アナと世界の終わり
映画『アナと世界の終わり』(アナ・アンド・ザ・アポカリプス)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Anna and the Apocalypse
製作国:アメリカ・イギリス(2017年)
日本公開日:2019年5月31日
監督:ジョン・マクフェール

アナと世界の終わり

あらすじ

イギリスの田舎町リトル・ヘブン。幼い頃に母を亡くした高校生のアナは、現在は父トニーと2人で暮らしている。夢も希望もないこの町にうんざりしている彼女は、父に内緒でオーストラリア旅行を夢見てバイトに励み、幼なじみのジョンはそんな彼女を応援しながら密かに口にはできない想いを寄せている。そして、クリスマスも近づくこの町にそれは突然、現れた。

ネタバレなし感想

嫌なこともゾンビも歌って忘れよう

もう5月も終わり。5月病からは抜け出せたでしょうか。まあ、巷では6月病とか7月病もあると聞きますけど、じゃあ、年がら年中、病気じゃないかという感じ。そうです。そんなものです。だってこの世は腐っていますからね。毎日が嫌にもなる。傷つく言葉もある。悲しい出来事もある。だからこんなうざったい世の中から抜け出してみたいと思うのは当然。どこに行くかなんて具体的には考えていない。出ていった先で何をするかなんてどうでもいい。とにかく出ていきたい。そんな「ファー・フロム・ホーム」なシンキングタイム。

そういう憂鬱な思考で学校や会社に通っている皆さん、映画を見ましょう(自然なダイレクトマーケティング)。

どんな映画を観るか悩むのなら本作『アナと世界の終わり』はどうですか?

『アナと世界の終わり』…そんな邦題なのですが、どうしても“レリゴー♪”なやつを連想してしまいますが、関係ないです。こっちは宣伝では「アナせか」と略しているみたいですね。個人的には原題の「Anna and the Apocalypse」から「アナアポ」を推したいところ。

“アポカリプス”という不吉なワードから察していただいた方ならおわかりのとおり、こちらはなんとゾンビ映画になっております。しかも、加えてミュージカルなのです。“青春ゾンビミュージカル”と銘打って、その特異性からインディーズ映画界で注目された一作です。

ゾンビ&ミュージックといえば、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を真っ先に思い浮かべるのですけど、確かに“青春”をプラスアルファした“ゾンビミュージカル”は珍しいかも。なお『アナと世界の終わり』ではゾンビは踊らないですからね。

もともと2010年に公開された短編作品『Zombie Musical』というものがあって、それを長編映画化したものです。短編の方は“ライアン・マクヘンリー”という人が監督しています。この人、とてもユニークな作品を作るクリエイターで、有名なのが『Ryan Gosling Won’t Eat His Cereal』というライアン・ゴズリングの出演しているシーンに合わせてシリアルを食べさせようとするという、本当にただそれだけの動画。とにかく百聞は一見に如かず、見てほしいのですが、もうしょうもなさすぎて爆笑ですよ。


“ライアン・マクヘンリー”は残念ながら2015年に亡くなってしまったのですが、その意思を継ぎ、“ジョン・マクフェール”という人が『アナと世界の終わり』を完成させました。

長編映画化とはいってもそれでも低予算のインディーズ映画に過ぎないので、有名な俳優は出ていません。決して演出も手がこんでいるとは言い難いですし、映像も豪華ではありません。でも、何と言いますか、リソースが少ないことを逆に活かしたライトな感じが魅力になっている作品です。

音楽は素晴らしくノリノリなので、映画を観終わった後はサントラが欲しくなるのではないでしょうか。音楽さえよければ、ミュージカル映画は合格点です。

『アナと世界の終わり』はクソみたいなつまらない学校生活を抜け出すことを夢見る田舎町の女子高生が、ゾンビに町を占拠されたことをきっかけに、人生の変化を感じる…そんな映画。コメディというか、しっかり青春ムービーになっています。おふざけではないのです。

