ホットギミック ガールミーツボーイ
映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Hot Gimmick: Girl Meets Boy
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年6月28日
監督:山戸結希

ホットギミック ガールミーツボーイ

あらすじ

気弱な女子高生・成田初は、兄、妹、両親に囲まれたごく普通の家庭で暮らしていた。しかし、彼女の感情はモヤモヤと彷徨っている。同じ社宅に住む幼なじみで昔から初の憧れの存在だった小田切梓。口は悪いが傷ついた初を励ましてくれる橘亮輝。初の兄で、ある秘密を抱え込んでいる凌。初を取り巻く3人の男性との間で、彼女の心が揺れ動いていく。

『ホットギミック ガールミーツボーイ』感想(ネタバレなし)

「女性監督」という枠に抗うパイオニア

実質的に「映画監督は男性の仕事である」という状況について改善する兆しが見えない昨今。日本も例外ではない中、たまたま女性であるというだけで映画監督として活躍するチャンスが著しく少ない状態を、女性映画人たちがただ黙って耐えているわけではありません。

声を上げる当事者もいます。そのひとりが“山戸結希”監督です。

2012年に自主配給で上映された『あの娘が海辺で踊ってる』で監督デビュー。大学の映画研究会で独学で撮ったにもかかわらず、この作品は話題を呼び、一気に名前が業界で知れ渡ります。その後に制作した『おとぎ話みたい』も好評で、2016年には小松菜奈&菅田将暉の人気俳優を揃えた『溺れるナイフ』を公開。こちらも一部の映画ファンを中心に話題性を集めました。


そんな映画の神様に愛されている“山戸結希”監督ですが、キャリアが順調…とは言えないかもしれません。ティーンムービーで活躍する他の男性監督は年に何本も映画を撮ることも普通にありますけど、それと比べたら“山戸結希”監督の活躍の場は少なめではないでしょうか。もしかしたら本人の望んでいるペースなのかもしれないですが、それでもキャリアに見えない天井があるような歯痒さを感じざるを得ません。

その“山戸結希”監督は2019年に『21世紀の女の子』という企画をプロデュースしました。山戸監督を含め15人の女性監督がメガホンをとり、それぞれの視点で未来の女の子たちのためのオムニバス短篇集を作る…というものでした。そこでリーダーシップを発揮する“山戸結希”監督には映画業界をとりまく女性ゆえの差別や偏見を打開していきたいという強い想いがあることが、インタビュー等の言葉の端々で伝わってきます。

“山戸結希”監督自身まだ相当に若いのですけど、それでも問題意識を感じて行動している。この活動は今は目立たないのかもしれませんが、間違いなく未来の日本映画史につながる一歩だと思います。そして“山戸結希”監督はミレニアル世代を象徴するパイオニアです。

そういう立場にたっているんだと考えて“山戸結希”監督を見ていれば、最新作『ホットギミック ガールミーツボーイ』をただのティーンムービーの一作と片づけることもできなくなってきます。

いや、実際、本作は凡庸なティーンムービーとはなっていないのは一目瞭然で、鑑賞した人ならわかるように作家性が爆発しまくっている一本です。前作『溺れるナイフ』がまだ平凡に見えてきてしまうくらい、この『ホットギミック ガールミーツボーイ』では“山戸結希”監督の作家性が深化しているのではないでしょうか。

なのでとにかく人を異様に選ぶ作品ですけど、“山戸結希”監督の作家性も絡めてサブテキストありきで読んでいく映画なのだと思います。

原作は相原実貴による少女漫画ですが、かなり監督の色に染め直された感じなのでしょうか。

主演は、乃木坂46の“堀未央奈”。“山戸結希”監督は乃木坂46の楽曲「ハルジオンが咲く頃」のミュージックビデオを担当したことがあり、そこでの縁。俳優としての経験は乏しいものの、監督との親和性が高いのか、本作では絶妙にマッチした演技を披露しています。

他の俳優陣は、『ミスミソウ』の“清水尋也”、『ソロモンの偽証』の“板垣瑞生”、『殺さない彼と死なない彼女』の“間宮祥太朗”、『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』の“桜田ひより”、『見えない目撃者』の“吉岡里帆”など。どれも監督の魔法で演技パワーがガンガンに引き出されています。

『ホットギミック ガールミーツボーイ』を見て、これまでのティーンムービーの固定観念をひっくり返してみませんか。

オススメ度のチェック
ひとり◯(監督作品好きなら必見)
友人◯(かなりクセがあるけど)
恋人◯(かなりクセがあるけど)
キッズ◯(10代には生々しく刺さる?)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ホットギミック ガールミーツボーイ』感想(ネタバレあり)

