シャラメの甘い味に蕩ける…映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年12月8日
監督:ポール・キング
ウォンカとチョコレート工場のはじまり
うぉんかとちょこれーとこうじょうのはじまり
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』物語 簡単紹介
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』感想(ネタバレなし)
チョコレート映画を少々
日々の日常でストレスが蓄積して困っていませんか。
そんなときは、チョコレートをちょこっと食べるといいかもしれません(ギャグじゃないですよ)。
日本の有名なチョコレート企業「明治」によれば、ある調査にて、カカオ分75%の高カカオチョコレートを1日40g、2週間食べてもらう実験をしたところ、ストレスホルモンであるコルチゾールの排泄量が減少したことがわかりました(明治)。
でもチョコレートを食べすぎるとそれはそれで不健康です。暴飲暴食はかなり問題です。
大事なのは「毎日少しずつ食べる」ということ。日本チョコレート・ココア協会は、1日に高カカオチョコレートを「5~10g」程度食べるのが摂取目安量になると説明しています。他に菓子類の間食はしないという前提ですが、チョコをほんの少し食べ続けることで、自身のストレスを改善し、健康を高めることができるなら、なんて甘い幸せでしょうか。
そしてさらにこのチョコレート映画を観ることで、もう一歩健康に近づける…かな。
それが本作『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』です。
イギリスの小説家“ロアルド・ダール”の作品は今も愛されており、最近は『魔女がいっぱい』(2020年)、『マチルダ・ザ・ミュージカル』(2022年)、短中編シリーズ『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』〈『奇才ヘンリー・シュガーの物語』『毒』『白鳥』『ネズミ捕りの男』〉(2023年)と、映像化が連発しています。
2023年を締めくくるのも“ロアルド・ダール”作品となり、それが本作『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』。
原作は1964年の「チョコレート工場の秘密」。2005年に“ティム・バートン”監督דジョニー・デップ”主演で映画『チャーリーとチョコレート工場』が公開され、「チャリチョコ」の愛称で日本でも大ヒットしました。
今回の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は原作やその映画の前日譚にあたり、ウォンカがチョコレート工場を作る始まりが描かれます。
ただ、ひとつ注意があるのは、2005年の映画『チャーリーとチョコレート工場』と物語や世界が直接的に地続きというわけではないという点。キャラクターも引き継いでいません。製作陣としては1971年の別の映画『夢のチョコレート工場』の雰囲気を参照にしているそうで、2005年の映画とはだいぶ違います。実質的にはリブートです。
完全にミュージカル映画になっており、ファミリー映画として非常に見やすい作りなのは間違いありません。
主役のウォンカを爽やかに演じるのは、『君の名前で僕を呼んで』に始まり、『DUNE デューン 砂の惑星』など今では最も人気の若手として輝いている“ティモシー・シャラメ”。歌も自然体でパフォーマンスできており、相変わらずの万能っぷりを発揮しています。
共演は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の“ヒュー・グラント”、ドラマ『シュミガドーン!』の“キーガン=マイケル・キー”、『エンパイア・オブ・ライト』の“オリヴィア・コールマン”、『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』の“ローワン・アトキンソン”、ドラマ『原潜ヴィジル 水面下の陰謀』の“パターソン・ジョセフ”、『ポーラー 狙われた暗殺者』の“マット・ルーカス”、『シェイプ・オブ・ウォーター』の“サリー・ホーキンス”など。
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を監督するのは、映画『パディントン』でみんなをメロメロにした“ポール・キング”です。なんでも今作の撮影中、ショコラティエが映画で使用するチョコを作ってくれて全部味見していたらすごい太ったらしいです。誘惑の多い職場も困りものだな…。
美味しそうなチョコでいっぱいの『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を鑑賞後はこちらもチョコを食べたくなりますが、「5~10g」ですよ。
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を観る前のQ&A
