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韓国ドラマ『イカゲーム』感想(ネタバレ)…韓国はデスゲームさえも勝ちにいく

イカゲーム

韓国はデスゲームさえも勝ちにいく ○△□…ドラマシリーズ『イカゲーム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Squid Game
製作国:韓国(2021年)
シーズン1:2021年にNetflixで配信
脚本:ファン・ドンヒョク
性描写

イカゲーム

いかげーむ
イカゲーム

『イカゲーム』あらすじ

明るい未来はまるで見えない貧しい生活に打ちひしがれていた男は、ある時、偶然にも手にすることができたチャンスにすがりつく。それは喉から手が出るほどに目も眩むような超高額の賞金を懸けたサバイバルゲームだった。大勢の参加者とともにいくつかのゲームに挑戦し、勝ち抜くことができた人間だけがその億万長者の人生を獲得できる。それぞれの引き返せない人生を抱えた参加者たちの熾烈な争いが始まる。

『イカゲーム』感想(ネタバレなし)

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デスゲームのジャンルの大逆転

今や向かうところ敵なしの韓国コンテンツ。K-POPなどの音楽業界はもちろんのこと、映画でもグルメでも、韓国の勢いは絶好調です。とくに動画配信サービスの波に上手く乗って成功しているのがドラマシリーズ。2020年も凄かったですが、2021年も韓国のドラマシリーズは人気が衰えません。

そしてついに頂点に到達してしまった韓国のドラマシリーズが登場しました。それが本作『イカゲーム』です。

この珍妙なタイトルの韓国ドラマシリーズは、Netflixで配信されるや否や、瞬く間にNetflixが配信されている83ヶ国全ての国でランキング1位を獲得。もはや世界的な社会現象になってしまいました。

しかも『イカゲーム』のスゴイところはそのジャンル。本作は「デスゲーム」なのです。

「デスゲーム」というのは、登場人物たちが何かしらの主催者がいてルールがある死の危険をともなうゲームに参加することになってサバイバルしていく…というシチュエーションを土台とするひとつのジャンルです。日本だったら「賭博黙示録カイジ」「LIAR GAME」などが有名で映画化もされていますし、もう少し古いものだと「バトル・ロワイアル」が社会的注目を集めたりもした時期もありました。もちろん日本の専売特許ではなく、海外でも『ハンガーゲーム』シリーズや、『ローラーボール』(1975年)などがあります。スティーヴン・キングの「死のロングウォーク」(1979年)や「バトルランナー」(1982年)は後のジャンル化の土台を作った作品のひとつかもしれません。

ただ、この「デスゲーム」というジャンルはヒットすればそれこそカルト的に人気になるのですが、現在は量産されすぎてやや陳腐化している傾向もあるという、ありがちなジャンルの落とし穴に陥っている部分も否めません。日本でもデスゲームをネタ扱いするのが関の山だったり…。量産品を見すぎるあまりにすぐに「パクリ」だとか騒ぐことしかできない人も増えました。

そんな現状において無謀にも博打テーブルの席に座った新参者、それが本作『イカゲーム』。そしてひとり大勝を独占してみせたわけです。なんだこいつは…という感じですよ。

『イカゲーム』はデスゲームとしてどう傑出しているのか、端的に言うなら、エンターテインメントと社会風刺が見事にハイクオリティで両立しており、間違いなく韓国にしか作れない完成度になっているという点です。エモい展開で感動を押し売りもしないし、ネタ化しておちゃらけることで終わることもない。徹底してこのジャンルで社会全体をえぐってやろうという本気が伝わってきます。

それもそのはず『イカゲーム』の原案・監督を手がけるのは、『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年)を生み出した“ファン・ドンヒョク”なのです。『トガニ 幼き瞳の告発』は児童への組織的性的暴行事件という実在の出来事を容赦なく描き、その映画が社会を動かして法改正に繋がったという作品でした。今作の『イカゲーム』も題材はガラっと変わって舞台もエンタメ度が濃いものになっていますが、『トガニ 幼き瞳の告発』と同様の社会への向き合い方がある作品になっています。

