幸福都市
Netflix映画『幸福都市』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Cities of Last Things
製作国:台湾、中国、アメリカ、フランス(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ホー・ウィディン

幸福都市

あらすじ

逆行する時間の中で語られるのは、許しがたい罪を犯した者たちへの復讐に燃える、ひとりの男の物語。いつの時代でも、何かにもがき苦しみ、何かに追われていた。ただ、幸せな人生が欲しかっただけなのに。

ネタバレなし感想

台湾ノワールの世界へようこそ

東アジアで最も先進的な国はどこですか?

そんな質問は間違いなく荒れそうですし、みんながみんな、前のめりで「私の国が一番です!」と言ってきそうな雰囲気さえあります。普段からナショナリズム的な意味でいがみ合っているからこそ、隣国と比べられたときの自国称賛は本当にノリノリですからね(喧嘩するほど仲が良い…ならいいのだけど)。

その中であえて火に油を注ぐのも承知で言うならば、社会的な先進度で言えば、最近目立った成果をあげたのは「台湾」な気がします。2019年5月に初めて同性婚を合法化しましたし、世界報道自由度ランキングも韓国(41位)に次いでの42位でしたし。総合的に見ると、対外的には社会の先進性を客観的に示せる実績がいっぱいあります。

ただ、これも事実だと思いますが、どんな国でもその社会には“光と闇”があるもので、他者に胸を張れる美しい一面もあれば、その影には人には見せられない覆い隠したくなる一面もあるのが、世の理というやつです。

外交とか観光では“光”の部分をこれでもかと強調して、まるで“最高の国です”と言わんばかりの自画自賛ですが、“闇”の部分もまた無かったことにはできません。

そして、その“闇”を露わにするのは映画の役割だったりするわけで。

本作『幸福都市』は、台湾を舞台にした、いわゆる「ノワール」映画です。

「ノワール」というのはわからない人のために簡単に説明すると、特定の雰囲気を持つ犯罪映画のことを指し、退廃的な空気感、暗闇を強調するような演出、人格的に破綻した登場人物などに特徴づけられます。元はフランス語で、フランス製のノワール映画はもちろん、アメリカのノワール映画、香港のノワール映画など、各国のノワールが思い思いに作られています。最近だと『幻土』というシンガポール・ノワールもありました。


本作『幸福都市』は台湾ノワールですね。

タイトルに“幸福”とありますが、そんな題名どおりの幸せな光景は待っていないことは容易に想像がつくと思います。

また、本作は「近未来」を描く要素があることが一部の作品紹介で示されているのですが、これは勘違いする人もいると思うので事前に言っておきますけど、近未来要素は序盤の前半1/3くらいにしかありません。なので『ブレードランナー』みたいなSFノワールを想像すると、期待外れに終わるので注意してください。

一方で近未来要素なんかよりも、もっと本作を特徴づけるポイントがあって、それは時間軸が未来から過去に逆行して描かれていくこと。『メメント』ほど徹底したものではないにせよ、時系列はどんどん過去に遷移していくので、状況理解に少し頭のリソースを使います。そのため、よそ見しながらの鑑賞は全くオススメしません。

マイナー作品ではありますが、本作は2018年のトロント国際映画祭でプラットフォーム賞(Platform Prize)を受賞しました。このプラットフォーム賞というのは2015年に導入されたもので、カンヌ国際映画祭のようにコンペティション形式で選定するものです(トロントはコンペティション形式ではなかった)。

台湾ノワールが気になる人はぜひ鑑賞してみてください。Netflixで配信中です。

物語がわからなくなったら、後半記事にてざっくりしたあらすじを掲載しているので参考にどうぞ。

オススメ度のチェック
ひとり◯(ノワール好きなら)
友人◯(このジャンルが好きな同士で)
恋人△(暗いので盛り上げづらい)
キッズ△(大人向けのドラマ)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

「俺は置き去りか」

舞台は台北。楽しげな音楽と共に、ビルを見上げるような空を映すカットで始まるオープニング。そして、そのビルから落下してきた男がグシャリ。鮮血とともに息絶えた男の遺体を確認するドローン。野次馬に囲まれる中、事務的に遺体を回収する救急隊っぽい人たち。どうやらここは団地みたいな場所のようです。

