MOST BEAUTIFUL ISLAND
映画『MOST BEAUTIFUL ISLAND』(モーストビューティフルアイランド)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Most Beautiful Island
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2019年1月12日
監督:アナ・アセンシオ

あらすじ

マンハッタンの古アパートで暮らす移民女性ルシアーナは、小さな仕事で日銭を稼ぎながら極貧生活を送っていた。そんなある日、彼女は友人の女性から、ドレスを着てパーティに参加するだけで高額の報酬がもらえるという仕事を紹介してもらう。

ネタバレなし感想

人間は、おぞましい

私の苦痛が、誰かが笑うきっかけになるかもしれない。しかし、私の笑いが、誰かの苦痛のきっかけになることだけは絶対にあってはならない。
これは伝説の喜劇王として名高いチャップリンの名言として挙げられる言葉です。

世の中の「笑い」が全てこうだといいのですが、残念なことにそうはなっていません。

最近の日本でもそんなことを感じさせる話題に事欠きません。某大物お笑い芸人が女性芸能人に「お得意のなんかカラダを使ってなんかする」と言葉を浴びせたり、はたまた某週刊誌が「ヤレる女子大学生ランキング」という特集記事を組んだり…。

共通しているのは事の発端になった当事者はそれが「普通」だと考え、思考が停止していること。むしろウケるとさえ思っている。他者を話題のネタ程度の“モノ”としか見ていない。

人間は、自分の行ったことを「おぞましい」か否か判断することができなくなれば、それは差別とか偏見とかを通り越して、もはや「狂気」でしかありません。

そんな感覚がマヒした人間たちの狂気によってゾッとする怖さを味わう女性を描いた作品が、本作『MOST BEAUTIFUL ISLAND モースト・ビューティフル・アイランド』です。

監督は“アナ・アセンシオ”という人で、女優として活躍していたのですが、本作で監督・脚本・製作・主演に挑戦。ここまでオーダーメイドで自分のクリエイティビティを全開にさせる女性が現れることは大歓迎であり、どんどん他の人も続いてほしいくらいですが、本作自体も批評家の評価が高いので“アナ・アセンシオ”という映画人は今後も目が離せないかもしれません。

本作はネタバレを避けないといけないですが、かなりキツイ話であり、人によっては画面を直視できないこともある内容です。特定の“アレ”が苦手な人は観れないでしょう(グロではないです)。個人的には、『ホステル』や『グリーン・インフェルノ』などでおなじみのイーライ・ロス監督を連想させるというか、人間のおぞましさを若干の味付けをきかせながらストレートに眼球に注ぎ込んでくる感じが似ていると思います。作家性は全然違うのですけどね。

しかも、本作の中身は、スペイン出身で移民だった監督自身の経験を反映させた物語になっているとか。どこまでリアルなのかは深堀りしたくない…。

ちなみに“アナ・アセンシオ”監督自身は、来日時になぜか全然関係ない『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』の宣材ディスプレイの前で記念写真を撮るくらいのお茶目な一面を持っています。


注目度の低いマイナーな映画ではありますが、無感情になった人のおぞましさを見せてくれるという意味では、今の日本社会にも染みわたる毒を持った作品なので、気になった人はぜひ鑑賞してみてください。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

ここは暗黒マンハッタン

私はあまり前情報なしに本作を観たのですが、冒頭のシーンから言葉にできない不吉さを感じる映像が続いて、嫌な感じにさせられます。表面的には、街にごったがえす人混みの中をスタスタと歩く女性を追いかけるカメラワークです。複数の女性を、カットを変えて追います。それだけ。なのにこの心を這いずり回る不安はなんなんだ…。

本作の舞台はニューヨークのマンハッタン。ウォール街を擁するこの地は、アメリカ経済の中心地。人口161万人以上。「人種のるつぼ」と呼ばれるくらい、多様な国の人々がひしめき合って暮らし、さらに観光客も大勢訪れ、そこはさながら多様性の宝庫。

しかし、本作はそのマンハッタンが表向きは持っている美しさではない、闇の部分にフォーカスした映画になっています。この場所は「MOST BEAUTIFUL ISLAND」ではないのです。

マンハッタンの良さを全面に出した映画もありますし、憧れや希望を抱いてこの街に来る人もいるのも事実。それでも本作は観光パンフレットには載っていない、マンハッタンのもうひとつの側面を見せてくれます。アベンジャーズもスーパーマンも助けてくれない、弱者の苦痛と呻きがひしめく街。

冒頭の不穏さを煽る映像も、マンハッタンで暮らす下層社会をあえて表層に目立たせるよう撮り方になっているからこそ、観客はただならぬ雰囲気を感じ取れるわけで。

“コテコテの保守的な地域とは違う、ニューヨークは多様性を推進する場所だ”というイメージも一面的で、実際は移民にとって残酷な現実もいっぱい潜んでいるのでしょうし、本作はそれらを正直に映し出しているのでしょうね。「人種差別といえば、保守的な地域の話でしょ?」なんて言う、世の中への冷めた無関心に対して、それはどうかなと目線を投げかける、本作のような映画の役割も大きいと思います。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』が暗黒ハリウッド映画だとしたら、『MOST BEAUTIFUL ISLAND モースト・ビューティフル・アイランド』は暗黒マンハッタン映画ですね。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』感想(ネタバレ)…ようこそ、暗黒ハリウッドへ

