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『アラジン(2019)』感想(ネタバレ)…実写化で叶った願いと叶わなかった願い

アラジン

実写化で叶った願いと叶わなかった願い…実写映画『アラジン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Aladdin
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年6月7日
監督:ガイ・リッチー
恋愛描写

アラジン

あらじん
アラジン

『アラジン』あらすじ

盗みを働きながらも真っ直ぐな心を持ち、人生を変えるチャンスをつかもうとしている青年アラジンと、自立した心と強い好奇心を抱き、自由に憧れる王女ジャスミン。2人の運命的な出会いをきっかけに、陽気な魔法と邪悪な権力が交差して、語り継がれる物語が生まれていく。

『アラジン』感想(ネタバレなし)

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山寺宏一は凄いという話

「3つの願い」が叶うとしたら、あなたは何を願いますか?

…そんな絵に描いたようなセンチメンタルな定型文で書き出して見ましたが、まあ、『アラジン』ですからね。この作品と言えばコレ。やっぱり3つの願いというのは魅惑的な要素です。

私はもちろん、あれですよ。“永遠の金”、“永遠の時間”、“永遠の権力”が欲しいです(残念過ぎるクズっぷり)。え、最低人間じゃないかって? いや、当然、全部、映画鑑賞のためですよ。無限の金と時間で無数の映画を山ほど見て、絶大な権力で映画製作や鑑賞を邪魔する敵を殲滅しますから。ほら、良い人間じゃないか(自己正当化)。

私は子どもの頃、アニメ『アラジン』を見ては、この設定にワクワクしました。なにせ魔法のランプをこすって魔人のジーニーに頼めばいいだけですから。当たる可能性が限りなく低い宝くじをがむしゃらに買い漁る必要もなければ、インフィニティストーンをいくつも集める必要もないのです(誰かサノスに教えてあげて…)。

そんな『アラジン』がついに実写化しました。昨今のディズニーのアニメの実写化ムーブメントは凄まじい勢いがありますが、なんでしょうか、こう何かに急かされでもしているのかな。2010年の『アリス・イン・ワンダーランド』で“これは売れる!”と商機を見いだしたのか、2014年の『マレフィセント』以降、ほぼノンストップで毎年数本の往年の自社アニメ作品の実写化を連発しています。自社コンテンツなので自由にやれますし、新しい時代の価値観を加えてアップデートもできるし、当然人気ブランドのパワーがすでにあるしで、いろいろメリットが多いのでしょうね。

そしてさすがポピュラーなタイトルだけあって、公開前から話題も多かった実写版『アラジン』。一番の注目を集めたポイントは、やっぱり“ウィル・スミス”「ジーニー」です。ランプの魔人ジーニーという、『アラジン』屈指の破天荒キャラ(というかディズニー史上でも類を見ないチートキャラかも)。これをどうやって実写で表現するのかと企画発表当初から視線は集まっていましたが、“ウィル・スミス”がジーニー役ですと情報が出たときも、“まあ、声を担当するのかな”くらいに思っていたら。まさかの映像公開で、わりとそのまんま“ウィル・スミス”だったものだからネット上でバズるバズる。ほんと、青く塗りました!って感じの“やっつけ感”がありましたからね。今は逆に少し見慣れてしまって衝撃が薄れています(慣れって怖い)。これぞ映画をリアルタイムで体感する楽しさですよ。

中には“ウィル・スミス”なジーニーに不安要素を感じている人もいるかもしれません。でも大丈夫。日本には吹替版という強力なラッキーアイテムがあるのです。“山寺宏一”という究極魔法で、あら不思議、たとえ実写化してもいつものジーニーになります。

ここでやや脱線して声優“山寺宏一”の凄さについて語りたいと思うのですが、私は子どもの頃にアニメ『アラジン』を観た時は吹替だったので当然、“山寺宏一”が声をあてたジーニーを当たり前だと思って見ていました。で、大人になり、少し英語がわかる状態で、オリジナル版を観た時、びっくりしたんですね。“山寺宏一”の凄まじいパフォーマンスに。

