そしていつ終わるのだろうか…映画『ブラフマーストラ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:インド(2022年)
日本公開日:2023年5月12日
監督:アーヤン・ムケルジー
恋愛描写
ブラフマーストラ
ぶらふまーすとら
『ブラフマーストラ』あらすじ
『ブラフマーストラ』感想(ネタバレなし)
アストラバース…!?
インドには古来から神話が伝わっており、現在のインドにおいても大切な文化の柱となっています。
紀元前1000年頃から紀元前500年頃にかけてインドで編纂された「ヴェーダ」という文書であったり、こちらも古より語り継がれる大叙事詩「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」であったり、「プラーナ」という聖典文献であったり…。それらが今に繋がるインド神話の原点です。
そのインド神話は奥深く多彩で全部を説明しようとすると、何十冊も専門書が必要になるでしょう。
日本でもインド神話をモチーフにしたコンテンツがあったりしますし、関心を持ち始めた人も少なくないはず。オタクほどインド神話が好きなような…。
では本場のインド映画でインド神話の世界に触れてみるのはどうですか?
ピッタリな映画があります。それが『ブラフマーストラ』です。
ブラマーストラ? ブフラマーストラ? ブマラーストラ? ブマフマーストラ?…といまいちタイトルを覚えにくいかもしれません。ヒンドゥー教における宇宙の根源にして、ときに創造そのものとされる概念を「ブラフマン」と呼ぶので、その言葉を土台に覚えるといいですね。ちなみに私は偉そうに今は説明してますけど、このタイトル、全然覚えられなかった…。
インド映画ではインド神話から着想を得ているものは珍しくもなく、キャラクターの名前にも神様の名が使われていたりしますが、この『ブラフマーストラ』はかなり本格的にがっつりとしたインド神話そのものを主題にしています。
世界観としてはインド神話の世界が実在していて、現代に神話的な存在が密かに息づいている…という感じです。主人公は普通の男…だと思っていましたが、しだいに神々の武器「アストラ」を使いこなし、立ちはだかる敵に対峙する宿命があることがわかってきます。
己の運命を自覚して超人的パワーを身につけていく…という流れは、最近も『聖闘士星矢 The Beginning』で観ましたが、ノリは同じようなものだと思ってもらえればOK。
ただ、この『ブラフマーストラ』、スケールがめちゃくちゃ壮大で、しかもシリーズとして巨大な企画が始動しています。インド国内で2022年に公開されたこの『ブラフマーストラ』は1作目。英題は「Brahmastra Part One: Shiva」です。3部作を予定していて、すでに2作目と3作目も製作進行中。
なんでも「アストラバース(Astraverse)」というシェアード・ユニバースでいくつもりのようで、動画配信サービスでも独自のスピンオフを展開したいのだとか。
監督の“アーヤン・ムケルジー”が長年温めていた渾身の企画で、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」を意識しているのは明らかで、実際にMCUの先駆者である“ケビン・ファイギ”とイベントの際に仲良く談笑してたりします。
インドもMCUの後を追うのか…と思いましたけど、よく考えたら、マルチバースとかユニバースという概念ってインド神話っぽいし、そもそもの源流はインドのほうかもしれないですね。
それにしてもこの『ブラフマーストラ』を制作しているスタジオ、実は「Star Studios」という、インドに拠点を置くウォルト・ディズニー・カンパニー傘下の会社でもあって…(元は20世紀フォックスのもの)。なんだかんだでディズニーじゃないか…。
肝心の第1弾『ブラフマーストラ』は2022年のインド国内のインド映画興行収入トップ5に輝き、ヒンドゥー語映画としては1位でした。成績としてはじゅうぶんですし、『K.G.F: CHAPTER 2』のように続編でさらに特大ヒットをぶちかます可能性もあるので、将来性には期待可能です。たぶんこういうシェアード・ユニバース系はある程度作品を積み重ねてからが本領発揮でしょうからね。
