そして男性のコミュニティをより良く変える…アニメシリーズ『黄昏アウトフォーカス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:渡部穏寛
LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写
たそがれあうとふぉーかす
『黄昏アウトフォーカス』物語 簡単紹介
『黄昏アウトフォーカス』感想(ネタバレなし)
BLはゆっくり次のシーンへ
2024年、この今の日本では「BL(ボーイズラブ)」というジャンルはニッチなカテゴリではなくなり、ひと昔前では考えられないほどにかなり広く一般に浸透し始めている…という世相の分析の声もあります。
それも確かにひとつの事実だと思います。
でも一方で、BLの普及はあくまで「男性同性愛の消費」という側面にしかならない部分もあり得るので、安易に喜べず、ヤキモキすることもあります。ただでさえ、BLまわりでは作品内でも消費者の間でも、無自覚なホモフォビアを目撃してしまうことがありますから。いつまでもBLを「ファンタジー」だと思ってほしくはありません。BLは「リアル」に基づいたフィクションであってほしいです(別にノンフィクションでもいいけど)。
そんな懸念を私が書くまでもないのですけど、BL界隈も徐々にその自身の構造の問題意識を深めつつあり、どうしたら「リアル」を傷つけずに「BL」というジャンルを育んでいけるか…その改善の模索が試みられているようにも感じます。
日本のアニメ業界も、BLはゆっくりとですが開拓が進んでいます。オリジナルのBLはほとんど見かけないですし、最新の人気作がすぐさまアニメ化するわけではないので、やはり勢いは他よりも鈍いかもですが…。それでも近年も『ギヴン』や『囀る鳥は羽ばたかない』などのパワフルな作品が牽引しました。アニメ業界ではとにかく作品数を増やさないとですかね…。
2024年にアニメ化されたこの作品もその仲間入りとなることに…。
それが本作『黄昏アウトフォーカス』です。
本作は“じゃのめ”によって2018年から『ハニーミルク』(講談社)にて連載されてきた漫画が原作。
男子校の映画部を舞台にしており、映画を作る中で織りなされる男子高校生たちの恋愛模様を描く青春群像劇となっています。
群像劇なので、アンソロジーのように主人公がそれぞれで変わり、『黄昏アウトフォーカス』『残像スローモーション』『宵々モノローグ』のように別タイトルが漫画ではついています。アニメ化された際はタイトルが『黄昏アウトフォーカス』で統一されていますが、2024年の放送された全12話では『黄昏アウトフォーカス』『残像スローモーション』『宵々モノローグ』『黄昏アウトフォーカスoverlap』の4つが映像化されています。
そのため、数話ごとに主人公が切り替わります。各主人公の物語はそれだけの短いエピソード・ボリュームで成り立っているので、展開は早いです。一応、これはもうネタバレとか気にしなくてもいいと思うので言っちゃいますけど、全部ハッピーエンドです。じっくりキャラクターのドラマを味わう余裕はないのですが、思う存分に多幸感を味わえます。
アニメ化の前にドラマCDがでていたので、アニメで各キャラクターの声を担当する声優も基本はそれと同一ということもあり、各声優の皆さんも感情を込めて演技慣れしている感じですね。
本作『黄昏アウトフォーカス』の特徴は、映画部を舞台にしていると説明しましたが、その作る映画が「BL映画」なんですね。BL映画を作るコミュニティの中で男性同士の恋が芽生えていくという構図。これだけで結構メタな図式なのがわかると思います。これによって映画というフィクションの中の「BL」と対比するように、現実に存在する「同性愛」を強調する効果を生んでおり、BLで同性愛を抹消しないように考えた設定としても解釈できたり…。
作中でも「ゲイへの偏見」や「同性結婚」に言及するセリフもあり、地に足ついたBLという感じでしょうか。
現実の日本社会で次の時代に向けて進み始めているBLの変移のワンシーンとして『黄昏アウトフォーカス』を眺めてみるのもいいと思います。
『黄昏アウトフォーカス』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :BL初心者でも |
友人 | :オススメし合って |
恋人 | :恋愛の空気を共有 |
キッズ | :軽い性描写あり |
セクシュアライゼーション:なし |
『黄昏アウトフォーカス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