元のアニメ版ジーニーでは声はコメディアンとして有名な“ロビン・ウィリアムズ”があてています。彼のアドリブでこのキャラは当初の想定以上にぶっとんだ性格付けになったそうです。それで日本語吹き替えではそこに“山寺宏一”がさらにキャラをパワーアップさせてきているんですね。結構、“山寺宏一”流の味付けが濃くて、それでいてキャラを破綻させずに魅力を増している…これってとんでもなく凄い技です。子どもの時にはわからなかったギャグも多くて、よくこのジョークをこうやって巧みに表現しているなと、大人になって再鑑賞するとわかるパフォーマンスの凄さ。

そんなこんなでこの実写版『アラジン』も、日本語吹き替え版に関しては変わらず“山寺宏一”ジーニーなので安心です。逆にあえて字幕版を観て“ウィル・スミス”成分100%のジーニーを堪能するのもいいですけどね。

なんかジーニーばかり語ってしまいましたけど、他にもあのキャラ、あのシーン、あの歌…それらがどう実写で映像化されているのか、ぜひとも楽しみに鑑賞してください。基本はオリジナルのアニメどおりですけど、実写版ならではのアレンジもあるのでお楽しみに。事前に、ヒロインのジャスミンにつく侍女の新キャラが出ることが一部で話題になり、ある人は“百合”なのかとハシャぎ、ある人はポリコレ改悪だと条件反射で非難したりと賑やかですが、実際は意外な役回りを担います。

なにせ元のアニメも1992年と、27年も前の映画ですからね。オリジナルを観たことがない子どもたちにも観てほしいです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ディズニーファン必見)
友人 ◎(幅広い層が楽しみやすい)
恋人 ◎(デートムービーにも良し)
キッズ ◎(映像も楽しく大満喫)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アラジン』感想(ネタバレあり)

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願い1;魔法のじゅうたんが欲しい

『アラジン』のようなこういうすでに観客の間に確固たる作品イメージが存在しているものを実写化するとき、一番ワクワクと高揚感を膨らましてくれるのが、“あー、あのシーン、あのキャラクターがこうやって再現されるのか~!”という部分。

正直、『アラジン』は他のディズニープリンセス系と比べると実写化の難易度は高いと思います。なにせ舞台が中東地域ですから。過去にディズニーが配給した中東を舞台にした映画で『プリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂』(2010年)という作品がありましたが、あの時よりもいろいろな意味で求められるレベルは上のはずです。

例えば、キャスティング。『プリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂』の時は思いっきり白人俳優で人種構成ガン無視のゴリ押しをしていましたが、さすがに『アラジン』でそれをやったら大炎上になるくらいディズニーもわかっています。

その点、今回のキャスト陣を選ぶのは難航したそうですが、結果、とても素晴らしかったと私は思いました。

まず主役のアラジンを演じたエジプト出身の“メナ・マスード”。これまでのディズニープリンスの万能感とは違う、アラジンらしい幼さの残る少年的主人公をしっかり体現していました。そのお相手となる王女ジャスミンを演じた“ナオミ・スコット”も良かったですね。以前は『パワーレンジャー』でピンクレンジャーを演じていましたが、そこからの180度違う役柄ながらも、これまたジャスミンらしい芯の強さを見せる存在感が好印象。この二人は今作で大作映画に大抜擢され、一気にキャリアを広げていってほしいところです。
そして、問題の“ウィル・スミス”版ジーニー。これに関しては相当に個々の観客によって受け捉え方が変わってくると思いますけど、私の感想としては全然OKでした。

“山寺宏一”吹替を考慮しなければ、想像以上に“ウィル・スミス”です。作中で肌が青くなくなりますが、そうなるとAIも「これはウィル・スミスです」と断言するであろう、いよいよ99%“ウィル・スミス”になります。