ともあれ『イカゲーム』の成功によって若干の小馬鹿にされていたデスゲームというジャンルは一気に大逆転して見せたので、今後はポスト『イカゲーム』としてデスゲーム作品がまた増産されそうな…。でもハードルは確実に上がりましたね。

『イカゲーム』は出演俳優の人気も爆上げしました。主人公を演じた“イ・ジョンジェ”は『神と共に』2部作や『サバハ』などですでに実績がある人ですが、その作中での何とも言えない冴えない愛嬌が世界を魅了。対となる存在感を示した『狩りの時間』の“パク・ヘス”も印象に刻まれるでしょう。

一番に名をあげたのは作中で無愛想な若い女性参加者を演じる“チョン・ホヨン”。彼女は本作で俳優デビューなのですが、もとはファッションモデル。それが作中では全然ファッショナブルな要素ゼロの佇まいで、こういう起用をできるのが韓国の強みだなと思います。

他にもスペシャル出演の俳優もいるのですが、それは観てのお楽しみ。

「もうデスゲームは見飽きたな…」という人にこそ観てほしい一作。『イカゲーム』はNetflixで独占配信中で、シーズン1は全9話。1話観だすと続きが気になってしょうがないくらいの緊張感とサスペンスがありますので、そのつもりで。

オススメ度のチェック

ひとり 5.0:見逃せない話題作
友人 5.0:オススメしたくなる
恋人 5.0:盛り上がる体験を
キッズ 3.5:残酷暴力&性描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『イカゲーム』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):1万ウォンお借りしても?

「その遊びは“イカ”と呼ばれていた。ルールは簡単。まずは攻撃と守備、2つのチームに分かれる。絵の中にいる守備側は両足で動き、外の攻撃側は片方の足で動かねばならない。だが攻撃側がイカの腰をまたぐことができたら、またいだ者は両足で動くことを許される。またいだ時に“暗行御使”と言う。決戦の準備が整ったら攻撃側はイカの絵の入り口に集まる。勝つために攻撃側は先端の小さな図の中を踏まなくてはならない。この時、守備側に押され、線を踏んだり外に出されたりしたら死ぬ。そう、死ぬのだ。勝負に勝ったら“バンザイ”と叫ぶ」

47歳のソン・ギフンは生活が貧しく、運転代行で稼ぐカネもたいしたことはない状況で、高齢の母の口座からカネをおろそうとする始末でした。しかし、暗証番号を変えられており、なんとか自分の娘ガヨンの誕生日で入力に成功。そのカネで競馬に向かい、娘の誕生日である6月8日にちなんで「6-8」で当ててみせます。456万ウォンの大金を手に、娘に電話、チキンよりも高級なものを買えるとウキウキです。

ところがそこに取り立て屋が現れ、逃げるギフン。途中で女性にぶつかった拍子にカネを落としたことに気づき、結局わけもわからず念書に判を押すことを強要されます。競馬の窓口の女性にあげた1万ウォンを返してもらい、娘のガヨンとトッポッキを食べます。娘は新しいお父さんとステーキを食べたらしく、実父との格差を痛感して不甲斐ない気持ちになるギフン。

娘を妻に渡して別れた後、駅で自分の人生の情けなさを噛みしめます。するとスーツ姿の男に話しかけられます。

「私とゲームをしてみませんか?」

なんでも「メンコ」で勝つたび10万ウォンをもらえるとか。やってみるも敗北。カネはないのですが、ビンタ1発で10万ウォンだと言われ、大人しく殴られることに。調子に乗って続けていき、どんどんビンタを受け、ついにやっとひっくり返って1勝。今度はギフンが殴る気でいましたが10万ウォンを渡され、さらに「空席わずかです」と電話番号だけが書いてある名刺をもらいます。

10万ウォンを手にして嬉しい気分でしたが、母からガヨンと妻は来年はアメリカに行くらしく、一生会えないと聞かされ、絶望。

こうなったら…例の名刺の連絡先に電話。車が迎えに来て、乗車すると睡眠ガスで眠らされます。

起きるとそこは異様に大量なベッドが並ぶ広い部屋。自分は「456」と書かれた緑のジャージを着ており、他にも参加者らしき人間がたくさん。前方では「101」の男と「67」の女が言い合いしており、その女があの時自分にぶつかった奴だと気づきます。

するとドアが開き、赤い服で黒い覆面の集団がゾロゾロと現れ、「6日間で6つのゲームをしてもらいます」と告げます。勝てば巨額を支給するそうで、ここにいる人は全員多額の借金者。「借金取りに追われる人生か、チャンスに賭けるか」と言われ、ゲームに参加するかの同意書を記入することに。迷いながらもギフンは署名します。そこで昔の知り合いのサンウを発見。秀才で有名大学を卒業しているはずのサンウがなぜ…。

そして第1のゲームの会場に連れていかれます。そこは上には空が広がる広い場所。第1のゲームは「だるまさんがころんだ」だそうです。前方に巨大な人形。「5分以内にゴールラインを超えてください」と言われ、さっそくスタート。「ころんだ」と音声とともに動きを止める参加者。ところが動いてしまった参加者のひとりは銃声とともに倒れます。どこからともなく撃ってきている。このゲームは失敗した参加者を殺すものでした。「脱落=死」です。

ギフンは生き残れるのか…。

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シーズン1:冷笑なんてさせない

「デスゲーム」のジャンルがネタ的に扱われて陳腐化していく理由を考えると、いつのまにか製作者や鑑賞者がゲーム主催者や観覧者側の立場に立ってしまうからなのではないかとも思います。「デスゲーム」に参加する人はたいていは生活に困窮しているか、欲に目が眩んだ者ですが、そういう人たちを私たちはどこか見下している、嘲笑っている。そういう冷笑的な立ち位置になってしまうとジャンル自体がチープに見えてきてしまうんですね。その構造自体がおぞましいのですが…。

この『イカゲーム』はその「デスゲーム」の作品と作り手と観客の関係構造をしっかり理解したうえで、徹底的にそのテーマに真面目過ぎるくらいに突き詰めていっているのが凄いです。

まず第1話。ここではまだ観客は冷笑的に観ていられると思います。主人公のギフンがいかにも情けなく描かれているからです。高齢母のカネをくすねてはギャンブルに使い果たし、娘のプレゼントまでUFOキャッチャーでとるという…。自業自得の塊にしか見えない男。

でもここで謎のスーツ男(演じるのは“コン・ユ”!)から「メンコ」勝負を持ちかけられ、無様にビンタされ続けるのですが、このシーンでちょっと相対化されるというか、立場が有利な者が弱い者を上から目線で嘲ってその情けなさを楽しむという構図の気持ち悪さを見せつけられるんですね。あなたたちこのドラマの視聴者も同じじゃないですか?という…。

そして第1のゲームの凄惨な展開。でも第2話で「第3項:過半数の同意で中断可能」が発動し(その投票を左右したのがあのお爺さんというのが後の正体を考えると意味深いですね。良心の呵責があったのかなとか)、まさかのゲーム途中終了。でもここからがエグイ。第2話で描かれるのはそれぞれの参加者が引き返せない現実人生の辛さです。ギフンは母の重病、チョ・サンウは重罪、チャン・ドクスはマフィアに追われ、カン・セビョクは脱北者として両親と弟を抱え、アリ・アブドゥルは移民労働者として家族を養う危機に…。

「こっちのほうが地獄だ」という言葉が重々しく視聴者にも響き、もう冷笑なんてしていられなくなります。

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シーズン1:自由意志と平等を弄ぶゲーム

社会風刺としても痛烈な『イカゲーム』ですが、同時並行でエンターテインメント性も当然抜群で尖ってます。

第1のゲームの「だるまさんがころんだ」の緊迫(なんとなく朝鮮戦争を思わせる)から一転、第2のゲームは「型抜き」という超地味展開になる緩急もまた良くて。みんな舐めだすくだりの何とも言い難い必死さは韓国作品ならではのユーモアであると同時に「ひもじさ」を視覚化する演出としても見事です。

