感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『レディ・バード』感想(ネタバレ)…隣人を愛する前に

レディ・バード

隣人を愛する前に…映画『レディ・バード』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Lady Bird
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2018年6月1日
監督:グレタ・ガーウィグ

レディ・バード

れでぃばーど
レディ・バード

『レディ・バード』あらすじ

カリフォルニア州のサクラメント。閉塞感漂う片田舎の町でカトリック系の女子高に通い、自らを「レディ・バード」と呼ぶ17歳のクリスティン。学校では退屈な授業にうんざりし、家では厳しい母に嫌気を感じながら、高校生活最後の年を迎え、友人やボーイフレンド、家族、そして自分の将来について悩み、揺れ動いていく。

『レディ・バード』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

青春女子映画の傑作

「Me too」や「Time’s Up」運動など声を上げる女性たちで大きく揺れた2017年の米アカデミー賞にて、作品賞にノミネートされた9つの作品のうち、唯一の女性監督作品として注目された映画。

それが本作『レディ・バード』です。

しかし、本作はそんな女性躍進など昨今のムーブメントで下駄を履かせる必要もなく、作品自体だけでじゅうぶん名作と評価されるに値するパワーのある作品だということは言っておきましょう。そもそも本作は最近のアカデミー賞ノミネート作では珍しく、政治要素もマイノリティ視点もない、純粋な青春物語になっています。それでも批評家が絶賛しているというのがまたこの作品の凄さを示しているのではないでしょうか。

監督は、痛々しくもたくましい女性の生き様を軽やかに描いたノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』で脚本と主演をつとめた“グレタ・ガーウィグ”。まだ若干30代前半の彼女ですが、『レディ・バード』で初単独監督作としてデビューし、いきなり女性監督のトップクリエイターの仲間入りを果たしてしまいました。

本作自体、“グレタ・ガーウィグ”の出身地でもあるカリフォルニア州サクラメントを舞台に、自伝的要素を盛り込みながら描いた作品となっているようで、自分のイタイ過去をそのまま恥ずかしげもなく映像化しました!というテンション。本作の主人公は田舎であるサクラメントから飛び出してニューヨークに行きたいと悶々と考えている女子高生。『フランシス・ハ』の主人公がサクラメント出身でニューヨークに出てきた女性ということを考えると、実質『フランシス・ハ』の前日譚が『レディ・バード』だと言えなくもないですね。

こういうハイスクールの女子を主人公にしたアメリカのティーン映画は無数にあって、最近でもヘイリー・スタインフェルド主演の『スウィート17モンスター』が高評価を得ており、こちらはスマホ・コミュニケーションといういかにもイマドキな悩みが展開されていました。

一方の本作は、時代設定が“グレタ・ガーウィグ”の自伝なので2002年ぐらいになっており、スマホに夢中な若者はいません。でもちゃんと現代の客層にも支持されるあたり、いつの時代でも青春のモヤモヤは共通して理解されるものなのですね。

本作の主演は、まだ20代なのに、『ブルックリン』などですっかり主演女優賞の常連に上り詰めた名若手女優“シアーシャ・ローナン”

今作ではお得意のアイルランド訛りを封印し、アメリカの田舎で突っ走る暴走女子を熱演しています。毎度のことながら独特のオーラを放っている女優だなと思います。今回もキュートな姿が全開です。

重苦しいシリアスな映画には疲れたという人にこそ見てほしい一作ですね。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『レディ・バード』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

こんな場所はもう嫌だ

『レディ・バード』の舞台となっているのは先述したとおり、アメリカ西岸に位置するカリフォルニア州のサクラメントという街です。

劇中でもその風景や街並みはたくさん映っていました。それらを見る限り、“日本人感覚的には”とてもオシャレで趣のある地域に思えます。実際、観光地として旅行サイトなどでは紹介されてもいます。

しかし、本作の主人公である自称レディ・バードことクリスティンにとって、この場所は小鳥を閉じ込める鳥籠と同じ。それは「こんな田舎臭いところのどこがいいの!」状態。彼女はこの街の表面的な小綺麗さからはわからない、内面的な閉塞感を地元民としてちゃんと感じとっています。

そのサクラメントの“閉じた世界”を象徴する存在として今作で登場するのが宗教です。そもそも「サクラメント」とは元はキリスト教における神とのつながりを示す儀式的な行為(洗礼とか聖体とか)を指すもの。土地柄なのかはわかりませんが、クリスティンの通う高校もカトリック系であり、周りはカトリックの影響が非常に強いようでした。日本だとカトリック系の学校と聞くと「お上品」だとか「スマート」だとか格上なイメージがあったりもしますが、アメリカでは古臭さを示す典型的パターンでしかありません。