というか、今回は“ウィル・スミス”も“ロビン・ウィリアムズ”版ジーニーのコピーをしようとはしておらず、自分らしさを積極的に出していこうとしていたのが目立ってました。例えば、歌唱パートや会話パートでも明らかにヒップホップ要素を要所要所でガッツリ入れ込んできています。

でもちゃんとこれはこれで成立するジーニーになっていたので良かったかなと。やはり『アラジン』の物語を先導するのはジーニーですね。あの例の洞窟での初登場シーン、そしてアブーの軽快なドラムからの「Friend Like Me」。ここでやっぱりテンションを持っていかれる感じはあります。これぞエンターテインメント!という圧巻で、このシーンだけでも大満足できるのではないでしょうか。アニメ版以上に、ワンカメ&ステージショー風に映像化されていましたけど、どこまでが実写撮影でどこまでがVFXなのだろうか…。

他にもジーニーギャグも、アニメ版どおりのものに加えて、映画らしい巻き戻し演出があったり、“ウィル・スミス”ネタがあったり、見ているだけでも素直に面白いです。

ただ、今回の『アラジン』を見て再実感しましたけど、個人的に一番好きなのは「魔法のじゅうたん」ですね。アニメ版そのままのジェスチャー多めの仕草がキュート。アラジンとジニーが洞窟から脱出して砂漠でのんびり話をしているとき、その背景となる後ろの方で魔法のじゅうたんがせっせと砂で城を作っているのが可愛い(ディズニーのロゴの城かな?)。実写版の魔法のじゅうたんはちょっと面積が大きくなったのか、「A Whole New World」のシーンとか、余裕で二人が悠々と座れる感じでしたね。

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願い2;映画のセットを歩きたい

キャラ以外のシーン再現も良かったです。

これは毎回言っていますけど、ディズニー実写映画の大きな見どころは美術造形。『アラジン』でもあのアグラバーの街並みは大規模な野外セット。よくぞここまで作り込んだなと思うセットの中で繰り広げられる、序盤のアラジンの逃走しながらのミュージカルシーンといい、楽しいかぎり。

ミュージカルシーンは今回は新曲もいくつかありましたけど、かなりインド映画の影響を受けている感じもありますね。集団で踊るシーンがあると、どうしてもインド感が大幅にアップします。

基本的に原作準拠を意識しているのか、あまり極端な演出アレンジは思っていたほどなかった印象です。監督が、最近はアーサー王伝説を大胆な脚色で映画化したことでも記憶に新しい“ガイ・リッチー”だったので覚悟していましたけど、“ガイ・リッチー”節は比較的抑えめだったかも。さすがの“ガイ・リッチー”監督もディズニー作品は自重するのか。

ただ、あるシーンですっごく“ガイ・リッチー”節全開だったので、それは後述します。

おなじみのシーンが丁寧に映像化されている一方で、新鮮なシーンも目に焼き付きます。

冒頭、船で旅をしている男(どう考えたってジーニーなのですけど)が子どもたちにお話をしてあげるという流れで、「Arabian Nights」の曲とともに物語が幕を開けるのですが、アニメ版だと砂漠の謎の行商人が語り部だったのに対して、今回はジーニーかつ海スタートなのが意表をつきます(そもそも今回のアグラバーは湾岸都市という設定になっているんですね)。このオープニングは、今作における意外なカップリングのオチのチラ見せにもなっているのが隠し味。ちなみに、アニメの「アラジン」は映画一作だけでなく、その後にOVAで続編が2つ作られ、さらにテレビアニメシリーズもあるので、結構なボリュームのあるコンテンツなのですが、その中でジーニーの恋人が出てくるエピソードがあります。まさか今作でこんな普通にあの人とああなるとは思いませんでしたけど。