映画鑑賞後は帰りの街中にゾンビがいないか注意してください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(映画館で見る方が楽しい)
友人◎(みんなで見るともっと楽しい)
恋人◎(気軽なデート向けにも良し)
キッズ◯(グロ残酷描写あるけどポップです)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

クリスマス・ムービーですから

最初に文句といいますか、言いたいことを書いておきますが、『アナと世界の終わり』は“青春ゾンビミュージカル”という要素以外にも、ひとつ“とても大事な要素”があるのですが、日本の宣伝では全くといっていいほど紹介していません。

それは「クリスマス・ムービー」だということ。

映画を観た人ならすぐわかることですけど、重々承知のとおり、本作の日本公開日は5月も末。2019年は北海道ですら猛暑日を記録する、クリスマス気分とは程遠い時期。

野菜や魚にも旬の時期があるように映画にも旬の時期があります。特に欧米ではそういう時期を意識した映画公開が当たり前。でもなんか知りませんが、日本にはそういう意識がほぼゼロなんですよね。

最近もその名も『ハロウィン』というバカでもハロウィン・シーズンの映画だとわかる作品を全然季節外れに公開するセンスに不満を書いたこともありました。
『ハロウィン(2018)』感想(ネタバレ)…平成最後のハロウィン
『アナと世界の終わり』もアメリカやイギリスではクリスマス・シーズンに当然のように上映されていました。日本は雰囲気も何も皆無です。

いや、別にいいじゃないかと思うかもしれませんが、結構作品を受け止める際の重要なポイントにもなります。なぜなら本来クリスマス・ムービーというのは気楽に見ることを意識した“ホームメイド”な手作り感が特色だったりするわけです。なのでそれをわかった前提で観客は見に来るので“ああ、これこれ、クリスマス・ムービーとして最適だね”という反応になります。

実際、『アナと世界の終わり』も相当に素朴な作品です。作中に描かれる雪とかのチープさを見てもわかるように、あえて意図的にそうしている感じさえあります。

大事なのはこのクリスマス・ムービーの前提を観客が共有しているかどうかということ。間違っても『ラ・ラ・ランド』とか『グレイテスト・ショーマン』級のハイクオリティなミュージカルを期待してはダメなのは言うまでもなく。

この部分でミスマッチが起こると『アナと世界の終わり』の評価も下がってしまうでしょうね。

世界の終わりにアナは歌を叫ぶ

『アナと世界の終わり』の主人公は、イギリスの田舎町でくすぶっている女子高生のアナ。ただ、厳密には「secondary school」の卒業間近の年です。一般的にイギリスでは「secondary school」を卒業後、2年ほど大学受験のための勉強コースや職業訓練を受けるのが普通。しかし、アナは進路についてはとくに考えておらず、バイトでお金を貯めてオーストラリアを旅することを夢見ているのでした。

学校にはアナと同じように、今の自分の環境を快く思っておらず、不満をため込むジョンとステフがいます。映画序盤では「Break Away」という曲で、この3人が自身の“ここから抜け出したい”願望をエモーショナルに歌い上げます。


一方、学校には今の環境で幸せを噛みしめている充実した同世代も。リサとクリスは人目もはばからず熱い口づけを交わすほどラブラブ。そんな浮かれている周囲をよそに、今度は食堂で「Hollywood Ending」という曲とともにアナたちが“なぜ自分は映画の主人公みたいになれないのか”という疑問を発散していきます。

この2曲でアナたちの抱える不満を一気に観客に提示した後、物語は起承転結の“転”を迎えます。

クリスマス学芸会で盛り上がる学校のハッピーな同級生をよそに、今夜もバイトを済まし、翌朝。少し前向きになり、ほんの少し明るい自分の未来が見え始めたアナはノリノリで歩いて登校。「Turning My Life Around」の曲に合わせて、軽快なステップでダンスウォーク。


しかし、ほんの少し明るい自分の未来しか見ていないアナは、今まさに自分の周囲で大変なことが起こっているのに気付かない。道端はめちゃくちゃ、逃げる人、落ちてくる人、襲われる人、這っている人…状況は壮絶。この印象的なシーンはすごく『ショーン・オブ・ザ・デッド』っぽいですね。

