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『ゴールデン・リバー』感想(ネタバレ)…シスターズ・ブラザーズ珍道中

ゴールデン・リバー

シスターズ・ブラザーズ珍道中…映画『ゴールデンリバー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Sisters Brothers
製作国:アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン(2018年)
日本公開日:2019年7月5日
監督:ジャック・オーディアール

ゴールデン・リバー

ごーるでんりばー
ゴールデン・リバー

『ゴールデン・リバー』あらすじ

ゴールドラッシュに沸く1851年のオレゴン州。「シスターズ兄弟」の名で恐れられる殺し屋兄弟の兄イーライと弟チャーリーは、提督からの内密の依頼を受けて、黄金を探す化学式を発見したという化学者ウォームを追うことになる。先行している連絡係を務める男モリスの情報をもとに、その化学者を追う兄弟だったが、ともに黄金に魅せられた男たちの運命は狂いだす…。

『ゴールデン・リバー』感想(ネタバレなし)

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一攫千金はいつの時代も夢見る

私のところに空から10億円くらい降ってこないかなぁ…(唐突なボヤキ)。

まあ、でももし本当に10億円が手に入っても私は映画鑑賞くらいしか趣味がないので、そのお金も映画を観ることに使うだけなんですけどね。地域の子どもたちにタダで映画を観られるチケットを配るのもいいかもしれない。だから…お金をください(切実)。

そんな一攫千金を夢見ることは誰だってすると思います。願うだけではダメだと考えて、宝くじを買ったり、仮想通貨に手を出してみたり…実際に行動をしている人もいるでしょう。それが実を結ぶかは定かではなくとも何かそのために動いているという“実感”が希望になる…そういうこともあります。社会なんて私たち“持たざる者”をろくに助けてくれませんから(というか金をむしり取っていく一方)、余計にそんな思考にすがりつきたくなるものです。

それはいつの時代も同じ。本作『ゴールデン・リバー』1850年代のアメリカで一攫千金を夢想して行動に出た男たちの物語です。

この時期のアメリカといえば「ゴールドラッシュ」に沸いていました。ゴールドラッシュという言葉自体は知名度もありますが、これは金をとれる場所が発見され、一儲けしようとそこにあちこちから採掘者が殺到する現象のこと。アメリカでは、1848年から起こった「カリフォルニア・ゴールドラッシュ」が非常に有名です。ある日、偶然にこの地で金を発見し、「ここは金鉱原だ!」という情報が、別にSNSもない時代なのに瞬く間に拡散。それそれはもうもの凄い人数がこの地に押し寄せ、男もいれば女もいる、高齢者もいれば子どももいる、職業もバラバラ、出自もバラバラ、とにかく上や下やの大騒ぎのカオス状態に拡大。

結局、金を手に入れて莫大な利益を得たのはほんの一握りの人だけだったらしいですが、結果、副次的効果でこの地は発展を遂げ、皮肉にもアメリカという国の礎になる出来事になりました。もちろん喜んでばかりもいられず、その過程で先住民迫害が起こったりもしたのですが…。

で、話を映画に戻すと、『ゴールデン・リバー』は言ってしまえば最初は西部劇的なスタイルなのですが、だんだんとゴールドラッシュに夢を託すアメリカン・ドリーマーになっていく…そんな男たちの変移を眺める映画ですね。雰囲気は少しコミカルなユーモアもあったりして、独特のテンポ感があり、ちょっと普通のウェスタン・ムービーとは違う感じがします。

それもそのはずで監督が“ジャック・オーディアール”という、知っている人は知っている、著名なフランス人映画監督です。デビュー作『天使が隣で眠る夜』の時点から高い評価を獲得し、それからも絶好調なキャリアを歩み、2009年の『預言者』でカンヌ国際映画祭でグランプリ、そして2015年の『ディーパンの闘い』でついにパルム・ドールに輝きました。

そんな頂点に上り詰めたフランス人の“ジャック・オーディアール”監督が次に何をするのかと思ったら、アメリカ西部劇を描くという挑戦。これは俄然、気になります。

しかも、俳優陣もまあ渋いメンツばかり。メインは4人です。

『僕たちのラストステージ』で素晴らしい名演を披露した“ジョン・C・ライリー”

『ビューティフル・デイ』でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞したばかりの“ホアキン・フェニックス”

『ベルベット・バズソー 血塗られたギャラリー』など多彩な演技に定評のある“ジェイク・ジレンホール”

『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』など大作出演も目立つパキスタン系俳優“リズ・アーメッド”

