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『底知れぬ愛の闇 Deep Water』感想(ネタバレ)…これで付き合い始めたの!?

底知れぬ愛の闇

ベン・アフレックとアナ・デ・アルマスの共演作…映画『底知れぬ愛の闇』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Deep Water
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にAmazonで配信
監督:エイドリアン・ライン
性描写

底知れぬ愛の闇

そこしれぬあいのやみ
底知れぬ愛の闇

『底知れぬ愛の闇』あらすじ

表面上は優雅な暮らしを送る仲睦まじい夫婦。裕福で余裕のある夫と、美人で愛らしさのある妻。その2人の結婚生活の内側は想像以上に混沌としていた。妻は幼い娘の子育てに興味はなく、ひっきりなしに別の男を見つけてはその美貌と無邪気さで瞬く間に関係を築く。一方で夫の方はそんな堂々と他の男と親しくなる妻に複雑な想いを抱えていく。やがてその溜め込んだ感情は倫理的な一線を越える行動を招き…。

『底知れぬ愛の闇』感想(ネタバレなし)

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あの監督の20年ぶりの登場

いきなり失礼な話ですが、監督などのフィルムメーカーが急に仕事の痕跡もなく、表舞台に姿を見せないことがあります。そういう人が比較的高齢だと、私なんかは「あ、なんか健康的な問題とかで引退したのかな…」と勝手に察しているのですけど…。別に引退するのは本人の自由ですからね。でも忘れた頃にヒョコっと関わった新しい作品とともに再登場したりすると「え、まだいたのか!」とびっくりしたりして…。

この人の20年ぶりの登場もなかなかに驚きでした。その人とは監督の“エイドリアン・ライン”

“エイドリアン・ライン”はイギリス人で、CMを手がけていたのですが、1980年に『フォクシー・レディ』という青春映画で監督デビューし、若かりし頃の“ジョディ・フォスター”の飛躍に貢献しました。そして1983年に『フラッシュダンス』を監督。これが大ヒットし、映画の音楽の使い方に大きな影響を与えました。さらに1987年に監督作の『危険な情事』がアカデミー賞の監督賞を含む6部門にノミネートされるほどに高評価を獲得し、一気にハリウッドの話題の監督として地位を獲得しました。

“エイドリアン・ライン”監督の作家性として、過激なほどにエッジの効いた映像センスが挙げられ、題材としても不倫性的関係が多く、それを視覚的にショッキングな映像で魅せるアプローチが特徴。『危険な情事』なんてパロディになるほどに有名になりましたし、他にも『ナインハーフ』(1986年)、『ロリータ』(1997年)、『運命の女』(2002年)など同様の作品はいくつもありました。いわゆるジャンルとしてはエロティック・サスペンスと呼ばれるものですね。

しかし、『運命の女』以降、“エイドリアン・ライン”監督は作品がなくなり…。2022年時点で81歳ですからね。もう映画作りに興味も無くなったのかなと思っていたら、そうではないらしく、この表舞台で見えない間もいくつかの映画の企画に関わっていたようです。ただ、どれも結局は実現しなかったそうですが…。南フランスでのんびり休暇を取りながら浮上しては自沈する企画を眺めて早20年…すごい暮らしだなぁ…。

そんな“エイドリアン・ライン”の監督作が20年ぶりに登場しました。

それが本作『底知れぬ愛の闇』です。

久々の“エイドリアン・ライン”監督作というだけで話題性がある『底知れぬ愛の闇』ですが、作品自体も注目点が多いです。

まず原作はあの“パトリシア・ハイスミス”による1957年発表の小説「水の墓碑銘」。“パトリシア・ハイスミス”と言えば『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』などの多数の映画化実績もあり、最近だと『キャロル』は同性愛コミュニティからも絶大に支持されているクィア映画となりました。サスペンスフルな人間関係を描くことに長けるこの偉大な作家の作品を“エイドリアン・ライン”監督が手がけるなんて、なんだか時代が20年前くらいに遡った気分…。

さらに特筆点と言えば、主役。『底知れぬ愛の闇』で主人公となる夫婦を演じるのは、“ベン・アフレック”“アナ・デ・アルマス”。ハリウッド芸能ニュースをチェックしている人なら知っていると思いますが、この“ベン・アフレック”と“アナ・デ・アルマス”は交際関係にあり、パパラッチやマスコミにそのラブラブっぷりがしょっちゅう報じられていました。「イチャイチャ」という言葉がふさわしいような絵でしたね。この2人が付き合うきっかけになったのが本作なんですね。

しかし、この『底知れぬ愛の闇』、案の定、企画が前に進みません。当初は20世紀スタジオが主導で進めていたようですが、初期の段階で「ニュー・リージェンシー」に権利を売り渡し、2019年に撮影。とりあえず配給は20世紀スタジオのままで2020年11月13日に劇場公開される予定でしたが延期。さらにコロナ禍で再延期を重ね、なんとかこの2022年3月にやっと公開という…。でも劇場公開ではなく、アメリカでは「Hulu」、それ以外の国では「Amazonプライムビデオ」での独占配信になりましたけどね。