終盤のクライマックスもまさかの強敵出現でド派手さがアップしており、アクション展開が増強。アニメ版では割とあっさり片付くところで、そもそも元ネタの「千夜一夜物語」を意識したシナリオでは「魔人化したジャファーを魔人の制約で封じ込める」という一休さん的“とんち”で倒すので、どうしても映画的な見ごたえは少なめ。今回のは無難なアレンジかなと。

こんな風に“実写化”という方で観客のいろいろな願望を叶えてくれた映画でした。

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願い3;実写化の難問を解決できますように

ただし、実写化にともない、明らかに苦戦しているなと思う部分もあったのも正直なところ。

まずは“プリンセス”問題

ジェンダー議論に詳しい方は知っているとおり、旧来のディズニープリンセスで描かれた“女性像”は今ではすっかり批判、とはまではいかなくても“良くないもの”として扱う意見が相当に増えています。男性が救ってくれるのを待つ、綺麗なだけの男性が喜びそうなトロフィー的な女性…そういう女性の在り方をさも正しいかのように描くかつてのディズニーアニメのこの部分は今や首を傾げられるのも無理はないです。今回の『アラジン』もジャスミンはアニメ版ではかなり受け身感の強いヒロインでした(アニメではシリーズが進むにつれてかなりアグレッシブになるのですが)。

当然、ディズニーもそれを重々承知なので、現代に実写化させるとなれば、なにかしらのアレンジをしなくてはいけません。そこで本筋の物語はそのままにジャスミンの自立性を高める底上げが随所でなされています。例えば、新キャラである侍女ダリアによるウーマンス関係の追加とか。はたまた、単独歌唱シーンがなかったので、それを追加した新曲「Speechless」とか。

ちなみにこの「Speechless」シーンの終盤、ジャファーに占拠された時の歌唱の際、周囲の空間が停止する中でのジャスミンの熱唱演出がもろに“ガイ・リッチー”的でちょっと笑ってしまった…。

そんなジャスミンの自立した女性像を引き立てているのはわかりますが、かたやディズニーアニメでは最新作『シュガー・ラッシュ オンライン』でプリンセス問題に関してかなりプログレッシブなことをしているわけです。

それと比較してしまうと、今作『アラジン』は頑張ってはいるけど、物足りないかな…と。

また、“悪役”問題も深刻な悩みの種ですね。

今作のジャファーは悪いことをしてはいるのですが、そこまで凶悪というほどでもない。やはり全年齢対象(かつディズニーゆえに模範的であれという内外の圧力)であるためか、極端な勧善懲悪にできないのは味気ないですね。

この女性像と悪役の2つの問題は、『バーフバリ』2部作なんかは見事にクリアして、かつチャレンジングなことをやってみせているので、『アラジン』はどうも日和っている感じになってしまいます。

あと、“動物”問題もあるのかもしれない。

ディズニーアニメはコミカルに動物キャラを描くことで物語の緩和効果を発揮しているのですが、それを実写化すると、どういうリアリティに落ち着かせるかが難問。『アラジン』ならアブーは猿なので擬人化しやすいので良いのですけど、トラのラジャーとかそのまんまトラですからね。ジャスミンと一緒にいるとジャスミンが凄い狂気の女に見えてこないでもない…。イアーゴもほぼオウムで、今作に至ってはモンスター化してしまいましたからね。完全にキャラ崩壊レベル(ちなみにアニメ版では後のシリーズで味方になるなどメインキャラ並みの人間味溢れる大活躍をみせます)。実写版『ダンボ』でもそうでしたけど、今のディズニー実写化は動物の表現に上手い着地点を見いだせていないなと思います。

今後も続くディズニーアニメの実写化企画。ジーニーでもさすがに解決できそうにない難問を抱えながらどう頑張っていくのか。次は『ライオンキング』、そして『ムーラン』か…。“ウィル・スミス”級のネタ的話題性はないかも…。

『アラジン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 56% Audience 94%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

以上、『アラジン』の感想でした。

Aladdin (2019) [Japanese Review] 『アラジン』考察・評価レビュー