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『ノー・ウェイ・アウト』感想(ネタバレ)…Netflix;箱からそんなのが出てくるの!?

ノー・ウェイ・アウト

箱からそんなのが出てくるの!?…Netflix映画『ノー・ウェイ・アウト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:No One Gets Out Alive
製作国:イギリス(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:サンティアゴ・メンギーニ

ノー・ウェイ・アウト

のーうぇいあうと
ノー・ウェイ・アウト

『ノー・ウェイ・アウト』あらすじ

アメリカに不法移民として単身で渡ってきた女性は、アメリカンドリームとは程遠い貧相な生活を送るしかなく、すぐに現実を思い知らされた。ずっとモーテルで暮らしているわけにもいかないので、貸し部屋を探しているとちょうどいい安さの場所を発見する。そこはかなり古く内装もボロボロだったが、とりあえずは落ち着く。しかし、その場所にはおぞましい恐怖が潜んでおり、暮らす女性たちは箱の悪夢を見る。

『ノー・ウェイ・アウト』感想(ネタバレなし)

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箱は中が見えないと怖い

2021年9月29日、突然の「辞める!」宣言で始まった自民党総裁選の投開票が行われ、決選投票の結果、岸田文雄が新総裁に選出されました。まあ、でも国民は全く関与できない選挙なので、さっぱり蚊帳の外でしたけど…。国民には手も届かない投票箱…。

そんな自民党は「箱弁当」という言葉を使って一致団結を表すらしく、何でも毎週の定例会合で所属議員が揃って弁当を食べるからなのだそうですが、それで団結できる団結って何なんだろう…。

そう言えば今回の新総裁になった岸田文雄は、以前は質問や意見を募る目安箱「岸田BOX」をインターネット上に設けて少し話題になっていました。でもそれも結局どう社会に還元されるのか、またもわからない…。

いろいろな「箱」。箱が怖いのは中が見えないときです。何が入っているのか。秘密も恐怖も隠しておける。信用できない人の信用ならない箱は嫌なものですね。

今回紹介する映画はNetflixで自民党総裁選が行われた9月29日に独占配信された作品で、箱にまつわる海外のホラー映画です。それが本作『ノー・ウェイ・アウト』

本作はまず原作者について語りましょう。『ノー・ウェイ・アウト』は2014年に出版されたホラー小説「No One Gets Out Alive」を原作にしており、その作者は“アダム・ネヴィル”というイギリスのホラー作家。結構有名な方だそうで、執筆する本は軒並み賞を獲るほどには高評価。でも日本にはあんまりこういうホラー・ジャンルの本が邦訳されていない気がするので、そのへんの盛り上がりが伝わってきづらいですよね。

実はこの“アダム・ネヴィル”原作の映画はすでに他にもあって、同じくNetflixで2018年に『ザ・リチュアル いけにえの儀式』が映画化され配信されています。

『ノー・ウェイ・アウト』はそれに続く感じですね(ストーリーは繋がってないです)。Netflixは“アダム・ネヴィル”の小説をどんどん映画化するつもりなのかな。私は“アダム・ネヴィル”の作風をこの2本の映画でしか知らないので正直評価しづらいのですけど、なんとなくスティーヴン・キングを継承する作家なのかなとも思ったり。

で、この『ノー・ウェイ・アウト』の物語ですが、不法移民の女性がアメリカの地でなんとか居住先を見つけたものの、その部屋にはいわくつきの恐怖があって…という内容。それで「箱」がキーアイテムとして登場するのですが、その箱の中から出てくるのは…。これはきっと想像つかないと思います。もう想定の右斜め上の中身ですよ。そんなん入ってたんですか!…っていう。

『ノー・ウェイ・アウト』の監督は“サンティアゴ・メンギーニ”という人で、これまでは主に視覚効果を手がけていたクリエイターで、今作で長編映画監督デビューのようですね。

主人公を演じるのは日系アメリカ人コミュニティを襲う恐怖を描いたホラードラマシリーズ『ザ・テラー』のシーズン2で印象的な演技を見せ、ドラマ『トゥー・オールド・トゥー・ダイ・ヤング』でも活躍していた“クリスティーナ・ロドロ”。他の俳優陣は、ドラマ『オザークへようこそ』の“マーク・メンチャカ”、ドラマ『LUCIFER/ルシファー』の“デヴィッド・フィグリオーリ”、ドラマ『BOSCH/ボッシュ』の“デヴィッド・バレーラ”、俳優として初キャリアとなる“モロンケ・アキノラ”など。

ホラー映画だとどういうタイプの怖さなのか事前に気にする人も多いのですが、『ノー・ウェイ・アウト』は痛々しい系のショック演出ジャンプスケア系と、そしてアレですね。そのアレの部分は言わないでおこう…。でも同じ原作者の『ザ・リチュアル いけにえの儀式』を鑑賞済みなら勘が働くのでは?

