おでこぱしーは社交不安を和らげる…アニメシリーズ『星屑テレパス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:かおり
ほしくずてれぱす
『星屑テレパス』物語 簡単紹介
『星屑テレパス』感想(ネタバレなし)
今年こそは宇宙へ行こう!?
新年の抱負で「2024年は宇宙へ行こう!」と志している人はなかなかいないと思います。そう気軽に行けるものではありませんから。
参考として現時点での「スペースX」での滞在型宇宙旅行の費用は、1人あたり約50億円だそうで、庶民には全く手が届かない世界です。現状の宇宙旅行は完全に超富裕層の自己満足の領域でしかありません。億万長者がカネにモノを言わせて宇宙を体験して「価値に気づきました」とか意味ありげなことを自己啓発的に呟き、それに信者が「さすが!」とか言いながら群がる…そんな風景が今のところです。
でもそう遠くないうちに人類の宇宙への進出はもっと手軽になるでしょう。それは良いことのようでそればかりではないはず。単なる派遣労働のために低賃金で危険な宇宙に行かされる人だってでてくるでしょうからね…。『フォー・オール・マンカインド』の世界ですよ…。
そういう時代になってしまうともう「宇宙に行きたいな(キラキラ)」みたいな気持ちにはなれません。つまり、そういう無垢な夢を宇宙に捧げられる時代は今が最後なのかもしれません。
とりあえず今は大事にしたほうがいいのかな…「宇宙へ行きたい純真無垢な願望」…。
今回紹介するアニメシリーズは、そんな宇宙へ行きたい純真無垢な夢を抱く少女を描いた青春ストーリーです。
それが本作『星屑テレパス』。
原作は「まんがタイムきらら」で連載の“大熊らすこ”による4コマ漫画。「きらら」系列らしいおなじみのふわふわした日常モノで、女子高校生たちの部活モノです。
今作では「ロケットを作る」部活が舞台になります。芳文社の関連だと、同じく宇宙絡みの部活モノで『恋する小惑星』がありましたが、『星屑テレパス』はちょっぴりファンタジーなSF要素が混じり、わりと雰囲気が違っています。関心の方向性も、宇宙を軸にした科学であっても、あくまでその宇宙へ到達するロケット作りに特化しています。
当然、高校生レベルで作れるロケットなんてものはたかが知れているのですが、それでもできる範囲でロケット作りに青春を捧げる姿が描かれ、趣味のロケットの世界も覗けます。
「モデルロケット」というのがあって、小型のロケットですが、火薬を使用するきちんとした設計が求められる代物で、本格的です。日本では「日本モデルロケット協会」が中心となって活動を展開しているそうで、日本モデルロケット協会が発行する従事者ライセンスによって安全性と教育を両立しています。
アメリカだともっと推進力のあるロケットも個人で打ち上げられるみたいですが、日本だといろいろ限界があります。それでも趣味にしている人たちはいるんですね。
『星屑テレパス』は可愛らしい絵柄に反して、こういう趣味の世界もじっくり描写してくれます。
私はペットボトルロケットしか作ったことがないから、全然わからない趣味なのだけど、なんか火薬に点火するのは楽しそうだよね…(危なそうな好奇心)。
また、別の見どころだと『星屑テレパス』は人間関係をテーマにしていて、とくに主人公は極度に内気で人見知りなのですが、そうした社交不安とどう向き合っていくのかという物語性も持ち合わせています。要はコミュニケーションの物語です。
それと関連して、ちゃんと「テレパス」というタイトル部分の伏線も回収しますし…。「テレパス」というのはテレパシーのことです。
2019年の掲載以降はファンを獲得し続け、2023年にアニメ化となった『星屑テレパス』。アニメーション制作は『きんいろモザイク』の「Studio五組」。監督は『ゆゆ式』の“かおり”です。
富裕層のしてやったりな自分語りが介入してこない「宇宙へ行きたい者たちのまっさらな想い」だけが詰まった世界。仲間に入りたい人はぜひどうぞ。
『星屑テレパス』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ふんわり癒されて |
友人 | :雰囲気が好きな同士で |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :子どもでも見られる |
セクシュアライゼーション:なし |
『星屑テレパス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):宇宙人さんはそこにいる
