ライジング・ハイ
Netflix映画『ライジング・ハイ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Betonrausch
製作国:ドイツ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ジュネイト・カヤ

ライジング・ハイ

あらすじ

普通に働くなんて馬鹿らしい。金儲けのためなら手段は選ばない。野心に燃える若者と舌先三寸のチンピラが、ベルリン不動産市場でボロ儲けを企む。その計画は大胆不敵で、仲間を増やしては事業を拡大していく。ピンチになってもそれをさらなる儲けのチャンスに変える。負けることは許されない。この乱造したセレブ暮らしはどこまで上昇し続けるのか。

『ライジング・ハイ』感想(ネタバレなし)

不動産ビジネスは詐欺師の住処

「地面師」という聞きなれない言葉が日本の報道に表出したのが2018年頃。不動産大手企業の積水ハウスが被害者となった前代未聞の詐欺事件。他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師のことを「地面師」と呼ぶらしいですが、どんな手口なのかはともあれ、普通に考えると大手企業がそんな詐欺に引っかかるものなのかと思ってしまいます。55億円以上の被害額なんてことで、その甚大さに私みたいな素人は想像すらできないのですが、きっと騙されるときはコロッと騙されてしまうものなんでしょうね。しかも、氷山の一角でしかないという話もありますから、闇深い…。

大企業が続々と被害に遭うのですから、一般人なんて無抵抗なカモ、いやヒヨコでしょう。こういうときはプロにお任せ!と言いたいところですけど、そのプロが騙されているんじゃどうしようもないなぁ…。不動産投資とか絶対に手を出さないようにしよう…。

そんな不動産にまつわる詐欺。世界中で起こっています。やっぱり不動産というものは高価ですから、ターゲットになりやすいのでしょうか。どんな国にも基本はあるものですし、どこでも通用する法則でもあるのかな。

今回紹介する映画もその不動産詐欺に関する作品です。それが本作『ライジング・ハイ』

内容は、不動産詐欺によってどん底から富を手に入れていく男の物語。本当に最初は舐められるような人生を送っていた男が、カネはないけど悪知恵だけを武器にどんどん人を疑わない無垢な他者を騙しに騙してまんまと成り上がっていく。あとはもうどんちゃん騒ぎをするだけで、その快楽から逃れられなくなっていく。

『ライジング・ハイ』はドイツ映画なのですけど、言ってしまえば『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のドイツ版ですかね。実際にホワイトカラー犯罪を取り扱っていますし、作品のルックは似ています。作り手はどれくらい意識したかはわかりませんが、派生作品みたいなものだと思ってもらえれば誤解もないかな、と。

こういう悪徳行為でぼろ儲けしてフィーバーしていく男の転落劇を描いた映画が好きな人は好みに合うと思います。観ている分には楽しいです、観ている分にはね…(自分が被害者だったら絶望以外の何物でもないけど…)。

監督は“ジュネイト・カヤ”という人で、1980年のベルリン生まれ。もっぱらコメディを手がけてきたらしく、『Verpiss Dich, Schneewittchen』(2018年)などの監督作があります。確かに『ライジング・ハイ』も犯罪モノではあるのですが、一周回って狂った人間の喜劇とも言えますし、本作だってコメディにジャンル付けしてもいいのですけどね。

俳優陣は、“デヴィッド・クロス”、“フレデリック・ラウ”、“ヤニナ・ウーゼ”、“アンネ・シェーファー”、“ゾフィア・トマラ”など。

主演の“デヴィッド・クロス”(ダフィット・クロスとも表記)は、2008年のアメリカ&ドイツ合作映画であるスティーブン・ダルドリー監督の『愛を読む人』で男性主人公の少年時代を演じたあの人です。ケイト・ウィンスレットと絡む非常に印象的な役柄でしたが、いや~、すっかり悪い奴になっちゃって…(作品混乱)。スティーヴン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』にも出演していましたね。

その主人公とパートナーを組んで悪事を働く男を演じるのは“フレデリック・ラウ”で、彼は『ヴィクトリア』『ちいさな独裁者』などのドイツ作品で顔を見たことがある人もいるはず。

ヒロインを演じる“ヤニナ・ウーゼ”は子役から活躍する女優みたいですけど、私は全然知らない。ドイツ国内では有名なのかな?

世の中が不安定になっている時期はとくに詐欺師が活発に動き出します。ほんと、あれこれと人を出し抜く術を考え出してくるものです。警戒心を発揮するためにも『ライジング・ハイ』を鑑賞して悪い奴を見過ごさないように鍛えておきましょう。

『ライジング・ハイ』は2020年4月17日からNetflixオリジナル作品として配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(詐欺スリルを味わうなら)
友人◯(犯罪映画好き同士で)
恋人◯(夫婦仲の良い映画ではないけど)
キッズ△(悪い大人になっちゃダメ)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ライジング・ハイ』感想(ネタバレあり)

愛を売り払って儲けよう

高級そうな建物のリッチな敷地で、ひたすらに猥雑に騒ぐ集団。飲み、踊り、乱れる。そのパーティは鎮まる気配もありません。ライオンの頭部像がデンと置かれています。

一夜明け、ぐったりな集団の残骸がその敷地に散乱していました。その建物のとある部屋で、このパーティの主催者である男がひとり佇んでいました。騒ぎまくって気分爽快という雰囲気ではありません。どこか物憂げな表情であるものを見つめています。

それはディスプレイに流れる動画。「ヴィクトリー・アンド・ファルクランド不動産へ…」その動画にはヴィクトル・シュタイナー、ゲリー・ファルクランドという2人の男が映り、安全で信頼できると高らかに自信に満ちた声でCMをしていました。それを見つめる男こそ、ヴィクトルです。

ヴィクトルは回想します。子どもの頃、父に言われた言葉。「ヴィクトル、何事も上手くやれ、一番になれ、それには愛を込めるんだ」…その言葉を聞きながら、父と家の壁を塗った思い出。

そんな昔の記憶をたどっていると、警察がパーティ明けの建物に突入してきました。抵抗はできるはずもありません。

資金洗浄、脱税、社会保障詐欺、信用詐欺…数多くの犯罪行為を列挙され「再犯すると思いますか」と聞かれて、そうだと答えるヴィクトル。逮捕された彼は女性記者の個別面談中で当時の話を語るように言われます。そして、ヴィクトルの口からどんなふうな経緯をたどってここまでに至ったのかが語られます。それは驚くべき話でした。

ヴィクトルは自立の一歩を踏み出して都会にやってきますが、住むところを探して良さそうな場所を契約しようとすると、雇用先がないとダメだと一蹴されます。やむを得ず新聞で手近な働き口を調べ、工事現場で働くことに。

ところが汗水垂らして働いたにも関わらず、税金だと一方的に言われ、その場で手渡しの賃金給与を引かれることに納得いかないヴィクトル。寝るところもなくベンチで横になるしかありません。

もうあんな場所でコツコツ働いてなんかいられない。ヴィクトルは独自に動き出します。彼は子どもの頃から悪知恵が働く奴なのでした。

まず身分証明書を偽造。ダーク・ディグラーというずいぶん思いつきな名前を名乗り、家賃3400ユーロの広々とした物件へ。「正社員雇用契約書は?」と聞かれ、サラッと見せたのは月収1万9836ユーロ(230万円以上)であることを示す書類。もちろん全くの嘘です。

ペントハウスに建設作業員たちを連れてきて、あの胸糞悪い賃金中抜き野郎から解放してあげたところ、この作業員が夜中に大はしゃぎしてファイトクラブ状態。呼び出されて状況を知った困惑のヴィクトルは「なんだこれは?」と途方に暮れ、警察騒ぎで逃げることに。その際、ゲリーという男と知り合うことになります。

なんか気に入ったと当時を振り返るヴィクトル。クスリを吸うことにも躊躇いのないこのゲリーは見た目はがさつそうですが、家へ招かれると幼い子どももいる良き父親。

そんなゲリーにある話を持ちかけられます。「不動産転売で儲けよう」

なんでもゲリーが破格の安さで物件を見つけて、ヴィクトルがそれを売るという計画らしいです。そんなことが上手くいくのか、さっそく入札取り引き会場へ向かった二人。ここでヴィクトルは自分の技能を活かせる挑戦の味を覚えるのでした。

これがやりたかったこと。手当たり次第に騙して騙して売りまくろう…。

ライジング・ハイ

「必要なのは自分を信じる人」という見下し

『ライジング・ハイ』の原題は「Betonrausch」です。これ、どういう意味なんだろうと思ってあれこれ調べてみると、ドイツ語で「beton」は「コンクリート」、「rausch」は「陶酔」「ラッシュ」(ゴールドラッシュとかの“ラッシュ”です)を意味するそうなので、つまり建物不動産でカネを荒稼ぎすることにハマっていく主人公そのものを指しているのでしょう。英題の「Rising High」もまさにそんな感じのニュアンスですしね。

この主人公であるヴィクトル。彼自身決して無一文というわけではありません。そもそも貧乏な家庭ではなく、それなりの中流階級の家系です。

しかし、プライドなのか、ヴィクトル自身は少しでも貧しさを痛感してしまう状況を許せません。最初に建設現場で労働する際もすぐにその状況に我慢もできずに反発します。それ自体は別に悪くはないのですが、そこで彼はあろうことか犯罪に、それも極めて気軽に手を出します。

ヴィクトルの手口はシンプル。無からカネを作ること。そのためには信用が大事。そして人から信用されるためにはステータスを持つことが最優先。そういう考え方です。

まずはリッチそうな身分証明を作りさえすればいい。そこから家も女も会社も手に入る。

ヴィクトルは世の中が人の表面しか見ていないことをよく理解しており、その上っ面だけ気を使っていればなんとかなることを熟知しています。とても世渡り上手です。

警備員を買収して自分たちだけしか取引会場にいないようにするやり方といい、底辺の労働階級者たちも平気で駒に使う。ただ、本人は貧しい者におカネをあげたから良いことをした程度にしか思っていません。本質的に格差社会を無自覚に利用して優位に立つことに浸っている人間なんですね。

証券会社を買収するくだりなんかはその見下しが極度に現れているシーン。目の前の対等の取引相手だった者でも自分の下に転落した瞬間に、歌を歌わせて平然と見下す。

以降も砂集めの後半シーンだって、自分ではなく“下”にいる奴らに作業をやらせます。そういう構造が一度ハマってしまえばもう好きで手放せないんでしょうね。

でもヴィクトルは最初は自分で働いていました。それこそ最初の物件はボロボロでその改修をするときは3人で必死に綺麗にした結果です。

父に教えられて壁を塗るシーンも呼応してきます。父からは献身的に働くことの大切さを学んでいたはずなのに…。

主人公の中にある「女」トラウマ

ヴィクトルの行動動機を探るうえで欠かせないのが「女」の存在です。

彼は何か悪いことをしようとするときは必ず「女」から始めます。

例えば、子ども時代の回想でも女性を言葉巧みに童心を装って誘導しています。偽造書類で住居を契約する最初の場面でも、出会い系アプリの仕事をしていてとか言いながら担当の女性にアプローチをかけます。

信用銀行でニコル・クリーバに「400万の住宅ローンを組む人が見つけられるの?」と聞かれ、「600万いけます。各30万ユーロのアパートが20軒で600万」と断言しているくだりもそう。笑顔を浮かべていれば押し切れると思っています。

犯罪時の話を取材しているジャーナリストも女性で、その対応もどこか余裕ぶっています。他にも入札を取り仕切る人も、途中で雇う示談担当も、風俗店の女性たちも、彼の周りは女だらけ。その女は全員が彼の上に立つことはありません。ヴィクトルは常に「女」を起点に動き出すクセがあるわけです。

これは当然、“女なんて容易い”という女性蔑視的な感情が根底にはあるのは言うまでもないのですが、もっと彼自身の人生の奥深くを分析すると、ヴィクトルには母への鬱屈した苛立ちがあることが作中で判明してきます。父を捨て、他の男と一緒になった母。連絡も全然とっていないその母親への怒りと不満が、彼の中では女性そのものへの見下しにつながっているのでしょう。

父親はその母に特別強く出ているわけでもなく、ゆえにヴィクトルは自分こそが雪辱を晴らすべく母を見返してやろうとひとり執念を燃やし、常に上に立たなければという思考になってしまっている。それは彼なりの「ライオン」ということなのでしょうか。雌の群れを従える雄という意味で。

結局、ニコルにあっさりやられてしまうわけですが…。

つまり、ヴィクトルは本心は儲けたいのではなく、他人(とくに女)の上に立ちたいのです。上層にいたい。見下ろしていたい。

『ライジング・ハイ』はそういう主人公のプライベートに重きを置いた物語です。そのぶんあまり社会性に重点がないためか、ちょっとこの作中で起きている事件の立ち位置がわからない部分もなくはないかな、と。

社会を揺るがす大事件になっているのか、それとも上手くカモフラージュしてコソコソやれているのかよくわからないので、観客としては捕まるかもというスリルがないのはもったいないです。女性記者の視点を加えるか、それとも税務局でもいいですし、誰か他者の視点をプラスするといろいろな面白さも引き出せたかもしれないですね。

あとビリー・アイリッシュの曲(「bad guy」)を使ったり、音楽演出が合っているんだか合ってないんだかわからないミーハー感があるのは気になったけども…。

ただ最後にあの「これは詐欺では?」と質問してきた孫娘に買うという老人と鉢合わせして、罪の意識を感じるのかなと思わせておいてまた女…というくだりは良かったです。やっぱり凝りてないオチになりますよね。

こんな男が美味しい話を持ち掛けてきたら要注意です。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix ライジングハイ ベトンラウシュ