そんな変な作品です?…映画『終わりの鳥』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス・アメリカ(2023年)
日本公開日:2025年4月4日
監督:ダイナ・O・プスィッチ
おわりのとり
『終わりの鳥』物語 簡単紹介
『終わりの鳥』感想(ネタバレなし)
この鳥はみんなに平等にアレを与える
2022年に“イーロン・マスク”に買収された「Twitter」は2023年に“イーロン・マスク”の趣味で「X」にサービス名を変更し、おなじみの青い鳥のマークは消え失せました。でもどこかで「またあの青い鳥が帰ってくる」と期待して信じていた人もいるかもしれません。
残念ながらその願いはもう潰えたと思っていいでしょう。2025年に「X」は“イーロン・マスク”のAI企業「xAI」にさらに買収されたと発表され、より“イーロン・マスク”の支配下に入りました。もはや「X」はAI企業の一部サービスにすぎません。AIを育てる苗床です。青い鳥は飛び去ったのではなく、死にました。
歴史上のフィクションの鳥の中でも最も劇的かつ屈辱的な死を迎えた鳥は、「Twitter」の青い鳥なんじゃないかな…。
せめてもっと安らかな最期を与えてほしかったですね…。
今回紹介する映画は、一風変わった鳥が死を与えに舞い降りてくるというヘンテコな作品です。体色は青くはないのですけど…。
それが本作『終わりの鳥』。
原題は「Tuesday」で、基本の英語なので知っている人も多いでしょうけど「火曜日」という意味です。これは本作の15歳の登場人物の名前です。
この15歳の子は余命がわずかしなくもう死が目前に迫っていました。そこに現れるのが例の変な鳥です。「死を与える」というのは残忍に殺害するとかの意味ではなく、文字どおり死を告げる…要は「死神」です。本作は死神を鳥としてキャラクター化しています。
この設定だけでもだいぶ異色なのですが、ここから展開する物語がまたなんとも奇妙で…。物語としては死別と向き合う誠実なメッセージがあるのですけども、ビジュアルが摩訶不思議で、独特のユーモアも交えて描かれるので、本当に変な鑑賞体験になります。余命モノですが、ことさらお涙頂戴を煽ることはなくシュールに進行していきますし…。
震え上がらせるだけのホラーではなく、人生の奥深さを捉える寓話として楽しめると思います。
この『終わりの鳥』を監督したのが、“ダイナ・O・プスィッチ”というクロアチア出身の人物。これが長編映画監督デビュー作となります。ロンドンで映画作りを学び、最初に制作したのが短編『The Beast』。こちらの作品は100歳の母と75歳の娘を描いていて、やはり生と死が根底にあり、さらにこの作品では超自然的なコウモリが登場します。“ダイナ・O・プスィッチ”監督は動物を用いるのが好みなんですかね?
余命わずかな10代の子を演じたのが、“ローラ・ペティクルー”。『恋人はアンバー』や『WOLF ウルフ』に出演していました。
その余命わずかな10代の子の母親を演じるのが、“ジュリア・ルイス=ドレイファス”。コメディアンとしてキャリアを羽ばたかせ、1982年から『サタデー・ナイト・ライブ』に出演し、当時の番組最年少女性出演者となりました。その後にドラマ『となりのサインフェルド』でさらにブレイクし、主演のドラマ『Veep/ヴィープ』で賞に輝きまくり、華々しい実績が続きます。最近はMCUにも参加し、ヴァレンティーナという謎めいた役で『サンダーボルツ*』にも出演しています。
『終わりの鳥』は“ジュリア・ルイス=ドレイファス”の役者としての演技力をじっくり堪能できるので、この俳優を知るにはぴったりです。
そして鳥の声(そう、喋るんです)を演じるのは、ナイジェリア出身の“アリンゼ・ケニ”。もともと舞台劇で活躍しており、高い評価を獲得。映画だと『ずっとあなたを待っていた』などで主演しています。
人生の最期を映画で見つめていきたい人、そこに変な鳥が加わっても全然いい人、そんなあなたに『終わりの鳥』はうるさくない親身な通知を与えてくれるでしょう。
『終わりの鳥』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 親子の死別が描かれます。 |