わかんなくてもわかってよ

電車を降りる初(はつみ)。待っていたのは妹の。何かを買ってきたらしく、袋を渡します。その中には妊娠検査キットがあり、どうやら梓は自分の妊娠が心配で欲していたようです。しかし、同じく袋に入っていたコンドームには興味を持たず、初に押し付けます。

「初ちゃんみたいないい子ちゃんには絶対にわからないよ」

性経験に自信を持っているらしい梓の余裕の発言に何も言えない初。ひとり残され「わかんないよ」と力いっぱいコンドームの箱を川に投げ捨てるのでした。

その後、初は亮輝という偉そうな態度をとってくる男子に出会います。彼は梓がうっかり紛失したあの妊娠検査キットを拾ったらしく、「なんでもするから言わないで」と懇願する初に「じゃあ奴隷」と言いなり関係を強要してきます。

困り果てる初。しかし、そこへ現れたのはという別の男子でした。彼は初の幼馴染で今や駅や街で普通に宣伝広告で見かける話題沸騰の人気モデル。なぜその梓がここに来たのかと頭が真っ白になっていると、なんでも事情があってこの地域に戻ってきたようです。そんな梓は「クソ勉強小僧」と亮輝に言い放ち、牽制し合います。

学校のクラスでは突然の芸能人である梓の登場に女子グループは色めきだちます。そんな中、昔からの友達である初とすばる(茜の恋人でオタク)というクラス内では浮いている存在にも親しげに話しかけてくる梓。そんな態度に素直に答えていいのか迷う初。

しかし、そこへ割り込むのは亮輝です。梓と会話していると容赦なく荷物持ちを命じて引っ張っていく亮輝。「梓が相手にするって思っているのか」「お前みたいなバカを見ているとイライラする」「かわいいかわいいってチヤホヤされてる」「女ってつまんね~」とひな鳥の刷り込みのように言いように翻弄されている初を見下す発言を矢継ぎ早にぶつけてくる亮輝。

そしてあげくに「もうひとつ命令」だと言って今ここでキスをしろと言ってきます。さすがに困惑する初でしたが、意を決して軽くキス。すると「おおげさなんだよ、たかがキスだろう」と亮輝は捨て台詞を吐き、電車に消えていくのでした。

夜中、家で起きていた初。そこに兄の凌が帰ってきます。「なんかあったら俺に話してほしい」「初はそのままでいいよ」と優しく語る凌の眼差しには特別な想いがありましたが、初はそこまで気づきません。

別の日、梓の父に偶然出会い、パスポートを梓に届けてくれないかと頼まれたので快諾し、おそるおそる梓の仕事場へ。ファンのひとりだと思われる中、梓は「彼女ってことで」と大胆に明言。二人きりになる中、好きとは言えない初に「好きって言えよ」と迫る梓。自然とキスし、「今週末、夜デートしない? とびっきりオシャレしてね」と誘うのでした。

急に自分に降ってきた愛溢れる運命に心がときめく初。それは「初の裸、見たい」とスマホ動画通話越しに口にする梓の要望にもドキドキしつつ答えてあげるくらい、高まっていました。

しかし、その熱は唐突に冷めることになり…。

ホットギミック ガールミーツボーイ

哲学者“山戸結希”

『ホットギミック ガールミーツボーイ』は観ているこっちが恥ずかしくなるようなセリフやシーンの連発で、なんかの耐久実験を受けているような気分になった人もいたかもしれません。

しかし、表面上は「主人公の女の子が、3人の男の間で揺れ動く」という極めてベタベタな青春恋愛劇に見えつつ、その内側にはベタさとは真逆の意図が正確に設定されているものだと気づくと、急にこの映画が別物に見えてきます。

それにはまず“山戸結希”監督の作家性を探らないといけません。私は『溺れるナイフ』を観たときはそのエネルギーに圧倒されるばかりだったのですけど、それから監督作やインタビューなんかを資料に冷静に見つめ直して考えていると、ひとつわかりました。

この“山戸結希”監督、すごくロジカルな人だな、と。

監督が作品を自分なりに解説したりしている文章を読んだりするとわかるのですが、非常に論点が明快で、かつ学術的な考察をする方なんですね。それはジェンダーであったり、心理学であったり、切り口はさまざま。一方で、よく既存の監督にありがちなシネフィル的なトークはあまりしません。

なんでなのかと疑問に思ったのですが、そもそもこの“山戸結希”監督、映画に携わるようになったのも大学の映画研究会にたまたま入ったからであって、根っから映画を専門に学んだ人ではありません。そして、当初は哲学研究者になるのが夢だったそうです。

どうりでこうなるのか!という話ですよ。もうこの『ホットギミック ガールミーツボーイ』もティーンムービーとは言っても「ティーンに提供する娯楽作」ではなく「ティーンを研究テーマにした学術的見識からの映像論文」みたいなものでしたから。

