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『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』感想(ネタバレ)…真実を吐け!

ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密

真実を豪快に吐け!…映画『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Knives Out
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年1月31日
監督:ライアン・ジョンソン

ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密

ないぶずあうと めいたんていとかたなのやかたのひみつ
ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密

『ナイブズ・アウト』あらすじ

世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーの85歳の誕生日パーティーが彼の豪邸で開かれた。その翌朝、ハーランが遺体となって発見される。依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは、事件の調査を進めていく。屋敷にいた全員が事件の第一容疑者となったことから、裕福な家族の裏側に隠れたさまざまな人間関係があぶりだされていく。

『ナイブズ・アウト』感想(ネタバレなし)

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ミステリーはやっぱり楽しい

日本の映画興収トップ10にいつもランクする国民的アニメの主人公である“見た目は大人、中身は子ども”な名探偵が「真実はいつもひとつ!」とお決まりの名セリフを連発しているのに、どうして世間は真実をないがしろにして騒ぐのだろう…。

そんなことを思いましたとさ。以上、イントロの呟きでした。

…真実、大事にしていこう。

今回の紹介する映画も名探偵がビシっと大活躍して“真実”を炙り出す作品です。それが本作『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』

探偵はいつの時代もカッコいいもので、小説でも映画でもクールに描かれます。まあ、実際の探偵という職業は全然違うのでしょうけど。

最近の映画界も探偵は活躍中。ミステリーの金字塔であるアガサ・クリスティ作品を映画化した『オリエント急行殺人事件』(2017年)は続編の公開も待機しています。『マザーレス・ブルックリン』も骨太のミステリー大作という感じで、コアなファンほど満足できたと思います。近頃は日本産の電気ネズミが探偵業をしてハリウッド進出してましたし…。

こうやって振り返ると、探偵モノも幅が広くてそれぞれの作品で色がハッキリしており、多様な観客を掴みやすいものですね。

本作『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』も個性は明確です。なんか邦題のせいで若干の子ども向けっぽさが出ていますけど(副題は全然マッチしていないと思う)、キッズが楽しめるタイプの映画ではないと思います。かといって硬派な作品でもない。言ってみれば一般の大人観客向けのコミカルなエンタメ・ミステリーという感じでしょうか。一番バランスのとれた当てやすい立ち位置だと思います。

肝心の中身は…言えない。これはしょうがない。ミステリーなんてネタバレ厳禁なのは当然。本作はあれとかこれとかいろいろなミステリー小説へのオマージュらしきものも散りばめられているのですが、具体的にこれです…とも書けない。困った…。

本作はオリジナル脚本で、そこも大きな評価のポイントになっています。本国アメリカでは大ヒットし、批評家も絶賛。アカデミー賞では脚本賞にノミネートされもするほどの注目度。こんなにミステリー作品が話題騒然になるとは思ってもなかったです。アメリカでは本作に対して「アメリカン・ポアロ」なんて言葉で形容されてもいるようですね。確かにそうかもしれないです。「コロンボ」よりも「ポアロ」寄りというのは言われてみればそうかも。

まあ、でもミステリーの教養がなくても誰でも楽しめるので安心してください。人の死が描かれますが、そこまで陰惨ではない、むしろ笑いのこぼれる楽しい世界です。

監督は『LOOPER ルーパー』で強烈な印象を残し、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』で大論争な火種を放って銀河へ消えた、あの“ライアン・ジョンソン”。この人は自分で脚本を書くタイプですけど、やっぱりオリジナル作品の方が自由で生き生きとしているなぁ。『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は好評につき、続編計画もあるみたいで、“ライアン・ジョンソン”の顔になる自分のシリーズとなっていくのかも…。

俳優陣の豪華さも魅力。ミステリーはキャストが多いからこそ最高です。

まず探偵役に“ダニエル・クレイグ”。スパイ業を辞めてもこっちがあるから安泰ですね。

そして“クリス・エヴァンス”。こちらはヒーロー業を引退したばかりですが、元気にセカンドキャリアを楽しんでいるようで何より。

さらに『ブレードランナー 2049』の“アナ・デ・アルマス”。『ハロウィン』の“ジェイミー・リー・カーティス”。『シェイプ・オブ・ウォーター』の“マイケル・シャノン”。ドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の“ドン・ジョンソン”。『ヘレディタリー 継承』の“トニ・コレット”。ドラマ『13の理由』の“キャサリン・ラングフォード”。『IT イット』二部作の“ジェイデン・マーテル”。『スター・ウォーズ』シリーズのヨーダでおなじみの“フランク・オズ”。『ゲティ家の身代金』の“クリストファー・プラマー”。『ホワイト・ボイス』の“キース・スタンフィールド”…。

