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『バーバリアン』感想(ネタバレ)…あなたはそこに入れますか?

バーバリアン

というか気にしたことはありますか?…映画『バーバリアン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Barbarian
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:ザック・クレッガー
ゴア描写

バーバリアン

ばーばりあん
バーバリアン

『バーバリアン』あらすじ

Airbnbで予約をした宿泊する家に夜中に辿り着いたテスは、そこにはひとりの男の先客がいることに気づく。手違いかと思って確認するが、この男も予約しているのは間違いなかった。他のホテルがないかと探すがちょうどいい宿は見当たらない。男は寝室を使っていいと言ってくれるが、テスは安全なのだろうか判断に悩み、しばし思案する。ところがこの家の奥深くにはテスの想像もつかないような恐怖が潜んでいた。

『バーバリアン』感想(ネタバレなし)

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あなたにはこの映画はどう見えるか

こんな話を見聞きしました。ある女性が「この道は暗くて怖い」と怯えると、そばにいた男性は「そんなに幽霊が苦手なの?」と笑っていた…というエピソード。

ある「場所」があるとします。「空間」や「環境」と言い換えてもいいです。そこに「男女」がいるとしましょう。男性と女性です。

同じ場所を共有しているにもかかわらず、男性と女性とでは、そこで感じる緊張感は全く違う…そういうことがあります。

どんな場所でもそうです。飲食店、ショッピングモール、電車の車両、タクシー、エレベーター、病院、映画館の座席…。

この緊張感の差異はなぜ生まれるのか。それは女性の方が男性よりもはるかに暴力や性犯罪のリスクに日常的に晒されやすいからです。ゆえに女性にだけ緊張感が生まれます。一方の男性はそんな緊張感など気にしたこともないので無自覚です。そもそも男女で緊張感が全く違うということを考えたこともないという男性も珍しくないです。

人混みを歩いていれば、女性を狙って体当たりしてくる男もいる。洗濯物を干せば、女性がそこに住んでいると犯罪者に教えることになる。Uber Eatsを頼むのだって…。

女性が安全を手に入れるのは、男性が安全を手に入れるよりもはるかに大変です。これがジェンダーの不均衡です。

当然、男女の構造だけで全てを説明できるわけではありません。女性で、かつトランスジェンダーであれば、さらに自身の安全は遠のきますし、加えてマイノリティな人種であれば、もっと安全は手に入りづらくなってしまうでしょう。

ただ、男女の差異は最も身近にある構造でありながら、平然と軽視され続けてきました。

少し前置きが長くなりましたが、今回紹介する映画もその男女の差異を意識して観てほしい作品です。それこそその意識がないと、この映画の見方が男女で全く変わってきてしまうかもしれないですし…。

その映画とは本作『バーバリアン』です。

この『バーバリアン』はネタバレ厳禁な内容なので、正直、鑑賞前の人に説明できることはあまりありません。物語の始まりとしては、ひとりの女性が宿泊場所を手配できるサービス「Airbnb」を利用して、とある一軒の家に到着するところから幕を開けます。かなり「え?」という緩急のある展開を見せていくのですが…。

ジャンルとしてはホラー映画であり、表向きはよくあるタイプのあれで、そんなに真新しさはないです。でも先ほども書いたように、実はこの映画はとてもフェミニズムな視点を物語構造として上手く組み込んでおり、それがわかっていれば仕掛けが理解できて膝を叩くことができる…そんな作品です。

こういう仕掛けを事前に説明しちゃうのもどうなんだと思うのですけど、やっぱり鑑賞しても“わからないまま”で「何が面白いんだ」と釈然としない反応なだけの人もいるでしょうし、こういう仕掛けがあるんですよと言っておく方が「じゃあ、観てみようかな」と思う人もでてくるので、今回は紹介しておきました。

海外のメディアなんかを見ていると、早くもこの『バーバリアン』を2022年のベストなホラー映画の一本として紹介している記事も観察できます。

『バーバリアン』を監督したのは、コメディアンとしてキャリアをスタートし、俳優業もやってきた“ザック・クレッガー”。2009年に『お願い!プレイメイト』という映画で共同監督としてもキャリアを重ねてきたのですが、この『バーバリアン』でまさかのホラー界隈でスマッシュヒットを達成。多くの批評家やマニアでも予想つかなかったイレギュラーな進出を果たしました。

企画当初は「A24」や「Neon」にプレゼンしていたそうですが、契約とは至らなかったそうで、いかに業界が「ザック・クレッガー? 誰それ?」状態だったのかがわかります。今頃、A24とかは歯ぎしりしながらこの監督と手を結ばなかったことを後悔しているでしょうね…。

結果的に20世紀スタジオの配給となり、日本では劇場公開されず、「Disney+(ディズニープラス)」での見放題独占配信となりました。なんか日本のDisney+…良質なホラー映画が地道に増えていってるな…。