見下せるのはゴキブリだけ

その闇を誰よりも体験しているのが、本作の主人公であるルシアーナという女性。

スペインからこの地へ事実上“不法移民”状態で移り住んできた彼女。明確な理由はハッキリ語られませんが、どうやらそれなりのワケがあるらしく、ベッドの下にあった箱からジップロックに入った子供用品を取り出して匂いを嗅ぐ姿からも悲痛な過去を察することができます。

「どんな人にもチャンスを与える」などという都合の良いことは決してない、このマンハッタン。当然、ルシアーナの暮らしは極貧。ベビーシッティングや客引きなどで1日1日をなんとか生活できるお金を稼ぐ毎日。家賃の滞納でいつ家を追い出されるかもわからず、精神的にも身体的にも不調を起こしても診察費がバカ高いので治療も受けられない。かといって故郷の国には戻れない。行き場のない人生。

そんなルシアーナを象徴するような存在として、いきなり観客をギョッとさせるように現れるのがゴキブリ。家で湯船に浸かったルシアーナは、ふと壁に貼られたガムテープをベリベリと剥がすと、その壁の穴から十数匹のゴキブリがわんさか這いだしてきます。ゴキブリ嫌いではない人でも、さすがに風呂から飛び出すレベルの数ですが、ルシアーナは平然と湯船に浮かぶゴキブリをじっと見つめます。

水中でもがくゴキブリたちと、無感情にそれを見つめるルシアーナ。この構図は後の例のシーンと対になっていると考えてもよいでしょう。

ともかくルシアーナにしてみれば、この世界で自分より下にいるのがゴキブリぐらいなのです。

ところで、話は逸れますけど、マンハッタンってゴキブリは生息しているのでしょうかね? 環境的に、夏は30℃を超えて、冬はマイナスになって雪も降る、気候差の激しい地域ですけど、ゴキブリは暮らせるのかな…。地下水路とかならゴキブリもいそうですけど。

モースト・ビューティフル・アイランド

ゴキブリになった私

まあ、マンハッタンのリアル・ゴキブリ事情はどうでもいいんです。

今は人間の話。

そんな底辺を這いずり回る虫のような生活を余儀なくされていたルシアーナは、友人女性から「高報酬の仕事」があると持ちかけられます。その友人は、屈託なく笑ってオススメするので、信頼したルシアーナはその「ドレスを着て指定場所に行き、パーティーに参加する」とかいう内容の仕事を受けることに。

しかし、それは明らかに華やかなパーティーなどではないのは明白。わざわざチャイナタウンの地下に降りて住所を教えてもらわないと、たどり着けもしない秘密に覆われたアンダーグラウンド。そこには同じような複数人の女性が集められて並び、裕福そうな老若男女が品評会のように自分たちをまじまじと見つめる…謎の雰囲気。いや、明らかにヤバい。でも逃げられない。

そして、ついに自分の名前が呼ばれ、ゲームルームに案内されると、そこにはガラス張りの棺を囲む、例の金持ちそうな集団。持たされていた鍵つきバックを開けると、そこには1匹の毒グモ。自分はこの棺に全裸で横たわり、一定時間、毒グモを体に這わせて耐えるという…賭け事をこの集団は楽しんでいたのでした。そこにはルシアーナの診察を拒否した医者の姿も。きっとおそらく見物する参加者たちは社会で一定のキャリアを持つ者ばかり。

つまり、この集団にとって、ルシアーナはゴキブリです(ちなみにクモはゴキブリを襲います)。命なんてどうでもいい、それこそ湯船に浮かぶゴキブリを見て自分が何も感じなかったように。

その人間のおぞましさに涙しながら、最後は優しさを見せたルシアーナ。報酬を手にアンダーグラウンドを出た彼女は、ヒスパニックの貧しい女性からアイスクリームを買い、またも街に消えていきます。ルシアーナは自分と同類のゴキブリを探しに行くのでしょうか、それとも…。

これが初監督作とは思えない、独創的なサスペンスと社会への毒の盛り方。あのゲーム・シーンは、『マジカル・ガール』に登場する例の部屋の全容を、本作で見せてくれたような感じでしたね(『マジカル・ガール』を観た人なら言っている意味がわかるはず)。
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体をクモに這わせる…この行為が本当の事実かどうかは別にして、そのビジュアルはいわゆるレイプなどとは違って直接的な暴力ではないのに、それ以上の“おぞましさ”を観客に刻み込む…上手いアイディアだと思います。

アメリカ社会の綺麗事ではない闇の世界を映画的な演出込みで鮮やかに見せる“アナ・アセンシオ”監督の才能に魅入りました。

日本の“おぞましさ”に直面した人(特に女性)は、ぜひこんな風にその体験を映画という形で表現してみるのもいいかもしれません。ゴキブリにも映画は作れるのですから。それくらいでしか社会の上層に巣を構えるクモに一泡吹かす方法はない…とは思いたくないですけど。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 45%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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