その騒がしい横をとくに何事でもないかのように通り過ぎていく男。コイツが本作『幸福都市』の主人公であるジャン・ドンリン

ジャンは社交ダンス大会会場へ赴き、鮮やかに艶めかしく踊る男女にズカズカと近寄り、男を殴りつけます。「出入り禁止だ」と追い出されますが、この踊っていた女性はジャンの妻のユー・ファンらしい。しかし、見てのとおり、その関係性は完全に冷え切っています。

自動運転バスに乗りながら座席に取り付けられたタブレット風の端末でニュースを見ていると、社会資源部のシー・ジーウェイ大臣の動画が。するとメッセージが届き、病院の場所を知らせる情報が送られてきます。その後、「ホーの紹介だ」と言いながら個室風俗店に入ると、そこのセックスワーカーの女性からサイレンサー付きの銃を受け取るジャン。銃を確認していると、横で女は注射を打っています。この時代では「美容針」というものが流行っているらしく、高価なものの、綺麗になれるとか、いかにも怪しいですがコマーシャルもしていたので、非合法ではないっぽい(でも認可はないとも言っていた。どっち?)。

路地裏を歩いていると、可愛い子がいるよと客引きを受けますが、ある女性に目がとまります。その女性がいるホテルへ向かうと、例の若い女がお出迎え。昔の知人に似ているらしく、身元を聞きますが、女は気にせず“接客”を開始。「アラなのか?」そんなジャンの言葉に“接客”を続ける女。これでロールプレイは終わりだと虚しく告げます。

また自動運転バスに乗り、ある男と落ち合い、ブツを受け取ります。それは人の腕。

この時代の社会では大衆の腕にはチップが埋め込まれているらしく、それで常に一定のモニタリング監視下にあるようです。死ぬ瞬間の映像も収められており(どうやって撮影しているのかは謎)、下手なことは何もできません。

ジャンはその腕を使い、裏口から病院に変装して侵入。重武装な警備員の前を通り過ぎて、ある部屋へ。そこにはベッドで眠るジーウェイ大臣が。彼の腕にスプレーを吹きかけると、チップが支障をきたします。その隙を突いて大臣に乱暴に話しかけるジャン。そのまま憎しみを込めて怒りをぶちまけ、「警部補、お別れを言いに来ました」と射殺。

ひと仕事を終え、やったことに困惑しながらも、今度は別の建物へ。そこにいる娘に会いに来ます。しばし娘と会話する中でわかるのは、娘はパートナーとこの街を出るということ。ホクロを切除したという娘にイマドキは珍しい現金を手渡し、ハグする親子。その別れ際、娘から「離婚すべき」と言われます。「30年前に一度罪を犯しただけでしょ?」

それでも復讐に憑りつかれたジャンはおさまる居場所がなく…。妻と一緒にいた男が自宅のマンションから出てくるのを目撃。殴り倒します。そして、美容針を何食わぬ顔で打つ妻に怒りの矛先を向け、「何であの男を夕食に招いた?」「何回ヤった!」と首を絞め殺し…。

当然、ドローンに見つかり、窮地。ジャンはドローンにつかみかかり、そのまま建物から落下。いろいろな人の人生が最期を迎えました。

「一緒に行こう」

ここで画面にノイズが入り、時代が少し過去に戻ります。

どうやら私たちと同じ現代らしい時代。ある若い西洋人風の女性がショッピングモールで万引き。逃げる女性を追いかける若い男。警官らしく、女を取り押さえ、署へ連行。この若い男がジャンでした。例の女は、テキトーにのらりくらりと発言しながら、聴取をされていきます。

ジャンには奥さんがいるようで、同僚からも羨ましがられています。今日はもういいぞと言われ、早めに帰宅することになったジャン。しかし、家に帰ると奥から喘ぎ声。そこには先輩同僚のジーウェイとSMプレイを絶賛お楽しみ中の妻の姿が。これが序盤の近未来パートでジャンの娘が言っていた“30年前に一度罪を犯した”ということなのか。

怒りのあまりに掴みかかるジャンですが、揉みあいの中で、逆にジーウェイに銃をつきつけられ、「署に戻って普段どおり働け」と宣告。

ジーウェイは裏でかなり手を汚している警官らしく、そのジーウェイに目の敵とされてしまったジャンは、誘拐され、暴行を受けます。それをたまたま目撃していた例の万引き女に助けられ、社会に居場所のなくなった二人は寄り添い合い、やがて体を交える関係に。

