それでもやることがある…ドラマシリーズ『TASK/タスク』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:U-NEXTで配信(日本)
原案:ブラッド・イングルスビー
DV-家庭内暴力-描写 児童虐待描写 性描写 恋愛描写
たすく

『TASK / タスク』物語 簡単紹介
『TASK / タスク』感想(ネタバレなし)
そのタスクの意味は?
英語の「task」は、いろいろな意味がある単語で、パソコンの「タスクマネージャー」に代表されるような「機能」を意味することもあれば、「割り当てられた仕事」を意味したり、はたまた「やらなければならない困難なこと」や「義務」を意味する場合もあります。
そして叱責や非難などで「否定的な批判を受けること」も意味することもあるんですね。
なので文脈でその意味を考えないといけません。
では今回紹介するこの映画のタイトルはどういう意味なのでしょうか。鑑賞しながら考えてみてほしいです。
それが本作『TASK / タスク』。
本作は、ダブル主人公で展開し、そのうちのひとりは中年後期のFBI捜査官の男、もうひとりはゴミ収集員として働いている労働者階級の男。後者の男がカネ欲しさにある事件を起こし、FBIの男が捜査する…という、追う追われるの流れが主軸となります。
しかし、事件捜査型の物語というよりは、内省的ドラマがメインにあり、それは2人の主人公の男がそれぞれ抱える家庭に事情があるからなのですが…。あとは観て確かめてください。もちろんスリルのあるサスペンスフルなシーンもあるにはあります。
『TASK / タスク』の原案およびショーランナーとなっているのが、2021年のリミテッド・ドラマ『メア・オブ・イーストタウン』で高い評価を受けた“ブラッド・イングルスビー”。
以前の作品と今回の作品もテーマが似通っており、“ブラッド・イングルスビー”お得意なのでしょうか。ただ、前回は母性が主要な焦点に取り上げられていましたが、今回は父性が目立つようになっています。
『TASK / タスク』で主演するのは、MCUのハルク役でおなじみで、最近はドラマ『すべての見えない光』などでも繊細な演技をみせていた“マーク・ラファロ”。
そして、ドラマ『アウターレンジ 領域外』の“トム・ペルフリー”が、“マーク・ラファロ”に並んで名演を披露しています。
共演は、『コーダ あいのうた』の“エミリア・ジョーンズ”、『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』の“ラウル・カスティーロ”、ドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の“ファビアン・フランケル”、ドラマ『地下鉄道 自由への旅路』の“トゥソ・ムベドゥ”、『オーダー』の“アリソン・オリバー”、『対峙』の“マーサ・プリンプトン”など。
『TASK / タスク』はアメリカ本国では「HBO」で配信されており、日本では「U-NEXT」で独占配信。全7話で1話あたり約60分なので、じっくり腰を据えて鑑賞できる環境を用意するのをオススメします。
『TASK / タスク』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 子どもを誘拐する描写があるほか、ドメスティック・バイオレンスを示唆するシーンもあります。 |
| キッズ | 大人向けのドラマなので、子どもには不向きです。 |
『TASK / タスク』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ペンシルベニア州のデラウェア郡。トム・ブランディスは自宅で独りでいることが多く、ある苦悩を抱え込んで救いもなく沈んでいました。アルコールや薬が手放せません。トムの仕事はFBI捜査官で、以前は司祭でした。現在のFBIとしての業務は地味なもので、第一線の捜査官から手を引き、キャンパス・リクルーターをしていました。
養女のエミリーも同居していますが、関係はやや気まずいです。なんとか会話をしようと試みるもぎこちないまま。これは年齢差だけが理由ではありません。とにかくトムは趣味のバードウォッチングをしつつ、巣箱のある家庭菜園をいじる日々。
一方、同じ地域に住むロビー・プレンダーガストはゴミ収集車の運転手として働いていました。ロビーは亡き兄の家に住んでおり、姪のメイヴには子どもたちであるワイアットとハーパーの世話を手伝ってもらっています。暮らしは貧相で、明るい将来は見えません。
ある日、ロビーは親友のクリフ・ブロワード、そして友人ピーチズも誘って、夜にギャングの拠点の家を襲撃する計画を立てます。そこにカネがあるのは推察できます。家の場所はゴミ収集の仕事でよくわかっています。
銃を片手に不気味なマスクを被って暗闇に紛れ、家に静かに侵入。寝ていた住人を脅して拘束し、「カネはどこだ?」と要求。トイレに隠された大金を手に入れます。
こうして3人の男たちは久しぶりの解放感で、気分を良くします。しかし、家に残されたメイヴは自由の無い人生にうんざりしており、口論になってしまいます。
トムがいつものように覇気もなく家でだらけていると、職場から呼び出しがかかります。上司であるキャスリーン・マクギンティは、郡内で複数のトラップハウス強盗が連続発生していると報告します。
これらの強盗の多くは、「ダークハーツ」と呼ばれるギャングと繋がりのある不良たちのテリトリーで起きているようです。早く逮捕しなければ、ギャングの争いを刺激するかもしれません。
そのうえ、キャスリーンはこの件をなんとかしないと退職の危機だそうで、トムは仕方なく渋々動きます。そして、州警察官のエリザベス(リジー)・ストーバー、巡査部長のアリア・クリントン、郡刑事のアンソニー・グラッソを含む特別対策チーム(タスクフォース)のリーダーを引き受けるのでした。
彼らとの面会後、トムは空き家を特別対策チームの本部とし、家の掃除をして片づけます。それでもなおもまだ過去を引きづったままです。
別の夜、ロビー、クリフ、ピーチズの3人組は、また違う家を襲いますが、そこでは以前のようにカネをさっさと奪って退散することはできませんでした。
取り返しのつかない泥沼に足を突っ込んでしまい…。

ここから『TASK / タスク』のネタバレありの感想本文です。
2人の男の「許せなさ」
ドラマ『TASK / タスク』は、トムとロビー、2人の男の家庭での姿を並べるように映し出す静かなオープニングで始まります。
一見すると穏やかに見えますが、そこには苦悩があります。しかし、この2人の男は「男というのは弱音をみせてはいけない」と男らしさの呪縛に沈み、その苦しさをひたすらに内に抱え込んでしまっています。
トムとロビーは共に白人男性でありながら、片やホワイトカラー、片やブルーカラーで、所得も雇用形態も違っていますが、その苦悩に共通点があって…。
2人ともその家庭では物語の始まりの時点で過去に大きな喪失とそれゆえの罪悪感を生じさせています。
トムの場合、それは「養子のイーサンが妻のスーザンを殺害した」という事件です。トムとスーザンの夫妻はイーサン&エミリーの養子を最初に家に迎えたシーンではとても幸せそうに描かれていましたが、どうやら年月の経過とともに、イーサンとの関係が上手くいかなくなり、イーサンの精神的な不調もあって、あの事件に至ったようです。イーサンは殺意があったわけではないと思いますが、殺人は殺人なので、現在は裁判を待っている状態。
内心の問題は、トムが聖職者であるということもややこしくしていて、身近な子に向き合えなかったこと、そして「罪を許す」のが役目なのにイーサンを許す意思を持てない自分…。その“タスク”ができない己への自責が渦巻いているのが滲みでていました。
一方、ロビーの場合、亡き兄ビリーの件が棘になっています。ロビーの兄ビリーはメイヴの父であり、エリンとの情事が発覚した後にジェイソンに殺害されています。つまり、あの「ダークハーツ」のギャングとすでに根深い因縁があります。
第1話でロビーが「ダークハーツ」のギャングのトラップハウス(違法薬物取引に利用される住居のこと)を狙うのも、たまたまとかではなく、復讐ではないですけど、心に棘を刺した根源への憂さ晴らしというところが大きいのでしょう。ロビーもまた「許せない」でいるのでした。
ロビーはその強盗の成功でつかの間の解放感を得ますが、それは危険な綱渡りであり、メイヴのような女性に負担を押し付けている点も本作は看破しています。そして案の定、取り返しのつかない次の事件が発生してしまう…。
家庭生活における義務を果たせなかったと(本来はそこまで悩む必要はないのに)自分を責めてしまう男性たち。その行き場のない父性が、まるでドミノ倒しのようにさらなる悲劇を引き起こし、次から次へいろいろな男たちに波及してその愚行を曝け出していく…。負の連鎖です。
トムとロビーが最後に一瞬だけ互いの痛みを分け合うシーンが象徴的でした。
『TASK / タスク』を観ていると、「もう気負いすぎないでくれ…」と男たちに声をかけたくなります。本当だったらその心持ちだけでもだいぶ楽になるはずなのに…。
もう家族に死が起きていて、それ自体は無かったことにできませんし、その後の家庭環境も容易に修復できるようなものではないです。こうした白人家庭が綻びて息詰まる瞬間とその経過を描くのが、本作のクリエイターの“ブラッド・イングルスビー”は本当に上手いですね。
もう自分を責めなくていい
ドラマ『TASK / タスク』は、前述したとおり、自分を責めすぎてる男たちの負の連鎖が主題で描かれますが、トムとロビーの2人だけで終結しません。
まずあのギャング「ダークハーツ」のメンバーであるペリーとジェイソンの2人の男。こちらは第3勢力としてあの追う追われるのサスペンスに参入していくことになりますが、このペリーとジェイソンもなかなかに込み入った事情を抱えていることがしだいにわかってきます。
人生の師と愛弟子という2人の関係はある種の疑似的な父子の関係とも言えますし、2人には2人にしかわからない親密な互いへの思いやりがあったのは紛れもない事実。しかし、暴力でしかその間を繋げることはできず、制御不能な連鎖がここでも2人の関係を絶ちます。
ロビーの親友であるクリフも忘れられない存在です。クリフにしてみれば、ロビーの問題はほぼロビー自身の自暴自棄な面も多いので、その気になれば見捨てることもできるのですけど、そうせずに運命共同体になります。しかし、それが苦しみをさらに上乗せすることになる…。
男には「一緒にやるぜ!」と言ってくれる友よりも「もうやめよう、な」と止めてくれる友のほうが大切だと思うのですけど、残念ながら前者だったロビーとクリフの友情は暗い結末に転がります。
そして最後はアンソニー・グラッソ。トムの指揮する特別対策チームのメンバーだった彼は、実は裏では犯罪集団側に情報を流しており(というか組織的な汚職の一部に手を貸してしまっている)、グラッソはその結果、リジーを失うことになります。まさに作中で現在進行形で己の浅はかな行動のせいで喪失を経験してしまった男です。
その自分を責めに責めまくって追い詰められるグラッソに、ラストで声をかけるあのトムの言葉。本作の白眉ですよね。
本作のスリルの頂点は間違いなく第5話の終盤から第6話にかけてだと思うのですが、それはこのとても静かな、でも最も必要とされていた男同士の本音の対話のためにありました。自分を責めるという辛さは償いとしてはじゅうぶんすぎるものであり、次に大事なのは再出発することである、と。
あの第5話のラストは「スリリングなのは良いけど、テーマが有耶無耶になりかねない」という難しいプロットのコントロールの分岐点だと思いましたが、テーマを見失うこともなく、非常に誠実に軟着陸させたのは見事でした。
欠点があるとすれば、前半のスローペースにどこまでついていけるかを試されてしまうところでしょうか。登場人物の心理描写の蓄積としては大切なのはわかるのですが、かなり根気が要ります。テキトーに流し見していると心情がわからなくなりますし…。
それでも『TASK / タスク』は最後にもたらしてくれる満足感が完璧なので、観たかいはありました。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『TASK / タスク』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)HBO Entertainment
Task (2025) [Japanese Review] 『TASK / タスク』考察・評価レビュー
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