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『ミッドサマー Midsommar』感想(ネタバレ)…私はアリ・アスターに恋してる

ミッドサマー

世界観を大満喫…映画『ミッドサマー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Midsommar
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年2月21日
監督:アリ・アスター
性描写

ミッドサマー

みっどさまー
ミッドサマー

『ミッドサマー』あらすじ

不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。ちょうど太陽が沈むことがない時期だったその村は、美しい花々が咲き誇り、優しい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園のように思えたが…。

『ミッドサマー』感想(ネタバレなし)

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まさかの失恋ムービー?

私は“アリ・アスター”監督に恋をしているのかもしれない(唐突な気持ち悪い文章)。

でも冗談抜きで“アリ・アスター”監督の長編映画デビュー作『ヘレディタリー 継承』を観たとき、これを生み出した人間に畏敬の念のようなものすら感じてしまいました。普段からホラー映画はたくさん観ていますし、ジャンルとしても好きですけど、ここまで特別な感情を抱いたのは初めてかも。何なんだろう、この気持ち…。私の、私の何か、ヴァージンを奪われた…(えっ)。

それは私だけではなかったようで、『ヘレディタリー 継承』公開後は世界でも日本でもザワザワとした反応がマニアの中では拡散。一種のカルト映画、そしてカルト監督の誕生によって、新しい新興宗教が誕生したような感覚です。

私もその衝撃的な出会い以降、劇場鑑賞のみならず何度も鑑賞して自分なりにこの感覚を分析しようと試みたのですけど、現状、その答えは出ていない…。研究するには私のスキルがあらゆる意味で追いついていない。とんでもない存在だ…。

『ヘレディタリー 継承』を観ていない、“アリ・アスター”という人の形をした異界生物の生み出す映像を拝見していない人のために、作家性は語れないけど、その作品性を私なりに言っておくと…。

まずさっきからホラーと言っていますが、“アリ・アスター”監督の作品は、いわゆる『リング』や『死霊館』のようなベタな心霊ホラーではないですし、『ドント・ブリーズ』や『クワイエット・プレイス』のような最近流行りのスタイリッシュなスリラーでもないですし、『IT』のようなエンタメ性も内包したお化け屋敷系でもないです。どちらかと言えば『ローズマリーの赤ちゃん』や『エクソシスト』のような「オカルト系」。しかし、あくまで表面上のルックはそうなのですが、最終的な語り口は、こう、何とも言えない感じで…。

推理ジャンル用語で「ホワットダニット」という言葉がありますが、まさにその感じに近いです。「一体これは何を見せられているんだ…!?」と観客は困惑の底なし沼に投げ込まれ、最後に「ああ、そういうことね!」と自分なりの理解を見つけられた者だけがその沼から救われる。それができなかったらそのまま沈みます。

つまりすごく万人ウケしづらい映画を作る人です(だからカルト化するんですが)。「なんだか話題らしいじゃん…」と迂闊に手を伸ばすと「え、これの何がいいの? 全然怖くもない、というか意味不明なんだけど…」となる可能性も大いにあります。そういう監督なんです、“アリ・アスター”は(恋人を自慢するような口調)。

そんな“アリ・アスター”監督の最新作が公開されれば私は観ないわけがない。むしろ鑑賞するというか、儀式に参加する…という認識で映画を観ますよ。

その“アリ・アスター”監督長編作の第2弾『ミッドサマー』がこれまた衝撃だった…。『ヘレディタリー 継承』級の映画を作ったら、次は必然的に厳しいんじゃないかと思いましたけど、この監督はそんな凡人ではやっぱりありませんでした。たぶん人間じゃないです、この人。

この『ミッドサマー』がまた『ヘレディタリー 継承』以上に形容しづらい作品になっていて…。ひとつもネタバレしたくないので、どうしたものか…。

監督は「僕はこの映画をホラーだとは一切思っていない」とキッパリ発言しており、私も全くそのとおりだなと鑑賞後に思いました。本作は恋愛映画です。ええ、恋愛です。だからこの感想ブログの記事のカテゴリも「ロマンス」にしましたし…。

なんでも監督いわく、当時、付き合っていた彼女と別れたばかりのときにアイディアを考えたらしく、確かに失恋ムービーになっているじゃありませんか。

なので本作を観るならば、ぜひとも「失恋したばかりの人」は必見です。もしくは「人生一生、失恋している人」とかも。もし今恋人と幸せの真っ最中だという人は、別れてください(酷すぎる)。

なんか騙そうとしているような紹介になってしまいましたが、正直な感想に基づく本音です。まあ、グロ描写やセクシャル描写も前作以上に突発的にぶっこまれるんですが…。でも怖がりにいくような映画ではないと私は思っています。

あ、俳優の話を何もしていない。主演は『ファイティング・ファミリー』や『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』と近年大活躍な“フローレンス・ピュー”。彼女がひたすらに堪能できる映画と言っても過言じゃないです。

ということで『ミッドサマー』を観るぞ!という人は、自分の中の失恋感情を最大限に増幅させたうえで鑑賞に臨んでみてください。

ウェルカム! “アリ・アスター”の世界へようこそ!