まあ、公開されたからいいじゃないかという話ではあるのですけど、まさかその間にあんなにラブラブだった“ベン・アフレック”と“アナ・デ・アルマス”が交際を解消して別れているとは…。

そんな『底知れぬ愛の闇』、やっぱりたいていの人は“ベン・アフレック”と“アナ・デ・アルマス”に目がいくのですが、これはしょうがないですよね。なんかもうこの映画自体が昔付き合っていた男女の過去のセクシャルな映像が巷に流れてしまいました…みたいな感覚がないとも言えない感じだし…。見ていてどことなく気まずいよ…。

物語はエロティック・スリラーと呼ばれるようなジャンルで、『危険な情事』に続くいつもの“エイドリアン・ライン”監督らしい中身です。夫婦や恋人同士で観るのにぴったりかというと、それはちょっと…。

ということで『底知れぬ愛の闇』は俳優ファンにとってはそわそわする映画じゃないでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:俳優ファンなら
友人 3.0:盛り上がるエンタメではない
恋人 3.0:普通のロマンチックではない
キッズ 1.5:性描写が多めです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『底知れぬ愛の闇』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):無邪気な妻、それを見つめる夫

ひとりの男性が随分と大急ぎで自転車に乗って家に帰ってきます。その男、ヴィック・ヴァン・アレンはドアの前でなぜか濡れているズボンを脱ぎ、落ち着こうとしています。するとふと妻であるメリンダが階段に座って夫をじっと見ているのに気づきました。まるで全てを知っているかのような余裕な表情で…。

「どうした?」「別に」

月日は遡ります。

ヴィックとメリンダの娘であるトリクシーはAlexaに歌をかけるようにお願いし、その煩さにメリンダはイラつていました。やめなさいと言っても娘はしつこく音楽をかけます。シッターが到着し、ヴィックは自室でドレスを選ぶメリンダのもとへ。ヴィックの選んだドレスをつけるメリンダ。

こうして夫妻はパーティへ向かいます。着くなりメリンダはジョエル・ダッシュという男と楽し気に話し始め、ヴィックは放置ぎみ。そんな妻を目で追うヴィック。メリンダはジョエルを引っ張って外へ。そしてあろうことかキスしているのを目撃、見られているとわかっても続けるメリンダ。メリンダは酔ってピアノの上で上機嫌、弾き歌い始めます。

ヴィックにジョエルが話しかけてきて、礼を言われます。プラトニックな関係だけど会わせてくれてありがとうという言葉に「マーティン・マクレイのことは聞いているか?」と切り出すヴィック。

「あの行方不明の?」「妻と会ってた。ただの友達だ。私が殺した。メリンダは知らない」

「冗談か?脅してるのか?」とジョエルは明らかに怯えており、引き留めるメリンダをよそにジョエルは逃げるようにパーティを後にします。

帰りにメリンダに「ジョエルに何か言ったの?」と言われますが、ヴィックは回答しません。帰宅し、メリンダは上半身裸でイラつきつつ、ベッドでメリンダは「ジョエルの前だとありのままでいられる」と言ってのけます。

身の危険を感じたのか、ジョエルは後にニューメキシコに行くと告げてきて、彼の言葉も相手にせず、ヴィックは丁重にタクシーを呼んで帰らせます。

ヴィックとメリンダの性的関係は続きますが、メリンダは次の男をすぐに見つけました。

メリンダの口座の残高不足の報告があり、その理由がチャールズ・デ・ライルという人物によるピアノのレッスン代だと聞いて、ヴィックは把握します。メリンダはピアノが上手いチャールズに夢中で、酔って帰ってくることもしばしば。チャールズと関係を持っているのは間違いないです。

それでも強気なメリンダは自分のやっていることに後悔はありません。

ある日、自宅でパーティを開いたときのこと。メリンダはしっかりチャールズも招いており、やっぱり彼と楽しそうに過ごしていました。プールでも親密です。

すると夜に雨が降ってきたのでみんな家に退避。チャールズはプールの縁にいます。今は他にはヴィックだけ。チャールズを見つめ、そっと近寄り…。

ヴィックが家の中に戻り、そう言えばチャールズがいないという話になり、メリンダが外に目を移すと悲鳴をあげます。

暗闇のプールに無惨に浮かんでいるのは、チャールズの身体で…。

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歪な共生関係にある2人

最初に書いておくと、私はこの『底知れぬ愛の闇』の原作である“パトリシア・ハイスミス”の「水の墓碑銘」を読んだことがありません(いつか読まないと…また読まないといけない本のリストが増える…)。なので原作がどういう文脈を持ち、映画ではそれがどう映像化されたのかとか、そういう見方はできません。

