ニュージーランドの片隅で追いかけっこ…映画『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:ニュージーランド(2016年)
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー
監督:タイカ・ワイティティ
はんとふぉーざわいるだーぴーぷる
『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』物語 簡単紹介
『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』感想(ネタバレなし)
ニュージーランドの期待の監督
ポリネシアを舞台にしたディズニーCGアニメーション『モアナと伝説の海』は少数派民族をクローズアップした、マイノリティへの尊重が重視されている昨今の社会において、とても意義のある作品でした。その『モアナと伝説の海』、実は初期の脚本家にマオリ族の血をひいているニュージーランド人が関わっています。
その人は“タイカ・ワイティティ”。
ニュージーランド出身のこの人、日本ではあまり名は知れていない人物ですが、世界レベルの映画業界では存在感を強める急成長中の映画人です。“タイカ・ワイティティ”自身は俳優としても活動しているのですが、監督として評価の高い、それも個性的な作品を次々生み出していることが、その注目の大きな理由。
長編映画としては、2007年の『Eagle vs Shark』、2010年の『Boy』と続き、私が“タイカ・ワイティティ”の名を初めて知ったのは監督作『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』ですね。
この映画は、ニュージーランドの首都ウェリントンの街の片隅で共同生活を送るバンパイアたちの楽しくもオカシイ日常を、モキュメンタリー方式で描いた異色作。俳優の演技が絶妙で、現代社会に馴染めているようでどこがズレている彼らの姿は、爆笑すると同時になんだか見ていて安心します。観てない人はぜひ(後にドラマシリーズ化もしました)。
そんな“タイカ・ワイティティ”監督の最新作が本作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』です。
物語としては、ニュージーランドのド田舎(まあ、ニュージーランドの大半は大自然だけど)で繰り広げられる、頑固じじいと悪ガキの交流によるコンビ成長ロードムービーであり、よくありがちな感じ。キャラクターの関係性はピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』に似ているという指摘もあります。でも、そこは“タイカ・ワイティティ”監督。シュールなギャグを得意とする作家性が相変わらず輝いていて、オリジナリティ炸裂。しかも、今回はニュージーランドの雄大な自然を舞台に、あれよあれよという間にまさかのスケールに発展していくので、見ごたえありです。
映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で97%の超高評価を得ている本作。日本ではDVDスルーですが、劇場で観れないのは惜しすぎるほどの快作なので、隠れた名作としてぜひハントしてください。
“タイカ・ワイティティ”本人もさりげなく今回も出演していますので探してね。
『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):家出する?
森を走る1台の車。警察車両です。後部座席にはひとりの少年が乗っています。
車は農地にポツンと建つ家で停車。家からはベラ・フィークナーという女性が待ちわびていたかのようにでてきます。車を降りた児童福祉局のポーラ・ホールは、リッキー・ベイカーという少年を紹介します。
ベタはリッキーを優しく抱きしめ、気さくに話しかけます。でもリッキーは不満そうに無言です。
ポーラは「お話しておくべきことがあります。リッキーはかなりの問題児です」と再度忠告します。その非行は児童福祉局でも手が付けられないほどで、対応できないのでこの自然のど真ん中の家庭に置くことにしたのでした。
リッキーは車に戻ってしまいます。それでもここしか居場所はありません。渋々従います。
そこへ野生化したブタを狩って背負ったベラの夫ヘクターがやってきます。ヘクターは愛想なく、ベラとは大違いです。
食事中もリッキーを睨みつけるヘクター。「農家で働いた経験は?」と厳しく聞いてきますが、ベラは温かく歓迎すべきだと夫を諭します。
湯たんぽ付きの部屋を与えられたリッキーですが、大人しくここで過ごすつもりはありませんでした。夜になると懐中電灯片手に家を飛び出します。
しかし、家から200m程度の草原で疲れて寝ているところを見つかってしまいました。ここは子どもが自力で逃げられるような環境ではありません。そんなリッキーを発見したベラは怒ることなく、リッキーに美味しい朝食をだします。
次の朝、家出を諦めたリッキーはベラにこの地について教わります。100万ヘクタールのブッシュが広がっており、「マクテカフ」という湖もあって、そこは天国に向かう魂が目指す場所なのだとか。ベラも行ってみたいと口にします。
リッキーはカウンセラーに習ったという俳句を披露。ひたすらに下品です。
