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映画『エデン 楽園の果て』感想(ネタバレ)…実話は鶏肉と共に葬った

エデン 楽園の果て

誰にもわからないように…映画『エデン ~楽園の果て~』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Eden
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2025年にAmazonで配信
監督:ロン・ハワード
動物虐待描写(家畜屠殺) 性描写 恋愛描写
エデン 楽園の果て

えでん らくえんのはて
『エデン 楽園の果て』のポスター

『エデン 楽園の果て』物語 簡単紹介

ガラパゴスのフロレアナ島。既存の思想や社会に失望してドイツからやってきたフリードリク・リッターとドーラ・シュトラウヒの男女は、この野生の動植物しかいない未開の地で暮らし始めた。自身の考える理想を見いだすべく、欲や物質へのこだわりを捨てる。しかし、ハインツ・ウィットマーとその妻子、さらには快楽主義的な謎の若い女性まで島に現れ、事態は不穏になっていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『エデン 楽園の果て』の感想です。

『エデン 楽園の果て』感想(ネタバレなし)

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ガラパゴス諸島に移り住んだ人間の生態

「ガラパゴス諸島」は名前だけ聞いたことがある人も多いでしょうけど、どこにあるかわかりますか? 南米の北東に位置するエクアドル、その西の太平洋をずっと1000km行った先の赤道直下、そこに点在するのがガラパゴス諸島です。

もともと海底火山の活動によって生まれた島だと言われており、何百年前から存在します。そこに大昔から定住する人間はいなかったと考えられており、いわゆる先住民もいません。現在はエクアドル領になっていますが、1500年代~1800年代は、海賊の隠れ家になったり、捕鯨船の休憩地になったりと、散発的に人間に利用されてもきました。

そんなガラパゴス諸島は今は固有の自然の宝庫という印象が強いですが、実は陰惨で謎めいた小さな事件が起きた歴史があります。それはガラパゴス諸島のうちのひとつであるフロレアナ島で1930年代初めに起きました。

一体何が起きたのか。聞けば「え? これって本当にあった出来事なの?!」と衝撃を受ける事件の全容。それを映画化したのが今回紹介する作品です。

それが本作『エデン 楽園の果て』

舞台は先ほども説明したとおり、ガラパゴス諸島のフロレアナ島。基本的に無人島だったこの島に、1929年から数人が移り住むようになります。それぞれの目的がある人たちが、図らずも小さなコミュニティを形成することになったわけですが、だんだんと不穏な人間関係になっていき…そして…。

史実に基づいていますが、一部は脚色されています。というか、何が真実なのか今なお曖昧なので、想像で描くしかないという感じですが。

別に遭難・漂着しているわけではないですけども、実質的には過酷な環境の島でのサバイバルが繰り広げられるので、『蠅の王』みたいなものです。人間の本質的な暴力性や陰湿さが浮かび上がってくるような…。

この『エデン 楽園の果て』を映画化したのが、大ベテランの“ロン・ハワード”というのがちょっと意外なところ。でも『白鯨との闘い』(2015年)とか、『13人の命』(2022年)とか、実話モノをよく手がけるし、そう考えると驚くことでもないのかな。

俳優陣は豪華です。まず、ドラマ『スター・ウォーズ:スケルトン・クルー』でも胡散臭い男を熱演していた“ジュード・ロウ”。今回も人間臭さをみせてくれます。次に、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』でスーパーヒーローの雄姿をみせてくれたばかりの“ヴァネッサ・カービー”。今作では、スーパーパワーなんて欠片もない人間の弱さが滲み出る役です。

さらに、ドラマ『ザ・フランチャイズ』“ダニエル・ブリュール”『IMMACULATE 聖なる胎動』“シドニー・スウィーニー”『バレリーナ:The World of John Wick』“アナ・デ・アルマス”『西部戦線異状なし』“フェリックス・カマラー”『ロイヤルホテル』“トビー・ウォレス”など。

『エデン 楽園の果て』は2024年の時点で完成して映画祭で上映されていたのですが、一般公開は2025年になってしまい、日本では劇場未公開で「Amazonプライムビデオ」での独占配信になりました。またも“ロン・ハワード”監督作は日本では劇場公開ならずです。

これを観るとガラパゴス諸島の印象が少し変わってしまうかもですね。

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『エデン 楽園の果て』を観る前のQ&A

登場キャラクターの整理

  • フリードリク・リッター(Friedrich Ritter)
    …哲学者。
  • ドーラ・シュトラウヒ(Dore Strauch)
    …フリードリクのパートナー。
  • ハインツ・ウィットマー(Heinz Wittmer)
    …島に来た家族の夫/父。
  • マーグレット・(Margret Wittmer)
    …ハインツの妻。
  • ハリー(Harry Wittmer)
    …ハインツの子ども。
  • エロイーズ(Eloise Bosquet de Wagner Wehrhorn)
    …男爵と名乗る女性。
  • ロバート(Robert Phillipson)
    …エロイーズの恋人。
  • ルドルフ(Rudolph Lorenz)
    …エロイーズの恋人。
✔『エデン 楽園の果て』の見どころ
★過酷な島で露わになる人間の本質の駆け引き。
✔『エデン 楽園の果て』の欠点
☆良い脚色もあれば、単調な脚色もある。