A:とくにありません。過去の映画を観ていなくても物語は理解できます。
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に |
友人 | :一緒に和んで |
恋人 | :好きそうなら |
キッズ | :子どもでも安心 |
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):夢はここから形作る
若きウィリー・ウォンカは意気揚々と船に乗り、新天地の街へと辿り着きました。ここは大勢の人で賑わっており、自由に行き交っています。
ウォンカがここに来た理由…それは世界一のチョコレート店を開くこと。この街にはすでに魅惑的な店が並んでいます。いつかそこに自分の名を冠した店を開いてみたい。自分の頭の中ではその姿が具体的に思い浮かびます。
しかし、今のウォンカには何の当てもありません。あるのはチョコレートへの情熱と、ほんの少しばかりの魔法のような腕前だけ。
今日は夜になったので、目立たないベンチに座り、帽子から時計やコップを取り出し、ろうそくに火をつけて休もうと考えていました。
でも宿屋のミセス・スクラビットとブリーチャーという2人に拾われ、油断できない狡猾そうな人間でしたが、泊めてもらえることになります。
翌日、路上で大道芸のようにチョコのパフォーマンスをしてみると、何事なのかと足を止めた観衆にはウケます。ウォンカには人を惹きつける才能がありました。
けれどもこれを快く思っていなかったのがチョコレート組合の面々、とくに実力者として存在感を強めているスラグワース、プロドノーズ、フィクルグルーバーの3人です。
3人はそのウォンカのチョコを味見。美味しいと驚き、しかもただのチョコではありませんでした。見る見るうちに3人は宙を浮き始め、みんな大盛り上がりで次々と食べると他の人も浮かんで楽しげな状況になります。
警察隊が浮かんだ人々を回収し、解散させてやっとひと段落です。
ウォンカはこうして普通ではない奇抜なチョコレートを人々に提供しようと考えていました。
そこに思わぬ落とし穴が…。あの宿屋の本性が明らかになったのです。実は夢を叶えようとやってきた者を食い物にしており、すでにパイパー、ロッティー、アバカス、ラリーがひたすらに働かされていました。この街は夢を抱くすべての者に優しいわけじゃないようです。
そんな中、ウォンカのもとにヌードルというこの宿屋で手荒に扱われていた子がやってきます。この子はウォンカのチョコレートの魔法に魅せられたようです。
ウォンカは亡き母との約束を語り、優しい言葉で純真な夢を応援してくれた母に答えるためにもこの夢を捨てられないという気持ちを伝えます。
一方、チョコレート組合の3人は警察署長と繋がっており、警察署長はチョコが好きすぎるので都合よく手駒にされていました。
新規開店を禁止し、ウォンカは簡単に店を開けないようになってしまいます。
ここまで排除されてもなおもウォンカは夢を諦めません。必ず誰も見たこともないチョコレートを届ける場所を作ってみせると信じて…。
マーマレードからチョコレートに
ここから『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のネタバレありの感想本文です。
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』…愛称は「ウォンチョコ」なのかな? 前日譚的な位置づけですが、結構説明のない開幕です。いきなり歌だしね…。
たぶんこの原作自体が世界的に有名だろうし、観客はこの世界観の前提を知っていますよねという暗黙の了解で進行します。だからウォンカが序盤から何の遠慮もなく魔法みたいな技を駆使してもノープロブレムで、フィクションとしてのリアリティラインは緩いです。
これは“ポール・キング”監督の前作である『パディントン』映画シリーズと共通。街に「異人」がやってきて、その夢への無垢な情熱が、悪意のある人間の心さえも動かし、街というコミュニティ全体を変えていく。『パディントン』で確立した正攻法をそのまま「チョコレート工場の秘密」に適用しています。
なのでオリジナリティは正直薄いです。プロットを転用したみたいになっていますから。マーマレードをチョコレートに変えた感じで、食べ物がキーアイテムになるのも同じだし。
ただ、決定的に違うのは主人公は熊ではなく人間だということ。ここはかなりの決定的なポイントです。なぜなら『パディントン』のときは、どこかおとぼけた熊だったので、私たちもそこに癒されてしまえる余地がありました。
今回の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は人間。動物の可愛さで押し切る戦法は使えません。
ゆえに“ティモシー・シャラメ”に全てがかかってくるのですけど、この若手俳優は嫉妬したくなるほどに器用な才溢れるパフォーマーなので、きっちりその高めのハードルを越えてしまうというね…。
