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『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』感想(ネタバレ)…ゲイ・カウボーイの歴史の通過点

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ

ゲイ・カウボーイの歴史の通過点…映画『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Extrana forma de vida(Strange Way of Life)
製作国:スペイン・フランス(2023年)
日本公開日:2024年7月12日
監督:ペドロ・アルモドバル
恋愛描写
ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ

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『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』のポスター。2人の男が銃を構える正面姿を映したデザイン。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』物語 簡単紹介

1910年。シルバは旧友のジェイクと25年ぶりに再会する。2人は若い頃に雇われガンマンとして働き、生活を共にしていた。それだけでなく、互いを信頼し合い愛していた。再び顔を見合わせた2人は懐かしい記憶を蘇らせながら、会話に花を咲かせ、酒を酌み交わす。そして、愛が消え失せていないことを確認する。しかし、翌朝、2人の間にある溝もまた浮かび上がり、もどかしい感情が交錯する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の感想です。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』感想(ネタバレなし)

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西部開拓時代はゲイ開拓時代でもある

混沌を極める2024年のアメリカ大統領選。2期目で大統領の座に返り咲きたくてたまらないドナルド・トランプは「アジェンダ47」というマニフェストを公表しており、それは非常に反LGBTQな内容であることが指摘されていますLGBTQ Nation

「(未成年者に対して行われることはほとんどないにもかかわらず)性別適合手術を”児童性的切除”と勝手に呼称してそれを禁止する連邦法を可決する」「出生時に割り当てられた”男性”と”女性”の2つだけを唯一の性別として政府認定する」「LGBTQを”ジェンダーイデオロギー”と勝手に呼称してそれを教育の場で教えることを禁止する」「スポーツの女性の部門から典型的ではない女性(トランスジェンダーやインターセックス)を排除する」など、もう何度も聞いた中身のコピペです。

ドナルド・トランプ陣営はずっと「アメリカを再び偉大に」というフレーズを掲げてきましたが、この施策が仮に実現したとしてそのアメリカは何がどう偉大なのでしょうか。

MAGA(トランプ支持者)には都合の悪い事実ですが、アメリカはその原点である西部開拓時代の頃から、性的規範から逃れようとしてきた人々が存在していました。紛れもなくこれはアメリカの歴史です。歴史家の”ピーター・ボーグ”著の『Re-Dressing America’s Frontier Past』や”クリス・パッカード”著の『Queer Cowboys』には、その詳細が解説されています。

トランプ陣営はこの歴史を学校で教えさせたくないようですけども、西部開拓時代はゲイ開拓時代でもあったわけです。

当然、それを映し出す表象もでてきても何もおかしいことではありません。同性愛者のカウボーイが登場するなんてポリコレの押し付けだ」なんて戯言です。歴史上に居たのですから。

今回紹介する作品は、ゲイ・カウボーイ(クィア・カウボーイ)を描く代表作として今後も挙げられる一作になるでしょう。

それが本作『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』

本作は西部開拓時代の過去を刻んで年をとった2人の中年男性が、1910年にまた出会い、愛を交えていく…という、ゲイ・ロマンスのストーリーです。

約30分の短編なのですけども、本作が話題となったのはやはり監督があの世界的に有名な“ペドロ・アルモドバル”で、さらに2人の大物ハリウッド俳優を起用していることが大きいです。

スペインを代表する巨匠である“ペドロ・アルモドバル”監督は、近年も『ペイン・アンド・グローリー』(2019年)、『パラレル・マザーズ』(2021年)と作家性たっぷりの良作を届けてくれています。

“ペドロ・アルモドバル”監督はオープンリーなゲイとして公にしており、フィルモグラフィーでもクィア表象が人間ドラマに深みを与えていました。『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』はまさに“ペドロ・アルモドバル”監督が得意そうですが、アメリカ西部劇に手をだすのは新鮮なところ。

主演を務めるのは、『レイモンド&レイ』『終わらない週末』など多彩な映画で名演をみせ、最近は『Wildcat』で監督もやってみせた“イーサン・ホーク”。その隣に並ぶのは、『マッシブ・タレント』『グラディエーターII』など続々と出演を増やし、ドラマ『THE LAST OF US』でも高い評価を受けたばかりの“ペドロ・パスカル”。この2人が揃うというだけでも見たくなるものです。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』は企画の出発点として、“イヴ・サンローラン”との共同制作で始まったそうで、本作の衣装も“イヴ・サンローラン”のチームが手がけています。なので時代考証はさておき、オシャレなファッションが目につくのですけど、そんなにビジュアルありきで押し出されているわけでもないです。

