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『ワウンズ 呪われたメッセージ』感想(ネタバレ)…Netflix;1匹いたら

ワウンズ 呪われたメッセージ

1匹いたら…Netflix映画『ワウンズ 呪われたメッセージ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Wounds
製作国:アメリカ・イギリス(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ババク・アンヴァリ

ワウンズ 呪われたメッセージ

わうんず のろわれためっせーじ
ワウンズ 呪われたメッセージ

『ワウンズ 呪われたメッセージ』あらすじ

バーテンダーの男は今日も馴染みの客を相手に仕事をする。たまたま騒動があって、若い客が置き忘れたと思われるスマートフォン。それに謎の不気味なメッセージが届く。最初は気にしないようにしていたものの、自分の理解できない世界からゆっくりと忍び寄る恐怖。癒えることのない傷は、痛みを増していくばかり。

『ワウンズ 呪われたメッセージ』感想(ネタバレなし)

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メッセージを受信しました

日常に欠かせないものになったメールやSMS。でも余計なもの・不審なものも届いたりします。私はあまり使っていないメールアドレスにほぼ毎日のように「お客様のLINEアカウントに異常ログインされたことがありました」という内容のメールが送られてきます。そのメールアドレスはLINEに登録していません。そんなずっと同じ文面をひたすらに送ってくることもないのに…。

こういうインターネット時代ということもあり、メールやSNSをトリガーにするホラー映画もすっかり珍しいことではなくなってきたのですが、いかんせんこういう迷惑行為が氾濫しすぎて、それが心霊的現象だったとしてもスルーされる可能性の方が高いんじゃないかと思ってしまう今日この頃。心霊側も大変ですよ、迷惑メールフォルダに入れられたらたまったものじゃないでしょうし…。

そんなアホな考えはさておき、今回紹介する『ワウンズ 呪われたメッセージ』はよくありがちなスマホからの恐怖現象体験と思わせつつ、なかなかに闇深い異界のどん底に観客を引きずり込む、心理ホラーでした。エンタメ感は薄いですね。

お話自体はシンプルで、低予算で作られたホラー映画らしくシンプルな構成ですが、ジワジワと恐怖を煽る演出が特徴。いわゆるお化け屋敷系のワッと驚かすタイプの作品ではありません。人間関係の不信感なども主軸にしながら進んでいくあたりは、最近の映画だと『イット・カムズ・アット・ナイト』に近いかもしれません。

監督は“ババク・アンヴァリ”。イラン系イギリス人で、キャリアはまだ浅いです。しかし、長編監督デビューとなった『アンダー・ザ・シャドウ 影の魔物』が非常に高く評価され、2016年の米アカデミー賞外国語映画部門のイギリス代表にエントリーされたりして話題になりました。この『アンダー・ザ・シャドウ 影の魔物』はイラン・イラク戦争下の首都テヘランが舞台で、ある家族が体験する心霊的恐怖を描くという物語。恐怖そのものや演出&シチュエーションは既視感がありありなのですが、その舞台が中東というのが異色で、かなり新鮮なものを見た気分にさせられるユニークなホラーでした。

その“ババク・アンヴァリ”の次なる監督作となった本作『ワウンズ 呪われたメッセージ』は舞台がアメリカのごく普通の街になり、若干異色度は減退しましたが、それでもこの監督特有の心理的な“嫌な感覚”で攻めるスタイルは相変わらずです。

原作があって、ネイサン・バリングルードという割と新進気鋭(2000年代)のホラー作家が2015年に書いた「The Visible Filth」です。日本では邦訳は出ているのかな、出ていないかな。

製作しているのは「アンナプルナ・ピクチャーズ」。この企業はオラクル(あの有名なソフトウェア会社)のCEOラリー・エリソンを父に持つ娘のミーガン・エリソン(まだ30代前半と若い)が代表を務めるところで、2011年に設立されたのですが、『20センチュリー・ウーマン』や『ビール・ストリートの恋人たち』、『デトロイト』など素晴らしい作品を手がけており、意外に活躍中。