夜、真新しい制服がかかっている部屋には新調した鞄と綺麗なノートが机に置いてあります。明日の入学式を控え、鏡には少し緊張した小ノ星海果(このほしうみか)の顔が映っていました。しかし、小ノ星海果はコミュニケーションが苦手ということもあり、明日のことを想像するだけ気分が下がります。
「私にとって地球での生活は難しいことばかり。きっとまた誰とも話せず、友達も作れずに毎日が過ぎてしまう。だって私の言葉は誰にも届かない。この地球の誰にも届かない。だけどきっとどこかに届く相手がいるはず」
小ノ星海果は地球で自分の居場所が見つからないなら、きっとあの広い宇宙ならどこかに自分にぴったりなところがあると想像していました。
そのとき、窓から見える夜空に流れ星が…。「宇宙人さんに会えますように」と懸命に願いを込めますが、もう流れ星は消えていました。明日からもう少し頑張ってみようと仕切り直し、今日を終えます。
入学式の日、初々しい空気の教室では各自の自己紹介が行われていました。顔を上げられず緊張しながらたどたどしく小ノ星海果は言葉を絞りだします。
次に体育館の入学式のために整列していると、ドアを勢いよく開けて入って来た生徒がひとり。
「遅れました~! 1年A組、宇宙船の故障で遅れてしまいました~! 私、宇宙人の明内ユウです。よろしくお願いします!」
小ノ星海果は困惑します。こんないきなり未知との遭遇が…。お気に入りの宇宙語辞典を抱えて近づいてみようとしますが、でも立ち止まります。やっぱりあの発言はギャグなのか…。
すると明内ユウのほうから「これ知ってるよ」とその宇宙語辞典を指さして話しかけてきました。なんだか宇宙語に精通しているように饒舌に話し続ける明内ユウ。「ボナヴー」や「マティヴー」など宇宙語をクラスメイトにも気兼ねなく発し、明内ユウは自由奔放です。
どう反応すればいいのかわからず、小ノ星海果は顔を赤らめておどおどしていると、「風邪なの? ちょっとおでこを借りるよ」と明内ユウはおでこをくっつけてきます。
宇宙への大きな憧れを感じているのが伝わったらしく、明内ユウは「今のは“おでこぱしー”」と気楽に説明。小ノ星海果は明内ユウが本物の宇宙人なのだと思い始め、仲良くなりたいという気持ちだけが焦ります。
翌日、学級オリエンテーションにてくじで明内ユウとペアになり、また“おでこぱしー”で緊張と孤独を読み取られます。「私は笑わないよ!」と明内ユウは受け入れてくれて、屋上へ連れて行かれます。
小ノ星海果は勇気を振り絞って詳細な自己紹介をぶつけます。
「将来の夢は…自分の作ったロケットで宇宙人を見つけて仲間を作ることです」
それを聞いた明内ユウは抱きしめてくれ、「私もいつか自分の星に帰らないとなんだけどね。2人で同じ夢を目指したらお得だね」とここでも意気投合。
さらに家に誘われます。辿り着いたのは古びた灯台。明内ユウは「私ね、地球に来るまでの記憶が無いんだ、目が覚めたらこの姿で高校の生徒手帳を握っていた」と語り、それを聞いた小ノ星海果は自分からおでこをくっつけて「ごめんね。ロケットだって作ってみせるよ」と思いを伝えます。
こうして2人の人生が交わり始めましたが…。
「きらら」系の『ドクター・フー』
ここから『星屑テレパス』のネタバレありの感想本文です。
『星屑テレパス』の主人公である小ノ星海果は「宇宙へ行きたい」という想いを人一倍抱えている人間ですが、科学はそんなに得意そうでもないし、機械&デジタル音痴ですらあり、熱心なオタクというほどでもないようです(SF小説とかは読むみたいだけど、たぶん部分的な偏りがありそう)。
作中に出てくる典型的な科学少女の見本のような秋月彗とは対照的です。
そんな小ノ星海果がではなぜ宇宙へ行きたいのかというと、その動機にあるのは「社交不安」ゆえでした。極度に人見知りで他人とのコミュニケーションが不得意だと自覚する小ノ星海果は、自分は異星人みたいだと孤独感を深め、その裏返しで「地球で見つけられなかったものを宇宙で見つけたい」という気持ちをいつの間にか曖昧なままに拠り所にしています。
こういう何かしらのコミュニケーションに難を抱える主人公が、SF的な他者に親近感を持ち、心を開きやすくなる…みたいな設定は、それこそ他でも結構あって、例えば、自閉症の主人公が『スター・トレック』のファンでクリンゴン語だと意思疎通しやすい姿が描かれる『500ページの夢の束』とか、はたまた差別的抑圧を日頃受けているトランスジェンダー主人公が異星人相手に共感を示す最近の『ドクター・フー』とか…。
『星屑テレパス』はその定番のキャラクターと設定をいわゆる「萌え」でデコレーションしているわけで、いわば萌え系『ドクター・フー』です。
