわきまえる、差別的ではない、人道的なことに気を遣う、ビジョンもある…。

こういう人は会社や学校にもいると思います。そして、リーダーにふさわしいと考えるはずです。それがマシーンを支えている…この歪んだシステムに無自覚に翻弄されている感覚は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を観終わったときにも思ったことですね。

巻き込みたくないし、巻き込まれたくもない。本当に必要なリーダーは誰なんでしょうか…。

『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 48% Audience 34%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』の感想でした。

War Machine (2017) [Japanese Review] 『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』考察・評価レビュー