後半の感想は、『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』を基軸に、ゲイ・カウボーイの表象の歴史を振り返りつつ、この作品に接続していこうと思います。

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『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』を観る前のQ&A

✔『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の見どころ
★2人の俳優の名演の絡み合い。
✔『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の欠点
☆短編なのでボリュームがもっと欲しくなる。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:監督のファンなら
友人 3.5:俳優好き同士で
恋人 3.5:同性ロマンスたっぷり
キッズ 3.0:大人のドラマです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

1910年。シルバという名の男は荒野を馬でずっと移動し、西部開拓地の小さな町にやって来ました。あてもなく旅しているわけではありません。この町で保安官となっているジェイクという男を訪ねるためでした。

シルバとジェイクは昔の若い頃はガンマンとして日々を共にし、そして愛し合っていました。しかし、別れて随分な年月が経ってしまいました。25年ぶりです。

保安官事務所にシルバが足を踏み入れると、ジェイクとすぐに目が合います。2人とも言葉は出てきませんが思わず笑みがこぼれます。ジェイクはおもむろに立ち上がり、客人を迎えるように丁寧に名前を呼びます。そして握手。シルバはスーツ姿で見違えるように立派になったジェイクを評します。

その後、ジェイクの家で夕食をごちそうになるシルバ。2人がこうして再会すればどうしたって昔を思い出します。若い頃を懐かしみ、飲み交わす2人。

性格は2人はかなり違います。シルバは快活で自由人です。ジェイクは真面目で律儀です。でも相性は良く、だからこそ今も愛を感じ取れました。

ベッドを前に立つシルバに、ジェイクはゆっくりと後ろから近づき、首元にキスをして…

朝、一夜を共にし、シルバは半裸で起きますが、ジェイクはベッドの上にはいません。すぐそばでジェイクは湯船に全身を沈めていました。体にタオルを巻いてあげるシルバ。2人は下を履き、身支度をします。

シルバはジェイクに「2人で牧場を経営する」という以前に提案した将来をまた口にします。ところがジェイクはどうも乗り気ではないようです。シルバの真剣な言葉も頑なに拒絶します。苛立ちながらジェイクは仕事の佇まいとなり、プライベートの空間から離れていきました。

実はジェイクはある事件の捜査を任されていました。その事件の容疑者がジョーという男でした。そしてこのジョーはシルバの息子であるというのが厄介でした。しばらく縁がないとは言え、関係性を否定はできません。

ジェイクはシルバがこの町にやって来たのも、自分に会うのではなく、ジョーの逃亡を手助けする気なのではないかと疑っていました。

夜は体を重ねるほどに熱い愛情を共有したにもかかわらず、今の2人は妥協も見いだせずに口論になり、ジェイクは思わず銃まで突きつけます。シルバはジョーを探しにひとりで出発してしまいました。

ジェイクはシルバの後を追い、2人はそれぞれで若い頃に初めて愛し合ったあの日を思い出しますが…。

この『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/08/05に更新されています。
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ゲイ・カウボーイ表象の祖

ここから『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』のネタバレありの感想本文です。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の本格的な感想の前に、ゲイ・カウボーイ(クィア・カウボーイ)の表象の歴史を簡単に整理しましょう。

男性同士のラブストーリーを描いたウェスタン映画と言えば、やはり真っ先に挙げられやすいのが2005年の『ブロークバック・マウンテン』。アカデミー賞の作品賞にノミネートされたこの映画はクィア映画が主流に躍り出る転換点になったという評価もありましたが、まあ、実際は異性愛規範の壁は分厚かったんじゃないかな…。でも男性同士の恋愛映画は何でも「なんちゃらなんちゃらの『ブロークバック・マウンテン』」と言ったり、ある種の象徴的一作になっていたのは間違いないでしょう。

その後に連なるクィア・カウボーイ映画の最新作となったのが2021年の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』。こちらもアカデミー賞の作品賞にノミネートでした。

こうやって稀にポンと現れる感じなので、ゲイ・カウボーイの表象なんで最近のことなんだと思ってしまうのも無理はないです。『ブロークバック・マウンテン』の公開時はアメリカの保守層から「これはアメリカ文化を愚弄している!」と激しいバッシングが沸き上がりました。