最近の“ティモシー・シャラメ”って、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』みたいにあえて他者化された男性的役割だったり、『ボーンズ アンド オール』でのミステリアスな役回りだったり、自分のパブリックイメージを意図的なのか意識した仕事が多かった印象もありましたけど、今回の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は正統派で爽やかにみせてきましたね。
このままチョコレートのCMとかに応用できそうですよ。というかどっかやってないのかな…。さすがに特定のチョコレート企業とコラボレーションすると、ズルいと言われるか…。
でも話は逸れるけど、2005年の映画『チャーリーとチョコレート工場』で描かれたチョコに5枚だけゴールデンチケットが封入されていて当たりがでると良いことがある…という仕掛け。今でいうところのバイラルマーケティングで、当時としてはかなり先駆けだったと思います。このシリーズって実のところ、ビジネス映画の観点でも見ていけるものがありますよね。
本作『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』も起業モノですし、だいぶそのあたりの厳しさは緩くデフォルメされてはいますが、新参者が起業するのは大変だってことですよ。
ウンパルンパ問題
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は物語が王道で斬新さに欠けるという刺激の薄さがありましたが、個人的な欠点は他にいくつかありました。
ひとつは、シニカルさの欠乏。基本的に今回はマイルドな味わいで、ファミリー映画として広く観てもらいやすいように作っています。
しかし、“ロアルド・ダール”作品と言えば、もっと奇抜で妙ちくりんなビジュアルや展開が売りだったりするので、そこらへんを期待すると物足りないです。
作中でウォンカがやっと開店するも、チョコを食べた一部の客たちに妙な身体変化が起こり、パニックになって、店をやってられなくなるという、もはや食中毒事件並みの出来事が起きます。なお、あそこでの身体の変化はそれぞれいろいろな児童書作品を連想するものになっているという遊び心がありました。
この上記のシーンが一番弾けていましたね。それ以外だとそんなでもない。”キーガン=マイケル・キー”演じる警察署長が着実にぶくぶく太っているというギャグとかあったけど…。“ローワン・アトキンソン”演じる神父は抑え気味でしたね。やっぱりあの人に好き放題させるとアレになっちゃうからな…。
ただ、奇抜なのも問題が発生することがあって、今作も最も奇妙なキャラクターであるウンパルンパについては私はあまり良くはなかったと思う…。
原作からそうなのですが、どうしてもこのウンパルンパ、人種差別的ですよね。未開の地で部族的な生活をしているっぽい存在が極端にアホっぽくコミカルに振舞って笑いをとる。この表象は典型的なあれだし…。
今作ではウンパルンパに“ヒュー・グラント”をキャスティングしたことについても一部で批判がありましたが、このキャラクター自体の根本的問題性がデカすぎるんだとあらためて思いました。
私がもしアイディアをだせる立場なら、ウンパルンパは思い切って非人間的なキャラクターに変更するかな。それこそ熊とかでいいだろうに。カラフルなちっこい熊とか可愛いよ? そしてLP(いわゆる小人症)の俳優をもっと普通に主要キャラとしてステレオタイプ無しで起用するのがいいんじゃないかな、と。
他には、同じワーナー・ブラザース配給で言えば、『バービー』と同じで資本主義には基本的に甘めの作品です。チョコレート業界って産業構造的にもかなり問題視されているところですからね。
『マッド・ハイジ』くらいにぶった切る批評性を見せてくれると良かったけど、その代わり、ファミリー映画を捨てる覚悟がいるな…。
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は今後もフランチャイズ化が続くのかはわかりませんが、ワーナー・ブラザースは捨てたくないでしょうし、“ロアルド・ダール”作品の映像化はあちこちで継続すると思うので、全然ガラっと変わった「チョコレート工場」も見てみたいです。
とりあえず『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は独占禁止法と食品衛生法を遵守することの大切さを教えてくれました。守ってよ、食品業界の皆さん!
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience –%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ウォンカとチョコレート工場の始まり ウオンカ
以上、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の感想でした。
Wonka (2023) [Japanese Review] 『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』考察・評価レビュー