ELI イーライ
Netflix映画『ELI イーライ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Eli
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:キアラン・フォイ

ELI イーライ

あらすじ

自己免疫疾患に苦しむ11歳のイーライは、外界のあらゆる化学物質に体が過剰な反応を示してしまうため、不自由な生活を余儀なくされていた。そこで病気を何としても治したい両親に連れられて、実験的治療を受けるために、とある隔離クリニックへやって来る。そこは大きな屋敷で、厳重な衛生管理が徹底されていた。しかし、自分だけが気づく何かに違和感を覚え始め…。

『ELI イーライ』感想(ネタバレなし)

あの子とあの子が出演

「自己免疫疾患」という症状を知っていますか? 

私たちの体には「免疫」があります。免疫くらいは学校で習った気もしますが、体に入り込んだ“異物”を排除する、自己防衛のために仕組みです。人間は生きているとどうしても“良からぬもの”が体内に侵入することがあります。ウイルスとか、寄生虫とか、病原体とか。これらにノーガードで接していたらたちまちのうちに死んでしまいます。これではろくに生存できます。そこで免疫の出番。「ん!これは危険だな!」と危険物を判断してデリートしてくれます。パソコンやスマホのセキュリティ対策プログラムみたいですね。それが無料で最初からインストール済みなのですから、私たちの体もなかなかに高機能ですよ。

しかし、この免疫が上手く機能しないことがあります。それどころか危険でない正常なものまで排除しようとしてしまう場合も。自分の体を構成する細胞とか。そうなってしまうと自滅してしまいます。ごくまれにウイルス対策ソフトが暴走してパソコンの重要なシステムファイルを破壊するトラブルが起きたりしますが、全く同じ現象が体で起きたら…ゾッとします。

これが酷い状況になったものが「自己免疫疾患」であり、この症状が見られる病気は「膠原病」など多数あります。表向きは普通の見た目なので病気だと思われないために、さまざまな偏見に苦しむ患者も多いそうです。自己免疫疾患が極度に悪化すると、それこそ外界にあるあらゆる化学物質に過敏に反応してしまい、完全にクリーンな部屋から一歩も出られない状況になることもあります

この自己免疫疾患を題材にした映画はいくつかあって最近だと『エブリシング』(2017年)という青春映画がありました。

そして今回紹介する『ELI イーライ』も同様の題材ながら、ジャンルは「ホラー」です。どういうことなのか…気になると思いますが、それは何も言えない…。まあ、少なくともフィクション度合いの強いジャンルですから、正確な病気の描写をするようなタイプでもないのは察しがつくと思います。

もっといえば本作は“ある映画”をオマージュするような構成と結末になっており、それこそが肝なのですが、その映画のタイトルを言えばもろにネタバレになるので口を閉ざすしかない…(感想後半で言及します)。

『ELI イーライ』の舞台は、古めかしい屋敷を改装した治療施設ということで、いわゆる「屋敷モノ」「病院モノ」の複合パターンであり、その定番さもあって、あれこれ推測が捗るのじゃないでしょうか。

監督は“キアラン・フォイ”というアイルランド人で、これまで『シタデル』や『フッテージ デス・スパイラル』などホラー&スリラーを手がけてきました。いずれもマニアックな作品なので、知名度は限定されますが…。

俳優陣は子役に注目。主演している“チャーリー・ショットウェル”は、リドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』で主役のゲスな金持ち老人の幼少期を演じていたり、最近で印象的なのは『はじまりへの旅』でのあの可愛らしい言動ですね。『ELI イーライ』ではずっと出番が続き、いろいろな意味で大暴れします。


他にも見逃せない子役がいて、謎の女の子役として“セイディー・シンク”が出演。彼女は映画だと『ガラスの城の約束』に出ていましたが、“セイディー・シンク”を最も有名にしたのはもちろんドラマシリーズの『ストレンジャー・シングス』でしょう。そこではマックスという小悪魔チックで快活な少女を演じ、ファンの人気を得ました。

大人勢としては、“ケリー・ライリー”“マックス・マーティーニ”、そして“リリ・テイラー”といった顔ぶれが並びます。とくに“リリ・テイラー”はこれまでも『ホーンティング』や『死霊館』などホラー映画で印象的な人ですし、まあ、それを踏まえてのキャスティングなのでしょうけど。

『ELI イーライ』はNetflixオリジナル作品として配信されていますが、最初の企画からそうであったわけではなく、もともとパラマウントが劇場公開で配給する予定だったものが、Netflixにポイっとされた…という経緯。よくある、あれです。

本作は優れた脚本を選出する「ブラックリスト」入りのシナリオを映画化したもので、人によっては仰天なオチが待っているので、絶対にネタバレは見ないで、真っ先に映画を堪能してください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(じっくり個人鑑賞も良し)
友人◯(暇つぶしにも最適)
恋人◯(恐怖体験でドキドキ)
キッズ△(怖い目にいっぱい遭う)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ELI イーライ』感想(ネタバレあり)

誰が「LIE(嘘)」?

