ウサギ・ウォーズ始動!…映画『ピーターラビット』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:オーストラリア・アメリカ・イギリス(2017年)
日本公開日:2018年5月18日
監督:ウィル・グラック
ピーターラビット
ぴーたーらびっと
『ピーターラビット』あらすじ
たくさんの仲間に囲まれ、画家のビアという優しい親友もいるウサギのピーター。ある日、ビアのお隣さんとして大都会のロンドンから潔癖症のマクレガーが引っ越してくる。マクレガーの登場により、ピーターの幸せな生活は一変。動物たちを追い払いたいマクレガーとピーターの争いは日に日にエスカレートしていき、ビアをめぐる恋心も絡んで事態は大騒動に発展していく。
『ピーターラビット』感想(ネタバレなし)
これがピーターラビット?
「ピーターラビット」は知っていますよね。
ビアトリクス・ポターの児童書「ピーターラビット」です。本が出版されたのが1902年にもかかわらず、今の日本でも一定の「知ってる」的な知名度があるのは凄いですが、色々な企業の商品とコラボし続けているからでしょうか。なんでも原作となる児童書の絵の著作権保護期間はすでに切れているそうで、だからあちこちで見かけるのかな? でもそうやってあらためて考えると100年前の絵が現在でも愛されているってとんでもないことですよね。
この「ピーターラビット」が実写映画したのが、ずばり本作『ピーターラビット』です。
この作品は公開前から映画界隈の一部がザワザワとしていました。その理由は作品の内容。予告動画がお披露目されると、そこに映っていたのはウサギと人間の男がずいぶんとアグレッシブにバトルしている光景。投げる、蹴る、トラップを仕掛ける、爆発する…。「あれっ、ピーターラビットってこういう話だったの?」と誰もが思ったでしょう。アメリカでは激怒の反応も見られました。
でも、よく考えてみるとピーターラビットの絵はよく目にしているけど、原作の話は知らない人も多いじゃないですか。ということで調べてみると案外間違ってないのです。ピーターラビットの最初の話はざっくりあらすじを書くとこんな感じ。
ウサギのピーターは母の言いつけを破ってマグレガー(人間)の農場へ忍び込んで野菜を食べ、マグレガーに見つかり、追い回される。
確かにウサギって農業をしている人にしてみれば害獣という側面もあります。そんなたかがウサギでしょ?と思うかもですけど、ウサギが年間何十億という被害を発生させて頭を悩ませている国もあります。わりとガチでヤバいところはヤバいのです。
原作者のビアトリクス・ポターは動物好きでありながら、研修者になれるだけの素質を持ち、かつ農場経営者だったので、そういう動物との付き合いの良い部分も悪い部分もわかっている人だったのでしょうね。
そんなピーターラビットの物語をいかにも今風にブラッシュアップして映像化した本作。社会風刺もポリコレもないけれど、単純明快で楽しめるドタバタコメディ&ハートウォーミングなドラマに仕上がっています。製作は、『絵文字の国のジーン』や『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』など子ども向け作品を世に提供し続けているソニー・ピクチャーズ。
批評家のためではなく、子どものために映画を作るソニー・ピクチャーズの姿勢は、それはそれで案外良いなと思ったり。というかソニー・ピクチャーズの最近のファミリー向け映画って、なんか『ゴーストバスターズ』しかり『絵文字の国のジーン』しかり、公開前の段階で炎上することが多いですよね。もう炎上商法なんじゃないかと思わなくもない…。ちなみに本作はいざ公開してみると、無難な評価に収まってました。
95分という短い上映時間ですから、ぜひ気軽に鑑賞してください。
『ピーターラビット』感想(ネタバレあり)
ウサギ・ウォーズ 最後のバトル
『ピーターラビット』は見ればわかるとおり、実にシンプルなストーリーです。
農場荒らしのウサギとそれを止めようとする人間の男が闘う話と言えば、アードマン・アニメーションズのクレイアニメ映画『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』を真っ先に思い出したのですが、これとは違って『ピーターラビット』は変化球な展開もなく、超ベタ。闘って戦って、最後はなんだかんだで、はい、仲直り!というやつです。
