きみと、波にのれたら
映画『きみと、波にのれたら』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Ride Your Wave
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年6月21日
監督:湯浅政明

きみと、波にのれたら

あらすじ

サーフィンが大好きで小さな港町に引っ越してきた向水ひな子は、町で起こった火事騒動をきっかけに消防士の雛罌粟港と知り合い、恋に落ちる。二人はすぐに打ち解け合い、一緒に過ごす時間が増えるたびに互いにかけがえのない存在になっていくが、ある時、海で溺れた人を助けようとした港に不幸が起きてしまい…。

『きみと、波にのれたら』感想(ネタバレなし)

SARUが波に乗ってます!

ウォータースポーツのひとつでサーフボードの上に立って波に乗る「サーフィン」。それを嗜むサーファーはなぜか恋愛絡みで語られることが多いです。リア充のやることだとか、美男美女がやるものだとか。「サーファー」とググると真っ先に「サーファーの人と恋愛すること」に関するページが出てくるのがそれを如実に表しています。

いつからこうなったのでしょうかね。もともとサーフィンの起源はポリネシアにあると言われていますし、ちゃんと伝統と歴史があるものであり、無論、恋愛など無縁です。やっぱり海だからなのか。海という開放的で裸成分多めなロケーションが、サーファーを見る人を恋愛脳にしてしまうのか。

だったら…潮干狩りも、潮干狩りもリア充だと考えられないのか…!(絶対にないです)

そんな戯言は波に洗い流して、今回の紹介映画である『きみと、波にのれたら』の話です。

本作は日本のアニメーション監督“湯浅政明”の2019年最新作。“湯浅政明”監督は本当に最近は大波に乗りまくっているクリエイターです。2004年の長編監督デビュー作『マインド・ゲーム』からして相当にインパクト大でしたが、以降はテレビアニメシリーズを仕事の舞台にしており、あくまでその認知はテレビアニメ業界内に限定気味でした。しかし、『アドベンチャー・タイム』という海外のアニメーションシリーズの1話を担当して、国際的に評価を受けてからでしょうか。急にその注目度が上がり始め、転換点となったのは2017年。『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』という2作の劇場アニメ映画を立て続けに送り出し、それがまた高評価。『夜明け告げるルーのうた』にいたってはアヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門の最高賞を受賞し、一気に世界のステージに駆け上がってしまいました。

『アドベンチャー・タイム』での成功を機に設立された“湯浅政明”監督の「サイエンスSARU」というスタジオ。有名な実績を上げた監督を中心に動くスタジオは日本国内にもいくつもありますけど、長編映画なら長編映画…というように初志貫徹で特化することが多いなか、“湯浅政明”監督は自由奔放。すでにこの『きみと、波にのれたら』以降も、仕事が多数確定済みですが、テレビアニメシリーズ・Netflixなどのウェブアニメ・映画とその形態は多様です。なんかまるで監督本人がいろいろな波に乗るのを自ら楽しんでいるみたい…。

そんな監督自身の現状のノリも反映されているのでしょうか。『きみと、波にのれたら』も実に“湯浅政明”スタイルが炸裂しています。

『夜明け告げるルーのうた』と同じく海を舞台にした作品ながら、対象はガラっとチェンジ。前作は子どもでも楽しめるファンタジーなテイストでしたが、『きみと、波にのれたら』は海外でいうところのヤングアダルトなジャンルに近い恋愛モノに。作品が当たったらその路線を継続するのが商業的には手堅い作戦なのでしょうけど、“湯浅政明”監督は本当に縦横無尽で、同じことをしない人ですね。まあ、プロデューサーとかは大変でしょうけど…。

主人公の年齢が「大学生~社会人」の中間あたりなので、ちょっと子ども向けではなくなりましたが、“湯浅政明”らしいストレートな物語と絵のコラボレーションはいつもどおり楽しめます。あとは作中の眩しすぎるくらいの恋愛を、どう素直に受け止められるかといったところでしょうか。