キッズ | 少し怖い演出がありますが、配慮しながら子どもが見ることもできるでしょう。 |
『終わりの鳥』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
15歳の少女チューズデーはベッドで眠りながら家を見渡していました。すぐ横にある機器が彼女のバイタルを常にモニタリングしています。病のせいもあって余命わずかでした。
母ゾラと暮らしていて、車椅子生活なので介護が必要です。今日もスタッフがやってきて容態をチェックしてくれます。他のティーンエイジャーのように自由に駆け回ることも、遊ぶこともできません。
ゾラはおカネを工面するのも苦労していましたが、売れるものも売ってなんとかやりくりしていました。娘と一緒に暮らせる人生がもう終わりそうだということを受け止めきれていません。
チューズデーはこの刺激も何もない生活に退屈し、時間を持て余していました。
あるとき、家の庭先でスタッフもいないときに呼吸が苦しくなります。そしてバサっと翼の音が聞こえたと思って振り返るとそこには1羽のやけに黒く汚いコンゴウインコがいました。普通の野生の鳥とは思えません。
その鳥は翼をかざして鳴き声をあげますが、チューズデーはとっさに話題を振り、この鳥は話に聞き入ってくれます。そして鳥は笑うような声をだし、なんだか満足そうです。
すると鳥はいろいろな音を感じるようになり、みるみるサイズが小さくなり、豆粒のような小ささになってしまいました。チューズデーはそのミニサイズの鳥を手の中で落ち着かせ、語りかけます。
こうして家にその鳥を連れ帰りました。バスルームにいる今はかなり大きいサイズですが大人しいです。鳥はたどたどしく言葉を絞り出します。どうやらこの鳥は死神のようで、この鳥もいろいろ大変のようです。
チューズデーは洗面台の蛇口から水をだして水を溜め、鳥は小さくなってそこで水浴びをします。水はあっという間に黒くなり、鳥は翼を広げて気持ちよさそうです。鳥は再び大きくなり、綺麗な赤橙色の羽毛が露わになりました。これが本来の色なのでしょうか、見違えるような見た目になりました。
鳥はチューズデーの肩に頭を乗せ、チューズデーは抱きしめます。
「殺さないで」と思わずチューズデーはお願いし、とりあえず母が家に帰ってくるまでという条件でOKの返事をもらいます。
こうしてチューズデーの命はまだかろうじて続くことになりますが…。
うちのペットにならないか

ここから『終わりの鳥』のネタバレありの感想本文です。
『終わりの鳥』は冒頭は宇宙からみた地球で始まるので一体何事かと困惑しますが、ある意味では哲学的かつ全宇宙的な特大スケールの枠であり、また別のある意味では個々人のミニマムなスケールの枠でもあり、物語がぐわんぐわんとサイズを大きくしたり小さくしたりします。それこそあの鳥のように…。
まずはあの鳥から話しましょうか。鳥、最高です。私の感想はこれに尽きます。
古今東西、死神はいろいろな姿で描かれますけども、これほど独特な愛嬌のある死神は滅多に出会えませんよ。
本作の死神(デス)は、コンゴウインコの姿をしています。コンゴウインコは主に南米の熱帯雨林に生息している鳥で、体長はやや大型。羽根が鮮やかで、ペットとしても親しまれていますが、それゆえに密猟の対象にされたりもしています。
そのコンゴウインコと死神を結びつけるのはかなり意表をつく感じもありますけども、鳥は何かと太古から神聖視されてきましたからね。コンゴウインコもありと言えばありなチョイスです。
それにしたって今作のコンゴウインコの死神は思わず「いいね」を連打したくなるナイスな鳥ですよ。
最初はかなり不気味な登場なのですが、チューズデーの前に現れてジョークで噴きだしてからはもうコイツは話のわかる奴です。なんで死神やってたんだよっていうくらいには打ち解けると楽しい鳥なのでした。“アイス・キューブ”の「It Was a Good Day」をノリノリでセッションしてくれたりするし、付き合いも全く悪くはない。
このデスの描写で楽しいのは、ちゃんとコンゴウインコの生態や行動に合わせたキャラクターづけがなされていることです。声マネをするというのも作中で何度も印象的に用いられますし、インコって背中が猫背みたいに丸まるのですが、その姿勢が巨大だと大物感をだせるのに、それが小さくなったり、はたまた急にインコらしいおどけた仕草をすると急に可愛くみえてくるという…そういうツボを押さえていました。