オススメ度のチェック

ひとり ◎(信者になるか、ドン引きか)
友人 ◎(布教活動でも良し)
恋人 ◎(これで失恋する準備は万端)
キッズ ✖(小さい子はちょっと…)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ミッドサマー』感想(ネタバレあり)

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スウェーデンは良いところです

ダニー・アルドールは心配そうに涙ぐんでいました。から「全てが真っ暗、さようなら」という意味深なメールが届いて以来、一切の連絡もつかず、不安で落ち着きません。両親の家にも電話しますが、夜中だからか、反応は無し。恋人のクリスチャンにも電話し不安を吐露しますが、彼は「大丈夫だよ、構ってほしいだけだろ、相手すればするほど…」とたいしたことはないと言います。そこへ非通知の電話がかかってきて…。

クリスチャンは大学の男友達仲間であるペレ、マーク、ジョシュとつるんでいました。どうやらクリスチャンはダニーと別れたいらしく、そのことも友人には筒抜けですが、破局一歩手前で止まっています。ひとしきりダニーの愚痴をこぼす友人をよそに、またダニーから電話がかかってきてうんざりするも電話に出るクリスチャン。しかし、電話先のダニーの様子は明らかにおかしく、錯乱状態です。

ダニーの両親の家で遺体が見つかりました。車の排気ガスによる一酸化炭素中毒らしく、老夫婦はベッドで死亡。そしてその老夫婦を殺害したと思われる娘の女も自ら死を選んでおり…。

両親と妹の突然の死を知り、言葉にならない慟哭をあげて崩れるダニー。彼女のそばにいるクリスチャン。外は雪が降り続いています。

そんな悲劇の後、ダニーはクリスチャンたちがスウェーデンの夏至祭に行く計画を立てていることを偶然に知ります。そしてクリスチャンは思わず「一緒に来る?」と誘ってしまいます。

その場所はペレの故郷らしく、小さなコミューンで珍しい祝祭を開く貴重な時期なのだとか。まだ悲劇から立ち直れ切れていないダニーは、とりあえずついていくことにしました。

飛行機に乗り、車に乗り、たどり着いたのは森と草原しかないスウェーデンの田舎。途中でペレの友人であるイングマールと合流し、そこで同じく観光に来たらしいサイモンコニーという婚約した二人とも知り合います。少しハッパを吸って草原でボーっとした後、今度は徒歩で森を進みます。

そして到着。そこは白い衣装の男女がたくさんいる牧歌的な集落「ハルガ」で、90年に1度の夏至祭を祝うべく準備が行われていました。温かい歓迎を受けたダニーたちは、自分たちが知らない異文化に興味津々。集落のあちこちにある奇妙なモノにも見惚れつつ、1日を過ごします。

白夜なので日が沈まず明るいままですが、寝る時間に。宿泊場所は神秘的な絵が壁と天井に書かれた建物で、そこに仕切りもなくベッドが並ぶのみ。翌朝、いよ

いよ祝祭の初日が始まりました。外で長い机の席につく一同に混ざって座っていると、前にいるひときわ老体な男女が歌いだし、今度は椅子ごと運ばれていきます。そしてダニーたちや他の集落の人たちが下から見守る中、崖の上に立つ老男女。手にナイフをあてて、流れる血を石板のようなものにこすりつけます。

すると信じられないことにひとりの老女が崖から身を投げます。当然、見るも無残な死体が崖の下に転がることに。ざわつくダニーたち。儀式の一部だと説明されるも理解不能です。さらに老男まで続いて身投げ。今度は足から落ちたため、脚部はズタズタに折れましたが、息はあります。しかし、おもむろにハンマーを持った白衣装の人が近寄り、それを老男の頭部に振り下ろし…。グチャリと潰れる頭。