社交不安症の主人公を描く最近のアニメのヒット作では、『ぼっち・ざ・ろっく!』がありましたが、あちらは痛々しい自虐込みのノリのいいコメディ系スタイルでした。
対する『星屑テレパス』はだいぶセンチメンタルです。ちょっと可愛くしすぎではとは思わなくもないのですが、こういう「異星人が!」とか「宇宙のどこかに居場所が!」とかリアルで本当に言い出すと、実際は陰謀論臭くなりやすいので、本作はその弱点を「きらら」系のふんわりオーラでなかなかに力技で克服してますね。
ビジュアルはさておき、起きていく展開は、人前でのスピーチなど、社交不安の当事者には最大の難問との向き合いばかりで、それに四苦八苦する姿は丁寧に描かれていました。
社交不安女子のためのドリーム・ガール
そんな特徴を持つ小ノ星海果ならば、普通に考えると宇宙人相手にならなおさら高難度なコミュニケーションを要求されるので、キツそうなのですけど、今作『星屑テレパス』にて小ノ星海果の前に登場したのは『宇宙人ポール』みたいな面倒な奴ではない…明内ユウという小ノ星海果にちょうどいい自称宇宙人でした。
この明内ユウというキャラクターは表象としては、いわゆる「マニック・ピクシー・ドリーム・ガール」と同質です。
本来、「マニック・ピクシー・ドリーム・ガール」というのは、一般的に「男子を元気づけるために現れる不思議な女子」であり、ある時にふらっと魔法にように出現して、まるで天使のように独特な不思議さを身にまといながら、鬱屈を抱えた男子の心を解きほぐしていく…そんな女の子です。
今回は心を閉じる少女の前にそんな子が現れ、同性間での交流となっていますが、ふわふわ百合系のサブジャンルだとこのパターンはわりとよくあります。本作においては第12話にて「おでこぱしー、私とだけして」のセリフから、明内ユウが小ノ星海果を意識し始め、関係性の矢印に揺れが起きますが…。
男女間だとジェンダーのステレオタイプになりやすいですけど、同性間でなおかつこのジャンルだと百合要素が増すというのは、同じストックキャラクターでももたらす効能が違う好例ですね。
部活モノとメンタルケア
『星屑テレパス』では、小ノ星海果だけが人間関係や社会の立ち位置に問題を抱えているわけではありません。ロケット研究同好会の残りのメンバーである、宝木遥乃と雷門瞬にもそれぞれの事情があって…。
宝木遥乃は一見すると社交的で、副学級委員長としてクラスに馴染み、包容力も持ち合わせています。しかし、本音では夢への恐怖心を抱え、夢見る人を支えたいという姿勢自体も「誰かを傷つけるのが怖い」という恐れと重なっていました。なので表向きは献身性にとどまり、なんだかんだでこれが非常にベタな“枠にハマった”女の子らしさの理由になっていました。
いってみればこの宝木遥乃は「過剰適応」の状態にあり、これはこれでメンタルケアが必要になるでしょう。
一方、雷門瞬は宝木遥乃とは真逆で排他的な言動が飛び出しやすく、他人に攻撃的なまでに壁を作りたがります。それは結果的に不登校という状態へと繋がっています。
雷門瞬はもともと世間的に“男の子らしい”とみなされる趣味にのめりこんでおり、ある時期まで成長し、二次性徴とともに学校内でもジェンダー・ロールが出来上がってしまうと、途端に視線が辛くなり、居場所を失いました。このへんも、まあ、よくある話です。
『星屑テレパス』は、こうしたメンタルヘルスに影を落とす少女たちが集い、共通の目標の中で互いをケアしていくという、部活モノの皮をかぶったセラピーです。
本当はこういう子たちの対応に真っ先に責任があるのは学校側なので、作中で登場する担任兼顧問の笑原茜の尽力にだけ任せるのではなく、もっと学校全体で支える展開もあってほしいのですが(正直、美談になっているけど、あの先生のオーバーワークを思うとほっこりはしづらくなる…)、そこまで踏み込む同ジャンル作品はあまりないですかね。
とは言え、部活が個々の生徒のメンタルケアを最優先するというのはとても大事なことだと思います。「優勝!」とか「一致団結!」とかは二の次で、こういう第2の居場所となる部活というのはきっとどの学校にもあるべきなんじゃないでしょうか。
ROTTEN TOMATOES
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シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会 ほしくずテレパス
以上、『星屑テレパス』の感想でした。
Stardust Telepath (2023) [Japanese Review] 『星屑テレパス』考察・評価レビュー
#女子高校生 #部活