鑑賞の案内チェック

基本 家畜動物を殺す描写があります。また、不妊を嘲笑うシーンもあります。
キッズ 2.0
性行為や残酷な暴力の描写があります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『エデン 楽園の果て』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

第1次世界大戦の余波で世界の経済が足元から崩れ、その合間をファシズムが蔓延しだした1929年。人々は恐怖から逃げ惑っていました。

ドイツ人哲学者のフリードリク・リッター博士は、教え子でもあり、今はパートナーでもあるドーラ・シュトラウヒと共に、混乱のドイツから出国し、ガラパゴス諸島のフロレアナ島に移住を決めました。

この島にインフラはなく、ジャングルに囲まれた中での自給自足の生活をするしかありません。しかし、フリードリクは気にしません。ひとつの使命に憑りつかれていたのです。それは人類を救う急進的な哲学を発表すること。タイプライターに向き合い続け、それだけにこだわっていました。

1932年の冬、退役軍人のハインツ・ウィットマーも妻子のマーグレットハリーを伴ってこのフロレアナ島へやってきました。フリードリクの人生に触発されたのです。ドイツでは手紙の断片的情報でフリードリクとドーラは報じられており、有名でした。

島に到着したハインツら家族は、想像以上に無人島同然の島の姿にまず愕然とします。さっそくフリードリクとドーラに挨拶しに行き、2人の生活実態を垣間見ます。フリードリクとドーラはベジタリアンな食事をとっており、ここでは何よりも水不足が深刻で、雨水頼りだそうです。危険なオオムカデもうようよしており、油断できません。

ドーラは瞑想によって多発性硬化症を治そうとしているらしく、ブーロと名づけたロバを大切にしている様子

ハインツら家族は、剥き出しの小さい洞窟に案内されます。水源は岩肌にわずかに流れる水のみ。ここで過ごすといいとのこと。

フリードリクとドーラは新たな移住者のハインツらをひとめで嫌っていました。あの洞窟に案内したのも嫌がらせです。ろくに水資源もないので畑すらできないだろうと考えていました。

しかし、ハインツら家族は一心不乱に労働し水源を拡張し、泥まみれになりながら生活環境を整えました。マーグレットは夫に妊娠を告白します。ハリーはハインツの前妻の子なので、マーグレットとの間の初めての子となります。

そんな中、「男爵(バロネス)」を自称するエロイーズ・ベアボン・ド・ワグナー・ブスケという若い女性が、2人の恋人のロバートルドルフ(ルーディ)、そしてエクアドル人の使用人マヌエルを伴って、優雅に上陸してきます。

エロイーズは島に高級リゾートを建設する野望があるらしく、大量の物資を持ち込んで自由気まま。フリードリクとドーラ、ハインツら家族…双方にとってかなり目障りな存在でしたが…。

この『エデン 楽園の果て』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/10/27に更新されています。

ここから『エデン 楽園の果て』のネタバレありの感想本文です。

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真実と脚色の狭間

『エデン 楽園の果て』を観ると何よりもどこまでが史実なのか気になってきます。作中でも語られるとおり、ドーラとマーグレットはそれぞれ自身の体験を綴った本を出版していたものの、その内容は微妙に食い違っており、真実の全容は明らかではありません。

ただ、本作で描かれている大部分の大まかな出来事は実際にあったことだそうです。

夫と子が狩りに出かけている間にマーグレットがひとりで洞穴で出産したのも、エロイーズとロバートが殺されたのも、フリードリクが鶏肉で食中毒死したのも…。

一方で最大の謎であるエロイーズとロバートの死については、本作は大幅に劇的な脚色を加えています。つまり、3つの異なる勢力(フリードリク&ドーラ、ハインツら家族、エロイーズ組)が緊張関係をエスカレートさせた結果の暴力だった、と。

とくに今作では男爵を名乗るエロイーズがかなりベタな悪役に仕立て上げられており、そのせいでメロドラマみたいな雰囲気になっています。確かにエロイーズはフリードリク&ドーラとハインツら家族に嫌われていたらしいですが、さすがにここまでコテコテな悪女っぷりなのは映画の味つけです(『ドリアン・グレイの肖像』を愛読していたのは事実らしいけど…)。