さあ、祭りは始まったばかり…。🌸🌼🌻🌹💐

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不安を煽る天才がまたもや

『ミッドサマー』はジャンル的に無理やりカテゴライズしてしまえば、『ウィッカーマン』や『グリーン・インフェルノ』のような、現代人には理解不能な独自の風習や文化の狂気を身をもって体験してしまう「ペイガニズム映画」です。まあ、キワモノなジャンルとして一部のマニアに喜ばれる、昔からあるタイプのあれですね。

でもこの『ミッドサマー』は間違いなく純度100%で“アリ・アスター”監督の色に染まりきっており、単純なイロモノ作品で終わらない存在感を示していると思います。なので一様に「怖い!」とか「グロい!」とかとってつけた陳腐な言葉で作品を形容するのはふさわしくないかな…と。

とは言っても前述したように「ホワットダニット」ですからね。“一体これは何を見せられているんだ”状態がしばらく(というかほぼ最後まで)続きます。

まず序盤はジャブです。“アリ・アスター”監督の観客を不快にさせる演出の乱れ撃ち。『ヘレディタリー 継承』のときもオープニングから「え!」となるような意表を突く理解不能な演出が飛び込んでいて、全く目を離せなかったですが、今回も健在です。

冒頭、謎の歌で始まり、それがいきなり電話呼び出し音でブチっと途切れるという、嫌がらせでしかないスタート。そこからかなり精神的に錯乱している状態である主人公のダニーが映り続けるのですが、この主人公の不安定さが余計に観客の不安を増長させます。薬も飲んでいますし、もしかしたらこの主人公の全部妄想なんじゃないか…そんな気にさせるほどの信用ならなさです。

そこからの何の事情もわからないままの悲劇の発生。悲しみに打ちひしがれるダニーを通り過ぎて窓の雪景色にカメラはズームし、そこで小さい字でオープニングクレジットとタイトルが表示。もう私はこのへんで100点満点中190点くらいは叩き出していましたよ、ええ。

この窓を不自然なくらい映すというのはこれ以外にも頻出し、スウェーデンへ向かう移動中のダニーの飛行機や車でも窓がわざとらしく映るんですね。他にも道路を走る車の映像がぐるんと逆さまになったり、スクリーンを直視していると酔いそうな演出も挟まれます。

目的のコミューン周辺に到着するとダニーたちはハッパですっかりボーっとすることになり、さらに観客としては主観が信用できない感じに。

ダニーは自分が植物と一体化するような幻覚や、妹や親の気配を感じているような場面が挟まれ…。ちなみに本作はこんなふうにこっそり背景に何かが映っているという仕掛けがとくに強調されることなく挿入されているシーンがあちこちにあります(海外版ディスクで一時停止して確認したら、“え、ここも!”みたいな隠れポイントがあったりしました)。

とにかく前半だけでも観客の不安度を最高潮に引き上げる。なんですかね、たぶん“アリ・アスター”監督はその才能を不安を煽って儲ける詐欺とかに使ったら凄い荒稼ぎできてしまうかもしれない…。

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これでいいのか、スウェーデン人

そんな不安MAXでいよいよコミューンに到着。そこは白装束の人たちが“キャッキャ、ウフフ”して踊ったり食べたり歌ったりしているという、まあ、いわゆる西洋の人が思い浮かべそうな「天国」そのものな場所
でも観客としてはあれだけ不安を増長させられていますから、その天国の村みたいな場所も逆に胡散臭さ満載に見えるわけで…。

しかも、やっぱりところどころに不吉さを感じるアレコレが平然と映ります。怪しいにもほどがある三角の黄色い建物とか、檻に入ったクマとか、女性器が描かれた絵とか…。あと村民が何を喋っているのかさっぱりわからないのもどことなく嫌ですし、そんな中で「ホォハ!」というやたら気合入った掛け声のようなものが突発的に発せられるのもわけわからん状態に拍車をかけるし…。

不吉さを描くならば定番は暗いシーンを多めにするものですが、『ミッドサマー』は白夜という設定も巧みに活かして180度アプローチを変えてきています。ここまで光度の高い、“明るすぎる不吉さ”というのも珍しいですね。

“アリ・アスター”監督いわく本作のビジュアルは『黒水仙(Black Narcissus)』(1947年)、ロマン・ポランスキー監督の『マクベス』(1971年)や『テス』(1979年)を参照にしているそうです。前作といい、ロマン・ポランスキーを継承しまくっているなぁ…。

例の飛び降りイベント後に人をまさに天国送りしていることが判明して以降も、不吉さを醸し出す手は緩めません。足に鎖をつけてお腹に石を乗せて今にも水辺に投げ込まれそうになっている子のシーンとかの悪趣味さなんてもうね。あとクリスチャンの食べたタルトに毛が入っていて「陰毛か?」と疑念を持つあたりとか、彼の飲み物だけ妙に赤い(月経血を思わせる)とか。ちょっと自分でも嫌になるくらいの不信感を煽られてしまい、確かにあの場にいるのも嫌悪する気持ちもわかる…。