『ノー・ウェイ・アウト』は家でじっくり配信鑑賞してみてください。85分なので観やすいです。

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『ノー・ウェイ・アウト』を観る前のQ&A

Q:『ノー・ウェイ・アウト』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年9月29日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ホラー映画好きなら
友人 3.5:暇つぶしに恐怖をつまむ
恋人 3.5:時間が空いているなら
キッズ 3.0:暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ノー・ウェイ・アウト』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):その家には過去がある

ある部屋にポツンと佇むひとりの女性。そのシモーナは電話をかけるも、不調なのか切れてしまい、しかも部屋は真っ暗に。何かの気配を感じ、恐る恐るあたりを警戒すると、突然何かに襲われ…。誰もいなくなった部屋に明かりがつき、標本でピン留めされていたはずの蝶が1羽飛び立ち…。

アンバー・クルーズは貨物車から降ります。メキシコからアメリカの地へ不法なルートでやってきたのでした。クリーブランドのモーテルで連泊していましたが、それも限界が来たので、女性限定の格安の貸室の張り紙を見つけてそこに向かいます。目の前の家はかなりボロボロで古そうです。でも安いので文句は言えません。

家主のレッドはここは引き継いだばかりで修繕中だと説明し、アンバーで2人目の住人になるらしく1人目はフレイヤだと言います。レッドに「出身は?」と聞かれ、「南の方」と大雑把に答えるアンバー。自分が不法移民だと知られるのは不利です。「1か月分を前払いしてほしい」と言われ、やむを得ず従うことに。

部屋は広いですが埃だらけで家具も老朽化。床下の穴から下が見えるほどです。1階でフレイヤに会ったので挨拶しますが、彼女は「レッドはくそったれだ」と言い放つだけで不愛想です。

アンバーは早急に身分を証明するIDを欲していましたが、用意してくれる職場の同僚のキンシいわく、値段が3000ドルに値上がりしたとのこと。なんでもアンバーがIDの出身地をオハイオではなくテキサスがいいとこだわっているのが高価格の原因のようです。

そのアンバーの動機の理由は、ちゃんとした就職先を紹介してくれる親戚のベトにテキサス出自であると言ってあるからでした。その親戚の家で食事に招かれた際にコートをもらい、紹介する就職先ではIDが必須と念押しされます。

ダメ元で家主のレッドに「前金を返してもらえないか」と頼んでみますが、もう無いと言われます。給料の前借りをしたいと職場で頼みますが、「君は作業が遅い」と梱包作業に回されます。

そんな困窮の中、アンバーは不吉な気配を感じていました。よく大学を諦めて看病した母を思い出して夢を見るのですが、その夢の中にも得体のしれない箱が出現するのです。悪夢で飛び起きるのも頻繁になってきます。

けれども職場の同僚キンシがおカネを貸してあげると言ってくれて何とか道筋が見えます。

住んでいる部屋ではどんどんと物音がするようになり始めていました。キッチンを覗くと、新しい住人のマリアペトラがいました。先ほど下に男がいた気もしましたが、レッドは「それは兄のベッカーだ」と説明します。

入ってはいけないと言われた書斎に踏み込むと、やたらと異国的な品々が陳列されており、生贄を捧げるなどと語る音声フィルムもあったりしました。アーサー・ウェルズ教授という名も…。

その矢先、あのキンシが突然職場を辞めたという情報を耳にします。これではIDが手に入りません。電話しても留守電。会社も教えてくれずしつこく迫った結果、クビと言われてしまいます。

追い詰められたアンバーはシャワー中、排水溝から「助けて」と聞こえたような、さらにはフレイヤの姿を見たような気がします。しかし、レッドはフレイヤは退去したと語り、混乱します。

そして違和感は恐怖へと変わり、この古びた住居を逃げ出そうと決心しますが…。

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移民女性が直面する恐怖の体験

『ノー・ウェイ・アウト』は原作から大幅にアレンジされた部分があります。原作ではイギリスが舞台だったのですが、それがアメリカに変更され、さらにはメキシコからの不法移民、いわゆる「ドリーマー」の女性を主人公にするかたちで改変されています。

この政治的素材を組み込んだアレンジはとても良かったと思います。もし何のバックグラウンドもなく、ただ女性が新しい住居で恐ろしい目に遭う話にしているだけだと、なんというか嗜虐的な映像にしかならないですからね。今のアメリカで物語を作るならこの設定は何よりもリアリティがあります。

