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『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』感想(ネタバレ)…インド・リベンジャーズ前後編は桁違い!

K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2

インド・リベンジャーズ前後編は桁違いだった…映画『K.G.F CHAPTER 1/CHAPTER 2』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:K.G.F: Chapter 1/K.G.F: Chapter 2
製作国:インド(2018年・2022年)
日本公開日:2023年7月14日
監督:プラシャーント・ニール
恋愛描写

K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2

けーじーえふ
K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2

『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』あらすじ

1951年、スーリヤワルダンはコーラーラ金鉱(KGF)を発見し、採金ビジネスに乗り出した。そうして一族は莫大な富を得る一方で、金鉱で働く人々は外部から遮断された環境で奴隷のような扱いを受け、さながら独裁帝国だった。同じ年に、スラム街で1人の少年が生まれる。その少年ロッキーは10歳で母を亡くして天涯孤独となり、生きるために裏社会で働き始めるが、しだいに圧倒的支配力を発揮するようになり…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』の感想です。

『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』感想(ネタバレなし)

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インド映画界を荒らした問題作

インド映画界はコロナ禍からはすっかり大復活を遂げたようです。それどころか、これまでにない現象も勃発しています。

その事変を巻き起こしたのが『K.G.F: CHAPTER 1』『K.G.F: CHAPTER 2』の2部作です。

インド映画界では『バーフバリ』旋風による地殻変動が決定的に業界構造を変えてしまい、あの二部作が本国公開された2015年と2017年以降は、『パドマーワト 女神の誕生』(2018年)や『マニカルニカ ジャーンシーの女王』(2019年)のような同様の大スケールの歴史叙事詩映画が連発しました。しかし、『バーフバリ』以上のヒットはそう簡単に生み出せません。

そんな中で勢いよく現れたのが2018年の『K.G.F: CHAPTER 1』

本作の特筆点は「カンナダ語」の映画だということ。インドには公用語が複数あって、映画もどのベースの言語で作られるかの違いがあり、独自の映画業界となっています。最も話者の多い「ヒンディー語」の業界(ボリウッド)が資金力も高く盛り上がっていますが、それと比べると「カンナダ語」の業界(サンダルウッド)は存在感は少なめでした。

しかし、このカンナダ語映画の『K.G.F: CHAPTER 1』の予想外のヒットが覆してみせました。しかも、本作は二部作。コロナ禍を挟んで2022年に『K.G.F: CHAPTER 2』が公開されると、インドの国内興収ランキングで2位につける快挙を達成

1位『バーフバリ 王の凱旋』
2位『K.G.F: CHAPTER 2』
3位『RRR』
4位『PATHAAN パターン』
5位『ダンガル きっと、つよくなる』
6位『バーフバリ 伝説誕生』
7位『ロボット2.0』
8位『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』
9位『pk ピーケイ』
10位『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
11位『アベンジャーズ エンドゲーム』

『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』のジャンルはギャング映画です。でも『東京リベンジャーズ』みたいな次元ではありません。もうとにかくスケールが異常にデカすぎて、「ぽかーん」としながらスクリーンを眺めることになります。

加えてなんだかわかりませんが、異様にダイジェスト的な落ち着かない映像と演出と編集の連続なのです。この映像と物語を二部作、計320分(5時間以上!)も観るのか…と恐れおののきますよ…。

また、これは後半の感想でも詳しく書きますが、本作、めちゃくちゃマッチョイズム全開で…。これまでのインド映画はそういうところありましたけど、本作はずば抜けて“やりすぎ”なくらいの暴れかたをしています。

ということで『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』は非常に癖があって、ハッキリ言えば問題作です。『バーフバリ』とか『RRR』でインド映画にハマった人が同じノリで手を出せるものではないかも…。

取り扱い注意の劇薬ですが、インド映画界の問題児(?)の爆誕を目撃したいという人はぜひ覚悟してどうぞ。

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『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』を観る前のQ&A

✔『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』の見どころ
★とにかく暴れまくっている。
✔『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』の欠点
☆やたらと長く、演出が大仰で単調。
☆極端なマッチョイズムの推進。

オススメ度のチェック

ひとり 3.0:時間あるなら
友人 3.0:気合いで付き合って
恋人 2.5:長すぎるか…
キッズ 2.0:暴力描写が多め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):金鉱帝国を転覆させる!