また、“ジョセフ・ゴードン=レヴィット”がカメオ出演しているので耳をすましましょう。

この贅沢すぎる顔ぶれ。映画・ドラマファンとしてはぜひとも全員を知っておきたいところ。知らないなぁという人がいたら出演作を見てみるのもいいですよ。『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は俳優マニア垂涎の作品ですし、俳優に親しみがあればあるほど楽しさも倍増します。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(ミステリ好きは必見)
友人 ◯(気楽にワイワイと)
恋人 ◯(ほどよくエンタメ性も)
キッズ ◯(子ども向け感はないが)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ナイブズ・アウト』感想(ネタバレあり)

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探偵は目を光らせている

ニューヨーク郊外の館。明らかに裕福な資産家の物件ですが、まさにそのとおり。ここはミステリー小説家としてベストセラーによって財を築き、巨大な出版社の創設者ともなった著名人ハーラン・スロンビーの邸宅。屋敷内には豪華な物品があちこちに飾られ、独特の雰囲気を放っています。

ここでハーランの85歳の誕生日パーティが開かれ、親族が集まって祝ったのでした(決してアカデミー賞受賞者の祝賀会ではないのです…)。

その翌朝。家政婦のフランはいつものようにコーヒーを出しにハーランのもとへ向かいますが、ベッドにいません。そこで奥の階段の先の部屋に行くと、ハーランはソファで血を流してすでに息絶えていました。…事件です。高齢だった

ハーランの面倒を見ていた看護師のマルタは緊張した面持ちで屋敷へ到着します。そこにはパーティに参加していた親族たちが待っていました。

さっそく事件の知らせを聞いて駆け付けたエリオット警部補がひとりひとりに聞き取りを始めます。

ハーランの長女で不動産経営者であるリンダ・ドライズデール。そのリンダの夫であるリチャード。ハーランの次男でハーランの跡を継ぎ出版社を経営しているウォルト・スロンビー。そのウォルトの妻であるドナ。ウォルトとドナの息子であるジェイコブ。ハーランの今は亡き長男ニールの妻で化粧品会社の経営者を務めるジョニ・スロンビー。そのそのジョニの娘であるメグ。年齢もよくわからないハーランの母親グレート・ナナ・ワネッタもいますが、あまり会話にならないのでいてもいなくても同じ。

エリオット警部補は自殺と考えており、横にワグナー巡査を立たせています。しかし、自殺ではないと考えている男がひとり。その後ろの椅子に悠々自適に座っていて、「あれは誰だ?」とみんなが口にする、場違いな男。それが探偵のブノワ・ブランです。

匿名の依頼で駆け付けたらしいブランの鋭い質問により、どうやらこの親族たちは各々がハーランを嫌っていたり、弱みを握られていたりする事情があり、つまり全員が殺害の容疑者になりうる状況でした。

何よりハーランには莫大な遺産があります。そして実際に親族たちはハーランの不幸な死を悲しむよりもこの遺産の相続のことで頭がいっぱいなようです。アメリカの相続の仕組みは詳しく知りませんが、だいたいは日本と同様のはず。額が額なだけに血眼になるのも当然か。

場所を変え、今度はマルタと話をするブラン。このマルタは緊張して切羽詰まると吐くクセがあるらしく、ブランの前でも盛大に吐いてしまいます。

気を取りなおして、ブランはもう一度部屋に戻ってマルタに聞き取りを開始します。

マルタはあの記憶を思い出します。自分だけが知っているあの夜の出来事を。誰にも言えないハーランと自分が隠した真実の秘密を…。

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あのマグカップが欲しくなる

『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は疑いなくれっきとした純粋なミステリーなのですが、そのストーリーラインは意外な変化球がまずぶっこまれます。

物語も中盤に入るよりも前にハーランの死がどうやって起こったのか観客に示されてしまうんですね。

ハーランと看護師マルタが二人だけで部屋にいたとき、マルタはうっかり投与する薬を取り違えるというミスをしてしまい、パニック状態に。このままではしばらくしたら死んでしまう。しかし、マルタのことを大切に想っていたハーランは、彼女のためにアリバイ作りを提案。全てはマルタが罪にならないように。マルタに手順どおりの行動をとらせ、最終的には自分の喉にナイフをあてて切り裂いたのでした。なので、結果的には自殺です。

まあ、でもそれで終わりになるはずもありません。さらに裏の真相があるわけです。

遅れて屋敷にやってきたのは、長女リンダとリチャードの息子で一族の問題児として邪険に扱われているランサムという男。正直、すぐにこの男が真犯人なのだろうと察しがついた人は普通にいたと思います。吠える犬などの伏線もそうですが、それ以前にあの“ダニエル・クレイグ”と張り合えるのは“クリス・エヴァンス”くらいしかいませんから

案の定、物語が進むにつれてランサムの化けの皮が剥がれることに…。

「犯人はお前だ!」「なんだってー!」というミステリー定番の種明かしを単純に期待していたのならば少しガッカリかもしれません。犯人バレバレじゃないか、と。

でも『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』の面白さは、そういうトリックや犯人当てというストレートな部分ではないのだと思います。

