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ドラマ『バッド・シスターズ』感想(ネタバレ)…女たちは家父長制の死に嘆き悲しむふりをする

バッド・シスターズ

その内心では何を考えているのか…「Apple TV+」ドラマシリーズ『バッド・シスターズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Bad Sisters
製作国:アイルランド(2022年~)
シーズン1:2022年にApple TV+で配信
原案:シャロン・ホーガン ほか
性暴力描写(暗示) 動物虐待描写(ペット) DV-家庭内暴力-描写 LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写

バッド・シスターズ

ばっどしすたーず
バッド・シスターズ

『バッド・シスターズ』あらすじ

ジョン・ポールは亡くなった。その妻であるグレースは悲しみに沈みつつ、娘と共に葬儀の日を迎える。しかし、グレースの姉妹である他の4人はどこか落ち着かない。この悲しい日も神妙に互いの顔を見合わせ、言葉を抑え込む。このガーベイ姉妹は秘密を抱えていた。一方でジョンの生命保険会社は高額の保険料を支払いたくないゆえに、このジョンの死に不正があってほしいと藁にも縋る思いで調査を開始するが…。

『バッド・シスターズ』感想(ネタバレなし)

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恥知らずの家父長制に「死」を…

2023年3月13日、衛藤晟一・自民党少子化対策調査会長は、奨学金の返済免除制度の導入について「地方に帰って結婚したら減免、子どもを産んだらさらに減免する」と発言し、その家父長制っぷりも恥ずかしげもなく披露しました。なぜこんな価値観の人物が日本の少子化対策の中心にいるのかさっぱり理解できませんが、家父長制というものは本当に厚顔無恥です。

「女は男と結婚して幸せになる。子どもを産んでもっと幸せになる。そうして社会は成り立っている」…そんな考え方が真理だと思っている。だからずっと女性は社会に搾取され続けてしまいます。すでに日本の女性差別的な男社会の酷さは世界に公然と知られており、この国の恥ですが、当の中心にいる男たちは全然お構いなしで平然としています。

こうなったらどうやってその愚かさを自覚するんだろう?と思うのですが、そんな日は来ないのかもしれません。己の恥を知らぬままに死ぬだけなのかも…。

今回紹介するドラマシリーズは、そんな恥知らずの家父長制の権化のような男の死から始まります。そしてこれは虐げられてきた女たちの悪戦苦闘をユニークに描いたものです。

それが本作『バッド・シスターズ』

本作はネタバレできないタイプの作品なので、紹介するのが難しいのですが、とてもフェミニズム一筋なドラマです。アイルランドの海辺の田舎町であるひとりの男性が亡くなり、葬儀がしめやかに行われ、残された妻の女性は悲しみに暮れているのですが、この妻の女性には他に4人の姉妹がいます。なぜかこの4人の姉妹は複雑な表情を浮かべており、実は亡くなったあの男はかなりのDV野郎だったのです。4人の姉妹たちはDV夫に支配される可哀想なシスターを救ってあげたいとずっと思っていました。殺してやりたいほどに…。さあ、となってくると、この男の死には裏があるのでは…?

そんなミステリー要素もあるサスペンスで、メインテーマにドメスティック・バイオレンス(DV)がズシンと鎮座しています。DV題材の良質ドラマと言えば、『メイドの手帖』がありましたけど、この『バッド・シスターズ』も現在だけでなく過去パートも並行して描かれ、DV描写が全話通して生々しく横たわっています。

ただ、このドラマ『バッド・シスターズ』が面白いのはそんなシリアスさもありつつ、ブラックコメディにもなっているということ。どういうこと?と思うでしょうが、観たらわかります。不謹慎な笑いを誘うブラックユーモアを交えつつ、しっかりシスターフッドを描き抜く、とても独特なバランスのドラマです。

『バッド・シスターズ』は2012年のベルギーのテレビドラマ『Clan』をリメイクしたもので、今回の再ドラマ化にあたって、中心で先導したのが“シャロン・ホーガン”。俳優として活躍もしていましたが、製作や脚本でもキャリアを重ね、2006年の『Pulling』、2012年の『Dead Boss』、2015年の『Catastrophe』、2016年の『DIVORCE/ディボース』と、シットコムを手がけてきました。『バッド・シスターズ』では主演も務めつつ、今回も素晴らしい才能を発揮しています。

“シャロン・ホーガン”以外の俳優陣は、『未来を花束にして』の“アンヌ=マリー・ダフ”、ドラマ『ラスト・キングダム』の“エヴァ・バーシッスル”、ドラマ『ダブリン殺人課』の“セーラ・グリーン”、『ブリッジ・オブ・スパイ』の“イヴ・ヒューソン”、『ヘルボーイ』の“ブライアン・グリーソン”(“ドーナル・グリーソン”の兄弟です)、ドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』の“ダリル・マコーマック”、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』の“クレス・バング”など。

再度忠告しますけど、『バッド・シスターズ』はDV描写がかなりあるのでフラッシュバック等のリスクもあるため留意してください。また、この感想記事の上記でトリガー警告表示していますが、他にもあれこれと不快感やトラウマを刺激しかねない注意が生じるトピックの描写がありますので、そちらも頭に入れておいてください。

でも『バッド・シスターズ』は非常にエンパワーメント溢れる女たちのドラマです。クソったればかりな現実社会にうんざりした時は、この本作を観て、エネルギーを補給しましょう。

『バッド・シスターズ』は「Apple TV+」で独占配信中です。

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『バッド・シスターズ』を観る前のQ&A

✔『バッド・シスターズ』の見どころ
★エンパワーメント溢れるシスターフッド。
★ブラックユーモアを交えたサスペンス。
✔『バッド・シスターズ』の欠点
☆不謹慎に死傷者がでるので不快に思うかも。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:家父長制に一発入れたい人に
友人 4.0:展開を予想し合って
恋人 3.5:異性ロマンスあり
キッズ 2.5:やや残酷な描写あり
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『バッド・シスターズ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『バッド・シスターズ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):あの人は死んだ

たくさんのサンドイッチを用意するひとりの女性、グレース。しかし、その表情は悲痛で、窓辺で涙を流し、鼻をかみます。「ごめんなさい」と声をかけた相手は棺で眠る男、ジョン・ポール・ウィリアムズの亡骸です。グレースの最愛の夫であり、悲しい別れとなってしまいました。

その夫の顔を撫でていると、ジョンの股間が立っているのに気づき、何かで隠そうとします。

一方、黒い喪服のイーバはマズいワインを捨てます。片目の潰れたビビはゆっくり湯船に浸かっています。アースラはスマホをいじっていましたが、手のかかる夫や子どもたちに呼ばれます。ベッカは足を滑らせつつぬかるんだ海辺でランニングしています。4人ともグレースの姉妹で、近隣に住んでおり、仲は良いです。

イーバはグレースの家へ。ドアを開けたのはグレースとジョンの娘のブラネイド。「パパが死んだ気がしない」と口にし、イーバは同情します。棺のジョンをじっと見つめるイーバ。なぜかジョンはパジャマ姿です。

棺が家から外へ運ばれるのを見送るガーベイ姉妹の女たち。葬儀参加者の車列が海辺の道を走ります。

ベッカはまだ浜辺でした。目の前でバイクが事故を起こし、運転していた男は無事なようですが不機嫌に去っていきます。

赤い上着のベッカは教会に駆け込み、他の姉妹と揃って葬儀を複雑そうに見守ります。

ところかわってクラフィン・アンド・サンズ保険では、トーマス(トム)はジョンの生命保険証書に嫌そうに目を通していました。ベッドにいる起き上がれない任務の妻テリーザのもとに寄り添い、なんとかこの保険会社を切り盛りしようとします。でも深刻な問題がありました。

異母兄弟であるバイク男のマシュー(マット)が来て、高額の保険金請求書を見せ、支払わずに済ませると言い切るトム。実は支払うだけのカネはなく、倒産寸前でした。マットはジョンの死は保険金殺人ではないかと疑っています。

半年前、ガーベイ姉妹はイーバの家で賑やかなクリスマス・パーティを開いていました。ジョンは失礼な発言が目立ち、とくに不妊症のイーバに妊娠のジョークを言ったことで場が凍ります。しかし、グレースは感情的になりながらジョンをかばい、「良い夫で父親で、私は幸せよ」と言ってのけます。

ガーベイ姉妹は伝統で、毎年恒例のクリスマスの朝にフォーティー・フットで水泳をしていました。ところが、酔って危険だという理由でグレースと娘を行かせないジョン。グレースは夫には逆らえません。

4人姉妹たちは「来れない」というグレースの連絡に失望し、それがあのジョンのせいだというのもわかっていました。

泳ぎ終わった後、グレースは結婚以来支配されて変わってしまったと4人の姉妹は語り合います。あいつが死ぬのを待つかと無力感に包まれながらお喋りしていると、ビビは「私たちが手を下す」と冗談半分で口にします。そして笑いながら各々で考えつく殺し方を語り合う姉妹たち…。

現在、4人の姉妹は内心では緊張していました。不意にやってきた保険会社の調査でなおさらその緊張が高まります。バレるわけはない。きっと大丈夫。あの過去の出来事は私たちだけが知っている秘密…。

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家父長制はなかなか死なない

『バッド・シスターズ』は、ジョン・ポール(JP)がまだ生きている「過去パート」と、亡くなった後の「現在パート」の2つに分かれており、それぞれが並行して描かれつつ、「JPはどうやって死んだのか?」というのが最大の謎として視聴者の前に投げ出されます。

過去パートで何よりも描かれるのが、このJPのあまりにも最悪な存在感。クソ野郎という個人の性質に還元するべきでもない、あの男はそれこそ家父長制そのものなんですね。

「マミー」と呼ぶグレースへの目に余るガスライティングによって、グレースは完全に良妻賢母の檻に閉じ込められてマインドコントロールされてしまい、抗えません。猫の死を押し付けるあたりとか、もう鬼畜以外の何者でもないですよ。