2018年。インドのニュース番組のチーフエディターのディーパ・ヘグデはひとりの男と対面し、取材をしていました。その男とは、コーラーラ金鉱(Kolar Gold Fields=KGF)に関する本「エル・ドラド」を著した著者アナンド・インガラギです。この本は焚書扱いで、「第1章」の1冊だけが残っており、謎に包まれています。アナンドはこのコーラール金鉱を語るうえで欠かせないロッキー(ラジャ・クリシュナッパ・ベーリア)という男について、彼はヒーローなのだと語ります。

1951年、スーリヤワルダンの一族はコーラーラで金鉱を発見。これを独占すれば巨万の富を手に入れられると考え、表向きは「ナラチ・ライムストーン」という石灰石採掘会社として運営しつつ、裏では金をアフリカ産を偽って裏社会に流通させ始めます。それはスーリヤワルダンの一族に莫大な富と権力をもたらし、大規模な奴隷と民間軍人力を有し、大帝国と化していきました。

同じ頃、スラム街でシャンタマという女性が1人の子を産みます。その子はロッキーと名付けられ、母親の愛情を一身に受けて貧しく暮らしながらもスクスクと育ちました。しかし、母は自分の身体が病に侵されていることを自覚してもいました。

1961年。10歳のロッキーは動けぬ母のために懸命に働いていましたが、母は息子の将来を案じながらこの世を去ります。「死ぬときは大金持ちの支配者となって…」と言葉を残して…。

ロッキーはスラム街へ放り出され、天涯孤独に。ボンベイ(今のムンバイ)に移ると、闘争心を剥き出しに、大人にも立ちはだかります。血だらけになろうとも、その鋭い眼光は獣のように…。その原石をこの地のギャングをまとめるシェッティが拾います。

1978年。ロッキーは急速に頭角を現し、今やシェッティを凌ぐ影響力となっていました。インド進出を狙うドバイのギャングのボスであるイナヤト・カリールも狡猾な策略で圧倒し、弱肉強食を勝ち抜くべく身に着けた術を駆使し、実力を証明しました。

そんなカリスマ性を発揮するロッキーのもとに、シェッティの上司である西海岸の海運担当のアンドリュースがある殺しの依頼を持ちかけてきます。

実は依然として巨大な支配権を持つコーラーラ金鉱でしたが、一族の長であるスーリヤワルダンが病に倒れて寝たきりになってから、長男のガルダが実質的な後継者となって強権を振るっていました。

ガルダはスーリヤワルダンの弟のアディーラと対立し、アディーラを独断で排除してしまいます。これに金の流通を担当するラジェンドラ・デサイ、DYSS党党首で政界工作担当のグルパンディヤン、そしてアンドリュースなどが反感を覚え、ついに暴走しているガルダの暗殺を企てることにしたのです。

そうは言ってもガルダのいるコーラーラ金鉱は難攻不落。警備責任者のワナラムが厳重に守りを固め、ガルダ自身も己の絶対的な優位性を最大の武器にしていました。

いくら個人技に秀でるロッキーと言えども、このコーラーラ金鉱の攻略は慎重に…。

いや、このロッキーに不可能の文字はありません。母の遺言を胸に刻んだロッキーは全ての暴力を吸収しながら、コーラーラ金鉱に単独で殴り込みに行くことにします。

それは血で血を洗う、凄まじく野蛮な歴史の始まり。そして歴史から抹消された男の人生が眠っており…。

この『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/07に更新されています。
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CHAPTER 1:インド界のダース・ベイダー

ここから『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』のネタバレありの感想本文です。

最下層にいた者が徐々にのし上がっていき、最上位の者を蹴落としていく…この物語の定型はインド映画でもよく見るやつです。『K.G.F: CHAPTER 1』もそのパターンであり、ギャングもののジャンルはとくにその定型と相性が抜群ですから、違和感はありません。