この後、対ゾンビ戦に移行していくわけですが、そのゾンビとの戦いもイギリス映画らしく銃はでてこず、まわりのモノを武器にするあたりも『ショーン・オブ・ザ・デッド』流。雪だるま着ぐるみゾンビをシーソーで首スパンしたり、ボーリング場でゾンビと乱戦プレイしたり、なんか楽しそう。キャンディーケインで敵を倒すなんてメルヘンチックですらあります。

アナと世界の終わり

ゾンビは進路を決める学びの場

とまあ、ここまでストーリーが進むのを見ているかぎり、ユルユルなお気楽ゾンビ映画なのかなと思うのですが、以降の展開からは“そうじゃない”と突きつけるような出来事が連続します。

具体的には結構、人が死にます。自分の身近にいた人間が続々と亡くなっていく中、“抜け出したい”と受け身な思考でいたアナが、“抜け出すほかない”という半強制的な能動的出発に変わっていく姿。一方の、作中でヴィランとなるサヴェージ先生は“抜け出せなかった人間”の代表。

「Hollywood Ending」という曲でも歌っていましたが、ハリウッド映画みたいなハッピーエンドはあり得ない。ご都合主義も起こらない。その上手くいかない世界だからこそ前に進む。

こうやって見ると『アナと世界の終わり』は突拍子もない設定でありながらも、青春を描く点でいえばかなり現実的な苦さも描いた一作でした。

イギリスでは「secondary school」を卒業後、2年ほど大学受験のための勉強コースや職業訓練を受けるのが普通…という話は前述しましたが、まさにこの映画で起こるゾンビパンデミックこそがアナたちにとっての未来を決める2年間の学びが凝縮した出来事だった…そんな感じでしょうか。

ちょっとゾンビではないですし、青春でもないのですけど、『ショーン・オブ・ザ・デッド』を監督したエドガー・ライトの『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』っぽいテイストだなと思います。あちらも世界が終わりかけていく中、どうしようもなく無力な人間たちが生きる道を見つけるプライベートな話でしたから。

典型的なアメリカ映画のパターンとは異なる感じが、いかにもイギリス映画ですね。

イヤホンは外してください

『アナと世界の終わり』の音楽はどれも素晴らしいのですが、しっかり作中のキャラクターの心情をダイレクトに反映した歌詞になっているだけあって、観客に響きやすいのが魅力。

曲自体、冒頭の「Christmas Means Nothing Without You」を除き、実際はクリスマス・ムービーにも関わらず、そんなクリスマス色がないのも特徴です。結果、クリスマスといっても浮かれ気分になれない人だっているという叫びの代弁にもなっている感じになり、これはこれである種のクリスマス・カウンターになっているのじゃないでしょうか。

本音を言えば、もっと尖ったスタイルのセンスに極端化していれば、もっとカルト的な注目を集めたかもしれないなとも思うのですが、まあ、そこは諸刃の剣ですから、いいか。

音楽とともミュージカルに欠かせないダンス要素は『ウエスト・サイド物語』のような王道でしたが、そこも逆に作中にあった学芸会の延長のような、いかにも若者が考えそうなノリでフィットしていました。ちなみにステフを演じた“サラ・スワイヤー”が振り付けもできる人らしく、作中でも担当したようです。

“ジョン・マクフェール”監督の一番のお気に入りのミュージカル映画は『サウスパーク 無修正映画版』だという話が公式サイトに掲載されているのを見て、個人的には親近感が湧いたりも。

「Human Voice」「Soldier At War」「Nothing Gonna Stop Me Now」「What A Time To Be Alive」と中盤から後半にかけての楽曲も一連の流れで聞くと素晴らしいものばかりなので、本作を鑑賞して気に入った人はぜひサントラも購入してください。ユニバーサルミュージック合同会社よりデジタル配信中です。

最後に本作を観て思ったことがひとつ。やっぱりイヤホンで曲を聞きながら野外を歩くのは危険ですね。はい、以上。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 67%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)2017 ANNA AND THE APOCALYPSE LTD.