クリーピー
原題:クリーピー 偽りの隣人
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年6月18日
監督:黒沢清

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 
あらすじ

元刑事の犯罪心理学者・高倉は、刑事時代の同僚である野上から、6年前に起きた一家失踪事件の分析を依頼されていた。そんな折、新居に引っ越した高倉と妻の康子は、隣人の西野一家にどこか違和感を抱いていた。そして、高倉のもとに現れた西野の娘・澪がある事を告げる。


クリープな隣人をひとまぜして…

突然ですが、某乳製品メーカーから発売されているコーヒー用クリーミングパウダーに「クリープ」という商品があります。クリーミングパウダー全般を「クリープ」と呼んでいることもありますね。

でも、この「クリープ」という言葉、和製英語です。それどころか、「クリープ」という言葉を英語圏の外国人の前でうっかり使おうものなら、「えっ」と怪訝な顔をされてしまいます。

というのも「creep」という単語に聞こえてしまうから。この単語は「忍び寄る」とか「ゾッとする」という意味で、あまり良いイメージの言葉ではありません。形容詞の「creepy」は、日本の若者では頻出のワード「キモイ」と同じような使い方もできるほどです。あんまり迂闊に使うと厄介な言葉なので注意です。

話をメインの映画に戻します。本作『クリーピー 偽りの隣人』は、クリーミングパウダーが鍵となる話ではもちろんなく、「creep」のほうの話。キモイどころではない、それこそゾッとするような隣人の狂気を描いたスリラー映画です。

監督は黒沢清。1997年の『CURE』以降、世界的に有名な日本人監督のひとりであり、最近でも2015年の『岸辺の旅』が第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞しました。今年は本作『クリーピー 偽りの隣人』以外にも10月に『ダゲレオタイプの女』が公開されており、大作映画をポンポンつくれるあたりさすがです。


『クリーピー 偽りの隣人』はサイコパスを題材にしている点は『CURE』と同じ、崩壊しかけている夫婦の歪さを題材にしている点は『岸辺の旅』と同じ。実に黒沢清監督らしい映画です。

黒沢清監督の映画はリアルとは違う独特の作風がありますから、世界観含めて楽しむことが大切。本作は物語の構成自体はシンプルなので、黒沢清監督作品が初めての人でも問題ない一作だと思います。





↓ここからネタバレが含まれます↓

 


おまえもサイコパスなのか

本作は明らかにリアルな描写を避けている部分が多々あります。最も顕著な例が、警察の描写でしょう。はっきり言ってあんな警察ありえません。元警察といえ他者に情報を流しすぎですし、警察が不審死したにもかかわらずろくに捜査していないですし。でも、本作の場合は製作者の意図的なものだと思えたので私は気になりませんでした。

振り返ってよく観ると、実は映画冒頭に世界観設定の説明があるのです。それは、高倉による大学での講義の場面。そのなかで、犯罪者には「秩序型」と「無秩序型」と「混合型」があり、とくに「混合型」は分析不可能で手の打ちようがないと語っています。そして、本作が扱うサイコパスがこの警察も犯罪心理学も役に立たない「混合型」。警察は無能だし、行動分析しても意味ないよと言っているわけです。

さらに、権力や科学では太刀打ちできないサイコパスに「映画」で挑むというスタンスが明確に打ち出されてます。これこそ「映画」らしい映画だと思いましたし、映画で描く意味もあります。

クリーピー

本作ではサイコパスとの闘いの勝ち負けはコントロールのパワーで決まるという明快なロジックで描かれています。その点、竹内結子演じる康子はコントロールの力が弱い人間でした。飼い犬をしつけていますというわりには、そんな感じには見えないし、夫にも従うばかり。対する香川照之演じる西野は吠えられまくっていたのも序盤だけで、すぐに犬を懐柔してみせます。

では西島秀俊演じる高倉が最後に西野に勝てたのはなぜなのか。それは高倉自身がサイコパスだからなのではないでしょうか。

劇中でも高倉の執念的なコントロールっぷりが露出しているシーンがいくつかありました。例えば、冒頭の妻との会話…「学生と話していると結構面白い」「俺、案外大学の先生向いているのかもな」のセリフ。ところが、その後に映る講義風景を見ても授業にそこまで面白そうな雰囲気がある描写もなく、高倉自身も「授業がないときは何すればいいの?」と大学で暇そうにしているのです。これは大勢の前で持論を展開する自分に満足している表れに見えました。日野市一家殺人事件の生存者である早紀や、妻である康子への詰め寄りも言うまでもなく、結果どちらも傷つけることに。高倉こそ「creepy」です。

本作、残酷な演出が少なめなのは個人的にちょっと残念でした。まるで薬だけで全ての洗脳を実行しているような感じも違和感ありました。どうせ薬を用いるなら西野がもっと薬を楽しげに準備させるような、“クスリ”狂っぷりをみせてほしかったです。

それにしても、西野(というか香川照之)が味のあるいいキャラでした。「犬にしつけするんですか」からの「いいと思いますよ、そういうの」とか、「まだまだいくぞ~」とか、名言多しなのもナイス。正直、西野があのまま殺されなかったらどこまでいくのか見てみたかった。自分がコントロールされる側なら、高倉よりも西野のほうがいいです…ね(すでにコントロールされているみたいな文章)。