今作では主役の男女の声を演じるのがGENERATIONS from EXILE TRIBEの“片寄涼太”とAKB48の元メンバーである“川栄李奈”であり、余計にキラキラな恋愛っぽさが増量しています。これも監督の狙いどおりなのでしょう。

脚本は、もはや波に乗っているというか、マグロのように泳ぎ続けているくらいの仕事連発な“吉田玲子”です。相変わらずの手慣れたストーリー構築力。脚本界のプロサーファーです。

作中でも“とあるキャラ”が口にしますが、「恋なんてアホのすること」と思っている人でもぜひ毛嫌いせずに観てみてください。映画で溺れ死んだりはしませんから。

オススメ度のチェック
ひとり◯(恋愛に拒絶反応がなければ)
友人◯(アニメ好き同士で)
恋人◎(ロマンス気分を刺激する?)
キッズ◯(直球で恋愛メインですが)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『きみと、波にのれたら』感想(ネタバレあり)

スナメリのヒーロー

海辺の町。二人の若い消防士が浜辺でサーフィンをしている同じく若い女性の姿を建物から遠巻きに見ています。「あの子、僕のヒーローなんだよ」…そう語る先輩風の雛罌粟港(ひなげし みなと)とそれを聞く後輩風の川村山葵(かわむら わさび)

一方で、サーフィンから戻ってきた向水ひな子は、引っ越してきたばかりの部屋で、荷物の詰まった段ボール箱の壁と格闘中。倒れそうになるのを押さえながら母親と電話します。

慣れない町でひな子は自転車で迷っていると、消防士訓練中の山葵が誤ってホースを放してしまった結果、ずぶ濡れに。しかし、サーフィンが日課のひな子が水着を中に着用しているので気にせず、むしろ道を教えてくれたお礼にタオルをくれます。

とある夜。建設中のビルで危険な花火遊びをする集団が案の定、火事を起こし、隣のマンションに延焼。そのマンションにはひな子が住んでいました。火災を探知し、避難指示が出る中、ひな子は何を持っていくべきか迷っている間に逃げ遅れて、屋上に取り残されます。消防車のはしごでその屋上に駆け付けた消防士は港でした。「大丈夫ですか」と冷静に声をかけ、「ボードも一緒にいいですか」というひな子の本来であればダメなお願いにも優しく対応。地上に無事に降り立った二人。「大切なんですね、そのボード」「また見せてください、波に乗っているところ」…そんな港の言葉に思わず「今度興味あれば乗ってみませんか、波に」と誘ってしまうひな子。

ここから二人の付き合いが始まります。

さっそく二人で車で出かけることになり、互いに自己紹介しつつ、共通で知っているを歌ってすっかり意気投合。浜辺に到着し、港もサーフボードを繰り出してひな子から波乗りを学ぶも、なかなか上手くいかず息絶え絶え。休憩中は簡易的な道具で料理を作る港。その手際に感心しつつ、「ヒーローみたいだなって」とひな子は港に印象を語ります。

結局その日は波には乗れませんでしたが、カフェで軽く休むことに。「消火器もちゃんと数が合っていいですね」と思わず消防士思考が発動する港。どうやら港はカフェの経営が夢のようです。別れ際、「ずっと助けるよ、必ず」という港の言葉に、顔赤くするひな子。

いきなりキザなセリフが飛び出しますが、最後まで観ているとわかるように、港はひな子と初対面ではなく、そのファーストコンタクトの経験に基づいての“お返し”としてのアンサーのセリフがこれ。ただし、この時はひな子はその過去を覚えていないので、素で額面通りに受け取っています。なお、港はここで幼少期の例の話題を何気なく口にしており、ひな子の反応を探っていたんでしょうね。

その初デート的な1日を出発点に二人は思い出を重ね、楽し気に歌いながら、あちこち出かけ、波に乗り、充実した日々を過ごします。

月日が経過し、港の妹で口が悪いので「ヒョウモンダコ」と呼ばれる洋子「あんたらが甘すぎるわ」とボヤかれるくらいのラブラブ具合となったひな子と港。予約すると好きなメッセージが流せるタワーにて恋人たちの聖地でしっかり絆を深める二人。「雪が降った後はいい波が来る」と願いが叶うというけれどまだ一度も達成していないその波の話をするひな子でした。それが大きな悲劇の運命を招くとも知らずに…。

