インスタント・ファミリー
映画『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Instant Family
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にDVDスルー
監督:ショーン・アンダース

インスタント・ファミリー

あらすじ

子どもがいなかったピートとエリーの夫婦は、思い切って養子を受け入れることを決意する。子育て経験のない二人はハラハラドキドキで子どものいる家庭を想像していたが、年齢もバラバラの子どもが3人も家に来ることになり、生活は一変。なかなか子どもとの距離を上手く縮めることができない。さらに思わぬトラブルが起こってしまい、即席の家族の絆は揺れることに…。

『インスタント・ファミリー』感想(ネタバレなし)

養子を楽しく身近に感じよう

日本は「養子」に関して後進国だと言われています。

養子というシステムは、貧困や虐待など何らかのやむを得ない事情から親元で暮らすことができない子どもを救済するためにも大切なものです。昨今も児童虐待死の悲しい事件が報道されたりしていますが、養子の体制がもっと拡充すれば救えた命だったかもしれません。このような子どもは日本全国に約4万6000人もいるとされています。

日本には「特別養子縁組」という制度があって、1988年から施行されています。まず「普通養子縁組」という制度が従来からあって、これは実の親との親族関係が続いたうえで、戸籍には「養子」「養女」と記載される、いわば一時的な家族関係です。それに対して特別養子縁組は、養親の実子と同様に戸籍に記載されるので、実の親との関係は書類上も切れる、完全な家族そのものになれます(ただし、6歳未満という制限がある)。

しかし、日本の特別養子縁組成立件数は2015年は544件のみ。ちなみに日本より人口の少ないイギリスでは4734人、アメリカにいたっては119514人も成立しています。明らかに雲泥の差です。養子縁組が成立しない子どもは施設にいるしかありません。

多様な家族の在り方が求められる現代では、養子の問題も重要テーマ。NHK連続テレビ小説の『なつぞら』だって養子が描かれていましたが、なかなか現代らしい養子問題と向き合う機会を提供してくれる作品は少ないかもしれません。

そんな中、この映画は養子を考える入門編のような優しい入り口になってくれると思います。それが本作『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』です。

本作は日本では劇場未公開で、ビデオスルーになりました。アメリカのファミリードラマ映画はこういうパターンになることが本当に多いですね。別に日本でウケる作品も普通にあると思うのだけど…。

イントロで語ったとおり、本作は養子を引き取ろうとするある夫婦の奮闘の物語。原題は「Instant Family」。まさしく「instant(即席の)」の家族です。基本はコメディ調ですが、その中身はアメリカの今の養子の現状をしっかり取り扱っており、堅苦しそうなテーマをわかりやすくコミカルにアレンジしつつ提供してくれています。

実は本作の監督である“ショーン・アンダース”の実体験が基になっているそうで、作中と全く同じく3人のヒスパニック系の子どもを養子にしたとのこと。だから養子をめぐる葛藤のリアルさがヒシヒシと伝わるのも頷けます。まさに経験者が語る…です。

俳優陣は、まず主演は“マーク・ウォールバーグ”。大作映画でも目立つ俳優ですが、この手の家族モノでも頻繁に出ているもはやいつもの安心安定の存在ですし、最近の出演作『パパVS新しいパパ』シリーズからの流れでの本作といった感じ。なんだかんだで白人父親の定番顔をしている…。

その“マーク・ウォールバーグ”と夫婦役で隣り合うのが“ローズ・バーン”。最近は『ピーターラビット』で実質ウサギを家族にしていましたね。


そして物語をかき乱す子どもたちの役として先頭に立つのが、ラテン系の若手女優として突出した輝きを放つ“イザベラ・モナー”。『劇場版 ドーラといっしょに大冒険』でもその器用な才能を実感できますが、本当にどんなジャンルでも適応できる上手い女優です。知らないなぁ…という方はこれを機会にぜひチェックしてみてください。なお、本作では「I'll Stay」というテーマソングも歌っています。


また、『ドリーム』や『シェイプ・オブ・ウォーター』でおなじみの善良の塊のような役をいつも演じる“オクタヴィア・スペンサー”もいます。他にも“マーゴ・マーティンデイル”“ティグ・ノタロ”など印象的な存在感を見せる役者もチラホラ。

とても多幸感に満ち溢れる一作ですので、温かい気持ちになりたい人は気楽に鑑賞してください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(暇な時間にぜひ)
友人◎(友達に気軽に薦めたい)
恋人◎(家族を考えるきっかけに)
キッズ◯(親子の絆を再確認)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『インスタント・ファミリー』感想(ネタバレあり)

一瞬で子どもが3人増えました

ピートエリーのワグナー夫妻はボロボロな家を改装して綺麗にする能力に長けており、犬のミートボールと一緒に順風満帆な家庭を築いていました。今のままでもじゅうぶん幸せ。そう思っていましたが、親戚からの何気ない「子ども」に関する話題のせいで、少し引っかかるものを感じます。