なにせ話は戻りますが、題材はあのインド神話です。いくらでもネタはあります。あの神様だってだせるし、この神様だっているし、それらが揃ったりしたら…とか、妄想も膨らみます。
インド映画史に刻まれるかは現時点では曖昧ですが、破格のポテンシャルと共に開幕となったこの『ブラフマーストラ』の産声を一緒に見守るのはどうですか。
『ブラフマーストラ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :インド神話好きなら |
友人 | :オタク同士で |
恋人 | :異性ロマンスあり |
キッズ | :少し長すぎる |
『ブラフマーストラ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):シヴァに炎が宿る
古代のインドでは、ヒマラヤの賢者の集団が「アストラ」と呼ばれる強力な天上の武器を使いこなしていました。その能力は個別で変幻自在のエネルギー。無限の可能性を秘めていました。
しかし、最強といわれる「ブラフマーストラ」と対立し、争いが起こってしまいます。賢者たちはこの対立を経験した後、その反省を活かし、世界の秩序と平穏を守る秘密結社「ブラフマーンシュ」として代々このインドの地に存在していきました。
現在。ムンバイにてひとりの若い男が、ヒンドゥー教の女神にしてシヴァ神の神妃とされるドゥルガーを崇拝するお祭り「ドゥルガー・プージャ」に参加するためにやってきます。男の名前はシヴァです。シヴァは目を閉じると何かを見ます。ここではない別の場所の光景を…。
それはデリーの高層ビルの上階。研究者モハンに2人の襲撃者が攻撃してきます。しかし、その研究者は余裕で、何やら片足に光をまとい、超人的な身のこなしで相手を圧倒。力を解放すると上空に飛びあがり、巨大な猿の幻影を露わにします。
ところが優勢かと思われた矢先、禍々しい力を使いこなす赤い女が出現し、そのジュヌーンという女は研究者を謎の力で拘束し、尋問します。
そこでシヴァはまた祈っている今の瞬間に戻ってきます。これは一体何なのだろうか…。
そんなことを考えていると、同じ参列者の中にいたひとりの女性にひとめ惚れ。彼女はイーシャという名で、すっかり心を奪われたシヴァはもう彼女を忘れられません。
数日後、DJの仕事をしていたシヴァは、またイーシャを見かけます。そしてエレベーターまで追いかけて、アプローチします。建物の屋上を駆け回って、イーシャを孤児の子どもたちの誕生日パーティーに参加させてあげます。
シヴァも幼少期に火事で母を亡くし、父の顔を知らずに育った孤児でした。天涯孤独であっても、他者の大切さを学び、助け合うことを徹底しているシヴァに、イーシャも少しずつ惹かれていきます。
その身の上話をしている最中、またしてもシヴァは幻視を見ます。例の研究者はあの禍々しい女に尋問され、ヴァーラーナシーの学者アニーシュ・シェッティのイメージが流れ込んできます。それでもブラフマーンシュの拠点だけは情報を漏らすまいと、彼はバルコニーから身を投げて転落死してしまいました。
シヴァはまた現実に戻り、この現象に動揺します。しかも、ニュースであの研究者の死亡事件の報道があり、あれは事実だったことに驚きます。
イーシャにもそのことを話し、2人でヴァーラーナシーに行ってみることに。きっと何でもないだろうと思いつつ、2人だけの親密な時間を過ごしていると、突然、シヴァの手から炎が流れるように飛び出します。それは危険なものではありませんでしたが、なぜか火と不思議な縁があることをシヴァも実感していました。
そのとき、シヴァとイーシャの前にも襲撃者が現れます。その襲撃者は不思議な力を使ってシヴァを吹き飛ばします。そこにアニーシュが駆け付け、こちらも不思議な力で相手を押しとどめ、隙を見て逃げ出すことに成功します。
そしてシヴァとイーシャは、アストラというエネルギーの武器と、それを脈々と受け継いできた存在が実在していることを聞かされ…。
盛大なダンスもアストラのおかげ!