『ワウンズ 呪われたメッセージ』の俳優陣は美男美女が揃っています。

『君の名前で僕を呼んで』で男も女もメロメロの骨抜きにし、『ビリーブ 未来への大逆転』では理想的な夫像を示し、『ホテル・ムンバイ』では地獄の体験を生きる姿を目に焼き付けさせた、“アーミー・ハマー”。今作ではしがないバーテンダー役と地味め。

『フィフティ・シェイズ』シリーズでは批評家酷評ながらもお茶の間に知れ渡るきっかけとなり、そこから『サスペリア』や『ホテル・エルロワイヤル』で名演を見せて順調にキャリアを重ねる、“ダコタ・ジョンソン”。今作も多少酷い目に遭う…かも。

『デッドプール2』のラッキー・ウーマンなドミノ役で映画ファンの認知を獲得し、『ジョーカー』でもあらゆる意味で印象的な登場を見せた、“ザジー・ビーツ”。今作ではメインではないですが、割と出番があります。

『ワウンズ 呪われたメッセージ』はアメリカではHuluでも配信されているようですが、日本ではNetflixオリジナル作品として2019年10月18日より配信中。

ホラーファンなど、気になる人はぜひ。

なお、虫が苦手な人には正視に耐えない映像がかなり登場するので(たぶん薄目でどうにか誤魔化すのも無理なレベル)、虫嫌いな方はそれなりの覚悟を持って挑んでください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ホラー好きなら)
友人 ◯(暇つぶしにも良し)
恋人 ◯(関係を大切に…)
キッズ △(やや残酷描写あり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ワウンズ 呪われたメッセージ』感想(ネタバレあり)

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もしもスマホを拾ったら

『ワウンズ 呪われたメッセージ』の始まりは小さなごく普通のバーです。そこでこの夜の時間帯に働くバーテンダーのウィルは、本日もいつもの客相手に仕事中。ただ、今日はお客さんは少なめなのか、若干、暇そうです。目の前のカウンター座っているのは、アリシアジェフリーというカップル。どうやらウィルとアリシアは前から顔なじみのようです。けれども今はアリシアとジェフリーはすっかりイチャイチャモード。人目を憚らず、絡み合います。

そんなラブラブ全開の二人にヤレヤレ顔のウィル。そこに未成年風な若者たちが来店。それでもお咎めなしで酒を出すウィル。さらにエリックという横にもデカイ大男とその仲間たちがわんさか来店。もうかなり酔っているようです。そうこうしているうちには乱暴な空気を感じたと思ったら、瞬く間に喧嘩騒ぎに発展。喧嘩相手に割れた瓶で顔をザックリ刺されるエリックでしたが、逆に相手を殴り返し、ひとまずそこで乱闘は終了。警察を呼ばれることを恐れた若者グループはそそくさと退散していました。

ふと見るとがおそらくあの若者集団が忘れたであろう黄色いスマホがひとつ。帰宅したウィルはそのスマホを持ち帰ってしまったことに気づきます。

そしてそのスマホの待機画面にSMSのメッセージが表示されます。ギャレッドというユーザーの「誰かここにいる」「あの本に手を出したから」「あのトンネルからの物」というよくわからないやりとり。ふと魔が差したのか興味が沸いたのか、ログインできないかと思っていじってみると、ディスプレイにくっきりと残る指の後でパターンロックを解除できました(このロック、本当にこうやって第3者にアンロックされるので注意!)。そして勝手に「スマホをバーで拾った」とメッセージをうちます。しかし、次のメッセージは意外なものでした。「助けて」…どうせイタズラだろうと思って、それでも鳴りやまない通知を無視して寝ることにします。