固定したビデオカメラの前で2人の男子高校生が並んで自己紹介します。
「2年F組、土屋真央」「2年C組、大友寿」
土屋は続けます。「3つ約束します。私は同室の大友くんの秘密、カレシがいること、ゲイであることを一切口外しません」
大友も言います。「俺も約束します。土屋くんを恋愛対象としてみないこと。手出しもしないです」
土屋はさらに続け、「お互いの自慰行為は邪魔しないこと」と口にします。
そこで大友は笑います。「ありがとう。真央じゃなかったら1年暮らせてなかった。2年目もよろしく」
土屋も大友で良かったと思っていましたが心にとどめておきます。
ここは「ひいらぎ寮」。男子校の寮です。桜舞う校舎では、映画部2年のミーティングが始まっていました。監督の市川義一は入賞を目指してやる気じゅうぶんで3年に負けるつもりはないと意気込んでいます。各班で振り分けは決定済み。撮影班のリーダーは土屋。助監督は加賀利ルナ、記録係は加賀利テル。
今回挑戦する映画のテーマは「BL(ボーイズラブ)」だと市川は説明します。部員のほとんどはBLに馴染みないようで、男同士の恋愛モノの資料として用意された本を物珍しそうに見ています。
市川は最近BLにハマったらしく、熱量たっぷり。実際に市川の作った脚本は部員にも大好評でした。
市川は「言っとくけど茶化し無しで。俺は同性愛者でもないし、初恋もまだなんだわ。人を好きになったことがない。真央は?」と聞いてきます。「俺もかな?」と土屋も答えます。市川は「これは未来に向けて。世の中は同性婚なんて普通になっているかもしれない。高2の俺らは愛だの恋だの真剣に考えて映画にしたこと」と真摯に呼びかけるのでした。
まずキャスティングを考えないといけません。主人公のイメージに大友が合っているので誘ってほしいと土屋は頼まれます。確かに雰囲気は合っています。でも頼んだら、しかもBLだとなれば、約束を破ったと思われるのでは…。土屋は躊躇います。
しかし、土屋はこの脚本の好きなシーンを想像し、大友の演技で撮ることにもう魅了されていました。部屋で考えこんでいると土屋はドキドキします。思わず同室の大友の前から離れます。キスされたくなったのは気のせいじゃない…。
翌日、土屋は大友だとやりにくいと断ろうと思いましたが、部室に行くと大友がすでにいました。
思えば入学初期、大友とは会話もなく壁がありました。しかし、その数日後、大友は苦しそうにこちらに覆いかぶさり、顔を舐め、呻く姿をみせました。その後に大友はゲイだとカミングアウトし、土屋は素直に受け止めました。偏見で嫌がると思ったのにと大友が心配を口にしましたが、土屋は誠実です。こうして2人はあの約束を決めたのです。
今、大友はすんなり役を受け入れたようです。その後、部屋で一緒に映画を観ながら 大友は出たいと言います。土屋のことをもっと知りたいのが動機だそうです。
「真央のことをもっと知りたい」
「俺もあの役は寿にぴったりだと思っていたんだ」
試しにセリフを読んでもらうと、土屋は自分は大友が好きなのだと気づき…。
BLと現実を結ぶフォーカス
ここから『黄昏アウトフォーカス』のネタバレありの感想本文です。
『黄昏アウトフォーカス』は全体の総括としては、現実社会とフィクションのバランスのとり方が上手い作品だったなと思いました。アニメ化においてもそこを後退させていなかったのは作り手の良い姿勢です。
主に2つの点で良さが際立ちました。
ひとつは、「性別を超えた愛」とか「男や女ではなく人として好き」といったフワっとしたデコレーションをせずに、男同士のゲイとしての恋愛に向き合い、それが現実社会でどのような偏見に晒されるのかということも直接的に包括して描写していたこと。
2つ目は、男同士の愛を描くうえで、性的描写を避けずに、かつレーティングの範囲内でしっかり描いていること。全くセックスレスなBLと、極端に誇張されたハイパーセクシュアリティなBLの中間と言いますか…。ただ、それは単に描写の加減の問題ではなく、上記のひとつ目と関連することで、これはBL愛好者へのファンサービスではなく、当事者の性の営みのリアルとして描いている説得力があると思いました。
具体的に、各カップルのパートを観ていくと…。
まず、土屋真央と大友寿のカップル。この2人は、土屋真央は性的指向を自覚し始めた少年として、大友寿はクローゼットなゲイとして、関係を密かに結んでいきます。大友寿のほうは教師との支配的な性関係の過去があり、それを踏まえてなのでしょうけど、土屋真央とは同意を取り合いながら互いを尊重する性関係を築きます。