俳優陣は、ドラマ『The Pale Horse』の“ジョージナ・キャンベル”、『IT/イット』2部作でおなじみの“ビル・スカルスガルド”、『領主館のゴースト』で監督も兼任した“ジャスティン・ロング”、『バットマン ビギンズ』の“リチャード・ブレイク”など。

隠れた良作ホラー映画として2022年の掘り出し物枠と言える『バーバリアン』。ぜひチェックしてみてください。

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『バーバリアン』を観る前のQ&A

✔『バーバリアン』の見どころ
★ジェンダー差異を意識した巧妙な物語。
★緩急あるジャンルの変わりっぷり。
✔『バーバリアン』の欠点
☆ゴア描写があるので苦手な人は注意。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:隠れた良作ホラー
友人4.0:ホラー好き同士で
恋人3.5:ロマンス要素無し
キッズ3.0:残酷な描写あり
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『バーバリアン』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『バーバリアン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):入るか、入らないか

雨降りしきる夜、1台の車が一軒の家の前に停車します。運転していたひとりの女性はスマホでチェックイン手順を確認。車を降りてドアの横にあるキーボックスに指定の番号を入力します。でも反応しません。

マーカスからの執拗な電話を無視し、再度スマホで手順を確認。ところが開いたものの鍵が無いことがわかります。

イラつきながら不動産会社に電話をかけるも留守です。「テス・マーシャルです。バーバリー通りの家に着いたんだけど、家の鍵が入ってないの。この番号に折り返し電話してくれる?」とメッセージだけ残します。

待ちぼうけ。あたりは暗闇に包まれていて、車に退避。すると家の窓に光が確認でき、中を覗くと男がいます。

ドアをノックし、でてきてもらい、テスは「あなた、誰?」と訊ねます。男も困惑気味で「そっちこそ」と言ってきます。どうやらこの男もこの家を借りているらしいです。「私もAirbnbで1カ月くらい前に借りた」と説明すると、男は「HomeAwayで借りた」と返事。どうしようかと2人は立ち尽くします。

男はとりあえず中に入って確認しようと言い、テスは家の中に足を踏み入れます。「予約確認メールを見せてもらえない?」と念には念を入れて頼むと、男はメールを見せてくれます。確かにおかしいところはないです。

テスは車に戻ってなんとか策を考えようとしますが、男はやめたほうがいいと心配し、「君の自由だけど中にいたいならドアには鍵もついてるし構わない」と言ってきます。続けて男はキースだと名乗ります。

落ち着きなくテスは空いているホテルを探しますが、キースいわく街で医療関係の学会があるらしく宿はどこも空いてないのだそうです。

「ここに泊まったら? 寝室を使って。こっちはソファを使うから」

そのキースの提案にテスはあまり気乗りしません。やむを得ずテスは寝室を利用させてもらうことになりました。そこにキースが財布を忘れているのに気づき、中を見て、運転免許証の写真をとるテス。その後に財布を渡します。

ワインとグラスを用意して待っていたキースは「警戒して当然だ」と親切そうに語りつつ、「なぜこの街に?」と聞いてきます。「仕事の面接で。ドキュメンタリーのリサーチ」と答えるテス。

キースは意外にもドキュメンタリーを見ているらしく、「僕も取材対象にいいんじゃない?」と言ってきます。ライオン・テイマーズの創設者だそうで、テスは驚きますが、活動拠点探し中だとのこと。

こうして2人はワインが進み、会話も弾みます。テスは思わず「逆だったらあなたを家には入れない」と言うなど、すっかり口が軽くなり、警戒心を解いていました。

「おやすみ」と声をかけ、鍵をかけずにテスは寝室で眠りにつきます。

その夜中、テスは寝ていると何か物音を耳にした気がします。起き上がると部屋のドアが開いているのがわかります。リビングに行くと、ソファで寝ているキースが何かうなされていました。

翌朝、キースはもう出たようで、書きおきだけが残されていました。テスも出発します。明るい状態でこの周辺を初めて見ましたが、周りにはやけにボロボロの家がいっぱいです

車で移動し、面接へ。面接してくれた人は「どこに泊まってたの?」と聞きますが、「ブライトムア」と答えると、「あそこ?」とその面接の人は唖然とした顔を浮かべます。

テスは知りませんでした。あの家の秘密を…。

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それはフラグではないか?

“ザック・クレッガー”監督は『バーバリアン』のアイディアを練る際に、「The Gift of Fear: Survival Signals That Protect Us from Violence」というアメリカで話題となった1997年の本を参考にしたと語っています。

この本では、暴力のパターンを分析しており、暴力にはそれが起きる直前に特定の予兆となる指標があるということが説明されており、「pre-incident indicators(PINS)」と呼んでいくつかを紹介しているそうです。

そしてこの『バーバリアン』でも、とくに前半のテスがキースと同じ屋根の下で宿泊しなければいけない状況に陥ったパートにて、この暴力の予兆が幾度となく挿入されています。

例えば、ダブルブッキングに困惑して家の外に突っ立つテスはキースの「とりあえず家の中に入ろう」という言葉に乗せられて室内に足を踏み入れます。こうやって一見すると2人は共通の境遇に見えますが、実際は家に最初からいるキースの方が優勢であり、完全にキースの主導権になってしまっています。