もちろん企画時は「10代の女子」をターゲットにすると設定してあったのでしょうけど、いざ作らせれば哲学者“山戸結希”のマインドは止まらない。おのずと「現代のティーンをどう描くか」…その題材に対する分析がなされ、その答えを映像で見せていきます。

どうしてもティーンムービーは「ライトなもの」と受け捉えがちじゃないですか。当然作り手はそれでも真剣に作っていると思いますけど、でも「感動させればいい」「原作ファンにウケればいい」とか、せいぜいゴールはそこになります。しかし、それは見方を変えればティーンを軽視している。少なくとも“山戸結希”監督はティーンを研究に値する複雑な存在として徹底的に思考の解析装置にかけているんですね。

なので『ホットギミック ガールミーツボーイ』は哲学者“山戸結希”がまとめたひとつのアブストラクトなのではないかなと。

ずっとバカのままでいたい

で、映画自体はアブストラクト…つまり要約なので、詳しく知りたいなら本文を読まないといけません。でも映画にはそれがないので、自分で推察しないとならないです。凡人の私にできるかな…橘亮輝に「お前って読解力が不足しているよ」て言われるかもしれない…。

本作はタイトルにもあるように「ガールミーツボーイ」。「ボーイミーツガール」ではないところに意味があり、それは女子が主人公という以上に、女子が主体性を持つにいたる物語だということなのでしょう。

主人公の成田初はとにかく自己肯定感が低いです。妹にすら「初ちゃん」と呼ばれて舐められています。当然というか同級生の女子たちからの態度は同じ。そこに現れた3人の男。それぞれこの3人はパターンは違いますが、「放っておけない初を守ろう」という極めて凡庸な男らしさ…言い換えれば“王子様思考”があります。初はそこに言いように流され、自然に甘えていくようになります。

一応、この3人以外の男の描写もありますが、亮輝の周囲にいた男子グループのように女を男を満足させるモノ扱いしており、擁護不可な有害でしかない男らしさの塊です。それに比べたらこの“王子様思考”の3人はまだマシに見えてくるのも無理はありません。多くの青春学園映画はここで結論を迎え、女の子は男の子に幸せにしてもらってね…で終息しがち。でもそれを良しとする映画でもないのが本作です。

セクスティング事件以降、初には心境の変化が生じます。初恋は消えたのですが、そこからが自分の覚醒のスタートだったように。ここからは3人の男子たちとイコールな立場での対話が続き、掴めない答えをキャッチするべく、がむしゃらにもがきます。

そしていつのまにかあの自己肯定感が希薄だった初が、3人の男たちの自己肯定を助ける側にまわり、主導権を握っている。性愛すらも自分の手札にできるくらいの余裕がある。「私の体は私のものだ」と自分を独立で肯定できた初に怖いものはない。まさにティーンガールのエンパワーメントとして高らかな勝ち宣言です。

それを描くうえでの“山戸結希”監督の映像センスが異彩を相変わらず放っており、ラストのおなじみのシナジー演出は観客まで妙に巻き込むエモーションをもたらしてくれます。他にもあの序盤にある駅での初と亮輝とのぎこちない背伸びキスシーンなんかはどうやって撮ったのかと思うくらいに構成が神業級。

海外ではこういうテーマを描くならコメディにすることが多いのですけど、“山戸結希”監督は真面目なんですね。でも、とくに亮輝のキャラは一周回って可笑しかったと言えなくもない。「お前“汝、姦淫するなかれ”って知ってる?」がツボに入るほどに妙にシュールだし(お前はモーセの回し者なのか)、「なんか、お前…何事?」と不意を突かれたときの仮面をまとっていないアホさがまた…。「プップケプーなんじゃないの」って言われたらもうカッコつけようがないだろうに…。

初は最終的に「バカでいたい」と自己実現を得るのですが、おそらく“山戸結希”監督も(悪口じゃないですよ)バカな真面目さのある人なんだろうなと感じます。10代がつまらない人生でもバカみたいに何かを貫けば何かの結果が来るだろう…そういう経験者からのメッセージですね。

男性視点から抜け出せず邦画で描かれる女性が旧時代的なイメージをなおも引きずり「昭和の女」のままな昨今、この『ホットギミック ガールミーツボーイ』は間違いなく「令和の女」を全身で証明するような一作でした。

現状では「ガール」と「ボーイ」の二者しかいないですが、映画は他にも年齢、人種、セクシャリティ、経済格差などなど色々なレイヤーを設定することはできます。“山戸結希”監督の哲学対象がさらに広がった時、どんな答えを提示するのか。それもまた楽しみです。

この監督の作家性が「女性監督だから」で片づけられるのはあまりにも惜しい。あとはもっと自由なクリエイティブを発散できる場が生まれないと…。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会