冬のある日、ひとり波に乗ってくると港からメッセージを受け、花屋のバイトに精を出していたひな子は終わりしだい急いで浜辺に駆け付けます。ところがそこにはパトカーが並び、消防士の山葵の姿が…。

港は溺れかけた人を助けるために海に飛び込み、亡くなってしまいました。

それまでの幸せは一変。友達も慰めてくれるも、全てが虚脱感に沈んでしまったひな子。サーフィンもやめてしまい、家で横になるしかできない中、ある時、あの二人のお気に入りの歌を歌うとコップの水の中に港を見た気がします

それこそ港とのもうひとつの出会いの始まりで…。

きみと、波にのれたら

リア充だって悩んでいる

『きみと、波にのれたら』は普段から日本のアニメ映画を見慣れている人ほど度肝を抜かれるかもしれません。その理由は、序盤から目に飛び込んでくるかなりダイレクトな恋愛描写です。

序盤の港とひな子のイチャイチャっぷりは実写邦画でもやらないぐらいのLOVE度120%。二人の付き合いの実に仲睦まじい様子がシーンの連続映像で流れる中、鍵となる曲「Brand New Story」をリアルにじゃれるように歌い合う声が重なります。

ちなみにこのアドリブっぽい歌のデュエットは、当初は別録音の予定だったのが“片寄涼太”の提案で二人一緒に収録することになったのだとか。こんな提案がサラッとできちゃうなんて、イケメンかつ天才かよ…。

ここまでアニメでド直球に恋愛を描くとは…。というのも『きみと、波にのれたら』で描かれる男女というのはまさにサーファーのステレオタイプなイメージなとおり、世間の言うところのリア充なのです。そして、日本のアニメ作品では常にこういうタイプの人たちを邪険に扱ってきた傾向がありました。「リア充爆発しろ」という作中にも出てきた定番文句のように。そのため従来のアニメ作品だと、恋愛描写があっても「モテないキャラがモテる」とか「恋愛に奥手な人が一歩踏み出す」とか、はたまた「手当たり次第にハーレムのようにモテまくる」とか、明らかにファンタジーと言っていいぐらい現実から浮いた恋愛が目立っていましたし、それが当然のようになってきました。まあ、あまりこういう言い方は好きじゃないですけど、いかにもオタク層が好む居心地の良さですね。

一方の『きみと、波にのれたら』はオタク層が絶対に好まない、むしろアレルギーで即死するんじゃないかというくらいの、リア充恋愛一直線。これで抵抗感をさっそく発症してしまった人もいるかもしれません。多少、恋愛アンチな洋子を投入することで緩衝材を準備してくれましたけど。

でも本作はあえてアニメ業界の禁忌を犯したのも狙いがあって、“湯浅政明”監督が明言しているように「リア充だって悩んだり苦しんだりしているんじゃないか」ということを描きたいわけで。ひとつのきっかけになったのはリアル青春映画として非常に評価の高い『桐島、部活やめるってよ』だそうで、まさに本作は「ひな子、波に乗るってよ」なのです。

この「リア充だって悩んでいる」というテーマは、ホラー映画『ハッピー・デス・デイ』シリーズでも見られましたけど(あっちは“ビッチ”だったけど)、私はこういう視点が結構好きなので(『恋の渦』とか大好き)、『きみと、波にのれたら』のチャレンジも大いに歓迎でした。


地縛霊の本を読んでいたり、地味にひな子も勉強熱心なのもいいですね。

2019年は『天気の子』などでも恋愛は描かれていますが、どうしてもティーンの“恋に恋する”フワッとした印象で終わる中、『きみと、波にのれたら』ほど純真に恋愛に恥ずかしげもなく向き合ったアニメ映画は貴重だと思います。