あくまで私の映画だけの鑑賞体験による感想です。

ヴィックとメリンダの2人が物語の主軸にありますが、観客の目に真っ先に刻まれるのはメリンダではないでしょうか。

夫がいるのに隠しもせずに他の男と関係を持つメリンダ。その男がヴィックの仕業で消えていくのですが、それでも次から次への他の男に移っていく。キャラクターとしてはニンフォマニア的な女性像であり、男性と性的関係を持つこと意外に興味がなさそうな快楽主義者です。

このメリンダはなかなかに異質な人だと思ってしまうところですが、それ以上に実は静かに異質さを放っているのがヴィックのほうで…

そもそもヴィックは富裕層で、作中で全然働いている描写がないので、おそらく汗水流さなくてもカネがわんさか入ってくるくらいには裕福なんだと思います。作中では軍事ドローンのICチップだかで儲けているなんて話もありますけど、あまりテック業界の人っぽくなかったなぁ…。ともかくヴィックに手に入らないものはないはずです。

しかし、ヴィックは自由奔放に快楽を求めるメリンダを見ているだけです。いや、時々少し反発的な意思を表明するのですが、それでも強くでることはありません。ヴィックにとってメリンダだけはコントロールできない存在。

同時にヴィックはそんなメリンダを観察することにもしかしたら一定の満足があるのかもしれない。そういう人もいると思いますよ。不倫をする妻を眺めるのが好き、とか。権力を持っているヴィックであればメリンダを切り捨てることもできますからね。そうしないのは意図する範囲なのでしょう。

そう考えるとヴィックとメリンダは夫婦として亀裂が入っているように見えて、実のところは歪な共生関係を築いていると言えるのかも。メリンダにとってはヴィックは男を葬っていくけどそのおかげで次の男に移るきっかけができる。ヴィックは男を貪るたびにエロティシズムに磨きがかかるメリンダを眺めていられる。まるで飼育されるカタツムリのように(ちなみにカタツムリは原作者の“パトリシア・ハイスミス”が好きな生き物として有名)。

ラストはメリンダがヴィックの行為を知ります。そしてこの「見る見られる」の関係が逆転し始める。今度は彼女の方が観察者側としてヴィックを眺める。

刺激的な映像も多いサイコロジカル官能スリラーではありますけど、中身は人間関係の反転というよくあるテーマでした。

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インモラルな夫婦モノの難しさ

インモラルな夫婦モノとして誘引力のある映画だったと思いますが、『底知れぬ愛の闇』全体としては繊細さには欠けるのがあれかなとは個人的には感じる弱点です。

やっぱり主演俳優が際立ちすぎかもしれません。

“アナ・デ・アルマス”はもう彼女のフィルモグラフィーで散々見たようなセクシー美女タイプの役回りであり、「またこれか…」という気持ちに…。私は『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』みたいに俳優のステレオタイプをあえてぶち壊している感じの方が好きかな…。

“ベン・アフレック”の方もいつもの“ベン・アフレック”ですよね。ぶっきらぼうな表情で淡々とヤバめのことに手を染めていくような…。『ザ・コンサルタント』ほど殺しがスマートでもなく慣れていないけど…。“ベン・アフレック”は『僕を育ててくれたテンダー・バー』みたいな優しいオジサン役とか、『ザ・ウェイバック』みたいに人間味ある葛藤をしている方がいい気がする…。

演出自体はさすがに“エイドリアン・ライン”監督なだけあってスリルがあるのですが、こういう人間関係を安易に禁断のエロティック・スリラーというジャンルで消費していい時代でもない気もするし…。『危険な情事』だって精神病質者としての描写に疑問が呈されていましたけど、それと比べて本作は緩和されたとは言え、今やポリアモリーとかの平等も叫ばれる社会なんですよ。『底知れぬ愛の闇』には『マルコム&マリー』“サム・レヴィンソン”も脚本に関わっているようですが、これらエロティック描写セットの夫婦ドラマは無邪気にジャンル化しづらい時代感覚に突入してきているのかもしれないですね。

私が『底知れぬ愛の闇』で最終的に驚くのは、この映画で演じた後に“ベン・アフレック”と“アナ・デ・アルマス”は付き合うことにしたの!?という衝撃ですけどね。なんでこんなギスギスした関係を演じておいてプライベートで恋愛関係になれるのか…。しかも、リアルでは“ベン・アフレック”の方がひっきりなしに女性関係の移り変えが早いようだけど…。個人の自由ではあるし、いいんですが、これも役者の凄さなのか…。

『底知れぬ愛の闇』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 43% Audience 64%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios, Regency Enterprises

以上、『底知れぬ愛の闇』の感想でした。

Deep Water (2022) [Japanese Review] 『底知れぬ愛の闇』考察・評価レビュー