この土屋真央と大友寿のカップルの周囲となる映画部の面々にも注目です。最初は「BL」を主題とする映画を作るという企画説明の際に、モブ男子部員からは「新境地だ」などとわりと無自覚なホモフォビアな反応が見られます。それに対して土屋真央は一貫してホモフォビアな態度を見せず、アライであろうとしてくれます。そうした姿勢があるからこそ、土屋真央と大友寿はあの寮部屋の中でだけ堂々と愛し合えますが、周囲には関係を隠します。
次の、菊地原仁と市川義一のカップル。2人も関係性を周囲に隠していますが、それは表向きはクリエイティブ面で敵対している3年と2年という立場なので、面目丸つぶれになりかねないということでの気恥ずかしさで隠していることになっています。なので差別とかはそんなに目立って介入してきません。
菊地原仁と市川義一の2人は、BLという趣味を共有することでのカップリング成立となっていて、「オメガバース」だ「スパダリ」だとBL界隈関連用語が飛び交いながらも、2人は本当に物語のようなロマンチックな運命の人だったと発覚。「BLみたいな恋をしたいと思っていたら本当にできちゃった」という男子です。
男たちのコミュニティは同性愛でより豊かになる
3番目の、稲葉礼と吉乃詩音のカップル。こちらにいたっては、吉乃詩音はもうオープンリーなゲイです。吉乃詩音は中学からメイクやマニキュアをし、以前は同級生から「男女」と揶揄われるも自分を隠しません。女子とつるんでばかりだった少女漫画思考の吉乃詩音が男性のコミュニティに身を置き、堂々とカレシを求める。1番目の土屋真央と大友寿のカップルのときの抑圧的な恋とはまるで違うシチュエーションになっています。
稲葉礼と吉乃詩音のパートになると、もはや映画部内にホモフォビアな空気がありません。それはBL映画を作るという体験を通して、同性愛嫌悪は自然となくなったのか…詳しくはわかりません。
もちろんそんなことは都合が良すぎるかもしれません。BL映画を作っただけで社会構造が変わるなら当事者は苦労しません。でもこういう小さな部活という世界ならばそんなことが起きてもいいのかもしれません。そしてそんな小さな変化の積み重ねが未来の社会の変化に繋がっていく…それは確かに事実そういうものでしょう。
第11話で、コンペでの上映の観客の反応について、大友寿は「冷やかされると思った」と当初の不安を述べ、でも実際は「男同士のキスシーンも笑っていなかった」と安堵します。こういう変化の表れに当事者はスっと肯定感を得るというのはとても気持ちとしてよくわかります。
その経験もあってか、最終話では海辺での撮影後、新しい3つの約束を交わし(愛の誓いになっている)、大友寿は土屋真央との交際を周囲に公にする…。カミングアウトの流れとして、3つのパートのアンソロジーがしっかり噛み合い、納得のいくものになっていました。
『黄昏アウトフォーカス』はちゃんと現実の社会を土台にしている自覚を持って、その良き変化を後押ししたいという願いがこもった作品だったと思います。BLと同性愛のクロスオーバーを的確に捉えていたのではないでしょうか。
しかも、同性愛が男性コミュニティをより豊かにするものとして描かれているのもいいですね。男性コミュニティが有害化するとき、まず間違いなくそこに同性愛嫌悪はありますからね。BLを理解すべきは誰よりも男性なのでしょう。男性を改善するうえでBLの果たす効果というのは軽視できないかもしれないですよね。
欠点を挙げるなら、一部のキャラクターの類型的な感じがやや目立つところでしょうか。ストーリーも短いので、あまりキャラクターを深掘りしきれないのもその欠点の理由かもしれませんが…。擁護できないのは、脇役ではありますけど、映画部の記録係のルディのキャラとかですかね。あのキャラは有色人種で、片言で、加えて「国に帰る」とか設定をつけてしまうあたりはさすがに露骨にステレオタイプすぎるでしょう。
それでも全体を通して、BLの未来に期待しなくなる作品ではありました。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
関連作品紹介
日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『Buddy Daddies』
・『スキップとローファー』
・『ブルーロック』
作品ポスター・画像 (C)じゃのめ・講談社/「黄昏アウトフォーカス」製作委員会
以上、『黄昏アウトフォーカス』の感想でした。
Twilight Out of Focus (2024) [Japanese Review] 『黄昏アウトフォーカス』考察・評価レビュー
#部活 #ゲイ