このデスの性格もなんだか愛らしくてたまりません。死神だから感情は無くて淡々としているのかなと思えば、口下手ながらこちらの立場に寄り添ってくれるし…。終盤なんてついにその死を受けて喪失感を引きずるゾラの前にデスがふらっと現れて「どうしてるかなって」とか言いながら気にかけてくれるんですよ。おい、うちのペットにならないか。いくらでも風呂に入れてあげるぞ。
題材的にもピクサーとかがCGアニメーションで作りそうなキャラクターなのですけど、それをあえての実写の中でフォトリアルなコンゴウインコで映像化してみせることでのこの異物感が、この死神の存在をひときわ輝かせていました。
アフターケアもできます
あまりにコンゴウインコ版の死神が異彩を放っているのでそちらにばかり目を奪われますが、この『終わりの鳥』はテーマとしては緩和ケア、ほぼ限りなく安楽死を扱っている作品でした。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』など同様の題材は珍しくありませんが、『終わりの鳥』はファンタジーなアプローチの中でもしっかり人物のリアルな感情に誠実に向き合ってもいました。ふざけてもいるけど真面目な映画です。
チューズデーは現代の医療ではもう助けようもなく、死は間近に迫っています。それは介護スタッフのビリーも理解していますし、チューズデー本人もよく承知しています。雰囲気ではなるべく苦しくなさそうに振る舞っていますが、実際は相当に辛いようです。
だからこそデスがやってくるわけですが、母親のゾラだけは死を受け入れられていません。それをチューズデーは察したうえで、母のためにデスに延命をお願いします。
これは母が娘の死を受け入れるまでの物語です。
すっごく悲しい話ですよ。親より子に先立たれるのは最も苦しい死別のひとつです。こういうのを親不孝って表現するのは正直ちょっと私は抵抗がありますけどね。別に子どもに悪気はないのだし…。
本作はその普通だったら壮絶なまでに心苦しいプロセスを、あの愛嬌のあるコンゴウインコ版の死神を間に介入させることで、絶妙にユーモラスにしています。
まずゾラがコンゴウインコと揉みあいになり、さらに庭で放火し、あげくに自分の口に放りこんでむしゃむしゃ食べるとは思わないじゃないですか。大切な人の死を受け入れたくないというがむしゃらな感情をこうも視覚的に表されてしまうと、一瞬こっちも同情を忘れます。鳥だから食べても(焼いてもいるし)、焼き鳥の味がするだけなのかな…とか考えちゃったじゃないですか。
以降は死神不在で世界に死が与えられなくなり、なんだか外は酷いことになります。ブラックユーモアで「死がいかに大切か」を教えてくれます。
そしてどういう理屈なのかは知りませんけど、ゾラはデスの能力を内に宿し、サイズの変化だけでなく、死を与えるという役割を発揮し、外へ出かけることに…。死を与えることが安らぎになるという現実を実感として体験する…不思議な状況です。なんかデスも体の外に出たいときは出れるみたいですし、これもデスなりの気遣いなのかもしれません。やっぱり、いい鳥だよ、お前…。
最終的にはゾラは決心し、娘チューズデーの死を看取ります。チューズデーの病理的な容態はよくわかりませんが、延命装置を外しての安楽死であるように見受けられます。
それでデスはアフターケアもバッチリなのです。最初は空気の読めないことを言ってるようにみえつつ、最後は死神としての死生観を提示し、死神にしかできないような励まし方でゾラに生を与えます。死神なのに生きる道を示してくれるというラストが何とも言えないですね。
死は悲しいことだけど、屈辱的である必要はない。そんなことを諭してくれる鳥でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024 チューズデイ
以上、『終わりの鳥』の感想でした。
Tuesday (2023) [Japanese Review] 『終わりの鳥』考察・評価レビュー
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