シーズン4はアラスカ女バディ…ドラマシリーズ『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にU-NEXTで配信(日本)
原案:イッサ・ロペス
自死・自傷描写 DV-家庭内暴力-描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写
とぅるーでぃてくてぃぶ ないとかんとりー
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』物語 簡単紹介
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』感想(ネタバレなし)
久しぶりのシーズン4
日本にいれば海外のニュースはほんの一握りの主流のものしか流れてきませんが、それがアメリカの最果てと言われるアラスカのものとなれば、滅多に目に入ってきません。
無論、アラスカだって日々ニュースがあります。何か起きてます。
例えば、2024年では、他のアメリカの保守的な州と同じように、アラスカ州でも学校内でのトランスジェンダーの若者の権利を制限する法案が検討されています(Alaska Public Media)。一見するとトランスの子どもたちだけを焦点に絞っているようですが、実際はこれらの法案には、校長の選出や教師の行動原則など、あらゆる方面で行政が学校を管轄する権力を強める規則も盛り込まれており、結局そこに行き着くのだとわかります。
一方、そんなアラスカにて、知事が学校への予算を増量させる予定だった教育資金法案に拒否権を発動したことに抗議するためにアラスカ全土の高校生たちは授業を抜け出して抗議運動を行ったそうです(Alaska Public Media)。
こんな感じで、今、アラスカでは教育現場を最前線に子どもの主体性が揺れています。権力に都合よく氷漬けにされないための闘いです。
今回紹介するドラマシリーズはそのアラスカを舞台にした、“力”に打ちのめされて凍りつつある人たちがなんとか心の温もりと抵抗を見い出そうともがく…そんな物語です。
それが本作『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』。
まず初めにこれは理解しておかないといけないこととして、本作は『トゥルー・ディテクティブ』というアメリカのドラマシリーズのシーズン4にあたります。
ドラマ『トゥルー・ディテクティブ』は、2014年に「HBO」で放送されたシリーズで、2015年にシーズン2、2019年にシーズン3と続きました。
ただし、この『トゥルー・ディテクティブ』は各シーズンで物語は繋がっておらず、全く別物。異なる舞台、異なる主人公となっているアンソロジーです。ジャンルだけは一貫しており、ミステリー・サスペンスで、刑事や警察を主役に奇怪な事件を捜査することになります。シーズン1とシーズン3は王道のバディものでした。
評価も高く、いくつかの賞にも輝き、このジャンルの名作として愛されています。ちなみに私はシーズン3が一番好きかな。
そのドラマ『トゥルー・ディテクティブ』の待望のシーズン4が本作『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』。前シーズンが2019年なので実に5年ぶりの新シーズンです。今回は副題もついています。当然、別個のストーリーが新しく始まるので、このシーズン4から見始めても何の問題もありません。
先ほども言及したとおり、シーズン4はアラスカが舞台で、さらに今までずっと男たちが主役でしたが、今回は女性2人のバディものとなりました。
主役を演じるのは、『ナイアド その決意は海を越える』でも迫真の名演をみせていた“ジョディ・フォスター”。
その“ジョディ・フォスター”とタッグを組んで共演するのは、アメリカ先住民のルーツがあって、プロボクサーから俳優に転身した”カーリー・レイス”。2021年の『Catch the Fair One』で俳優デビューし、高評価を獲得。今作『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』でも素晴らしい演技をみせており、何かしら賞にノミネートされないとおかしいと思います。
他の俳優陣は、ドラマ『Domina』の“フィン・ベネット”、『Pet Sematary: Bloodlines』の“イザベラ・スター・ラブラン”、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』の“ジョン・ホークス”、ドラマ『Dodger』の“クリストファー・エクルストン”、ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』の“フィオナ・ショウ”など。
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』の原案・監督・脚本を任せられたのは、『ザ・マミー』(2017年)のメキシコ人の“イッサ・ロペス”。
