スポットライト 世紀のスクープ
映画『スポットライト 世紀のスクープ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Spotlight
製作国:アメリカ
製作年:2015年
日本公開日:2016年4月15日
監督:ネメシュ・ラースロー

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★
 

Plot Summary

アメリカのマサチューセッツ州ボストンの地方新聞「ボストン・グローブ」。その新聞の「SPOTLIGHT」という名の一面を担当する記者たちは、新しい編集局長の提案がきっかけで、神父による性的虐待事件を記事にすることになる。取材を重ねていくにつれ、事件の裏に隠れていた想像以上の実態が明らかになっていく。

ネタバレなし感想

報道のあるべき姿がこの映画にはある

突然ですが、あなたは最近のマスメディアの報道姿勢に不満はありませんか? SNSなどでこぞって個人を批判し追い詰めるインターネットの流れに疑問を感じたりしていませんか?

実は本作『スポットライト 世紀のスクープ』はそうした人にこそ見てほしい一作です。誰でも情報を世界に発信できる時代だからこそ、この映画で描かれるマスメディアの在り方を見て我が身を振り返る気持ちになってほしいのです。

本作は第88回アカデミー賞で『レヴェナント 蘇えりし者』や『ブリッジ・オブ・スパイ』といった強敵を押さえて作品賞と脚本賞を受賞しました。また、受賞は逃しましたが、監督賞、助演男優賞(マーク・ラファロ)、助演女優賞(レイチェル・マクアダムス)、編集賞にもノミネートされました。

そういう意味では映画ファンには見逃せない一作ですが、それ以上に現代人なら誰でも一見の価値があります。

本作は実話をベースにした物語です。なので結末は周知の事実であり、神父による性的虐待が報道されておしまいなので、ネタバレもなにもないです。しかし、本作の邦題には「世紀のスクープ」とありますが、そこから連想されるイメージと実際の映画の雰囲気は全く違います。詳細は後半で書いていますが、終始じっくりと地味に進行します。

物語を堪能するうえで事前に知っておくべきことは何もないですが、こういう社会派な映画に慣れていない人は背景や登場人物を把握して見ると、理解がよりスムーズでしょう。

本作の中心となるメディアはアメリカの新聞「ボストン・グローブ」。ボストン・グローブは、マサチューセッツ州ボストンで最大の部数を発行する日刊新聞です。ボストンにはもう一つの日刊新聞であるボストン・ヘラルドが存在します(作中にもボストン・ヘラルドの記者が登場します)。

さらにそのボストン・グローブの新聞一面に「SPOTLIGHT」と呼ばれる欄があり、その「SPOTLIGHT」を担当する4人と上司2人の小さなチームがこの物語の主役となります。


メインの登場人物を簡単にですが紹介しましょう。

マーティ・バロン(上の写真:左から2番目)
新しく赴任してきた編集局長で、神父による性的虐待を記事にすることを提案した人物。口数は少ないが、報道には誠実。演じるのはリーブ・シュレイバー。

ウォルター・“ロビー”・ロビンソン(上の写真:一番左端)
「SPOTLIGHT」チームのリーダー的ポジションで、メンバーをまとめあげます。演じるのはマイケル・キートン。

マイク・レゼンデス(上の写真:左から3番目)
「SPOTLIGHT」チームのひとり。報道に対する姿勢がもっとも積極的で、若さがあります。彼自身は宗教にあまり関心がないように見えますが…。演じるのはマーク・ラファロ。

サーシャ・ファイファー(上の写真:右から3番目)
「SPOTLIGHT」チームの紅一点。彼女自身はボストン出身ではないですが、祖母がボストン出身のカトリック。取材しつつ祖母を気にかけますが…。演じるのはレイチェル・マクアダムス。

マット・キャロル(上の写真:一番右端)
「SPOTLIGHT」チームのひとり。落ち着いた雰囲気の男性ですが、ある事実を知って取り乱すことに。演じるのはブライアン・ダーシー・ジェームズ。

ベン・ブラッドリー・Jr.(上の写真:右から2番目)
古参の部長。神父による性的虐待事件を取材することに当初は難色を示しますが…。演じるのはジョン・スラッテリー。

本作の99%はこのチームが織りなす人間ドラマです。無駄のない洗練された脚本と、役者陣の素晴らしい演技が合わさり、とにかく作りが誠実です。また、ハワード・ショアの音楽もすごく良い…物語を引き立てます(個人的に2016年に日本で公開された映画の中で現時点で一番気に入っています)。

わざと難解にみせるような説教くさい作りにはなっていません。「神父とか教会とか興味ない、社会派映画は固くるしそう」と敬遠するのは損です。

予告動画





↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

日本も他人事ではない

ボストン・グローブの読者の半数以上がカトリックなくらい、神父・教会はボストンの街と密接につながっています。仕事から家に帰れば家族と神父・教会の話題を話し、礼拝にも行き、教会の前の公園で子どもが遊ぶ…。そうした何気ない日常をこの映画では見せつつ、その何気ない近しい存在の知られざる実態が暴かれていく。その過程は爽快とはなく、ただただ辛いです。

今も生存している被害者は「サバイバーズ」と呼ばれている(なぜなら信仰を奪われ、酒やクスリに走り、自殺する人が多い)ことからも、宗教を失うことは相当の苦しみです。単純に神父や教会と縁を切ればいいという話ではありません。教会に関わったと思われる人は誰もが「話せない」と言い、街全体がまるで隠蔽に加担している状態。善悪で一刀両断にできないからこその報道の苦悩が、本作の主人公たちの最大の敵です。「SPOTLIGHT」の記者たち全員が苦しみながら取材をしていきます。

こうした神父や教会のスキャンダルの深刻さは、宗教に関心のない日本人にはいまいち実感しづらい話題なのも確かです。

しかし、視点を変えれば日本を含めたどこの国にも、誰でもありうる話ではないでしょうか。なにも性的虐待に限った話ではないでしょう。自分にとってもっとも身近な存在が実は犯罪に手を染めていたとしたら…。例えば、親友、家族、恋人、勤務する会社、学校などなど。闇を知ってしまったとき、あなたならどうしますか? 批判するのか、止めようとするのか、見なかったことにするのか、逃げるのか。考えだすと恐ろしいです。

システムに光をあてろ

本作の邦題「世紀のスクープ」というわりには、大スクープを求めて奮闘するという感じではありません。手に汗握るようなスリルやサスペンスはないし、犯罪を暴くカタルシスも痛快なラストもなし。この映画では、性的虐待をした神父やそれを隠蔽した関係者を痛い目に合わせる、ざまあみろ的なスカッとする展開は皆無です。そういう要素を入れようと思えばいくらでも入れられたはずなのにです。ただ淡々と取材と検証を積み重ねながら、記事をつくっていくだけ。

そう描いた理由は映画で語られています。性的虐待を行った1人目の神父の事件の裏がとれ、すぐに記事を出そうと焦るマイクに対して、バロンは言います。「神父個人ではなくシステムを狙いなさい」。報道は個人への復讐や糾弾のためにあるものではなく、真実を明らかにするためにある…これはこの映画の報道というものに対する非常に一貫した考えです。

最近の情報化社会におけるマスメディアやインターネットは、個人を批判し、扱き下ろすことで盛り上がる傾向が目立ちます。でもそれでは意味がないんだとこの映画は伝えているように感じました。

「スポットライト」チームが冷静に情報源(ソース)を収集して追究した結果、最終的にある事実が明らかになります。

実は教会側を弁護していたマクリーシュ弁護士は神父による性的虐待に関する情報をボストン・グローブにかつてリークしており、しかも「スポットライト」チームのリーダーであるロビーは知っていたのです。しかし、ロビーは忘れていました。気にも留めていなかった。結局は自分たちもまた被害者の声を軽視した存在だった…この残酷な真実こそ、安易な加害者批判の危険性を示していると同時に、報道の価値も示唆しています。

映画ラストの鳴りやまない被害者からの電話は、もしもっと以前にしっかりとこの神父による性的虐待をマスメディアが追究していれば被害に遭うことなんてなかった人たちともいえます。電話の音は、黙殺されていた「サバイバーズ」の叫びであり、痛快ではなく“やるせない”ラストでした。

Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC