その差異をチューニングしながら…アニメシリーズ『ささやくように恋を唄う』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:真野玲
恋愛描写
ささやくようにこいをうたう

『ささやくように恋を唄う』物語 簡単紹介
『ささやくように恋を唄う』感想(ネタバレなし)
こんな日本で、ささやくように百合アニメを語る
日本では各地の高裁判決で「同性同士の結婚が認められていない現状」は違憲であるとの結果がでていますが、2025年は右派の政党が結託して政権を握ることになり、残念ながら同性結婚の法制化は遠のくばかり。ただ好きな人と結婚して幸せになりたいだけのカップルに、なんで国は邪魔することしかしないんですかね…。
そんな今の日本とはあまりに落差があって虚しさを禁じえないことも正直ありますが、今回紹介するアニメシリーズの世界がそのまま現実になればいいなと誠実に思いながら、この感想を続けていこうと思います。
それが本作『ささやくように恋を唄う』。
本作は、“竹嶋えく”が2019年から『コミック百合姫』から連載している漫画が原作。“竹嶋えく”はイラストレーターとしても活動しており、『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』などのイラストも手がけています。
女子高校生同士の恋愛を描いたガールズラブな百合作品であり、先輩と後輩の関係で初恋の恋模様を主題にしているので、かなりピュアな雰囲気が強め。他にもカップルがでてくるのですが、メインカップルはとても初々しいです。
また、ガールズバンドものにもなっており、音楽活動も描かれますが、あくまで恋愛が背景にあるという点が特徴です。
コミカルな要素は薄め(ほっこりするシーンはあるけど)、恋愛ドラマ重視という感じでしょうか。
『ささやくように恋を唄う』は『やがて君になる』と並んで百合ファン界隈では人気の高い作品であり、確かに漂わす味わいは似ているものがあるのかも。両作品とも2010年代後半を代表する百合作品ですね。
『ささやくように恋を唄う』は、監督が“真野玲”、シリーズ構成が“内田裕基”の座組で、2024年にアニメ化され、ファンにとっては待望の出来事になったのですが…ここで少々気持ちが沈む問題が発生しました。
というのも「クラウドハーツ」がアニメーション制作を手がけたのですが、放送・配信開始されるも途中で「制作上の都合」でリリースが停止。先行き不透明の状態に陥り、その後、「クラウドハーツ」の破産が報じられる事態に。結局、グループ会社の上にいた「横浜アニメーションラボ」が引き継ぎ、残りのエピソードも遅れて2024年中にリリースされ、一応は完結しましたが…。
近年の日本のアニメ業界は「世界的コンテンツになっている!」と一部は大盛り上がりしているわりには、末端のスタジオの経営は極めて貧弱なことが問題視されてきました。今回のアニメ『ささやくように恋を唄う』もそれが露呈したかたちです。
『ささやくように恋を唄う』にしてみれば不運なことなのですけども(クオリティの高い作品を落ち着いて作る環境が整備されないわけですから)、こういう労働環境問題にこそしっかり目を向けて取り組んでほしいところです。
ただでさえ、百合作品は他のビッグタイトルの作品(異性愛を描いているようなね!)と比べるとブランド力も低く、業界内で立場の弱いスタジオが任されることが多いです。それは必然的にこうした放送打ち切りになりかねないリスクを抱えやすいことを意味します。クリエイティブなレイヤーにおいても、そういう不均衡があるということです。
やっぱり百合アニメと現実社会はいろいろな意味で切っても切り離せないですね。
『ささやくように恋を唄う』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 死別や葬儀の描写が一部にあります。 |
| キッズ | 子どもでも観れます。 |
『ささやくように恋を唄う』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
木野ひまりは、高校入学初日に新入生を歓迎するために体育館で行われた催しで、軽音部のバンド演奏を生で聴き、感激します。とくにその中央でカッコよくギターを弾いて歌うひとりの先輩の姿に…。その先輩にひと目惚れをしたと自覚しながら…。
小学校からずっと一緒の水口未希も隣にいて、この新入生歓迎会で演奏を聴こうと思ったのも水口未希の姉がベースで参加しているからでした。バンドのことはよくわかりません。あの先輩が所属するバンド「SSGIRLS」も初見です。しかし、今ではあの先輩のことしか考えられません。いつの間にか演奏は終わっていました。
「私、ひとめぼれしちゃった!」と水口未希に言い切ってしまいます。
放課後、バンドのメンバーは教室で打ち上げしていました。今回、急遽ヘルプで参加したギターの高校3年生の朝凪依は人前が苦手ですが、猫のグッズに釣られてしまって今にいたります。水口亜季、筒井真理、橘香織の本来のメンバーは次は恋愛ソングを作ろうと張り切っていますが、恋愛をしたことがないので朝凪依にはよく理解できません。
学校の靴箱の前で木野ひまりは朝凪依に偶然出くわし、「私、“ひとめぼれ”しました」と笑顔で伝えます。朝凪依は急な愛の告白と受け取り、ドキドキします。この子の笑顔も可愛い…。恋は無縁だと思っていたのに…。
すぐに朝凪依は軽音部のメンバーにこの気持ちを相談します。朝凪依もひと目惚れしたのだと自覚させられ、すぐに返事をすべきと背中を押されます。でも名前もクラスもわかりません。
一方の木野ひまりは例の先輩に出会えて満足げ。水口未希から朝凪依という名だと知ります。放課後に屋上で歌っているらしいとも聞き、さっそく足を運んでみることにします。そこにはどう返事しようか悩みながら歌っている朝凪依が佇んでいました。
また出会えたので朝凪依は思い切って「私もひと目惚れなんだよね」と口にします。しかし、なんだか話が噛み合いません。実は木野ひまりは恋心ではなく、ファンとして夢中になったということだと理解。それでも朝凪依のほうが恋愛的に好きになってしまったことには変わりありません。
少しガッカリしつつも、でも浮かれている自分がいることを朝凪依はなおも実感。目の前にいる木野ひまりはやっぱり可愛いです。
「もっと惚れさせるから覚悟してね」とつい口走ってしまいます。
こうして2人は屋上で会い続けることに…。
その「好き」が恋愛だと気づくまで

ここから『ささやくように恋を唄う』のネタバレありの感想本文です。
『ささやくように恋を唄う』の木野ひまりと朝凪依のメインカップル、これぞ「ピュア」という言葉がふさわしい、そのまんまなサフィック・ラブストーリーを届けてくれます。
双方が初恋で、限りなく相思相愛。初心な2人のいきなりの障壁なしの急接近。不慣れな恋愛にまごまごしながらも両想いの愛は最初からアツアツ。
木野ひまりは絵に描いたような「無邪気な可愛い後輩」であり、一挙手一投足の言動全てが愛らしくなっています。さながら子猫です。でも基本はそういう言動をとるのは好きな人の前だけであり、それがまた目の前に相対する朝凪依をたまらなくメロメロにさせるのですが…。
一方の朝凪依は、クールだけど隙があるという「ギャップの可愛い先輩」。とくに上下関係がありながら有害な振る舞いをとらないのでいいですね。木野ひまりに対する最初の姿勢が「頼れる先輩になろう」ですから。本作における朝凪依は木野ひまりに対する愛を消費的な描写で描かないので、朝凪依という人物の信頼感を補強してくれます。
ということでもう序盤から「このカップル、相性抜群&安心保証済みです!」と打ち出されているので、観ているこっちとしては、「よし、じゃあ、解散だ。お二人さん、あとは仲睦まじく楽しんでください!」と撤収してもいいくらいな気分ですよ。
一応、サスペンスというほどではないですが、木野ひまりと朝凪依の「好き」の違い、というよりは木野ひまりが恋愛感情というものをよく理解していないところからスタートするので、木野ひまりが朝凪依に「恋愛として好きである」と認識に至る過程が描かれます。
「恋愛がわからない主人公」というトロープ(いわゆる「Chaste Hero」)は百合作品ではよくあるパターンですが、本作『ささやくように恋を唄う』の場合は、憧れと恋愛の違いを比較して説明しながら、その理解に務める流れになります。
以前から「好き」の自己認識がだんだん友人と食い違っていることを自覚していた木野ひまりが、いつからみんなの間には私の知らない「好き」が当たり前に周囲にあることをぼんやり認識しつつ、最終的には「恋愛の好き」を理解する…。
毎度ながらこの序盤の心理はアロマンティックなアイデンティティに極めて近似しているのですけども、本作は恋愛が到達点。異性愛規範を露骨に描いてもいないですが、木野ひまりがその恋愛に辿り着くことはおのずと異性愛規範を振り払うことも意味します。
『ささやくように恋を唄う』はセンチメンタルに描いてはいましたが、この序盤の流れはシンプルでした。
また、水口亜季という朝凪依に恋心を抱きながらその片想いを木野ひまりの登場で完全に封印してサポート役に徹する…とてもベタな「ヒロインになれなかったヒロイン」も描かれますし…。
恋のマネージャー、あらためキューピッド
そんな感じでこれだけだとあまりに平凡な(でも純愛は眩しい)サフィックなロマンスですが、この『ささやくように恋を唄う』は、ここからさらに登場人物たちの「好き」をめぐる感情の交錯が複雑化します。
ガールズバンドものだと思い出させるかのように、「SSGIRLS」のライバルのバンドの「Laureley(ローレライ)」が現れると、これまたよくありがちなバンド対決に発展していくのですが…この『ささやくように恋を唄う』ではそこにも恋愛が絡んできます。
ええっと整理すると…「Laureley」の泉志帆は水口亜季のことが好きで、「Laureley」結成のきっかけである天沢キョウの恋人が里宮百々花で…。他にも各メンバー間で恋愛の矢印が飛び交っているのですが、あまりそこにアニメの段階では焦点をあててないので割愛。
とにかくこのバンド対決では実質的に水口亜季が主人公であり、泉志帆という自己追い詰め系のヒロインを堂々と抱きとめる…大きなアプローチの展開が待っています。主人公のパワーでは完全に木野ひまりを勝りますね。
面白いのは、そのバンド対決で肝心の本来の主人公である木野ひまりは蚊帳の外で、音楽知識すらろくになく、ただただ駆け引きの道具にまで成り下がりかねない扱いなのにそれを素直に受け入れてしまっているほどだという点。しかしながら、この木野ひまりの良くも悪くもいまだに「好き」に関しては鈍感な無邪気さが、膠着した女の子たちの恋愛模様を綺麗に解きほぐしてくれます。
木野ひまり、恋のキューピッドでもあったのか…。こりゃあ、いつか恋愛の神様として校内で祭られる日もそう遠くないな…(「私、恋愛経験まだ浅いんですけど」とあたふたしながら学校の恋愛成就の頼みの綱にされまくる木野ひまりも見てみたいですが…)。
個人的に少し残念なのは、天沢キョウのキャラクターで、さすがにプロット上で都合がいい「悲劇の死」の土台でありすぎますし、「薄幸の天才」の単調な人物像で終わりすぎかな、と。私が脚色するならこの天沢キョウのキャラクターをもうちょっと深掘りして描き込みたいところ(原作はまだ続いているのでどうなるかわかりませんが)。
『ささやくように恋を唄う』のアニメ化は前述したとおりの制作上のゴタゴタもあったので、演出的な強化もあまり期待できず、アニメーションとしてはマイルドに終わってしまったのも惜しい部分でした。
しかし、百合作品としてはオーソドックスで入門的な一作として薦めやすいアニメにはなったと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『私の推しは悪役令嬢。』

・『私の百合はお仕事です!』
作品ポスター・画像 (C)竹嶋えく・一迅社/ささやくように恋を唄う製作委員会 ささやくように恋を歌う
以上、『ささやくように恋を唄う』の感想でした。
Whisper Me a Love Song (2024) [Japanese Review] 『ささやくように恋を唄う』考察・評価レビュー
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