ピートが「養子をとる?」と気軽に口に出したのをきっかけにそれは始まりました。

ある日、ピートが家に帰ってくるとノートパソコンを深刻そうに見つめて涙を流すエリーがいました。どうやら養子縁組のサイトを閲覧していたようで、慌てたピートは「あれは冗談だった」と前言撤回します。しかし、ピートもまた興味をそそられてしまったのか、妻に内緒でこっそりそのサイトにアクセスしてみると、そこにはいろいろな子のプロフィールがズラリ。すっかり心が動揺するピート、その姿を見つめるエリー。

完全に養子に傾いたワグナー夫妻はさっそく養子を望む人たち向けの説明会に参加してみることに。8週間の講習を受けて里親家庭として認められる必要があるらしく、ソーシャルワーカーのカレンシャロンから養子縁組のやりがいと難しさを教えられます。ゲストスピーカーとしてやってきた養子として育てられたブレンダ・フェルナンデスの壮絶な過去と里親家庭での体験を聴き、完全に乗り気になった夫妻。とくにピートは「家の修復と同じだ」とワクワクを抑えられません。

ではどうやって理想の養子を見つけるのか。なんと養子候補の子どもがたくさん遊んでいる公園でコンタクトするという場が提供されます。普通だったら不審者なのに…とこの特殊な空間にドギマギしつつ、お目当ての幼い子どもを探しますが上手くいきません。すると公園の一部でたむろしているティーンエイジャーの集団に目がいき、怖そうだと見て見ぬふりをする二人。しかし、ソーシャルワーカーからティーンはなかなか引き取られないという話を聞き、少し気持ちが揺れます。ピートはティーンのグループに挨拶がてら話しかけに行こうとすると、ツカツカと前に出てきた“ある女子”から「同情なんていらない」と厳しく言われ、ポカーン状態。その胸には「リジー 15歳」と名札がありました。

二人の求める養子が決まった瞬間です。

リジーの母親はコカインをやっていたらしく、今は母は刑務所にいたけど刑期は終えたそうですが、親権には興味ないようなので大丈夫と説明されます(父は不明)。けれどもソーシャルワーカーから思わぬ情報が。実はこのリジーには弟妹がいて、リタフアンという名前だそうで、3人を引き取ってもらうことになると言われます。ひとりのつもりがいきなり3人。それはさすがにキツイのではと躊躇しますが、里親は足りないという現実を知り、3人と面会しようと決意。

今は3人はマスキー夫妻という家庭に一時的に預けられているとのことでそちらに赴きます。ちなみにこのマスキー夫妻はソーシャルワーカーやリジーに「血の繋がった関係じゃないか」と半分バカにされているのですが(凄い見た目がそっくり)、演じている“ジョン・マコーネル”と“モーリーン・ブレナン”は本当の夫婦らしいです。

到着早々にリジーに案内されてフアンとリタに会います。気軽にバスケとおままごとで遊んでみるも、自分たちがイメージしていた子どもとのひと時とは違う感じに困惑を隠せません

里親になるのをやめようと心が挫け、感謝祭の食事の席で両親や親戚に説明しましたが、その話の流れがだんだん養子をバカにする内容になっていき、思わず怒りをぶちまけたピートとエリーは「養子を大勢とってやる!」と息巻きます。

そんなこんなでリジーとフアンとリタの3人がワグナー夫妻の家にやってきました。初めての場所にはしゃぐ幼いフアンとリタ。冷静そうに振る舞うリジー。子どもがいるという事実に興奮するピートとエリー。しかし、すぐにその想像を超える過酷さを痛感するハメに。

リタはやたらとポテトチップスだけを食べたがり、気分を害すれば奇声を発し、どこでも大暴れ。フアンは妙に注意散漫で、行動が危なっかしく、失敗すると謝るばかりで硬直。リジーはワグナー夫妻の育児に口だしをして、スペイン語で弟妹にまくしたて、自分はワグナー夫妻とは常に一定の距離をとります

できたてホヤホヤの家族はもうこの時点で倒壊しそうですが、なんとか持ち直すことはできるのか…。

インスタント・ファミリー

親の苦悩は実親も里親も同じ

『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』はすごくセンシティブなテーマであり、扱うのが難しいと思います。下手にベタなサクセスストーリーに当てはめれば題材を軽視しているように見えるし、かといって重々しく扱えば観客は離れていく。そんな難題の中で本作はベストなバランスをキープしているのではないでしょうか。

やはり監督の実体験というのは大きいですよね。突然の育児への悪戦苦闘っぷりは想像しやすい範囲ですけど、結構そういうコミカルなシーンを貫くような、鋭い残酷なやりとりもあったりします。