この映画のエロイーズは、キャバレー出身だというプロフィールも合わせて、快楽主義的な悪女という結構ステレオタイプな悪役になってしまっているので、ちょっと脚色としては単調だなとは思いました。アラン・ハンコックを性的に誘惑する展開も蛇足感がありますし…(実際は何度か撮影班が島を往来し、『The Empress of Floreana』という作中でも引用されている短編映画を撮っています)。“アナ・デ・アルマス”の演技はノリノリで貫禄がありましたが。

作中ではエロイーズとロバートは、堪忍袋の緒が切れたフリードリクとハインツとルドルフの3人の共謀で突発的に殺害されたことになっています。しかし、この事件は実際は未解決のままで、通説ではルドルフの単独犯行ということになっているそうです。この事件は2013年に『The Galapagos Affair: Satan Came to Eden』というドキュメンタリーでもまとまっています。

さらに『エデン 楽園の果て』はここに上乗せするように別の共謀を示唆しており、それがマーグレットがドーラをそそのかしてフリードリクをわざと食中毒死させたようにみせていることです。つまり、男たちの思いつきな共謀と、女たちの静かな策略、この双方でもって、この島でのサスペンスを盛り上げています。

真実はさておくにしても、マーグレットが2000年まで95歳の年齢で亡くなるまで生きたというのも凄いですよ。孤島ではないし、何回かドイツに戻ったりもしたそうですが、それでもあそこに住み続けようと留まった執念は何だったのだろうか…と考えてしまいますね。

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ファシズムも民主主義もない世界

『エデン 楽園の果て』は3つの異なる勢力を描いていますが、そのグループ内でも個人で立場は違っていて、全員の駆け引きが生じるのがサスペンスを面白くさせていました。

フリードリクとドーラは、ヴァイマル共和政のドイツから逃げるようになってきた知識人で、ファシズムも自由主義も民主主義も、またあらゆる宗教にも失望しており、虚無的なままにこの島に流れ着いた彷徨い人です。既存のイデオロギーを否定し、己の個人的正解を求め、非暴力の理想は最終的に本質的な動物的本能としての暴力の肯定に行きつくという、フリードリクの辿る末路はいかにもではありますが…。

一方、ハインツは、フリードリクに影響を受けつつも、だいぶ内心では違っていて、彼は戦争に対するPTSDの影響が滲んでいました。知的な探究心とかはなく、本当にただただ逃げ込んできただけであり、それこそ最も難民に近い立場です。

フリードリクとハインツの関係だけを抜き取ると、事実上の先住民を自称するようになったフリードリクが、後発の移民のハインツを毛嫌いするという、排外主義的な構図がみえます。ブルジョア的価値観を嫌っているわりには、排外主義はしっかり内面化しているのが皮肉です。

別の見方として、男性陣に対する女性陣の立場を見て取ることもできます。

ドーラはフリードリクと考えを完全に一致させているわけではありません。一見するとドーラはなぜフリードリクなんていう男についてきているのか謎です。ドーラは妻ではないと自称し、結婚制度にさえも否定的です。だったらフリードリクの隣にいる意味はあるのか、と。

どうやらドーラは子宮を失っているようで、そうした社会規範における女性への期待から逃避しようとした結果、あのフリードリクの傍しか居場所がなかったのかもしれません。フリードリクの理想とする野望にすがるしかないほどに追い込まれるというのは、当時の女性の生きづらさを物語っているとも言えるでしょう。

そしてマーグレットは、かなりよくいる保守的な女性の思考を持っており、「女は夫に付き従うべき」という規範どおりに振る舞っています。その点ではドーラと真逆です。しかし、過酷な島での生死を分ける道のりを歩み、いつの間にか誰よりも自立した生存力を有する人間に到達していました。

ファシズムも民主主義もないけど、家父長制は残存する世界で、2人の女性にとっての「楽園」は何なのか。始まりは「楽園」と言ってもそれは「男の楽園」であり、終盤になってそのジェンダー格差があらためて浮き彫りになります。

マーグレットが一番キャラクターとして成長がみえるので、鑑賞していても見ごたえのある存在でした。ドーラとの重ね合わせもプロットとしてはベターです。ただ、また繰り返しになりますけど、エロイーズも合わせて考慮すると、あまり上手くいっていないプロットになるのはやや残念なところ。自由を求めすぎた女としてのエロイーズには天罰が下り、最も中間的で穏便な女であるマーグレットに妥協的にオチをつけるのは、ちょっと怖気づいたような感じだし…。

惜しい脚本ではありましたが、半信半疑になるような実話の一部始終をみせてくれる映画としては『エデン 楽園の果て』は楽しかったです。

『エデン 楽園の果て』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

以上、『エデン 楽園の果て』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Imagine Entertainment

Eden (2024) [Japanese Review] 『エデン 楽園の果て』考察・評価レビュー
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