朝。目覚めると恋人で大学院生のキャリーと一緒に食事。このスマホは何か?と聞かれ、怪しまれたくないのでまたもアンロックしてみせるウィル。ところがキャリーがふと中身を見ると、血まみれの無数の歯の写真が履歴にあるのを発見。気味悪がります。

キャリーを大学に送り届けた後、職場のロージーの店に行くと、不審な黒い車が尾行していますが、そのときはウィルは気にも留めていません。例の騒動で怪我をしたエリックが心配なので家へ。かなり顔の傷が酷いものの、頑なに病院にはいかないと言い張るエリック。「うなされる」というエリックのためにしばらく寝ている前で座ってじっと見てあげます。

その後、昼食を食べた後、また帰宅。またあの怪しいスマホにメッセージが。「負傷した友達の様子はどう?」「彼もあの写真のようになれるね」という意味深な言葉。そして写真フォルダに目をやると、人の生首の写真があるのを見つけ、驚愕。しかも動画もあって「正しくできたかな?」などと囁く一団の声と、その腐敗した生首骸骨の周囲をゴキブリがうずまき、何かの手が飛び出し…。

「きっと加工写真だ」と自分に言い聞かせながら、電話してみると耳がつぶれるくらいの謎の音が発生。帰ってきてその状態を見たキャシーは「警察を呼ぼう」と提案するも、ウィルは止めます。

しかし、運転中に「電話をありがとう、君は選ばれた、後ろにいる、返してもらおう」というメッセージとともに、虫がいっぱいの幻覚を見たウィル。謎の黒い車はスマホを持ち去り、走っていきます。友人の警察官であるドゥイン&パトリックに相談するも情報は不足。

今度は自分のスマホが鳴り、キャリーからでしたが、電話に出るもすぐに切れ、室内を映した不審な動画だけが送られてきます。オカシイ状況に焦って帰宅すると…。

一体、いつから間違ってしまったのか。自分の知らないところで蠢く存在に気づくまであと少し…。

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おいでよ、ゴキブリの家

『ワウンズ 呪われたメッセージ』は大きく分けて3つの恐怖があります。

ひとつは、前述したとおり、スマホなどのITツールによる恐怖。メッセージという非常に相手の見えないがゆえの怖さは大半の人が経験済みじゃないでしょうか。一般的にはスマホを落とした側が怖い目に遭うのが定番ですが(そんな邦画がありましたね)、こちらではスマホを拾った側が怖い目に遭います。確かに拾う方も誰のモノかもわからないですし、嫌ですよね。絶対にトラブルの種になります。私も赤の他人のスマホを拾ったことありますけど、極力持っていたくないので、すぐに警察か店の人に渡しますよ。

本作におけるスマホやノートパソコンを使った恐怖演出はベタなので、そこまで驚きません。心理的な嫌悪感はレベル1といった感じ。

続いて2つ目は「傷」。この映画の原題「wounds」は「傷」という意味であり、傷の中でも他人に攻撃を受けてできた血の出る生々しい傷を指す単語です。本作ではバーの乱闘で顔に負傷したエリックに始まり、傷、傷、傷の連続。

私は映画でリアルな傷表現があるのは地味に嫌なのですけど(交通事故でバーンと轢かれるのは別に大丈夫なのに、ちょっと指を怪我する程度で不快感がある)、本作はそればかりでキツかった…。傷口から何かが出るという描写とか、想像するのも最悪なのに…。あのウィルの脇のシーンといい、妙に自分の体がむず痒くなってくる場面も多いです。個人的な心理的嫌悪感はレベル5くらい(ちなみにMAXはないのでテキトーです)。

3つ目は鑑賞者の目に焼き付いたであろう、「G」。ゴジラじゃないです、ゴキブリです。

虫を使った恐怖演出はこれまたお約束ではあるのですが、本作はかなり徹底しています。バーにゴキブリがいるというだけでも嫌な人は「もうこんな店、二度と来ない!」と激怒すると思いますが、この映画は至る所でゴキブリを出すんですね。しかも、クローゼットを開けたらゴキブリが飛び出すとか、一番想像したくないパターンの登場であり、完全にゴキブリパニック映画の様相。