それにとどまらず、アースラには不倫の証拠で脅迫して性的な画像まで騙し取るわ、ビビには無謀な運転で片目を奪うわ、ベッカには金銭支援の嘘でキャリアを台無しにするわ、あげくにアルコール依存症でリハビリ施設にいたイーバには性的暴力をした過去があるわ(最終話のあのイーバの姿はツラい)…。

姉妹だけじゃないです。父ジョージすら見殺し、母ミンナにも父(夫)の死を偽り、ガブリエルへの同性愛嫌悪だったり、はたまたロジャーを児童虐待者として虚偽告発したり…。

全方位で有害でしかないJP。観客に対しては「絶対こいつは死んだ方がみんな幸せになりますよね」という凄まじい説得力がある。

そんな中、4姉妹が団結してこのJPの殺害を企画するのですが、これがこのドラマのシュールなあたりで、それが全部ことごとく失敗します。姉妹揃ったらシスターフッド発揮で完璧な殺害…ではなく、わりとこの姉妹もへっぽこなんですよね。爆殺、毒殺、射殺、溺死、凍死とあらゆる手段を練るのですが、むしろ作戦に凝りすぎて怪獣を倒す並みに大掛かりで、それがおかしかったり。しかもJPもやたら丈夫です。「いい加減、死んでくれ!」とこっちも怒鳴りたくなる…。

でもそんな極端に誇張されたJPのしぶとさも、家父長制を滅ぼすのはこんなにも大変なんだという現実の反映でもあって、おかしさと切実な苦しさが同居しています。

そして4姉妹が殺害を全然上手くいかないもリアルで、むしろ過剰に「女性は強い」と褒め称えられがちな表象におけるカウンターにもなっていて、本作は家父長制を前にした女性たちの現実的な弱さを素直に描けていたのではないでしょうか。『プロミシング・ヤング・ウーマン』に通じる感じですね。

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苦しさをもっと早く共有していれば…

『バッド・シスターズ』の現在パートでは、保険会社のトムとマットが謎解き役となって、ジョンの死の真相に迫ろうとします。

ここも面白いのが、このトムとマット、とくにトムは保険金殺人だと頑なに思いこんでおり、背景に家父長制の呪縛があるなんて考えもしていないということ。マットはその言動から察するに、男の方が弱いとか言ってるくらいで、一生あのガーベイ姉妹の苦悩に裏付けされた真相に辿り着けそうにないです。トムとマットも横領という罪を残して死んだ父リアムという家父長制の残骸に苦しめられている側なんですけどね。

結局、墓を掘り起こして解剖しても何もわからず、死の真相にようやく終盤で気づくのはマットです(テリーザも有能だった)。そしてその死は意外なものでした。

4姉妹はJPを殺しておらず(でもそれ以外でいろいろやらかしているので焦っている)、別荘のウィックローに殺す気満々で来るともうJPは死んだ後。4姉妹も真相を知らず、最後にグレースの告白で全てが判明します。とても辛く苦しいあの夜の出来事が…。

「JPを殺害したのはグレースだった」というオチ(ロジャーも助けている)は、ミステリーとしては普通かもしれませんが、このDVをテーマにしているものとしては切実です。フィクションでは済まず、そういう事件は世の中にありますからね(ドキュメンタリー『ロレーナ事件 世界が注目した裁判の行方』も参照)。

そこまで苦しむまで思い詰めさせてごめん…という4姉妹の後悔と苦悩、そしてグレースのおそらく姉妹には迷惑をかけまいと誓っていたのでしょう、そのひとりで抱えていた苦悩。別にこの5人の女たちは何も悪くないのに…。とは言え、この最終話でようやく果たされる苦しさの共有によって、本作の物語は幕を閉じます。

それにしても映画からヒントを得て殺害事故偽装計画を土壇場で完遂するグレースの才覚。あれだけダンスも絵画も趣味として成り立たなかったのに、JPが死んだ途端、4姉妹を合わせたよりも有能なスキルを発揮できるグレースは、やっぱり元からすごく頼りになる優秀なシスターだったんでしょうね。それを潰したのがJPの罪です。

多少巻き添え被害が過ぎるのがあれでしたが、『バッド・シスターズ』は物語構造が巧みで、俳優陣の演技の妙もあって、実に楽しめました。ブラネイドが父の死に全然悲しんでいないのも、このJPの死に後ろめたさを感じない後押しポイントですよね(ブラネイドが殺した線もあるんじゃないかとヒヤヒヤした)。

最後にマットに女の子が生まれ、その子に差別も暴力もない幸せな未来が訪れることを願いつつ、ついに揃った5姉妹の水泳が心をやっと晴れさせてくれます。

子どもを産んでほしいなら、その子が苦しまない世界をまずは作りましょう。聞こえてますか、家父長制にあぐらをかいている、そこの政治家さん…。

『バッド・シスターズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 71%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

女性への暴力を題材にした作品の感想記事です。

・『シスターズ』

・『シャイニング・ガール』

作品ポスター・画像 (C)Apple バッドシスターズ

以上、『バッド・シスターズ』の感想でした。

Bad Sisters (2022) [Japanese Review] 『バッド・シスターズ』考察・評価レビュー