名前に隠された意味

『きみと、波にのれたら』は序盤の眩しいフラッシュ全開の恋愛描写があれだったので、それですっかり脳内にこびりついてもしまうのですが、冷静に物語を見ていくと、ロマンスがメインではないとも言えます。

そもそも主人公である向水ひな子は、その苗字が示すとおり「むこうみず(将来のことを考えずに行動している)」な状態です(苗字は“むかいみず”と読む)。その状況は冒頭の山のように積まれた引っ越し荷物の窮屈さや、マンション火事の際にモタモタしていて逃げ遅れる姿からも暗示されます。

そんな彼女が雛罌粟港というボーイフレンドを得たことで居場所を得る。でもそれは一時しのぎでしかない。そのことは「港」という名前からも伝わってきますね(なお苗字の「雛罌粟(ひなげし)」は花の名前で「虞美人草」とも言い、中国の故事に登場する虞姫という悲しい愛の別れを経験する人物が由来です。なのでフラグが名前だけでたっています)。

「港の苗字、難しすぎ」「自分の苗字になったらどうするんだよ」という聞いているこっちが赤面の会話が作中でありますけど、それはつまり結婚を意味すると同時に、ひな子が「むこうみず」ではなくなる(将来が定まって行動できるようになる)というダブルミーニングでもあるんですね。

でもひな子はその愛にすらも躊躇いをみせる。港からほぼプロポーズと言っていい言葉をもらうのですが「私が波に乗れたら」と答えを先延ばしにします。

つまり、『きみと、波にのれたら』の「波に乗る」というのは人生のやりたいことを見いだすことへのメタファーです。まあ、こういう「波乗り」を人生に例えるのは定番で、映画もいっぱいあるのですけど(『ロスト・バケーション』とか)。

「どこにいけばいいのかわからない」と狼狽えるひな子に「次の波に備えないと」と助言し「ひな子が自分の波に乗れるまで」支えてくれる。港は努力し続けて沈まないように生き、山葵は失敗しまくりあっぷあっぷで泳ぎ、洋子は不登校という最初から水に入らない生き方をしてきた。それぞれの苦労がある中で、ひな子の波の乗り方を探る。

『きみと、波にのれたら』は水面には恋愛の色を浮かばせつつ、その中身は波の緩急が激しい人生の海をどうやって楽しんで生きるかを問う、人生賛歌なのでした。

水つかいの湯浅政明

“湯浅政明”監督らしいアニメーション表現とストーリーの合体技は『きみと、波にのれたら』でもキマっています。

“湯浅政明”監督と「水」の付き合いは1999年の短編作品『スライム冒険記 海だ、イエ~』からのものだそうで、なかなかに交際経験の長いカップルです。

「君が眺めている水面は鮮やかに煌めき~♪」と歌に反応して水イリュージョンが起こるのは『夜明け告げるルーのうた』でも体験済みですし、スナメリ・ウォータービニール人形とか、愛嬌たっぷりなアイディアも継承してます(でもさすがにあれはひな子も変人に思われるだろうな…)。

『きみと、波にのれたら』は縦方向のダイナミックな動きが印象的です。序盤のマンション火災救助シーンでは花火が上がるという一種の危険とロマンチックがごっちゃになった空間を演出。ここではひな子は一方的に助けられるのを待つだけ。その序盤と対比になるのがラストのまたもや火災シーンでの、水柱がうにょ~んと登っていき、ドッと下に流れ落ちる場面。ここではひな子は自分の力で波に乗って、自ら下に降ります。なんてことはない派手なだけのクライマックスに見えて、巧妙にキャラクターの成長とリンクさせているのは、さすが“湯浅政明”監督の手腕でした。

サーフィンはしないけど、人生の波には勇気を振り絞って乗っていきたい…そんなことを思わせる映画でした。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience --%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

湯浅政明監督作のアニメーション映画の感想記事です。

・『夜明け告げるルーのうた』


・『夜は短し歩けよ乙女』


作品ポスター・画像 (C)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 きみと波にのれたら