この万引き女…名前は「アラ」…は、親との関係が悪いらしい。二人で夜の道をバイクで疾走し、どこまでも闇深いこの世界で「一緒に行こう」とベンチで約束を交わします。

しかし、そうは上手くはいかない。署に一旦戻ったジャンはそのままジーウェイにハメられ、逮捕されてしまうことに。署の前でタクシーで待つアラは、彼が戻ってこないことを悟り、立ち去ってしまいます。

幸福都市

「私みたいな大人になっちゃダメよ」

ここからさらに過去に場面が転換。

今度はまた初登場の、やけに派手そうな恰好をしている女。「ワン」と呼ばれるこの女は、道端の飲食屋台に「結婚式に行ってきた」と言いながら、麺をすすります。が、周囲に不穏な気配を察知。逃走劇がスタート。途中でバイクを盗みかけた若者と平行で逃げながらも、なんだかんだで作中一番の逃走オチを見せながらも、あえなく逮捕されてしまう女。

その若者と一緒に署に拘留されることになります。ワンを「おばさん」呼ばわりする若者に年齢を尋ねるワン。「17歳」。名前は? 「ジャン・ドンリン」。すると豹変するように、態度が一変するワン。「なぜここに!」と怒りだし、おばあちゃんが悲しむと言いますが、なぜそんな事情を知っているのかわからないジャンは迷惑半分困惑半分。

「母のこと知っている?」 
「ええ。会ったことがある」
「記憶にないんだ」
「会いたい?」
「もちろんさ。でも許せない」
「僕とおばあちゃんを捨てたんだ」
「母親の行動は間違いよ。でもきっと事情があったのよ。許してあげられない?」
「嘘だ、母は死んだ。俺はあんたの息子じゃない」

全ての事情を察知しても、それを認められないジャン。しかし、自分にとって最も重要な存在が目の前で闇社会に葬られ、「母さん!」と絶叫したときにはもう遅く…。

過去へ戻っても閉塞感は消えないのか

『幸福都市』は最初はいかにもな近未来監視ディストピアな社会から始まります。とはいってもそこまでのオーバーテクノロジーではなく、全部がだいたいもう少ししたら実現できそうなレベルの話なので、またリアルです(普及はしていないだけで、今の時点で実用的な技術確立はされているかな)。

無論、こういう監視社会を想定して未来を描くのは、本作の舞台が、監視を強める強大な中国という国の脅威にさらされる台湾だからという側面が大きいのは、言うまでもなく。

じゃあ、こういうテクノロジーのせいで閉塞的な世の中になったかと言えば、そうではないことが、過去に戻ることで示されます。こんなITがなくとも、いつでも他人不審&権力横暴の世界は実在していたという動かぬ事実。

どんなに過去に戻っても一向に閉塞感が消えることはないので、逃げ場のない袋小路に追い詰められるような感覚で、観ている観客も精神がすり減ってきますね。

それぞれの時代ごとにノワールには欠かせない「ファム・ファタール」と呼ばれる女性を登場させているのも印象的。最初はジャンの妻、次にアラ、最後にジャンの母。いずれもジャンに光を与えることができずに関係は終わります。

物語の主体となるジャンも、最初のパートの段階では、請負殺人でも生業にしているのかと思ったら、そんな人生の背景があるのかとわかる、私的な恨みの積み重ねが判明し、やっぱり人は人生によって形づくられるんだなとしみじみ。

ラストのブランコで遊ぶ女性と幼い男の子のシーンは、最後に残った幸せと見るか、絶望に染まる前の残骸と見るか。むしろ時代は変わっても変わらず流れる音楽の方が重要なのかもしれません。

映像的には、ノワールらしいダーク・アンダーグラウンドな空気感が素晴らしく、常にタバコの煙が充満するような世界が良いですね(こういう世界になってほしいという意味じゃないですけど)。

“ジャック・カオ”を始めとする俳優陣も見事に世界観にハマっており、まさに極上ノワールといった感じの様相。ちなみにアラを演じた人は“ルイーズ・グリンベルク”というフランスの女優。彼女は、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したローラン・カンテ監督の『パリ20区、僕たちのクラス』(演技経験のなかった本物の中学生が出演していることで話題だった)に出ていたとか。え、どこだろう。探したくなりますね。

ノワールはそもそも人を選ぶジャンルではありますが、『幸福都市』は時間逆行という点以外は、かなりド直球なノワールなので、マニアには味わいやすい映画だったのではないでしょうか。

日本だとまず劇場公開は一般にはされないタイプの作品なので、Netflixがあって良かった…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience --%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Changhe Films