ちなみに“ジェイク・ジレンホール”は『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』で、“リズ・アーメッド”は『ヴェノム』でと、ともに「スパイダーマン」シリーズでアレ側を演じている共通点がありますが、この二人と言えばやっぱり『ナイトクローラー』(2014年)です。またこのペアが揃うのも不思議な感じです。

この4人の中でもとくに中心にいるのは“ジョン・C・ライリー”で、というのも、本作の企画自体が“ジョン・C・ライリー”が始めたことなんですね。

『ゴールデン・リバー』は2018年のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞するなど、さすが“ジャック・オーディアール”監督作。安定の高評価です。

コアな映画ファンにオススメしがちな映画ではありますが、これを機に映画好きになったばかりの人も手を出してみませんか? 一攫千金は手に入らないけど、名作には出会えますよ。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(監督・俳優ファンは必見)
友人 ◯(西部劇好き同士なら)
恋人 △(恋愛要素はほぼない)
キッズ △(大人向けのドラマ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ゴールデン・リバー』感想(ネタバレあり)

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俺たちシスターズ・ブラザーズ!

『ゴールデン・リバー』の原作はパトリック・デウィットの小説「The Sisters Brothers」であり、映画の原題もそうなっています。Sisters(姉妹)? Brothers(兄弟)? どういうこと? …という感じですが、「シスターズ」という名前の兄弟なのでした。このチグハグなネーミングがまた今作の空気感にマッチしているのですが。

このシスターズ兄弟はアンダーグラウンドな世界では名の知れた殺し屋で、あたり一帯を取り仕切る提督を雇い主に汚れ仕事に精を出す日々。しかし、ここでこの兄弟の大事な関係性があり、まず提督からの信頼も得ているのは弟のチャーリーの方なんですね。向こう見ずでアグレッシブな性格から気に入られているようですが、一方の兄のイーライは慎重派というか、ブレーキ役。要するに二人揃って初めて機能する殺し屋とも言えます。

そんなシスターズ兄弟の今回の新しい殺し依頼は、ウォームという男を始末すること。コイツがなんで提督に命を狙われているのかは不明ですが、まあ、とりあえず仕事です。すでに連絡係としてモリスという男がウォームの居場所を探してくれているようで、あとはその情報を手掛かりに、追いかけて葬り去るのみ。

さっそく馬に跨り、荒野を旅し始めるシスターズ兄弟。その頃、ウォームは金脈を求めて群れをなす採掘者の中に混ざっており、モリスがそれを追跡していました。そしてモリスとウォームはひょんなことから会話し合う仲になり、そしてウォームの秘密を知ります。なんでもウォームは化学者らしく、金を見分ける“予言者の薬”を作る化学式を発見したので、これを使えば川の中にある金をたちまち発見できるとか。

ちなみに当時のゴールドラッシュにおける砂金採取の方法は選鉱鍋で砂を洗うというシンプルなやり方が初期は通用しましたが、しだいに簡単にとれる金は取り尽くされ、今度はウォータージェットで砂利鉱床を掘削したりと、あの手この手の手段が開発されていました。

こんな美味しい話を聞いたらモリスも関心を持ってしまうというもの。そして、シスターズ兄弟もまた思わぬ形で大金を手に入れてしまい、裕福な暮らしの良さにあらためて気づいたことで、リッチになりたい欲がムクムクと沸き上がり…。

結果、この4人は鉢合わせした時、もはや殺しの依頼はどうでもよくなり、手を結んで一緒にその例の薬で金をガッポリ手に入れる作戦に夢中になるのでした。

まさに「濡れ手で粟」という感じで、人生を変える大金をこの4人の男は手に入れられる…そのすぐそこまで来た時、事件は起こり…。

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カッコいい(冒頭がピーク)

私は散々書いてきましたが、西部劇というジャンルではどこかにひとつでもカッコいいシーンがあればオールOKじゃないかと思っています。

『ゴールデン・リバー』の場合、いきなりその唸るようなカッコいい場面が始まります。

夜。真っ暗闇の中、銃声とマズルフラッシュだけが画面から伝わり、何事かと思ったら、それはシスターズ兄弟が家に突入している場面。瞬く間に制圧し、敵を一掃。とてつもない実力の持ち主だということは一目瞭然ですけど、その二人のそばでは馬が燃えながら走っていたりと、なんか同時にシュールさも共存していて、この兄弟の怖さと滑稽さを一発で示す、最高のオープニングです。