移民経験を軸にしたホラー映画は『獣の棲む家』でもそうでしたが、今後も増えていくのではないでしょうか。

ちなみに舞台となっているオハイオ州では2021年もドナルド・トランプ元大統領による退任後初の集会が開かれていて、「何百万人もの人々がわが国に入ってきているが、彼らが誰なのか全く分からない」と危険を煽っていましたね。そんな感情を持つ人たちがいる場所で暮らすのですから…。

中年米からの移民の生活の苦労は『イン・ザ・ハイツ』でも描かれていましたが、ああいう同じ人種のコミュニティすらもない、『ノー・ウェイ・アウト』の主人公のような孤立した立場であれば日々の生活に恐怖を感じるのは当然。しかも、女性ですから、あらゆる暴力がにじりよってきます。

だからこそアンバーは「女性限定」の下宿に一定の安心を期待するわけですが、そこは大きな罠が待ち構えていて…。

とりあえずアンバーが目指すのはまずはIDを手に入れることです。しかし、不法移民ゆえに正規のID入手は限りなく不可能なので、コネを頼りますが…。またこの前半パートでは移民労働者の使い捨ての現場も生々しく描かれていました。

『ノー・ウェイ・アウト』の前半部は確かに視覚的なエンタメとしてホラーは薄いので、ストーリーが進んでいる感じがせずに地味だと感じるかもしれません。しかし、この前半はアンバーのような立場の人間の置かれている状況をじっくり描いているもので、後半の展開にはやはり必要なパートだったのだと思います。

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箱の中からこんにちは!

『ノー・ウェイ・アウト』は後半に進むといよいよあの家の全容が判明します。

このヴィクトリア朝の家の秘密は、本作の冒頭で提示されるアーサー・ウェルズ教授の映像でもう答えが出ているわけですが、当時の白人社会による第三世界への侵略と蹂躙の歴史が土台になっています。この点に関しては本作の描き込みは正直に言って浅い部分も大きいと私は思いました。やっぱりこの改変をするならもっとリサーチが必要ですし、その構造を安易に利用したことにならないように、当事者性をグッと踏み込んでいかないといけないでしょう。

だいたいメインで登場するホラーのアイテムが「箱」ですからね。これといって何の文化的背景もない「箱」で良かったのかとは思います。もちろん箱に入れることで運ばれたものですから箱が出てくる理屈はあるにはあるのですが…。

本作の中盤はずっとこの箱がストーキングしてくることに。夢の中でも、部屋でも、電車の中でも、箱です。冷静に考えるシュールな絵面なのですけども、そこは不気味な雰囲気でなんとなくカバーしてます。

当然、箱には意味があると解釈はもっとできます。アンバーは貨物車に紛れこんでアメリカの地に渡ってきたのですから、それだって箱です。箱がいろいろなものを隠します。アンバーのような弱い存在も隠せるわけです。でもそういう弱い存在を閉じ込めるのも箱です。本作は箱のそういう二面性を強調しているのも考察できます。

とはいえ、最後まで映画を見た人の記憶に残るのは、箱自体よりも箱の中身。なんだあの化け物は…っていう生理的嫌悪感マックスの異形なやつがノソっと出てくるのでした。私好みの良いデザイン。

本作の制作は「The Imaginarium」という『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』でおなじみの“アンディ・サーキス”が関与しているパフォーマンス・キャプチャで有名な企業です。たぶんこの『ノー・ウェイ・アウト』のあのモンスターもわざわざパフォーマンス・キャプチャをして精巧に制作していると思われ、ゆえにあの生っぽい動きと不気味さを醸し出しているのでしょうね。パフォーマンス・キャプチャはリアルな表現のために導入されるものですが、技術的になかなか完璧とは言えず、本物とは違う不気味さが意図せずに生じることもありますが、こういうホラーな存在に導入するのはその不気味さがプラスに働くのでいいですね。

『ノー・ウェイ・アウト』のラストではアンバーのあの表情を見る限り、完全に立場の逆転を予感させるエンディングになっています。今までは移民女性を犠牲にしてきましたが、今度からはそうはさせないという構造の変化。実際に社会もそうなるといいのですが…。

その前に箱の管理も大事。箱の中身に何があるのか、箱の表に書いておくとかするといいですよ(唐突なアドバイス)。

『ノー・ウェイ・アウト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 56% Audience 77%
IMDb
5.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix ノーウェイアウト

以上、『ノー・ウェイ・アウト』の感想でした。

No One Gets Out Alive (2021) [Japanese Review] 『ノー・ウェイ・アウト』考察・評価レビュー