ゴキブリが闊歩する家にとどまらず、最後はゴキブリ大行進ですよ。1匹いたら100匹はいると思え…という嘘か本当かわからない話もありますけど、あの映像はその可視化。VFXの暴力。たぶん虫嫌いの人もここまで頑張ってみたけど、ラストシーンで画面を閉じたかもしれません。大丈夫です。あれで映画は終わりですから。

当の私はなぜかゴキブリは平気なので、本作のゴキブリ猛プッシュも割と平然と観ていられる…(傷より平気)。個人的な心理的嫌悪感はレベル0.5くらい。ゴキブリだって、ほらよく見ると頑張って生きている健気な奴らですよ…。逆にキャシーに踏みつぶされるゴキブリには感受性を発動している自分…あれ、私、ゴキブリなのかな…。

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グノーシス流に考えよう

『ワウンズ 呪われたメッセージ』はその唐突なゴキブリENDによって、観客放置プレイのままエンドクレジットです。そもそも物語も妙にメリハリがあるのかないのか判別不能で、盛り上がり始めたかと思ったらスッと収縮し、その繰り返し。なんだったのかと困惑するのも無理ありません。

作中で「グノーシス」に言及があったように、グノーシス主義が題材の源流にあるのが推察できます。

これは3世紀から4世紀にかけて流行った思想です。よく世間で凄惨な事故や事件が起こると「なぜ神様はこんな出来事を起こしたのか」「いやそれは私たちに試練を与えていらっしゃる」みたいな問答がされることがしばしばあります。グノーシス主義はそんな風に考えません。「この世に闇深いことが生じるのは神様も悪だからだ」「なのでこの世界も狂っていて悪に満ちている」という、割とそれを言ったらおしまいですよみたいな考えを主張しています。「反宇宙的二元論」と呼ぶそうです。なのでキリスト教の教えに真っ向から反するために、キリスト教的立場から見れば邪教のような扱いです。

本作ではグノーシス主義をそのまま扱ってはおらず、それを基点にした悪魔崇拝的なオカルト儀式に結び付けています。“ババク・アンヴァリ”監督は前作も民族伝承を元にホラー化していましたし、こういうものの映像化は得意なのでしょうか。「傷の翻訳書」を読みかじったことで行われた“傷”を介したそれ。

登場人物たちもグノーシス主義に則しているような人間の“嫌な部分”を全面に出した者ばかり

とくに主人公のウィルは、バーでは衛生面を気にしないわ、未成年に酒を出すわ、他人のスマホを覗き見するわ、助けを求める声に反応しないわ、罪になるのを恐れて警察に報告しないわ、ガールフレンドが教授と浮気していると勘ぐって八つ当たりするわ、恋人がいる女性を自分勝手に寝取ろうとするわ、正直、クズな部分しかないです。

でも人間ってこういうクズなのが本質でしょ?というグノーシス流の投げやり。

確かにリアルな世の中を見渡せば相手を必要以上に疑っている人ばかりですものね。他者を想う気持ちをひとつでも持てば世界は変わるのに…。

「一見するとみんな普通に見えるのよね、でも中身はただの虫なんだ」…そんなセリフにもあるように、そんなものですよってことなのか。

あれ、じゃあ、私が書いた「自分はゴキブリ」説が濃厚じゃないですか。

私はゴキブリです!(朗らかな顔で)

『ワウンズ 呪われたメッセージ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience –%
IMDb
4.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Annapurna Pictures

以上、『ワウンズ 呪われたメッセージ』の感想でした。

Wounds (2019) [Japanese Review] 『ワウンズ 呪われたメッセージ』考察・評価レビュー