窓の外をガラス越しに見る少年。名前はイーライ。この子が主人公。

場面はパッと変わって、温かい爽やかな光が差し込む外にいます。庭先でしょうか、公園でしょうか。深呼吸すると、そのままタッタッと駆け出すものの、突然何の前触れもなく咳き込み、倒れ、体が焼けるように赤く腫れていき…。

また場面は変わって、そこは狭い室内。透明シートで囲まれたテントのような空間にいるイーライ。明らかに普通の子どもが暮らす場所ではありません。その外気が遮断された空間で、着替え、荷物をかばんにしまい、異常に厳重な防護スーツを着ていくと、外へ。

そこはモーテルらしく、旅行か何かで移動しているのか、イーライとその両親、父のポールと母のローズは車へ向かいます。もちろんイーライはまるで宇宙服のような恰好。途中、いかにも不良そうな集団にバカにされて焦ったイーライは転倒。防護服の膝あたりが破れてパニック。母が気を紛らわすために「何か願ごとして」と優しく語りかけると「あいつらをやっつけられますように」とポツリ。

車に乗り込み、出発するも「ワシントンに帰りたい」とぼやくイーライ。この家族はどこに向かっているのか。車は寄り道もなく、霧深い静かな人里離れた場所へ。窓の外を眺めるイーライの目には、ひとりブランコをしている少女の姿がチラリと映ります。そして、目的地に到着。そこは屋敷で「ここに泊まるの?」というイーライの疑問も無理はないほど、不気味な見た目をしている建物です。

しかし、表面とは裏腹にハイテク設備があるようで、中に入るには入り口の除染室を通らないといけないのでした。屋敷内で出迎えてくれたのは、ホーン医師と看護師のバーバラとマリセラの3人。ホーン医師から「それは脱いでもいい」と言われるも、イマイチ信用できないイーライ。この施設はイーライのような症状に悩む患者への完全な治療に特化した構造になっており、この道25年、この施設は3年前に始めたのだとか。ウイルス遺伝子治療を3段階で行うと説明します。

自分の部屋を与えられ、恐る恐る服を母に脱がされると、呼吸しても平気。そして母と素肌で触れ合い、ハグ。久しぶりの家族の温もりを感じます。普通にシャワーを浴びる喜びに浸かり、解放感に高揚するイーライ。

ところがその夜。心に不安を宿す出来事が起こりました。夜中。ふとベッドから起き、窓の外にいる虫に気を取られていると、息を吹きかけたときにできる白い曇りが発生。自分は何もしていないのになぜ? しかも指でひっかいたような痕が急にその曇りにできて、驚き。

翌朝も恐怖感が消えないイーライでしたが、免疫抑制剤の副作用で悪夢を見ると医師は言います。そのままいよいよ治療を開始。ひとりで治療室に連れていかれ、写真を撮られ、台に足と頭も固定され、「このウイルスを骨髄に注入すれば免疫系は改善する」と言われてされるがままに従うイーライ。メスを入れていくと同時に意識が遠のきますが、イーライの目には横向きの自分の顔の正面椅子の背もたれに何か怪しい者が反射して映っているのが見え…。

1段階目の治療がひと段落し、イーライは窓の外に女の子がいるのを目撃。その子は道中で見かけた子で、窓越しに会話します。「外の世界のアレルギーなんでしょ?」と気軽に話しかけるこの子の名前はヘイリーというらしく、この枝を燃やしてみせるマジックを見せてくるも、イーライは仕掛けがあるとキッパリ。しかし、「この家は何かがオカシイの」と囁くヘイリーは、以前にもこの屋敷にペリーという子どもがいたと証言。第3段階に入ると言ったきり、姿を見せなくなったらしく、確かに不自然です。

そしてイーライが体験する不可思議な現象はエスカレートします。突発的に出没する怪しい人影の女の子。窓の曇りに書かれた「ELI」の文字が「LIE」と書き直され…。

イーライの知らない“嘘”がすぐ近くにあったと気づくとき、イーライの身に劇的な変化が…。

ELI イーライ

深呼吸すれば伏線にも気づく

ここからは『ELI イーライ』の結末の核心部分のネタバレ。

本作はずっとイーライの視点で進み、観客もイーライと同じ目線で見ています。この屋敷は治療を目的としていないことは明らかです。そもそもイーライが自己免疫疾患であること自体が疑わしいのは序盤から察しがつきやすいです。デリケートなはずの自分の子をあんな安モーテルに泊めているのも変ですし、大仰な防護服がある割にそれ以外のプロテクトが甘いのも矛盾しています。