劇中にもあった、“中絶はダメですよ”教育とか、もういかにもという感じ。なんというか自分の頭の中にあるアメリカのカトリック系学校が本当にそのまま映像に出てきたようでした。

ただ、本作はクリスティンの物語ですが、決して彼女だけが鬱屈を抱えているわけではないはずです。本作ではあまりクリスティン周辺以外の生徒たちが描かれないので詳細はわからないのですが、例えばクリスティン憧れの女子でおそらくスクールカースト的に上位にいるであろうジェンナでさえ、そこまで見た目的にも性格的にも平均から外れてはいないですよね。また、クリスティンが付き合うもゲイだと判明するダニーが「このことは話さないでくれ」と感情を露わにするシーンからも、他の生徒も息苦しさは大なり小なり感じているんだろうなと察することができます。

そんな画一的な生徒たちに囲まれているからこそ、余計にクリスティンはイライラを募らせ、尖っていくわけで…。

そういう意味では、今作はアメリカ青春学園モノでは定番のスクールカーストを描いたものというよりは、学校や地域全体が“下”にいることの辛さを描いた作品なのかもしれません。

スポンサーリンク

スーパーバッド 処女ウォーズ

事前の想像では、『レディ・バード』はティーン女子の青春ムービーだと思っていました。その予想はおおむね当たっています。

クリスティンの痛々しい青春が非常にテンポよく描かれ、初キス、初デート、初セックス、初失恋、次の恋…と間髪入れずに展開するのであっという間。早すぎて4コマ漫画みたいなオチの付け方でした。イベント発生ごとに一喜一憂するさまは、他人事としては愉快。18歳になってドヤ顔でアダルト雑誌を買っているシーンが個人的には好き。

ああいう姿を見ていると、クリスティンもサクラメントの社会に反発しているわりには、カトリック系というゆりかごで育ったことのせいなのか、妙に世間知らずだったりして可笑しいです(まあ、ティーンなんてみんなそうだと言えますけど)。

そのクリスティンが最初の恋人ダニーのゲイ・ショックから立ち直って、次に付き合ったミステリアスなアンニュイ・イケメンのカイル。演じている“ティモシー・シャラメ”は『君の名前で僕を呼んで』とはガラッと変わって、今作はロマンチックさも欠片もないやつでしたが、相変わらず少女漫画から飛び出してきたようなルックスでズルい…。

しかし、カイルと一緒にいても、大切なものを失っている気がすると気づいたクリスティンは、親友の女友達ジュリーのもとへ向かい、一緒にプロムへ。ちゃっかり“ウーマンス”要素を入れてました。

このへんの流れから、なんか『スーパーバッド 童貞ウォーズ』の女性版みたいだなと思いましたが、なんとジュリーを演じた“ビーニー・フェルドスタイン”はジョナ・ヒルの妹だったんですね。どうりで同じ空気感があるわけだ。

ラスト、ニューヨークに行って、新天地で今度こそ恋が根を張るかと思いきやの嘔吐。自分の痛々しさは地元のせいじゃないことに気づいたクリスティン。やっと大人の一歩を踏み出せたのかな。

スポンサーリンク

「私の名前はクリスティン」

『レディ・バード』は『6才のボクが、大人になるまで。』の女性版だと初期に監督が説明していたらしく、そのとおり、家族、とくに母と娘の関係性を描く映画でもありました。なのでただのティーン女子の青春ムービー以上に深みがあります。

クリスティンの母は、職業柄きっとあのサクラメントという街の閉塞性に疲れていく人たちをたくさん見てきたはず。そして、もちろん自分自身も。だからこそ、映画の冒頭で、ジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」の朗読テープを聴いて、涙している理由も察することができます。「怒りの葡萄」は、世界大恐慌直後のアメリカが混乱に包まれた1930年代に、オクラホマ州から新天地を求めてカリフォルニアを目指す農家一族を描いた作品。つまり今の土地から脱しようというものであり、結局、クリスティンも母も同じ想いは共有していたということで…。

一見するとティーン女子の青春痛快ムービーになりそうなところを、こういう多層的な人生感をさりげなく重ねていく上手さがあるからこそ、本作の“グレタ・ガーウィグ”監督の評価の高さにつながったのでしょう。

破天荒な主人公でしたが、最後はやっぱりアメリカ田舎映画らしい哀愁ある着地でした。

『レディ・バード』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 99% Audience 79%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

(C)2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24 レディバード

以上、『レディ・バード』の感想でした。

Lady Bird (2017) [Japanese Review] 『レディ・バード』考察・評価レビュー