ここから『ブラフマーストラ』のネタバレありの感想本文です。
『ブラフマーストラ』は冒頭から超次元なスケールの神話の話から始まり、それが現実へとスライドしていくという世界観説明がなされます。もう完全にスーパーヒーロー映画、『アベンジャーズ』というよりは『エターナルズ』の領域です。
この時点でかなりの数のアストラが存在するのがわかり、この1作目でハッキリ登場するのはそのうちのいくつかです。
アニーシュが用いるのは「ナンディアストラ」で雄牛を具現化し、よくわかりませんがパワータイプな感じ。序盤でモハンが用いるのは「ヴァーナラーストラ」で、巨猿の力としてすばしっこく戦っていました。
ちなみにこの序盤のモハンを演じているのは“シャー・ルク・カーン”というインド映画界のスターで、最近も『PATHAAN パターン』で大活躍。その“シャー・ルク・カーン”がこんな初めからいきなり登場して、あそこまでかっこいいアクションを見せてくれるとは…贅沢…。なんでもあのキャラクター、“シャー・ルク・カーン”が『Swades』という映画で演じたキャラからの引用らしいですね。
この“シャー・ルク・カーン”のアクションが今作の中では一番クールだったので、ちょっとその後の主人公であるシヴァの存在感が霞むという問題もなくはない…。
そのシヴァですが、こちらは炎の力である「アグニヤストラ」に目覚めていきます。まあ、でも最初は戦いの武器というよりは、ほぼロマンチック空間製造能力と化していましたけどね。
あの序盤の盛大なダンス・パートもアグニヤストラの力だったのか…(やや誇張)。
今回の主人公、DJ気質ゆえか、盛り上げの才能がありそうなので、そのままアストラのパワーもそっち方面に活用してくれればいいんじゃないかな。
でもそんなパーティ気分を許さないシリアスな敵乱入による対立…。ただ、炎の巨人を出現させても雨でやられてしまうのはさすがに可哀想でしたけど…。と言ってもさらに能力覚醒イベントがあるんですけどね。
現実のカップルの成立過程
壮大なユニバースの第1章となった『ブラフマーストラ』ですが、理想的なスタートだったかと言われると、あまりそこまでは…と言葉を濁したくなる部分も…。
まず、全体としてはそんなに複雑なプロットではなく、「普通に生きてきた主人公が秘められた能力を知る ⇒ 能力を学んで会得する ⇒ 強敵を倒す」というのがメインです。銭湯スタイルからしても、少し『シャン・チー テン・リングスの伝説』を思わせます。
しかし、『ブラフマーストラ』は168分もあって、かなり間延びします。その最大の原因は、イーシャとのロマンス展開なのですが、このイーシャも別に絶対にいなくてはいけないほどのキャラクターでもなく、完全に恋愛要素を入れるために用意されている感じです。
ただし、ここには映画外の注目点が生まれてしまっており、そこも紹介しないわけにはいきません。
今回の主役の“ランビール・カプール”という俳優は、ボリウッドの名家に生まれた幼い頃からとても大衆やメディアに話題にされてきた人物です。恋愛のゴシップのまとになることもしばしばで、何度か大物女優との交際が報じられるも破局したと繰り返されてきました。
そんな“ランビール・カプール”ですが、この『ブラフマーストラ』でヒロインを演じた“アーリヤー・バット”(『RRR』)と撮影中に仲を深めて交際、そして撮影終了後に結婚するにまで至りました。
だからなんというか、この『ブラフマーストラ』でのシヴァとイーシャの仲睦まじい馴れ初めがたっぷり描かれるのも、現実のカップルの成立過程を見ているようなものなので、「とりあえずおめでとうございます」とインドの観客は思っていたのではないかな、と。
それはさておき、『ブラフマーストラ』自体はそのロマンスに話がしょっちゅう逸れるのですが(でも2人の愛がまとまったなら良し)、メインストーリーは気持ちよくまとまってくれません。そもそもこの主人公シヴァが「ブラフマーストラ」絡みの複雑な人間模様に巻き込まれていく事情として、両親のデーヴとアムリタの頃からの縁があるのはわかるにしても、あまり本格的に踏み込む前にこの1作目が終わってしまうのでやや消化不良です。
そこは2作目にお預けにしたいのもわかるのですが、謎が漠然としすぎていて、最後のデーヴが解放されるシーンがあっても、そんなにクリフハンガーとして強烈ではないかなという…。
個人的にはこの世界観で期待するのは、各キャラクターがどうクロスオーバーしていき、またアクションの見せ場を作るのかというあたりです。1作目では、ようやく終盤あたりで、グル(師)に指導されていたアストラ使い手の新米が集い、連携で戦ってくれます。盾とか弓とかバリエーションも豊富です。本当はこういう見せ場をもっと見たいですよね。
次作は『Brahmāstra: Part Two – Dev』というタイトルで決定していますが、魅力的なキャラクターを生み出せるかにこの手のシェアード・ユニバースの命運はかかってくるので、キャラクターを大事にしてほしいものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 52% Audience 69%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
インド映画の感想記事です。
・『RRR』
・『ロボット2.0』
・『SANJU サンジュ』
作品ポスター・画像 (C)Star India Private Limited. ブラフマストラ
以上、『ブラフマーストラ』の感想でした。
Brahmastra Part One: Shiva (2022) [Japanese Review] 『ブラフマーストラ』考察・評価レビュー