が、実はそうなんですか?…という話で…。

カウボーイ作品は昔からクィア・リーディングされる対象になっており、そこにゲイネスを見い出されてきました。

その原点とも言えるのが、1823~1841年に発表されたアメリカの作家”ジェイムズ・フェニモア・クーパー”による小説五部作『革脚絆物語(レザーストッキング物語)』です。この小説はウェスタンというジャンルのまさに先駆けのような作品でもあります。

『革脚絆物語(レザーストッキング物語)』の主人公はナッティ・バンポーといい、ガンマンの男ですが、相棒としてチンガチックという男が並びます。この2人は明確に恋愛関係にあると断言はできませんが、互いに関係を保つことを優先して一貫して女性を拒否し、寝食など生活全般を共有し、養子のように子どもを迎えることさえあります

後のカウボーイ・ヒーローに繋がるアメリカの文化のアイコンの祖となった作品内でさえも、しっかりクィアネスを感じ取れる…。

その理由は、やはり現実の西部開拓時代の男たちは男性だけのコミュニティで成り立っており、どうしたってそこにはゲイネスが浮き立ちやすかったからなのでしょう。

つまりゲイ・カウボーイ&ウェスタンの表象は200年の歴史ですよ…。

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休んで穏やかに生きたい

その約200年後の先に誕生したこの『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』。ゲイ・カウボーイ(クィア・カウボーイ)&ウェスタンの表象の連ねりとしてみるなら、どういう作品だったかと私なりに思うのは、「穏やかに吹っ切れた」作品だったな、と。そう感じました。

シルバとジェイクの2人の男性の再会。その久しぶりの顔合わせのシーンからして、2人はどれだけ想い合っていたかが伝わります。あの“イーサン・ホーク”と“ペドロ・パスカル”のスっとこぼれ出る自然な表情がいいですね。

そこからも2人の愛の確認が続きますが、ここも変に盛ることなく、2人だけの空間でじっくり交わされていく時間が愛おしさ満点です。

その後に亀裂が浮かび上がって離れ離れになりますけど、そこでも同じ回想を振り返っているシーンを挿入することで、この2人の愛は冷えておらず、疑心暗鬼と異性愛規範の抑圧だけがそれを阻害していることがサっと提示されて…。

最終的に一触即発を経験しつつも、2人は牧場で落ち着いて暮らすという人生をもう一度考えるように、理想の風景を映して映画は静かに幕を閉じます。

このウェスタンのジャンルはどうしてもその特性上、殺伐としているものですし、死に満ち溢れているものですが、本作はそれをやんわりと拒否しました。ただ男同士がのんびり支え合って暮らしているだけの、そういう人生があってもいいじゃないか…みたいに。

たぶん本作が長編映画だったらもっとギスギスしたシーンが増えてしまいそうですし、この30分くらいの短いボリュームのほうがちょうど良かったかもしれません。メンタル的にもこの程度なら見やすいです。

ゲイ・カウボーイ(クィア・カウボーイ)というのはこの時代における男らしさの規範から逸脱し、男らしさの神話に挑む立場にならざるを得ないのですけども、ずっとそんなものを背負わされるのはキツイですからね。たまには休みたいものです。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』は開拓をさらに広げてくれましたが、こうした保守的なジャンルであえてクィア表象を描くというのは本当に大切なことだと思いますのでね。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』は有名監督&俳優の組み合わせだったので、日本でも劇場公開される恵まれた作品になりましたけど、まだクィアな西部劇映画で未公開作があるので、そっちもなんとかお願いしたい…。

例えば、2020年の”アンナ・ケリガン”監督の『Cowboys』あるひとりの男が家庭に居場所を得られていないトランスジェンダーの幼い息子のために一緒にカナダを目指してモンタナの平原を馬で旅に出るという、現代西部劇です。あらすじを見るだけでも良い映画そうだなという気持ちになれる…。

これからもクィア・カウボーイが活気づいてくれることを期待しています。

『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)

作品ポスター・画像 (C)2024 El Deseo D.A. S.L.U. All Rights Reserved. ストレンジウェイオブライフ

以上、『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の感想でした。

Strange Way of Life (2023) [Japanese Review] 『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』考察・評価レビュー
#ペドロアルモドバル #イーサンホーク #ペドロパスカル #西部劇 #ゲイ