そういう意味では安直でオリジナリティもない平凡映画という評価で終わってしまうのもわかります。
でも、個人的には実写でここまで徹底してスラップスティック・コメディをやってくれていることに感心しました。
ちょっと大昔のディズニーなどのカートゥーンアニメそのままのノリですよね。ウサギのピーターと人間のトーマスのどんどん過激になっていく争いは絶対に子どもウケは最高だと思います。クワを振り下ろして農場に侵入したピーターを攻撃することに始まり、今度はトラバサミで寝起きトラップを仕掛けられるトーマス。電気柵を逆利用した仕掛けで吹き飛ぶトーマス。ブチ切れたトーマスは自分の農場でもお構いなしにダイナマイトを投げる…。
完全に最初から殺しにかかっているのですが、この世界での人間の耐久値は相当高いのか、滅多なことでは死なないどころか、気絶も出血しません。なので安心して死闘を繰り広げられます。ちゃんとウサギと人間が互角に戦っているのがいいですよね。まあ、明らかにトーマスの方が酷い目に遭っている気もしますが、そこはたぶん動物愛護的な観点もあるのでしょうけど…。
植木鉢に隠れたウサギを探すトーマスが“スポーツスタッキング”よろしく高速で植木鉢をカパカパするシーンなど、非常にテンポ感も良くて、これはカートゥーンアニメのノリを実写化するお手本みたいな作品じゃないでしょうか。
ドーナル・グリーソン、喜劇芸
このドタバタ喜劇の功労者はもちろんこの人。ウサギと激闘を展開するトーマス・マクレガーを演じた“ドーナル・グリーソン”の大活躍っぷりですよ。
都会ロンドン育ちで几帳面で潔癖症という強烈なキャラ付けを登場シークエンスでいきなり視聴者ドン引きレベルで見せつけたかと思えば、怒りの発散手段が売り場のクマ人形を殴る殴るという、ウサギ以上に可愛いキャラクター。
そんな奇抜なキャラを演じた“ドーナル・グリーソン”、こんな喜劇に向いた俳優だなんて知りませんでした。でもよく考えれば、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』でもハックス将軍を演じてカイロ・レンと漫才してましたよね…。そういう素質があったんだな…。
家にいた豚を見て「ああーーーー!」と女性っぽい叫びを上げるところとか、なにげに好き。
もちろんウサギとの激闘シーンは一人芝居なわけです。役者としてはかなり難易度の高いパントマイムを要求されるのですけど、それを見事にクリアしていて凄いなと。ちなみに実際の撮影現場では全身青い人がウサギのパペットを手に持って動かしているのを相手に演じていたようですが…。
ピーターたちのウサギのCG表現などは、『パディントン2』などを観ても思うことですが、もうモフモフ表現に関してはCGは極めましたね。これ以上の進化はないのでは?
さらに100年、愛されますように
もう少し真面目な話をすると、本作は公開前にあった原作無視の酷い作品という危惧に対して、私はそこまで劣悪なものはないなとも思ったので良かったです。
ピーターとトーマスが実質恋の奪い合い状態になるお相手のヒロインのビア。彼女は明らかに原作者ビアトリクス・ポターがモデルなわけですが、こういうところどころにある原作リスペクトをメインのスラップスティック・コメディの背景に混ぜ込むバランスも自然でしたし。ちなみに、ビアトリクス・ポターの伝記映画として『ミス・ポター』という作品があるので、彼女についてもっと真剣に知りたければそっちを観てください。
何より最後のエンドクレジットでちゃんと原作寄りのアニメーションを見せてくれたわけですから、じゅうぶんやってくれたでしょう。こういう作品で子どもたちに「ピーターラビット」を新しく知ってもらう入り口になって、さらにもう100年、作品が愛され続けるといいなと思います。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 56%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
関連作品紹介
続編の感想記事です。
・『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』
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以上、『ピーターラビット』の感想でした。
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