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映画『ウルフマン』感想(ネタバレ)…2025年の狼男は死にかけている

ウルフマン

だから終わりにしよう…映画『ウルフマン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Wolf Man
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年に配信スルー
監督:リー・ワネル
ウルフマン

うるふまん
『ウルフマン』のポスター

『ウルフマン』物語 簡単紹介

サンフランシスコで妻と娘と共に平穏に暮らすブレイクは、ある日、失踪していた父の死亡通知を受け取る。そして、遠く離れたオレゴン州郊外の山深いところにポツンと建つ実家に向かうことにする。幼い頃はそこで父と過ごしていたが、厳格な父親との思い出はあまり良いものではなかった。久しぶりに訪れたその場所で、得体の知れない獣のような存在に襲われ…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ウルフマン』の感想です。

『ウルフマン』感想(ネタバレなし)

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2025年は狼男には厳しい

「狼男(オオカミ男)」はヨーロッパの民間伝承に端を発し、キリスト教と結びついて15世紀初期から狼男とされるものを裁判で処刑する事態が相次ぎ、信仰的なモラルパニックを巻き起こしました。

ただ、人間が狼(オオカミ)に変身するという物語は古代の世界の神話にあちこちでみられるので、もともとはもっと普遍的な起源があるのだと思われます。

どちらにせよ、今は狼男はホラーアイコンですけどね。

2025年に新たに再誕したこの狼男の物語は、どんな恐怖を残すでしょうか。

それが本作『ウルフマン』

本作は「Universal Pictures(ユニバーサル)」配給・製作の映画で、1941年の『狼男』をリブートした一作です。

自社のクラシックホラーモンスター映画群「ユニバーサル・モンスターズ(Universal Monsters)」をまとめてリブートして世界観をシェアしたシリーズにしようとした、通称「ダーク・ユニバース」は映画第1弾から盛大にズッコケて無かったことになり…。その代わり、2020年の『透明人間』の成功で、「小規模ホラーとして個別にリブートする」という路線に変更されました。

今回の狼男はドラキュラと並んで有名ですからね。タイトルだけでも貫禄があります。

でも映画の中身はかなり小規模スタイルで、しかもエンタメ性をあえて避けた挑戦的な意欲作になっています。リブートは2010年にもあったのですが、それよりもさらにインディペンデントな作りです。

今作『ウルフマン』を手がけたのは、『透明人間』から引き続いての“リー・ワネル”監督なのですが、『透明人間』以上にエンタメ性を排しているので、玄人な味わいがあります。『ウルフマン』、アメリカ本国でもヒットはしなかったようですけど、実際に観ると「そりゃあ、そうだろうな…」ってなります。かなり陰鬱な映画ですし…。

中身は…狼男がでてくる…。それは説明不要でわかりますよね。

う~ん、あとは何を紹介すれば興味を持つ人が増えるだろう…。ボディ・ホラーの要素が濃いので、それが好みの人は楽しいかもしれません。

『ウルフマン』の俳優陣は、『ポゼッサー』“クリストファー・アボット”『ロイヤルホテル』“ジュリア・ガーナー”、ドラマ『Hullraisers』“マチルダ・ファース”、ドラマ『オハイオの悪魔』“サム・ジェーガー”など。

ちなみに、企画当初は、主演は“ライアン・ゴズリング”を予定し、“デレク・シアンフランス”監督を起用するつもりだったそうで、たぶんそれはそれで全く別の味の「狼男」映画になっていたろうなと思います。

『ウルフマン』は日本では劇場未公開で、ビデオスルーになってしまったので、2025年の不遇ホラーに加わったのでした…。しかも、話題性が乏しいから余計に目立たないという…。

頑張れ、狼男…。2025年の迫害に耐え抜くんだ…。

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『ウルフマン』を観る前のQ&A

✔『ウルフマン』の見どころ
★恐ろしい寓話を眺めるような体験。
✔『ウルフマン』の欠点
☆陰鬱な物語で、後味も重いです。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.0
怖い描写が多いです。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウルフマン』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

1995年、アメリカのオレゴン州の山中の奥地、ハイキングをしていた人が行方不明になって異様な事態が起こる不可解な出来事が地域を震撼させました。この事件は、地元の人々からは「ヒル・フィーバー」、ネイティブ・アメリカンの部族からは「ma’iingan odengwaan(狼の顔)」と呼ばれるようになります。野生動物が媒介するウイルスだという憶測もありましたが、確かなことは誰にもわかりません…。

この人里離れた山間で、幼いブレイク・ラヴェルは、父のグレイディと質素に暮らしていました。家畜と犬との自給自足の生活であり、それ以上のものはありません。

2人は互いに銃を背負って狩猟のために森に足を踏み入れます。父はブレイクに森で生きる術を厳しく叩き込みます。ブレイクは直立不動で黙って父に従うのみ。

そのとき、1頭の鹿を発見。父はスコープで狙いを定めますが、鹿は森の奥に消えました。木々に隠れ、どこかまだ近くにいるはずです。ブレイクは父に良いところをみせようと勝手にひとりで進み、鹿を探します。

しかし、ふと覗くスコープに何か二本足で立つ存在が見えた気がします。何かを感じ、ゆっくり後ずさりしながら周囲を見渡します。

そこに慌てた父が駆けつけ、激しく怒ります。熊もいる危険な森です。未熟な子どもだけではどうすることもできないです。

またも何かの気配。2人は狩猟小屋を見つけ、ひとまずそこに落ち着きます。ここなら上から狙いを定めることもできますし、普通の獣なら警戒します。普通なら…。

何かが近づいてくる音。グレイディは銃を構えて待ち構えます。でもその獣らしい気配は立ち去ったような感じでした。付近をまたスコープで見渡すと動物の死体。そして高速で移動する大きな獣の影…。グレイディは撃ちますが、外しました。

今日はひとまずここで切り上げ、家に帰ってきました。父はどこに電話し、先ほど見かけた獣を撃ち殺すべきだと主張していましたが、電話相手の人はそれに消極的な様子。ブレイクはそんな執着する父の姿を影から見つめるだけ…。

30年後、中年となったブレイクは娘のジンジャーとジャーナリストの妻のシャーロットと共にサンフランシスコに住み、自宅でライターとして働いていました。最近のジンジャーは反抗もするようになってきましたし、ブレイクも手を焼いています。

ある日、疎遠になっていた父のグレイディは行方不明だったのですが、その死亡通知証明書と、幼少期を過ごしたあの家の鍵を受け取ります。過去を思い出します。あまり良い思い出ではないかもしれませんが、家は家です。

ブレイクは今の家庭の生活が良い方向に変わるかもしれないと思い、休暇でそこへ行くことを決意しますが…。

この『ウルフマン』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/10/24に更新されています。

ここから『ウルフマン』のネタバレありの感想本文です。

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狼になりうる父性の継承

2025年版の映画『ウルフマン』は、子どもには聞かせられない、大人が戦慄する恐ろしい寓話を眺めさせるような体験でした。こういう大人向けのダークな寓話は私は好物なので、基本的に本作も満足です。

まず冒頭は父子の鬱蒼とした森での狩猟の様子から始まります。

ちなみに作中の舞台はアメリカ北西部のオレゴン州ですが、撮影地はニュージーランドだそうです。“リー・ワネル”はオーストラリア出身なので、地元に近いところでの撮影で、やりやすかったのかもしれません。また、ニュージーランドには鹿は本来は生息しておらず、外来種として持ち込まれた鹿が定着しています。

話を戻して、この序盤パートで注目したいのは父子の関係性。仲良く和気あいあいと自然を満喫している…感じは微塵もありません。子どものブレイクは父であるグレイディの前で非常に張り詰めた緊張をしており、父の態度もまた常に威圧的です。温かい愛情を表に出すことはなく、支配的な振る舞いが印象に残ります。

明示的には描かれていませんが、まるでブレイクは虐待的な環境にあるような…そんな雰囲気が色濃いです。

そして暴力というものが密接に漂うパートでもあります。暴力こそが生存であると言わんばかりの父親。その父親が怯えるさらなる暴力の存在。ひたすらに不穏で、息苦しく暗い子ども時代です。

この序盤は自然での狩りを扱っていることもあって、とてもエコ・ホラーのサブジャンルの匂いが際立ちます。ただ、本作はその点をここから掘り下げることはしません。

察しのとおり、あの序盤で父子に忍び寄っている正体はおそらく狼男。例のハイカーが変貌した姿なのでしょうか。でもその原因は解明はされません。それこそウイルスなのか、突然変異なのか、呪いなのか、悪魔なのか…。謎は謎のままです。

それよりも本作は「父性」をクローズアップし続けます。

30年後に時代がジャンプし、父となったブレイクですが、その家庭は序盤のブレイクの子ども時代も暗澹たる空気ではないにせよ、どこかやはりここにも不吉さが漂います。ブレイクがお転婆な娘のジンジャーをりつけるその瞬間(わざわざ赤ずきんみたいな赤いアイテムをジンジャーに身につけさせているのは意図的でしょうか)、そして外で働き盛りの妻に対するどこか内に秘める劣等感…。