これまでのシリーズと同様に、今回もオカルトじみている事件が題材ですが、今作は“イッサ・ロペス”監督の作風のせいか、これまで以上にオカルト色が強いです。ほぼホラーでは?…というくらいの描写も…。
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』は、全6話で完結し、1話あたり約1時間。日本では「U-NEXT」で配信中です。
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :俳優ファンの人も |
恋人 | :気分は暗くなる |
キッズ | :怖い描写あり |
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
アラスカのエニス。この辺境の凍てつく地にツァラル研究基地がありました。科学者たちが生活しながら各自の分野で調査しています。ある日、研究者のひとりであるクラークが急に震え出し、「彼女が目覚めた」と呟きだします。
そんな基地に男がトラックで食料を配送しにきました。声を張り上げるも誰も出てきません。おかしいです。しょうがないので施設内へ。音楽映像も鳴りっぱなしで、呼びかけても返事はなし。もぬけの殻ですが、さっきまでそこで生活していた痕跡はあります。何かの気配を感じるも誰も見つけられません。しかし、机の下に舌が落ちているのを見つけ…。
ところかわって、アラスカ先住民の警察官エヴァンジェリン・ナヴァロは蟹の加工場で起きた家庭内暴力事件の対応にあたっていました。男が床で気絶しており、傍で介抱されている女性の従業員は顔を殴られていて怯えています。男は起きて悪態をつくも手錠で連行されます。そんなナヴァロに電話がかかってきます。
地元警察のリズ・ダンヴァースはツァラル基地の現場に到着しました。同僚のハンク・プライアとピーターもいます。ここの科学者たちが失踪したとのこと。ラルフ・エマーソン、アントン・コトフ、リー・ジー、レイモンド・クラーク、ルーカス・マレンス、ファクンド・モリーナ、アンダース・ルンド…全て男性です。
施設は機能しており、スマホもあります。ホワイトボードに「私たちはみんな死んでいる」と書かれてありました。問題は床に落ちていた舌。ダンヴァースは舌の傷から先住民女性のものだと推測します。
署に戻ると苛立つナヴァロが待っていました。舌が発見されたと聞いて、じっとしていられなかったのです。実は6年前に、地元の鉱山建設に抗議していた先住民女性のアニー・コウトクが殺されるという事件が起き、そのアニーは舌を切り取られていたのです。未解決のままで、ダンヴァースに責任があるとナヴァロは考えていました。
厄介な事件に頭がいっぱいですが、ダンヴァースは継娘であるリアにも手を焼いており、関係性はギスギスしています。
一方のナヴァロは、知り合いのジュリアが精神的に滅入っており、心配していました。
ピーターは父でもあるハンクとの距離感に悩みつつ、仕事に追われ、家庭での居場所を失いつつありました。
捜査は手がかりを見い出せない中、町外れに住むローズ・アギノーは失踪した研究者を発見しました。極寒の雪の上で衣服を丁寧にたたみ、裸体のまま雪に埋まって恐怖の表情で凍りついた研究者たちの身体が…。
“She’s awake”
ここから『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』のネタバレありの感想本文です。
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』は第1話から戦慄の集団死が明らかになりますが、寒々しい辺境の地の施設が事件の始まりということで、どうしたってあの映画が頭に浮かんできます。『遊星からの物体X』です。
私も観ている間、「さすがにモンスターはでてこないよね…」と思っていましたけども、作中ではそんな視聴者の関心を翻弄するかのように、やたら不気味で抽象的な不安を煽る演出の連発で、落ち着かせてくれません。片目の白熊とかも出現するし…。
あまりにゆっくり物憂げなトーンで進行しているので、ちゃんと真相がわかるのだろうかと余計な心配もでてきてしまいましたが、最終話で怒涛の真実が氷解します。
オチを言ってしまいますが、あの研究基地の男性科学者たちを凍死させたのは、蟹加工所で働く女性たちでした(犯人は冒頭で登場させるというお約束をクリア)。男たちに口封じで殺されたアニーに対する復讐。作中で随所で強調されていたように、男社会で蹂躙された女性たちの静かな反抗です。
これは『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』やドラマ『バッド・シスターズ』のようにサブジャンルとして既に存在するものです。
なので『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』がこの芯のジャンルを最後に提示するのは、そんなに驚きには繋がらなかったです。