第3のゲームの「綱引き」の白熱さは思わずこっちも応援したくなりますし(男一辺倒ではない多様性が武器になるロジックの組み込みも上手い)、その後の第4のゲームの「ビー玉奪い合い」で前回の連帯を完全にぶち壊すという主催者の残酷さ。ここでのギフンが認知症のお爺さんを出し抜く葛藤は本当に心理的に嫌な展開を絶妙に突いてくるものですし、格差と搾取という縮図をここでも身に染みて味わうアリの屈辱もキツイですし、セビョクと手を組んだジヨンの「ここを出る理由が私にはない」という切なさもまた…。

またゲームの間も気を抜けません。参加者が休まるあのメインホールは一種のクローズド・サークルであり、そこでのサバイバルも発生。ここは完全に「バトル・ロワイアル」ですね。

そこで悪に染まることでしか生きがいがないドクスですが、第5のゲーム「飛び石渡り」でハン・ミニョに見事に復讐されます。彼女も最初はカネ目当てでしたが最期は復讐に全てを捧げたので参加者の中で一番生き生きと死んでいるんですね。良いキャラだった…。

このゲーム会場全体のデザインも秀逸でした。スタッフの記号的な存在感もそうですし、ファンシー感のある移動通路がだまし絵で有名なマウリッツ・エッシャーの階段になっていたり、あらゆる点でミステリアス。だからこそファン・ジュノが潜入して謎を解いていく過程もスリリングです。

こうしたゲームはルールに基づいており、フロントマンが何度も繰り返すように表面上は「自由意志」「平等」が主軸になっています。しかしそれらは全てが弱者を弄ぶ詭弁に過ぎない。この怖さが何よりもゾッとしますね。

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シーズン1:俺は馬じゃない

『イカゲーム』のシーズン1の終盤は、弱ったセビョクをベッドで惨殺したサンウと、その非道さに怒り狂うギフンとの「イカゲーム」での一騎打ち。そして勝者は…ギフン。

しかし、ここでまたしても意外な展開。1年後というジャンプを経て、456億ウォンの賞金に一切手をつけずに暮らすギフンがあのゲームの主催者であるお爺さん(オ・イルナム)に対面します。なぜ子どもの遊びがゲームに採用されていたのかという理由と同時に、あまりに残酷な人間不信の老人の言葉に狼狽するギフン。けれどもその高級タワーの窓から眼下に目にした人間の小さな「善」

思えばギフンは特別な得意分野はありません。才能もない。知恵もない。強運もない。ゲームに勝てたのは他人のおかげ。他者の些細な善行が積み重なって今がある。

それを実感したギフンは家族に会いに行く飛行機を直前で引き返してゲーム再参加を決めるところでエンディング。このラストのギフンを突き動かすのは、私利私欲でも汚名返上でもない、煮えたぎる社会正義なんですよね。立ち位置としては『ジョン・ウィック』に似ている気がします。この理不尽な社会を黙殺したくない、ましてや嘲笑うなんて許せない。ギフンの怒りの表情が今までのゲームを傍観してきたこのドラマの視聴者を真正面で捉えるのも偶然ではないでしょう。

ジュノの兄ファン・イノが正体だったフロントマンの動機も気になりますしね。まさかの“イ・ビョンホン”ですよ。今度の“イ・ビョンホン”は何をしたって言うんですか…。

『イカゲーム』逆転劇の後は何を見せてくれるのでしょうか。

『イカゲーム』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 92% Audience 86%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix イカ・ゲーム イカゲーム2

以上、『イカゲーム』の感想でした。

Squid Game (2021) [Japanese Review] 『イカゲーム』考察・評価レビュー