そう言えば、ブレイクの子ども時代の母親の存在はほぼ語られずじまいで、何かあったのだろうかと勘繰りたくなる感じではありましたね。

とにかくブレイクは父にかなり複雑な想いを抱え、違う父親像になりたいと思ってもいたのでしょうが、親から子へと不本意に受け継がれる忌まわしいものがあるかのように、父となったブレイクにもその兆しがみえます。これは比喩的な意味での呪いですかね。

そしてブレイクはあの家に舞い戻り、変わり果てた父に傷を負わされて、自身もまた変貌していきます。その中で妻と娘を傷つけそうになりながら…。しだいに家族と異なる存在になることで認知すらも遠ざかっていく…。

あらためて書いてまとめていると、本作、ものすごく悲しい残酷な物語です。愛していた人とかけ離れた存在になってしまう孤独と絶望がずっと映画に充満しています。内省的に自身の秘めたる異質さに向き合わせるようなプロットの作り方。観ていてスッキリするものはないです。

なんでこんな残酷な物語を作ったんだ、“リー・ワネル”…と思ったけど、よく考えたらこの人、『ソウ』の脚本家でした…。そうだ、無慈悲な物語が得意な人だった…。

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私の見える世界

映像としては2025年版の映画『ウルフマン』は昨今の何でもVFXに頼りがちな時代に逆行するように、徹底してCGIを採用せずに映像を作り込んでいました

一家でブレイクの家のある森の山道を車で走っていて狼男に驚いてハンドルを切りすぎて滑落するように車ごと木に引っかかるシーン。あれは本当に森で車を使って撮影したそうで、結構手のかかることをしています。

そして本作の見せ場とも言える、ブレイクが狼男に刻一刻と変貌していく過程です。ここもCG一切無しのメイクアップだけでみせています。“クリストファー・アボット”の面影が消えていくのがしっかり目に焼き付く細部のクオリティ。

ボディ・ホラーと言えば、“デヴィッド・リンチ”ですけども、獣臭さを重点的に描き込んでいましたね。今作のクリーチャーデザインも、人間味を残したままになっているので、どこか不格好なのですが、そこもまた野生的な佇まいで良かったです。

ここは好みがあると思うのですよね。ファンタジックなカッコいい狼男のビジュアルを求める観客もいるでしょうから。しかし、本作はイケメンが狼男に変身してその二面性がまたステキでときめく…みたいな映画ではないのは言うまでもないです。これは男の壮絶な自己喪失の悲劇。痛々しく苦しい非常に病理的な(もしくは自傷的な)変身でなくてはいけないので、それは見事に達成され、物語の苦痛にリアリティを与えていました。

あと、印象的なのはブレイクが狼男化していく中で、その視点で世界の見え方が大きく変わること。聴覚の発達で壁を這う蜘蛛の足音まで大きく聞こえるのもゾワっとする演出でしたが、さらに進んでなんだか異様な光のような演出で妻や娘が映されることがあります。

あれは動物の見える世界を表現しているそうです。私たちは犬や猫などのペットなんかはとくに人間と同じようにこの世界を認識していると思いたがってしまう傾向にありますが、実際はそうではありません。犬も猫もそれそれその生物種固有の五感があり、その能力で周囲を認識しています。

本作の冒頭で子どものブレイクを犬がじっと見つめている可愛いシーンがありますが、犬にはブレイクが人間とは全く異なる認識で映っているはずです。

狼男化したブレイクにはシャーロットとジンジャーが逆にホラーな存在にも捉えられかねない異様な雰囲気を放っており、この逆転の見せ方はこれはこれで面白かったです。

『ウルフマン』の欠点としてはさすがに予定調和な陰鬱さで直線的に終わりすぎなところでしょうか。父性の豹変という意味ではテーマ的には『シャイニング』と類似していると思うのですけども、『ウルフマン』のほうは最初に「こうなるだろうな」と予期できるとおりのエンディングの流れに向かって突き進むだけでしたので…。

もう少し捻りがあるともっと化けることのできるホラーだったと思いました。

『ウルフマン』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

以上、『ウルフマン』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures ウルフ・マン

Wolf Man (2025) [Japanese Review] 『ウルフマン』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2025年 #リーワネル #クリストファーアボット #ジュリアガーナー #エコホラー #ボディホラー #狼人間 #ユニバーサル