また、その本では加害者は被害者に礼儀正しく振る舞い、さらにやたらと詳細な説明で安心させようとするという指摘があるのですが、まさしく作中のキースもそのような行動をとります。

そして、タイプキャスティングの問題も挙げられます。これは「あなたは私を疑っていますよね?」と加害者側から言われると、被害者は「疑っている人間」というネガティブな役割を押し付けられてしまい、思わず「いいえ、違いますよ」と答えてしまい、相手のペースに乗せられるというもの。これも被害者側に”あるある”の心理ですね。「“疑心暗鬼になりすぎている女”と思われたらそれも嫌だな…」とつい考えてしまいますから…。

テスは面接時でも「私、タフですから」と自分を良く見せようと頑張りすぎており(就活ではよくある)、この立ち位置が仇になっていくわけで…(就活での性的加害事件はまさにこの構造を悪用したものですね)。

この『バーバリアン』について日本語で感想を漁ってみると、序盤をロマンス的なものだと受け取っている人が散見されるのですが、そう受け取ってしまう人もいる事実こそ、まさにこの映画がテーマにしている男女の差異だなと思います。テスは見知らぬ男と同じ空間を共有しないといけなくなってしまったときの極度の緊張感(しかも黒人女性が白人男性と相対する)に直面し、警戒度をどの程度設定するかを見計らっているのであって、恋愛なんて到底挟める余地はないと思うのですが、ある観客には「恋愛の余地あり」と受け止めてしまう。これは後に出てくるAJの視点と同一なのですけど…。

結局、テスはキースとドキュメンタリーという話題で話が合い、信頼しきってしまいます。ただでさえ仕事の面接で来ているので、仕事への理解がある人の存在に飢えているでしょう。心を開くのもわかります。

しかし、キースは無害な善人だったのか。それはわかりません。なぜならキースはこの後に壮絶な死を迎えるからです。

キースの地下での死まで、主人公テスと観客を「信用できるのか、こいつ!」と緊張感で引っ張っていく演出は見事なものです。

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緊張感のゼロの極端な事例

『バーバリアン』は前半最後のキースの衝撃の死から一転、いきなり映画のトーンが180度変わり、観客をびっくりさせます。

今度の主人公はAJ・ギルブライドという監督の男で、オープンカーでノリノリなところで、撮影中に性的に不適切だったと告発があったと電話を受けます。その後の会話からこのAJは明らかに同意なしで性的加害行為をしたアウトな奴だとわかるのですが、完全にテスとは正反対、対極にいる男を本作はわざと設定してきています。

そしてこのAJがあろうことかあの家のオーナーで、諸々の裁判にお金もいるので、あの家に立ち入ることに。ここからがなんというか…男女の差異というものを思いっきり極端に提示する…もはやコメディに振り切った、笑うしかない展開の連続です

まずAJは家に宿泊者の痕跡があっても全く気にしません。そして地下で隠し扉を見つけると、売れるかどうかを調べ出し、そしてメジャーで面積を測りだすという…。怪しげなカメラとか簡易ベッドとか、そんなものガン無視。ついにはさらなる地下階段を見つけるのですが、さすがに恐怖でおののくかなと思ったら、その地下さえもウキウキで距離を測っていく…。

男女で同じ空間でも緊張感が違うとは言ったけど、このAJはただのアホです。でもこんだけ極端に描いたらわかるでしょ!という監督からの皮肉なユーモアは効いています。

ジェンダーが変われば、ホラーだったものが、コメディになってしまう。確かにこれだけ見せられればよくわかります(それでもわからない人はAJと同類です)。

で、AJもテスも捕らえられ、この家の正体がじんわり判明。どうやらレーガン政権時代(80年代)からこの家では家主の男が女性を監禁して出産させ…その近親相姦を続けており、あの謎の老婆みたいな奴はその成れの果てということでした。

テスはそこから単独で逃げ出すもののホームレスだと勘違いされて警察に無視されたり、キースはやっぱり全然反省していなかったり、人間社会の理不尽な不均衡を終盤も突きつけられつつ、最後は意外にもあの老婆が落下したテスをかばって下敷きになってくれます。

この彼女もまた理不尽な社会の被害者であろう老婆の頭をテスが撃ち抜き、人生を終わらせてあげて、映画はキレよく閉幕。この思い切りのいい締め方、『X エックス』に続いて良いホラー映画のラストだったな…。

『バーバリアン』は、既存のホラー映画の形式に捻りのある方法でフェミニズムな社会構造批評を組み込んでおり、それでいてトラウマを過度に煽ることなく、ユーモアで観客に提示する…非常に手際のいい完成度の映画でした。

『バーバリアン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 70%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

男女の緊張感を描く映画の感想記事です。

・『フレッシュ』

作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios

以上、『バーバリアン』の感想でした。

Barbarian (2022) [Japanese Review] 『バーバリアン』考察・評価レビュー