あの治療施設だという屋敷も違和感だらけ。厳重なのは入り口だけで、他の窓などは普通の作り。自己免疫疾患専門のケアセンターどころか、普通の病院としても機能を果たせない感じすらあります。実際の治療も医学的なルールに従っているとは思えず、妙に素人くさい…。

怪しいのは医師か、父か、母か、それとも全員か。一体その目的は何なのか。そんなことを考えていると、恐怖現象が多発。あの心霊的な存在は、敵なのか、味方なのか。謎が謎を呼び、わからなくなる一方です。

そして明かされたのはイーライが「悪魔の子」だったという悲しい現実。子どもに恵まれなかった両親は、神にすらも見放されたと考え、悪魔に子を授かりたいと祈ってしまったのでした。母があんなに信仰深く描かれ、父がイーライにやや冷たいのはそのためだったんですね。

この「イーライ=悪魔」というオチ。唐突な気もしますが、ちゃんと伏線は張ってありました。序盤で不良にからかわれるイーライが「あいつらをやっつけられますように」と願うシーン。後から振り返ればいかにも悪魔的な加害願望です。また、冒頭で外の陽光の中、苦しんでいくイーライの姿は痛々しいですが、オチを知れば“なるほどベタな悪魔描写だね”…という話。

ただし、一番のネタバレ伏線要素はおそらくこの映画の関連性を匂わせることでしょう。その映画とは、ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)。『ELI イーライ』の母親の名前がローズであり、作中で後半にいくにつれ、彼女が強調されていき、あの結末。『ローズマリーの赤ちゃん』への目配せが際立っていました。

今作は自己免疫疾患でしたが、病気という題材を悪魔に例えるのは珍しくありません。悪魔ホラーの伝説級名作『エクソシスト』(1973年)のインパクト絶大だった悪魔憑き描写は「抗NMDA受容体脳炎」という病気の症状がモデルになっていると言われているのは有名な話。

その病気と悪魔の関係性を科学でオブラートに包んでミスリードさせるスタイル。科学を表面上装ったホラーと言えば、ホーン医師を演じた“リリ・テイラー”も出演した屋敷ホラー映画『ホーンティング』を連想する部分です。

『ELI イーライ』は『ローズマリーの赤ちゃん』と『エクソシスト』と『ホーンティング』の掛け合わせ技といったところでしょうか。

デビル・ガールに焼かれたい

『ELI イーライ』は細かい作り自体は雑さも目立ちます。

悪魔とわかっているならもっと入念な監視下に置くべきだろうに、なんであんな自由にウロウロできる状態にさせたんだとか。物語上の仕掛けとはいえ「317」のパスワードはいくらなんでも緩すぎるだろうとか。ミイラ化した3人の子ども(ペリー、アグネス、ルーシャス)を隠す地下室をもっと厳重にロックしないとダメだろうとか。

まあ、でも悪魔だし…(元も子もない結論)。どんなに人間が頑張っても詮無きことです。

私としては悪魔を応援したくなる性分なので、終盤の悪魔リベンジなテンションは嫌いどころか、大好き。医師&看護師から悪魔払いモードにチェンジする修道女たちと、イーライ(悪魔覚醒)の対決からの、逆さ十字で空中浮遊&大炎上する修道女トリオ。この絵面のインパクトでもじゅうぶん楽しい。怖いを通り越して笑える感じすらあるのが、悪魔ホラーの良いところ。

ラストは、悪魔ファミリーの完成。ここでのヘイリーの一番おいしいところを持っていく感じがまたいいですね。“セイディー・シンク”が輝いています。「父さん、顔が広いの」とか、そんなセリフを聞く限り、この子、相当なじゃじゃ馬デビル・ガールですよ。ヘイリーが作中で火を出す手品を披露していましたが、あれはマジックではなく、本物の悪魔の技だったのかとわかると同時に、炎上する屋敷を出る車。屋敷ホラーの鉄板も守るエンディングはお約束。

たぶんあの後はイーライがヘイリーから火を出す方法を学んで、テキトーに放火でもするんですよ。「僕、3人を浮遊して燃やしたよ」「は? たったの3人? 私なんか20人はいけるよ?」、そして茫然とするローズ。私もヘイリーから火の出し方、教わりたいなぁ…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 38% Audience --%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures