怖くてハッピーエンドな物語にしよう!…Netflix映画『ナイトブック』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:デヴィッド・ヤロヴェスキー
ナイトブック
ないとぶっく
『ナイトブック』あらすじ
怖い話が大好きで自分で創作することを唯一の趣味にしていた少年のアレックス。しかし、ある日、その怖い話への情熱は失望に変わってしまった。失意のどん底に叩き落されていると、なんと魔女に捕まってしまう。その恐ろしい魔女に毎晩怖い話を聞かせなければ命を奪われるよりも酷い目に遭うという。このまま震えて怯えているわけにはいかない。アレックスは持てる限りの力を尽くして怖い話を考えるが…。
『ナイトブック』感想(ネタバレなし)
物語を書くって大変だ…
「物語を書くこと」を仕事にしている人はきっと日夜、自分を追い込んでいるに違いない…と私は勝手にそう思っていますが、実際のところは知りません。私、物語を書いた経験がないので。
どうやったら面白い話になるのか、これではマンネリではないだろうか、駄作だと呼ばれたりしないだろうか、ファンの期待を裏切るのではないか、問題点だらけで炎上してしまったら、いやそもそも誰も見向きもしなかったら…。そんなプレッシャー、私ならとてもじゃないですが耐えられません。
それでも物語を生み出し続ける人は本当に凄いなと感心します。それがどういう物語でも才能であることには変わりありません。まあ、でも重圧はずっとついてきますけどね。物語を発表する前は、それは誰にも理解されていない物語…自分というひとりの読者しかいない、孤独な世界です。
そんな「物語の書き手」の疎外感溢れる気持ちを代弁するかのような映画が今回の紹介するもの。それが本作『ナイトブック』です。
と言ってもこの『ナイトブック』、子どもを主人公にした子ども向けファンタジーホラーなのです。なんだ、じゃあ、軽いお話なのか…とそう思った人。いや、案外と真に迫るものがあるかもしれないですよ。「物語の書き手」の葛藤として「わかる!」と思わず膝を打ちたくなるような…。
というのもこの主人公の少年、ホラーを創作するのが大好きな子なのですが、ひょんなことから冷酷な魔女に誘拐されてしまい、毎晩オリジナルの怖い物語を披露して満足させないと酷い目に遭うという境遇に追い込まれてしまうのです。なんだそれ…編集者に監視されるライターや漫画家よりもツライじゃないか…。大人でもそれはキツすぎるよ…。
それでもこの運命に挑んでいく主人公の少年の姿はまさに「物語の書き手」の鏡。子ども向けなのにいつのまにか大人の方が応援したくなるかもしれないですね。
『ナイトブック』の監督は、2019年に“ジェームズ・ガン”のプロデュースで『ブライトバーン 恐怖の拡散者』を手がけた“デヴィッド・ヤロヴェスキー”。制作は“サム・ライミ”が設立した「Ghost House Pictures」であり、わかる人には察せるとおり、極悪で悪趣味な物語を作ることを生きがいにしている人たちの集まりです。当然、映画もその趣味嗜好がどっぷり反映されています。
さすがにR指定だった『ブライトバーン 恐怖の拡散者』ほど残酷ではないのですが、『ナイトブック』は子ども向けの範囲でできるギリギリを攻めた悪趣味さでコーディングされていますので、私みたいな意地汚い大人でもニンマリできる内容です。
主人公の子を演じるのは、『名探偵ティミー』(2020年)でも愛らしさ全開だった“ウィンズロウ・フェグリー”。なんというか放っておけない冴えない感じが保護欲をくすぐる…。今作でも眼鏡オタクっ子で、ひとりパニックになりながらも奮闘している姿が健気です。
そして対する魔女を演じるのは、ドラマ『ブレイキング・バッド』や『ジェシカ・ジョーンズ』でも視聴者を魅了した“クリステン・リッター”。ファッションモデルなだけあって、今回も非常にファッショナブルな魔女になりきっており、視線を一挙に集めるオーラがあります。嗜虐的な魔女にイジメられたいという需要を満たせるような…。
他の出演陣は『ドリーム』の“リディア・ジュウェット”、『The Hardy Boys』の“ステファン・R・ハート”、声優として多才に活躍する“オードリー・ヴァシレフスキー”など。
怖がりな子どもは目を背けてしまうかもしれませんが、基本は子どもも大人も楽しめるダークホラー・ファンタジーです。『ナイトブック』はNetflixで独占配信中ですので、家で家族鑑賞もいいと思います。
なお、ネコが出てきますが…死にません!(堂々のネタバレ) …むしろネコが可愛い映画なので期待してください。
『ナイトブック』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2021年9月15日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :自信がないときにも |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :そんなに怖くない |
キッズ | :子どもでも観れる |
『ナイトブック』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):締め切りと批評が迫る!
ニューヨーク。そのアパートの一室にアレックスという少年は暮らしていました。しかし、今、アレックスは怒りを爆発させて、自分の部屋を荒らしています。「もういらない、全部燃やしてやる」と、自分の好きなホラーグッズさえも乱雑に放り投げ、親友と写っている写真に一瞥。
自分が最も大事にしている「ナイトブック」という創作したホラー物語を書き溜めているノートを手にとり、それを燃やすべく玄関を出ました。別の部屋では、心配でひそひそと雑談する親を尻目に…。目指すはこのビルの地下の焼却施設です。
エレベーターに乗り込み、急に揺れて地下で扉が開きます。やけに暗い廊下。いつもこんなに暗かっただろうか…。なぜか赤い画面の1台のテレビが各部屋に置いてあり、自分の大好きな「ロストボーイ」という番組が放映されています。釣られて部屋に入ってしまうアレックス。さらにそこには皿に乗ったパイがあり、思わず食べてしまうと…。
目を覚ますアレックス。気を失ったのか。起きると部屋に閉じ込められていることがわかります。ある程度の高さがある上層の部屋。でも窓から出ようとするとまた部屋に戻るというよくわからない現象が…。
「あなた、名前を言いなさい」とどこからともなく声が聞こえ、「アレックス、モッシャー…」とたどたどしく答えると、不気味な笑い声。背後をゆっくり振り向くと謎の人影。それは銀髪の女の人。なんだか魔女のような…。
クローゼットにあるのは吸い寄せられた子どもの服だと言う魔女。でも役立たずだったとも吐き捨てます。
「あんたに特技がある?」と詰問され、咄嗟に「僕は怖い話を書くのが得意だ…」と苦し紛れに回答。
すると魔女は興味を示し、アレックスは自分のナイトブックを見せます。魔女は納得したのか、「毎晩ひとつ聞かせて。つまんなかったらあんたはおしまいだからね」と凄みを効かせて消えました。
アレックスは事情がわかりません。やたらと狂暴で透明になれる毛のないネコしか部屋におらず、テレビもドアもないです。棚には子どものリアルな人形が陳列されていますが…。
すると女の子が入ってきます。ヤズミンという名だそうで、ネコをレノーアと呼んでおり、ナターシャのスパイだと説明してくれます。ヤズミンも魔女ナターシャに誘拐されたようで、ずっと閉じ込められているのだとか。雑用をしており、すっかりこの生活に詳しいです。
巨大な空間に案内され、大興奮のアレックス。天井はどこまでも高く、大量の蔵書があります。あの魔女は物語が好きなのか…。ナターシャはここにある本は全部読んだらしいですが、しかし、ふと思い出します。
「僕は書かない」
アレックスは物語を書く意欲はありませんでした。しかし、逃げられません。やむを得ず、ナイトブックから物語を選び、毎晩読み聞かせることに…。
魔女はハッピーエンドが気に入らないらしく、口うるさいです。
ネタ切れにならないように物語執筆をしないといけないのですが、それは難航。気分転換に蔵書を見てみると、やけに古い有名な童話の本もあり、なぜかそこに現代的なボールペンで書かれたであろうメモ書きがあります。ヤズミンが書いたのか。そこにはユニコーンに誘われたという体験談らしき内容があって…。
物語の創作者としてアレックスは締め切りと批評に追い詰められていきます…。
「おいしい わーい」
『ナイトブック』、表向きは子ども向けダークファンタジー。しかし、その全容は明らかに作り手の趣味が詰まっている、悪趣味フルコースでした。
まず子どもが魔女に誘拐されて恐ろしい目に遭うというのはスタンダードです。最近も『魔女がいっぱい』などの映画がありましたが…。
しかし、本作はそれ以外の恐怖も襲ってくる。定番のクリーチャーです。
第一は謎の透明ネコ。「スフィンクス」という品種の毛のないネコも実際にいますが、このレノーアは不気味さ満点。しかも当初は嫌がらせをしてきます。引っ掻くではとどまらない、まさかの透明状態からのウンチ投下。このしょうもない下品さが“デヴィッド・ヤロヴェスキー”監督の持ち味なのか。確かに心理的には一番最悪だけど…。そしてちゃっかりこのネコは後半にデレるという…猫好きの心をわかっている。
続いてヤズミンが管理する菜園に登場するシュレッダーという謎の生物。見た目はシャカシャカと動く無脊椎動物みたいな感じなのかなと思ったら、顔だけゴーストライダーみたいな凶悪さ。それを倒すには足で踏んづけて体液がブシャーっと飛び散るという、このキモいという生理的嫌悪感をダイレクトで刺激して弄んでくるスタイル。やっぱり“サム・ライミ”や“ジェームズ・ガン”精神を継承している…。
終盤も徹底して童話をおちょくるような展開が連発。ダークなユニコーンの登場はふざけまくっていた…(まあ、それ以降は全然出番もないのだけど)。「ヘンゼルとグレーテル」を直球でなぞりつつ、眠りから目覚めた真の魔女がエレベーター内でゲロを飛ばすとか、もう童話なのか、悪趣味クリエイターの脳内妄想なのか、滅茶苦茶なシーンの連打になっていくのも楽しくて…。
最後はきっちり焼却するという残酷さでフィニッシュですからね。あそこは子ども向けレベルでできる最大のゴア描写であり、極めて真っ当な古き童話のテイストだった…。
ちなみに魔女のナターシャも“クリステン・リッター”の見事ななりきりでキマってましたね。あのレインコートとかもファッショナブルでした。魔法で若々しさを保っているんだよねという揶揄いが成立するのも“クリステン・リッター”の魔性さあってこそです。眠って倒れる場面だけやけに無様なのが個人的には好き。
でも私が本作で一番笑ってしまったのは、監禁生活のアレックスが何気なく手に取る「おいしい わーい」とプリントされた商品ですよ。ヘンテコ日本語がここで出てくるなんて不意打ちだった…。「おいしい」はわかるにしても「わーい」って何だ…。
おいババア!物語は好きか!?
ただ『ナイトブック』で一番悪趣味だったのはビジュアル的なショッキングさではなく、物語の軸となる「創作」にまつわる要素でした。
本作はアレックスが魔女に怖い物語を毎回披露しなくてはならず、しかも締め切りは厳しいです。間に合わなければ死よりも恐ろしいことになってしまう。
加えてあのナターシャも怖い物語に対して容赦なく批評してくるんですね。死神はペットなんて飼ってないとか、吸血鬼の牙は生えるのに丸2日かかるとか、正直、知らんがなという批評コメントも多いのですが、とにかく初心者クリエイターのアレックスにはその批評がグサグサ刺さり、動揺してしまうのも無理ありません。
でも的を得たことも言ってくれます。「事実を書くほどに読む人を惹きつける」…それは本作の物語の仕掛けにも関わってくる核心でした。
実はナターシャさえも元は魔女にさらわれた子どもで、その魔女に反乱してなんとか眠らせることができたものの、家に帰ると親はもうおらず、しょうがないと真の魔女を眠り続けさせるために怖い話を読み聞かせていた…と。別に自分の趣味に合わないからアレックスの考えた怖い話をボロクソに言っていたわけではなかったんですね。案外と子ども想いです、あのオシャレ魔女。
同時に映画冒頭に繋がるアレックスの経験したばかりのトラウマが物語として語られるときが…。親友だと思っていたジョシュにさえも「変だよ」と自分の趣味を否定され、親にも理解されずに孤独に直撃された最悪の瞬間。
それでもあえてハッピーエンドにするアレックス。「変なままでいていい」と肯定してくれる友人を見つけたことで、あの小さなクリエイターの心には自信が宿り、前向きになれました。
クリエイティブな行き詰まりに苦しむ創作者を救う、なんとも清々しい物語じゃないですか。まさかこんな爽やかに終わるなんて。
そんなこんなで『ナイトブック』、このジャンルとしてはかなりの良作でした。
創作に悩んだら魔女に批評でもしてもらいましょうか。感想コメントはほどほどに。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 67%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『フィアー・ストリート 1994・1978・1666』
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作品ポスター・画像 (C)Ghost House Pictures
以上、『ナイトブック』の感想でした。
Nightbooks (2021) [Japanese Review] 『ナイトブック』考察・評価レビュー