もちろん本作で描かれるのは一応スウェーデンの夏至祭という実際にある文化をベースにしてはいるのですけど。なお、邦題は「ミッドサマー」ですが原題は「Midsommar」(意味は夏至祭)なので、「ミッドソマー」もしくは正しくは「ミッドソンマル」と綴るべきですけどね。

それでもこうもやりたい放題で外国人にアレンジされちゃって、さらにそれを許してくれるどころか、自分で映画化を持ちかけちゃうスウェーデン人の狂った、あ、失礼、度量の広い民族性。

“アリ・アスター”監督も恐ろしいのですけど、スウェーデン人も怖いよ…(それが結論でいいのか)。

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古いモノを燃やし尽くした先に…

そんなこんなで『ミッドサマー』の狂気を語ってきましたけど、ここからは少し真面目に(いや、今までも真面目な感想だったけど)。

『ヘレディタリー 継承』は完全に機能していない“家族”の歪さが主題になっていましたが、この『ミッドサマー』は完全に機能していない“恋人”の歪さとなっています。

ダニーはクリスチャンと恋人関係にありますが、もうほとんど破局も同然。それでもカタチだけは保っている、そんなカップル。こういう関係性、ありがちですよね…。

あのすっかりダニーの誕生日を失念し、慌てて小さいケーキで祝うクリスチャンのシーンで、全然ライターでろうそくに火を付けられないのが、この二人の残念さを象徴していてなんとも。他にも体裁として「俺はカノジョのことを想ってます」風に振る舞う一連のシーンの数々も痛々しい…。

ダニーはダニーで家族の不幸への自責の念に押しつぶされそうでそれどころではありません。この家族の悲劇が自分のせいではないか…と苦しむ主人公という立ち位置もやっぱり『ヘレディタリー 継承』と同じで、きっと“アリ・アスター”監督のクリエイティブの定番なんでしょうね。

また、一部では本作を「フェミニズム映画じゃないか!」と評する声もあり、監督にそんな明確な意図はないにせよ、それも確かに頷ける構成ではあります。

クリスチャンら男グループは冒頭でも描かれているとおり、明らかにダニーを「うざい女」程度にしか思っていません。感情的で不安定でヤバい女だと。でもいざダニーを目の前にすると一応は表面的な歓迎ムードで仲間に入れる。この上から目線な「弱い女を迎え入れてやっている俺ら」(そして“そんな俺らは大人だ”と調子に乗っている)という力関係の構図。まあ、世の中、普通にありますよね。

コミューンに宿泊すると、それまでまとまっていた男グループに綻びが生じ始めます。クリスチャンとジョシュはこの村の風習を論文ネタにすることに決め、キャリアをめぐってのマウントの取り合いが勃発。一方の学問に全然興味なさそうなマークは無神経さで周囲を愚弄し、ひとり欲望のことしか考えていません

そんな破綻してきた男グループのあっけない連帯をよそに、ダニーは自分の居場所を見つけ始めます。例の“最後まで踊っていられたら勝ち”なダンスによって、クイーンとなったダニーはあれよあれよという間に高みへ。

対するクリスチャンは男仲間が行方不明になったことでひとり気まずそうに席につき、終盤は半ば儀式的な性行為へと。ここは解釈的には“男性へのレイプ”と考えてもいいのかな。まさに彼の男らしさが蹂躙されます。そして最後は…。あの全身お花だらけのダニーと、全身クマのクリスチャンの対比となるビジュアルデザインが本当に私は大大大好きですね。文字どおりの“花嫁”と、表面上の猛獣というアートなのか、キッチュなのか、さっぱりな感じがね(しかもクマ製作過程をちゃっかり見せているのがいい)。声を上げる村の者たちの笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、さっぱりな反応。炎上して倒壊する供物としての“過去の存在”。そこで笑みを浮かべるダニーは、克服のすえに新しい幸せを勝ち取ったのか、それとも狂気に溺れただけなのか

少なくとも私は“アリ・アスター”監督作品があるかぎり、どんな悲劇も乗り越えられる気がしています。もう何も怖くない!

『ミッドサマー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 63%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 10/10 ★★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

以上、『ミッドサマー』の感想でした。

Midsommar (2019) [Japanese Review] 『ミッドサマー』考察・評価レビュー