例えば、3人の子育てに自信喪失したピートとエリーがベッドの横並びに寝て「まだ正式な養子じゃないから3人を戻せる」と会話するシーン。あれは“ショーン・アンダース”監督が実際に妻と話したことのある内容だそうです。倫理的に良い話ではないにせよ、でも現実的に考えてしまう。この親という存在の弱さがしっかり描かれるのが印象的です。

つまり、この弱音のシーンがあるおかげで、本作は「子を捨てることになる実の親」側の気持ちにも寄り添っていることになります。もちろん虐待なんかは良くない行為なのは言うまでもないですが、でも育児への不安が増幅してつい魔が差す…というのは理解できる、いやどんな親でもあるじゃないか、と。

そしてリジーたちの実の親の登場へと展開が進み、余計にその心情が刺激されます。実の母親と3人が面会するところを遠巻きに見つめるピートとエリーの「普通の人みたいに見える」「家族を壊しちゃったみたいに思える」「あの人は立ち直っている」という一連の会話はすごく心が苦しいです。

養子の問題を「新しい親が見つかりました!」という万々歳な楽観で終わらせず、こういう複雑な側面を垣間見せることで、観客にも真剣に考えさせる。とてもよく練られたストーリーだと思います。

「親」でもあり「子」でもあるリジー

一方で、養子となる側の子どもの感情も切実に浮かび上がってくるのも『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』の良いところ。本作におけるその語り手となるのは当然、リジーです。

“ショーン・アンダース”監督の実際の養子を引き取った経験が基になっていると説明しましたが、10代の子を引き取った経験はなく、本作のリジーのエピソードは追加要素です。しかし、完全なフィクションでもありません。本作の製作にあたり、実際に10代で養子になった女性にコンサルタントとして関わってもらい、彼女の人生経験があのリジーの物語に反映されているのだとか。

高校生ぐらいの10代は子どもとして純粋に扱うのも難しく、かなり微妙な年齢です。正直、親の庇護はむしろ鬱陶しいくらいであり、作中でも反抗しまくりでした。

でもそんな彼女にもやっぱり「親」は要る。それは親というのは保護者という家や食事を提供している即物的な利害関係だけではなく、精神的な心の拠り所みたいなものだから。

しかし、リジー自身は反抗期なティーンであると同時に、フアンとリタという2人の子を育てる「親」にもなっているわけで…。最初はリジーはフアンのネイルガン事件を契機にピートとエリーを「親」として認めます。あくまで同業者として。

そして「親」としての責任から少し解放されたリジーは気が楽になったのか、「子」として振る舞うようになり、実の母に「親」を求めるも、その母はまだ「親」として準備できておらず…。

終盤の現実を知って逃げ出したリジーの剥き出しの感情は心に刺さるものですし、彼女は15歳だからマシなのではなく、そのぶんの年齢だけ辛さを抱え込んできたんだなと思い知らされます。

家族はいろいろでいい

『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』は養子問題に対して「こうあるべきだ」だという理想を押し付けません。

そもそもピートとエリーの養子を欲する理由は「子どもが欲しい」からです。そこで、じゃあ自分で妊娠して出産するのがスタンダードだ…とは言わない。

また、養子の説明会に参加するさまざまな親たちのバラエティも、養子の多面性を物語っています。不妊に悩む人、ゲイの人、シングルの人…事情はそれぞれ。でも親になりたい気持ちは同じ。

作中でシングルの女性が明らかに『しあわせの隠れ場所』という映画から刺激を受けて養子を欲しているというシーンがあります(本人は否定していますが)。こういう風に映画が動機になるのも別に良い話。それこそ『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』を観て養子に興味を持つ人もいるかもしれません。でも映画どおりにはならないよ…と作中で自虐してみせるのはなかなかのセンス。

他にも作中でピートが辛い境遇にあるヒスパニック系の子どもを白人夫婦が引き取ることに関して「ホワイト・セイバーと思われないかな」と『アバター』の話題を持ち出しますが、ああいう映画ネタを挟みつつも、あんな心配するあたりは、やはり白人層特有のギャグネタですね(ガチで心配する人もいるのかもですけど)。エリーが「私には先住民の血がちょっとだけ…!」と言うシーンみたいな、これらの白人セルフジョークが結構私は好きです。

若干、話が逸れましたが、とにかく養子と里親の在り方は千差万別。それを象徴するように聴聞会に参加したさまざまな養子縁組での全員集合写真で映画は終わり、エンドクレジットは実際の“家族”の写真が流れる。

多様な家族が誇らしく生きられる社会はこんなにも幸せなんだと見せつける、素敵な映画でした。


ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience 82%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

関連作品紹介

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・『ぼくの名前はズッキーニ』


・『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』


作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures インスタントファミリー