ところがこの映画、この冒頭でシスターズ兄弟の最高にクールな姿を見せたと思ったら、まさかのここがピーク。これ以降、どんどん“あれれ…”なシーンが目立ち始めます。

まずチャーリーはとにかく粗暴で酒癖が悪い。酔っぱらっては夜中に銃を乱発する醜態を晒したかと思えば、命を狙う集団に囲まれても酒のせいで嘔吐するという、敵すらもドン引きな状態。もちろんイーライもそんな弟にストレス全開。

一方イーライもイーライでどこかマヌケであり、野営して寝ている間に毒蜘蛛に咬まれて顔がパンパンに腫れあがる悲劇を経験したかと思えば、自分の馬がクマによって傷を負わされるという不幸も舞い込んできて、踏んだり蹴ったり

本当にこの二人は殺し屋稼業やっていけていたのだろうかと疑問に思ってしまいますが、でもやはりひとたび戦闘になると強い。モリスとウォームに合流して、迫りくる追っ手を撃退して腕を見せますが、こんな風にちゃっかり強いからこそ、周囲に利用されやすいのでしょうかね。

しかし、そんな最強に思えた二人も、体に有害な薬を川に流して金を探す作業に夢中になりすぎるあまり、焦ったチャーリーが薬をモロにかぶるという大失敗をしでかし、結果、モリスとウォームは死亡、チャーリーは片腕切断という大損害。ちょっとさすがにこれは挽回のしようがない。

なんともダサい現状に後悔してもしきれない中、こうなったら提督を殺すしかないとついに覚悟を決めるイーライ。ところが、提督はすでに死亡していて葬式の真っ最中。

最後までシスターズ兄弟のカッコよさが挽回できないままのエンディング。でも幸せそうな時間。憎い雇い主は自らの手で殺せなかった、裕福な暮らしのための金も手に入らなかった、クソみたいな社会は何も変わっていない、でも本当の幸せは“ここ”にあった

そんな一攫千金よりも大事なものに気づかせてくれる映画だったのかもしれません。

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4人の名俳優はやはりスゴイ

『ゴールデン・リバー』の魅力は、やはりメインキャラクターである4人の「ブロマンス」的な交流による人間関係の移ろい。

“ジョン・C・ライリー”は『僕たちのラストステージ』でもコンビによる絶妙な関係性を名演していましたが、『ゴールデン・リバー』でも大袈裟な演技やセリフに頼らず、さりげない仕草や目線のやりとりだけで、クスっと笑えるユーモアを醸しだすのが本当に上手いですね。イーライの人生はじめての歯磨き!からの、モリスとの“あっ、あんたも歯磨き仲間?”的なセリフのないやりとりもホッコリさせられます。

そのイーライと対照的なチャーリーを演じた“ホアキン・フェニックス”の、コイツは何言ってもダメなんだろうなと思わせる佇まい。いや、悪気はないのでしょうけど、コミュニケーションが基本はバイオレンスなので、常識の枠にとどまらない。たぶん本人は具体的な人生設計もなく、殺してればいつかトップになれるくらいにしか思っていない。まさに“ホアキン・フェニックス”にピッタリの役。今後公開を控える主演作『ジョーカー』も楽しみになってきますね。

メインはこのシスターズ兄弟なのですが、映画化にあたってモリスとウォームの人物像を膨らまして肉付けしたらしく、この二人も結構シスターズ兄弟と対等に並ぶくらいの魅力を放っていました。

モリスを演じた“ジェイク・ギレンホール”は、どっちの味方になりたいのか判断つかないブレブレ感がいつもの持ち味を発揮していました。だいたいの作品で信用できないですよね…。常に漁夫の利を狙ってそうな…。

ウォームを演じた“リズ・アーメッド”は非常に明確な目的意識を持っている人物を演じ、これまでのフィルモグラフィーの中でも一番主体性があるのではないかと思えるキャラでした。しかし、あの3人に出会ってしまったが運の尽き

本作は結局はブロマンスになりそうでならずに終わる、そんな映画であり、その原因もやっぱり“欲”です。ブロマンスの敵は欲なんだなぁ。

役者陣以外だと、『ゴールデン・リバー』は撮影も冒頭シーンを始め、ずっと素晴らしく、撮影をつとめた“ブノワ・デビエ”はギャスパー・ノエ監督作の撮影を担当するなど、さすがの実力者でした。

結論的には、私はあれですね、何のリスクもなく、10億円が欲しいな、とそう思いました(クズの意見)。そうじゃないなら、やっぱりこうやってダラダラと映画の感想を書いている時間が一番幸せなのでしょう。

『ゴールデン・リバー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 68%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

以上、『ゴールデン・リバー』の感想でした。

The Sisters Brothers (2018) [Japanese Review] 『ゴールデン・リバー』考察・評価レビュー