リンクル・イン・タイム
映画『リンクル・イン・タイム』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:A Wrinkle in Time
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にDVDスルー
監督:エイヴァ・デュヴァーネイ

リンクル・イン・タイム

あらすじ

メグ・マリーは大好きだった天文物理学者の父が行方不明になってから、喪失感を抱えて学校に馴染めない日々が続いていた。ある晩、彼女の家に不思議な女性が訪ねてきた。彼女はミセス・ワッツイットと名乗り、メグの父が研究中に五次元に消えたと告げる。父を探すべく弟や友達と共に時空を超えた未知の冒険に出ることを決意する…。

『リンクル・イン・タイム』感想(ネタバレなし)

ディズニーの実験的な挑戦?

「4次元」について説明してください…なんて言われると専門家でもないかぎりちょっとまごつきます。え~っと、4次元ポケットみたいなやつ?とか、全然説明になっていないことを口走ったり…。

順番に整理すると、0次元は点、1次元は線、2次元は平面、3次元は立体、ここにもう一つ次元を追加すると4次元になるわけです。普通は「時間」を追加して4次元です。

もっと別の見方をすると、カタチで捉えるとすると頂点の数に注目しましょう。0次元は点なので1つ、1次元は線なので2つ、2次元は平面なので4つ(四角の正方形をイメージすればいいです)、3次元は立体なので頂点は8つ(立方体)ですね。

では4次元は? 全くカタチを想像できないのではないでしょうか。実はちゃんと考えられていて頂点の数は16個になって、「超立方体(正八胞体)」と呼ばれるカタチになります。英語では「tesseract」と表現します。

でも頭に思い浮かべることはできないのではないでしょうか。確かに言葉では全く想像がつきません。ここは手っ取り早く動画を見た方がいいです。以下を参照してください。


とまあ、こんな感じでグネングネン動くのがいわゆる四次元超立方体です。この超立方体はSF映画『インターステラー』にも印象的に登場したので見たことがある人もいるのではないかなと思います。私たちはこの4次元の世界を認識し、そこで生きていることになります。

そうなってくるとじゃあ「5次元」は?などさらなる疑問が沸いて出てきます。そうなればあなたは立派な科学的思考を働かせていることになります。サイエンス!

説明的な前置きが少し長くなりましたがそんな科学思考をオンにしてぜひ今回紹介する映画も鑑賞してみてください。それが本作『リンクル・イン・タイム』です。

本作はマデレイン・レングルというアメリカの女性作家が1962年に執筆して出版した「五次元世界のぼうけん」というジュブナイル小説の映画化作品です。この作品は科学と宗教の一見すると相容れない2つの要素を独自に混ぜ合わせた、なんともいえないユニークな世界観が特徴。評価も高く、アメリカにおける最も優れた児童文学の著者に与えられる賞「ニューベリー賞」を受賞しています。一応、シリーズ化もされているのですが、日本だとあまり有名ではないかもしれないですね。「五次元世界のぼうけん」では四次元超立方体がピックアップされています。

その代表的な児童文学なのですが、実は以前にも映像化していて、あのディズニーが2003年に『 A Wrinkle in Time』という原作タイトルのままでTV映画化しています。

そして2018年、ディズニーがまたも映画化してみせたのが本作『リンクル・イン・タイム』なのです。そういう意味ではリメイクなのですが、CG技術の発展もあって映像面は別物レベルでパワーアップしているので、あまりリメイクという感じはしません。

監督は『グローリー 明日への行進』やドキュメンタリー『13th 憲法修正第13条』、さらにはドラマ『ボクらを見る目』など、人種差別に切り込んだ鋭い作品を連発する名手“エイヴァ・デュヴァーネイ”です。この『リンクル・イン・タイム』が黒人女性監督が1億ドル超えの製作費で手がけた初めての映画になったみたいですね。なお、女性の映画監督という括りで見ただけでも史上3例目になるらしく、ほんと、少ないなぁ…。


脚本には、『アナと雪の女王』で女性としては歴史上初めてディズニー・アニメーション長編映画の監督という快挙を達成した“ジェニファー・リー”が参加しています。

俳優陣としては、主人公の女の子に抜擢されたのは『それでも夜は明ける』でデビューした“ストーム・リード”。今後も大作での出演を控えているので目にする機会はあるかも。

そしてジュブナイルなので子どもが主役なのですが、周りにいる大人勢も豪華です。まずあの“オプラ・ウィンフリー”が堂々たる貫禄で登場。日本では知名度はイマイチですが、今やアメリカでは超がつく有名人の筆頭です。『カラーパープル』の頃と比べるとカリスマ性が桁違いに上がったなぁ…。

他にも“リース・ウィザースプーン”“ミンディ・カリング”、“クリス・パイン”、“ザック・ガリフィアナキス”など要所要所で演技派俳優が顔を出し、さすがディズニーというべきか、キャストは贅沢です。なお、私のイチオシである“マイケル・ペーニャ”も出てくるのですが、もの凄い奇抜さで登場するのでもはや声とシルエットでしか判断できない「誰コイツ」状態です。

そんなこんなでディズニー実写映画の中でも挑戦的な一作だったのですが、興行的にはコケており、そのせいか、ベルギーやオランダなどで配信スルーになり、日本でも劇場公開はされませんでした。まあ、観た人の中では「よくわからなかった…」という感想もあり、確かに原作がそもそも特殊な個性を持っているのでしょうがないかなとも思ったり…。たぶんディズニーも実験的な企画だったのではないかな。

あえて言うならディズニー作品で例えると『トゥモローランド』と『アリス・イン・ワンダーランド』を合体したような作品で捉えどころがないんですよね。

以降ではヘンテコなファンタジーSF作『リンクル・イン・タイム』を私なりに深掘りしています。

オススメ度のチェック
ひとり◯(俳優ファンなら注目するのも)
友人◯(ファンタジー好き同士で)
恋人◯(ファンタジー好き同士で)
キッズ◯(子どもなら普通に楽しめる)

『リンクル・イン・タイム』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『リンクル・イン・タイム』感想(ネタバレあり)

私の知らなかった世界へ

幼いメグは大好きな父のアレックスに科学を教えてもらっていました。天体物理学の専門家だった父はメグにとって何でも教えてくれる人であり、知的好奇心を満たしてくれます。それはとても大切な時間でした。

しかし、それから数年後。13歳のメグの表情はかつてのような無邪気さはありません。父は突如失踪してしまい、それからというものメグは人柄が変わったように塞ぎ込んでいました。母親ケイトともあまり関係が上手く言っていません。学校ではクラスの女子たちから見下された目で見られ、憂鬱な日々。

そんなメグですが彼女には血の繋がらない弟がおり、チャールズ・ウォレスという名ですが、このまだ幼い弟はなんとも風変りです。独自の視点を持っているのかあれこれとお喋りも止まりません。メグにとってこの“我の道を行く”スタイルな弟くらいしか気楽に話す相手もいませんでした。

ある日、学校で弟は相変わらず変なことを言いまくっており、それを見たメグの周りの女子たちは笑って、「クレイジー」だとバカにします。さすがに怒ったメグはその失礼な女子のひとりであるベロニカに思いっきりボールをぶつけました。

やりすぎたので校長に厳重注意され、「君は優秀だ、でも問題を抱えている」と諭されますが、メグにしてみれば知ったことではありません。帰宅して、学校での問題行動を知らされた母とも衝突。つい父のことを持ち出してしまい、空気が悪くなります。もう父は戻ってこないのか…。

すると不思議な出来事が起こりました。自宅に見知らぬ女性が訪ねて来たのです。訪ねて来たというよりは、招いてもいないのに家にいます。明らかに不審者です。 911に連絡しようか…と考えるのも無理はないほどに。

その女性はミセス・ワッツイットと名乗り、弟の友人だと言いますがわけがわかりません。しかも、5次元の世界は本当に存在するなどと口走って、謎だけを残して勝手に去って行きました。なんなんだ…。

弟と街中を犬の散歩していると、その途中で学校の友人カルヴィンと出会います。カルヴィンはメグを避けず、気軽に接してくれます。会話をしていると、弟はこれまた不思議な家へと入り込み、メグたちもついていきます。そこはミセス・フーの家。物で溢れかえっており、本も絶妙に重なって高く積まれています(絶対にボンドで固定しているレベル)。

弟の意味不明な人脈にもいろいろ言いたいことはありますが、このミセス・フーはメグの顔に手をあてて、何やら意味深な言葉を送るのでした。そして疲れ果て眠ってしまうのみ。なんなんだ…(2度目)。

父の研究は学会では笑われていました。ワープができるようになる…その主張は突拍子もない考えだとして一蹴されるのみ。それでも父は情熱は失わず、研究を続け…父はどこかにいるのか。だとしたら会ってみたい…。

そんな想いが強まった瞬間、どこからともなくミセス・ワッツイット、遅れてミセス・フーが登場。そして空間から何の前触れもなくミセス・ウィッチという巨大な女性が出現するではありませんか。なんでそのサイズ!?

この得体のしれない3人&なぜか意気投合している弟によれば、5次元ワープにて異次元の世界へと連れて行けるとのこと。「あなたは何なの?」との素直すぎる質問には「ユニバースの一部だ」と答えになっていない答えをするのみ。

理解が追い付かないまま、メグ&弟&カルヴィンは、揺らぐ空間へと足を踏み入れるのでした。

そこは今まで認識もできなかった未知の世界。この日からメグの人生は変わります。

リンクル・イン・タイム

原作者の体験が反映されている

『リンクル・イン・タイム』を知るうえで、原作者であるマデレイン・レングルのことは理解しておいた方がいいでしょう。なぜならもともとこの原作はマデレイン・レングルの個人的経験が強く反映されているからです。