オチを知ってしまうと、ミステリー部分へのリアリティの観点での「あれってどうなの?」という疑問のほうが出てきてしまうところもあります。あんなに女性たちがぞろぞろと施設内に入ったなら、多少の証拠は残るだろう…とか。
個人的には不安を煽る演出に、この手のジャンルではクリシェだとはわかっていても、やはり「それをここでもやるのか…」というマンネリ感も感じました。相変わらず先住民は悲劇の象徴とスピリチュアルな要素の盛り合わせになるし、ジュリアのような精神的に苦しんでいる人が命を絶つ展開もね…。その苦悩に寄り添いたい製作者の意図はわかるけども、ショッキングな演出に消費された面も否めない…。
とにかく『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』は鈍重かつオカルティックなので、その形質を皿にしてテーマが6時間のボリュームでずっと続くのは、観ている側は少々疲労のほうが上回ってしまうかもしれませんね。
ナイト・カントリーは遅すぎた
『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』の魅力はやはり女性バディ。しかし、ジャンルのお約束どおり、このバディは最初は連携に支障をきたしています。
本作のキャラクター設定で共通するのはどの人物も何かしらのトラウマを抱えていること。ダンヴァースは幼い息子ホールデンの死を引きずっています。ナヴァロは警官の自分以上に庶民に貢献して正義を示していたアニーの死を引きずっています(退役軍人のPTSDもある)。
2人はこのアラスカの男社会での立ち位置が異なります。ダンヴァースは板挟みになりやすいポジションで、テッド・コネリーやハンクとの付き合いもあります。ナヴァロはより体制に反抗的ですが、そうは言っても警官として限界を感じています。その2人の女性の立ち位置が、序盤で描かれる超ストレートなセックス・シーンでの上下関係でも表現されていました。
この2人が安易に仲良くならず、最後まですれ違いが微妙に残ったままという曖昧な展開は、本作の複雑さとして良いところだと思いました。
ただ、ダンヴァースの継娘である、そしてクィアな、リアのような若者描写はそこまで踏み込めていなかった気もする…。一応、リアは本作の事件の背景であるシルバースカイ社を始めとする大企業の環境破壊を突きつける目線の役割であり、抗議運動といい、エコロジーを下地にしています。でもその姿も画一的に終わった感じはありました。
もっと若者コミュニティの間でもすれ違いのドラマがあると思うのですけどね、現実では。
そう言えば、本作ではオープニングに”ビリー・アイリッシュ”の「Bury a Friend」が使われています(昔の曲の気分)。監督いわくインスピレーションの元ネタらしいですが、Z世代っぽさは出し切れていない作品だったかな…。
何よりも警察という公権力を主軸にしつつ、人権を問うことの立場上の難しさがでちゃったような…。良識ある警官として安直に描けないし…。私の要望としては、あのリアも謎解きにもうちょっと関与させても良かったのでは? なんだったら、最終的な後味としての決断に、リアの意見を反映させれば、大人にはこれが限界というところで、将来の課題としての若者へのバトンタッチにも発展できるだろうし…。
個人的に一番見どころだったのは、”カーリー・レイス”の存在感を堪能できたこと。ボクサーという経歴なだけあって、大柄でたくましいのですが、そんな外見でも力では解決できないことに葛藤する…。その両面の苦しい摩擦が演技に見事に乗っかっていました。
総論として、『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』は女性バディとしてシリーズの新鮮な扉を開きましたが、このシーズン4が作られる間に時代はより進んでしまいました。他の中年女性のミステリーであるドラマ『ポーカー・フェイス』やドラマ『デッドロック 女刑事の事件簿』とかと比べてしまうと、バランスはあと一歩で見劣りします。先駆性という勢いは薄かったかな、と。
シーズン4、作るのが遅すぎたんだ…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 56%
IMDb
8.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)HBO トゥルーディテクティブ ナイトカントリー TRUE DETECTIVE4
以上、『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』の感想でした。
True Detective: Night Country (2024) [Japanese Review] 『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』考察・評価レビュー
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