ベラは銃の使い方を教えます。わりと躊躇なく撃つリッキー。イヌのザグがブタを発見したらしく、急行。ベラは手早くナイフでブタを仕留め、血塗れになりながら喜んでいました。リッキーはその凄惨な光景に気絶します。
リッキーの13歳の誕生日を自作の歌で祝ってくれるベラ。ヘクターは無口です。誕生日プレゼントとして犬をあげます。「初めてのプレゼントだ」とリッキーは大喜び。
こうしてリッキーはここでの生活に馴染んでいきます。
ところが悲劇が起きます。ベラが亡くなってしまったのです。ヘクターはそれまで見たことがないほどに感情を露わにして悲しみにくれます。
残されたのはヘクターとリッキー。相性は最悪。ヘクターはただでさえ愛する妻の死に動揺しています。
児童福祉局から手紙が来てリッキーを施設に戻すと通知してきました。リッキーは嫌がります。「スカーフェイスみたいにあの人たちを撃ち殺すのは?」
「俺は面倒を見られない。お前を望んだのはベラなんだ」
リッキーは決心します。ベラの持ち物をあの彼女が望んでいた湖に連れて行ってあげよう…。まずは自分の死を偽装工作しないと。自分に見せかけた服を小屋で燃やして…あれ、思った以上に燃え上がるな…あ、これはヤバいかも…。
リッキーを養子にしたい
『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』の一番の魅力はなんといっても主人公リッキーです。「リッキー・ベッカーの歌」を何度も歌って祝ってあげたいくらい、リッキーが愛らしくて愛おしい。母性・父性をガンガンくすぐられる存在でした。
数々の非行も子どもなら大なり小なり通過することだし、それらを許容できずに親はできないわけで。さすがにリッキーの誤解を招く説明によって変質者扱いとなるのは勘弁ですが…。それ以上に不遇な人生でも無邪気に生きる言動に癒されますね。初めての誕生日プレゼントだと顔を輝かせる姿とか、最高です(犬にトゥパックと名付けるオチも含めて)。
そりゃあ、リッキーと最初は嫌々付き合うヘクターも、リッキーの無邪気さに心ほぐされるわけですよ。殺人の前科を告白しても、ギャングスターじゃんと褒めてくれる奴はそうそういないですから。転んだヘクターに足を折るという追い打ちをかけ、終盤もやっぱり追い打ちしかない(しかも銃弾だからなお酷い)リッキーでしたが、最後に救ってあげる姿は、ベタですが感動します。
そんなリッキーやヘクターを温かい包容力で迎えてあげるベラも、出番は序盤だけでしたが、印象に刻まれるキャラでした。血まみれの笑顔が素敵です。
ターミネーターのごとく執拗に追いかけてくる児童福祉局のポーラ、マオリ族の親子、サイコ・サムなど脇役に至るまで、“タイカ・ワイティティ”監督作の持ち味はキャラクターの楽しさですね。
ホオダレムクドリを探して
『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』を含めて“タイカ・ワイティティ”監督作を観ていくと、社会の底辺に生きざるを得ない人たちにスポットをあててあげるのが彼の作風なのかもしれません。
『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』もそうでしたし、本作もリッキーやヘクターは親というよりは社会に捨てられた存在です。
それでいて“タイカ・ワイティティ”監督は、シリアスに暗くなることなく、コミカルに扱ってくる鮮やかさが見事で、重いテーマには気づきにくいのですがちゃんと描かれているわけです。終盤に二人がポーラ、ハンター、警察、軍隊を巻き込んだパトカー、ヘリ、装甲車とのめちゃくちゃカーチェイスの末に辿り着いたのが“車がうち捨てられた廃棄場”というのがまさにそれです。二人のような人間は社会にとってゴミかもしれない…でも、リッキーがマオリ族の家庭にひきとられたように、“ワイルダーピープル”を受け止めてくれる人は必ずどこかにいるのです。
爆笑すると同時になんだか見ていて安心できるのは、こういう温かい姿勢を感じられるからなんでしょう。
あの二人なら、同じく社会の重圧によって絶滅したとされるホオダレムクドリも見つけて救えそうです。
“タイカ・ワイティティ”監督の次回作はなんとマーベル映画の『マイティ・ソー 』シリーズ最新作『マイティ・ソー バトルロイヤル』。この人がアメコミ映画を作るとどうなるのか全く予想がつかないですが、シュールなギャグと温かさは健在なのではないかな?
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 91%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
関連作品紹介
タイカ・ワイティティ監督作の映画の感想記事です。
・『ネクスト・ゴール・ウィンズ』
・『ジョジョ・ラビット』
作品ポスター・画像 (C)Piki Films ハントフォーザワイルダーピープル
以上、『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』の感想でした。
Hunt for the Wilderpeople (2016) [Japanese Review] 『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』考察・評価レビュー