マデレイン・レングルは幼いころから不安を抱えて過ごしており、創作の世界に引きこもっていたようです。各地を転々とすることも多く、アルプスの麓であるフランスのシャモニーに暮らしていたこともあるとか。そこでのガラッと変わった風景の体験が間違いなく本作の奇想天外な世界観に影響を与えているのでしょう。

そして、寄宿学校にいたマデレイン・レングルは成人になる前に父を亡くしてしまいます。しかもその死を看取ることはできなかったようです。その後悔は本作の主人公メグが抱く父の想いと重なるのはすぐに想像がつきます。

さらに大人になったマデレイン・レングルは養子を引き取っており、本作でメグと弟の直接的な血縁のない関係性に主軸が置かれるのも、その実生活が投影されています。

こんなふうにことごとく本作はマデレイン・レングルの人生を題材にしたファンタジーなのです。

万人救済主義とは?

一方で、『リンクル・イン・タイム』は冒頭から科学の話で始まりますし、科学を描くSFなのかなと思ったら案外とそうはいかないのが観客の想定を外します。

意外にも宗教的要素が強いです。それもノーマルな正統的なものではなく、かなり変わった路線の宗教観であり、ゆえに例えばキリスト教信者でも本作はストンと受け入れられるものでもありません。実際にマデレイン・レングルは「万人救済主義」を信仰していたと言われています。これは要するにキリスト教を信じていようがいまいが全員が救われますよ…という考え方です。

主人公のメグはそこまで信仰深いわけでもないですし、そんなキャラも登場しません。ただ、カマゾツと呼ばれる存在から溢れ出る、邪悪なエネルギー源であり通称「イット」と称される怪しげな力がメグに迫ってきます。そしてその対処方法はメグが自分を信じ、自分の扉を開くことであり、言ってしまえば瞑想に近いようなスピリチュアルな突破口が描かれます。

最後にかなりあっけなくハッピーエンドを迎えるのですが、あれも「万人救済主義」的な着地だと言われればそれまでですね。

今の時代に革新を見せるには…

こんなように個性はありつつも作者の個人体験が濃いので何かと補足したくなる『リンクル・イン・タイム』。それでも作品としての成立具合はいまひとつな感じもします。

まず映像面ですが、確かにビジュアルは奇抜で面白いものも見れます。緑広がる最初の大地にたどり着いた先にいる、ゆらゆら揺れる無数の喋る花とか、ミセス・ワッツイットがクルクル回りながら美しい空飛ぶ不思議な生き物…そのなんというか、ビラビラしたワカメみたいな(残念な語彙力)…になって飛翔するシーンとか。

ただそれでも奇想天外の度合いで言えばもっとぶっとんでも良かったのではないかなとも思うところです。

森での大災害シーンの後、謎の住宅地に迷い込み、そこで子どもが同じタイミングでボールをバウンドさせているというシーンは、ホラー映画的なテイストになりますが、ここもそんなに怖さを出すほどの押しもない。

私の勝手な推測ですが“エイヴァ・デュヴァーネイ”監督はこういうジャンル系の作品はあまり得意ではないのかなとも思ったり。この手の作品は例え中身がなくても映像で遊びまくれば多少は見ごたえがでるもので、なんか変な遠慮がある感じもします。“エイヴァ・デュヴァーネイ”監督が得意とするのはやはり社会問題性に切り込む題材ですよね。

『リンクル・イン・タイム』の原作は1960年代の始め。この時期に女の子、しかも知的で活発な子を主人公にするというのは異色でインパクトのあることです。なぜならちょうど1963年あたりから第二波フェミニズムが沸き起こり、女性解放運動が盛り上がるからです。『リンクル・イン・タイム』の原作における主人公はそうした新時代を切り開く知的な女の子主人公のモデルケースになりました。これがあるから、例えば「ハリー・ポッター」のハーマイオニーというキャラだったり、それこそ今のディズニーのプリンセスがあるわけで、とても大事な一歩でした。

しかし、もう時代は違います。今、知的な女の子を打ち出しても新しくありません。それもわかっているからこそ、本作ではメグを有色人種にしたり、その周辺のキャラも人種的に多様にしたりして、現代的な価値を出そうとはしているのは伝わってきます。でもやっぱり原作ほどの革新性はなく、それが物語とリンクもしないので、興奮は薄いのが残念です。養子だってそれほど特殊でも何でもないですし、こういう人種が混合している家庭も普通に作品でも見られるようになりましたからね。

『リンクル・イン・タイム』をもし現代で映像化してアッと驚かせるならそれこそもっと“何か”をしないといけないとダメなのですけど、口で文句は言えても考えるのは難しいなぁ…。原作当時の革新性を今の時代に再現するのは難しい…。

5次元を証明するのと同じくらい創作で革新を見せるのは難題ですね…。

『リンクル・イン・タイム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 42% Audience 26%
IMDb
4.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Disney ア・リンクル・イン・タイム リンクルインタイム

以上、『リンクル・イン・タイム』の感想でした。