例えば、本作は非常に小物使いなどアイテムの駆使が絶妙です。

冒頭でこれ見よがしに登場する家政婦が運ぶマグカップ。それはラストと完全に対になる使われ方をし、そこに書かれている「My House My Rules My Coffee」の文字が効いてきます(調べたら普通に販売されてました)。

序盤からさりげなく登場する野球ボールは、ブランが拾ったりと、いろいろなキャラに巡っていくのですが(犬も活躍)、それが最終的に元の場所に戻るあたりもよくできています。

またハーランとマルタが例の事件直前に部屋でやっているのが囲碁です(“五目並べ”程度かもですが)。それがすぐにひっくり返されてしまうのですが、それもそういう盤上の“小競り合い”などどうでもいいんだ!というラストのオチへの暗示になっているとも深読みできます。

もちろんタイトルにもかかってくるナイフも…。

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俳優が楽しそうで何より

『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』を彩るキャラクターたちも本当に魅力的。

本作の実質的な主人公であるマルタ。前半は彼女が自分の知る真実を周囲にバレないようにあれこれ奮闘しているさまを観客は見物するという、完全に喜劇。マルタがどこでもいつでも吐いてしまうというのがまた良くて、そこに吐いちゃダメだろう!というところで盛大にやってくれるのでもうコントです。でもこの素直に“吐く”という行為が、そのままマルタの純真な“善”を体現していたり、ふざけているようで真面目な演出でもあります。個人的には何かとセクシーな役ばかりが回ってくる“アナ・デ・アルマス”の新しい魅力を開拓する素晴らしいキャスティングだったと思います。

名探偵ブノワ・ブランも最高で、これまでの“ダニエル・クレイグ”にあった紳士キャラを継承しているようで、“あれ、コイツ…大丈夫か…?”と思わせる隙があるのがたまらない。なにせ観客としてはこのブランというキャラクターと初対面なので、もしかしたら悪人側かもしれないとかいろいろ考えてしまいます。そこをいいように上手く翻弄されて、でも最後はいきなりビシッと決めて株をあげる。そしてここからが大事ですが、仕事が終われば消える。“ダニエル・クレイグ”もここにきて持ちキャラに出会えるとは思わなかったろうな…。

そしてクソ野郎なランサムを楽しそうに演じた“クリス・エヴァンス”。MCU以外にも『gifted ギフテッド』や『紅海リゾート 奇跡の救出計画』と最近もずっと“善”側のキャラを演じてきましたが、“悪”側も似合っているな、と。

個人的には“ジェイミー・リー・カーティス”と“トニ・コレット”が相対しているだけでホラーな存在すらも黙る威圧感ですし、そりゃあ周囲の男たちが気弱に見えてくるわけですよ。

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現代の白人社会を風刺する

『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は犯人当てがメインではないという部分に関わってくることですが、この物語はしっかり今のアメリカへの社会風刺にもなっています。

つまり、あのスロンビー一族そのものがアメリカ白人社会の象徴です。年齢も性別も違えど、あのスロンビー・ファミリーたちは白人として利権の上にいるのであり、一族の長が死してなお、今度はその富を牛耳るべく身内で争い合う。

そんなとき、財産を手に入れることになったのは眼中にもなかった看護師。そのマルタはヒスパニック系だというのは当然大きな意味があります。いざマイノリティがいきなり自分たちのステージに上がってきたら、今度はさっきまで争ってたクセに白人同士で連帯して非白人を突き落とそうと暗躍。表面上の体裁などすっかり瓦解して、出るわ出るわ、差別や偏見の刃がグサグサと。

そんな苦しむマイノリティ(マルタ)に助けを差し伸べるふりをして近づくマジョリティ(ランサム)というのも確かに現実にもいる。

こうやって考えると、豪華俳優が集っているせいもあって、あのスロンビー一族の醜い競い合いはそのまま映画の賞レースで競う白人たちにもトレースできなくもないですね。本作がアカデミー賞脚本賞にノミネートされたのは、メタ的な意味でも痛快な話かもしれません。

本作はまさしくダイバーシティに直面するアメリカらしい現代アメリカ・ミステリー映画の新たな一歩という感じです。全体的な完成度が異常に高い作品であり、“ライアン・ジョンソン”監督、お見事でした。

“ライアン・ジョンソン”監督の才能の引き出しはまだまだ多そうです。もっと私たちを翻弄して!

『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 92%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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関連作品紹介

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・『マザーレス・ブルックリン』

・『名探偵ピカチュウ』

作品ポスター・画像 (C)2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ナイブズアウト

以上、『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』の感想でした。

Knives Out (2019) [Japanese Review] 『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』考察・評価レビュー