しかし、本作はその下剋上で支配者に上り詰める側である主人公の存在感が、あまりに狂気に満ちているのが特徴で…。

全然「主人公」っぽくならないというか、完全に「悪役」じゃないか?…という変貌を遂げるわけです。

前半で初めて大人の姿が登場する際も「あの子、こんなになっちゃったの!?」というほどに、ダークオーラを放っていますからね。

そこからの「ハッピーバースデートゥーユー」を歌いつつの鎖で両手を縛られて吊るされた状態を打ち破っての大暴れ。後半の金鉱内で暴れるところとかも含めて、このロッキーはもうスラッシャー系のシリアルキラー並みの超人的殺人力です。

多少、子どもや貧民に優しいあたりでかろうじて主人公の属性をチラつかせるけども…。

総括すると、『K.G.F: CHAPTER 1』は言うならば、『スター・ウォーズ』のプリクエル3部作を全部1本にまとめました!…という勢いと表現していいのではないでしょうか。まさに己の帝国を奪取して築く物語ですし…。まあ、ロッキーはダース・ベイダーよりも暗黒面に染まっているけどね…。

そしてだからなのか、異様なまでに映像センスがダイジェスト的です。アクションシーンはもちろん、日常の会話シーンですらも、あのやけにカット連発する編集で繋ぎ合わさっており、ゆったりする暇がない。私も観ていて「1回、ちょっと踊っててくれないか。ひと休みしたいから…」と何度か思いましたけど、このロッキーは踊る代わりに人を殴り倒しているんですよね…。

今作の主演で見事に大ブレイクを果たした俳優の“ヤシュ”。どうやらこれまでは「ハンサムでソフトな好青年」という王子様的な役柄が多めだったようですけど、この『K.G.F』シリーズで一気にワイルドさを開花。名実ともに「ロッキング・スター」にふさわしい存在になりました。今後は“ラジニカーント”みたいな大物になるのかな…。

監督の“プラシャーント・ニール”も、デビュー作『Ugramm』から本作での大飛躍。映画のストーリーが製作陣のキャリアと一致しちゃうあたりも、この映画の景気の良さを物語っていますね。

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CHAPTER 2:マッチョイズムの神話化

あれだけ『K.G.F: CHAPTER 1』でぶち上げたのだから、『K.G.F: CHAPTER 2』では1度、主人公を相対化するという意味でも、第2の主人公とかに視点をバトンタッチでもするのかなと思ったら、全然そんなことはなかった…。

それどころかロッキーのアイデンティティと言える「天然暴力」をさらに爆発させていき、ちょっとこの映画の問題性を収拾つかないものにさせているくらいで…。

そもそも本作で雄姿を見せるロッキーは、超マッチョイズムで、展開もハイパーマスキュリンを全肯定するテンションが炸裂しっぱなし。ひと昔前のハリウッドで“シルヴェスター・スタローン”とか“アーノルド・シュワルツェネッガー”がやっていたような男性像を、大スケールでこの2020年代に掲げているようなものです。

そのため、必然的に「男性の権利」支持者が絶賛しそうなトーンになっちゃっています。

わかりやすいのがヒロインの扱い。あのリナというキャラクターは完全に主体性ゼロで、主人公男性にちょうどよく惚れてもらう(そして男にとっての自慢になる)ためのトロフィーワイフであり、適度なタイミングで殺されてもらったり、全てが主人公男性の物語の動力源です。イマドキこんな女性表象あるか?ってほどの。

加えて、主人公の母親の描写も家父長性を推進していて、あれだけ幼い子に「カネを手に入れて支配力を持て」と男らしさの呪いをかけるのが、この母親の死ぬ際の役割です。実際、それに憑りつかれたロッキーは実行して体現するのですが…。

そしてもうひとりの本作の女性キャラクターであるインド首相を演じるラミカ・セン。彼女はKGFの存在を認めずにロッキーとの対立を余儀なくされていくのですが、そこでインド国軍がまさかの全投入されます。つまり、このラミカ・センも国家権力という暴力を駆使する存在として描かれています。

ヒロイン、母、首相…これら3人の女性はどれも家父長的な目を通して、その存在が意義づけられている女性キャラクターなのであって、その女性たちに支えられて、本作の主人公は歴史の伝説となります。もはやこれはマッチョイズムの神話化ですね。

そういう意味ではこの『K.G.F』シリーズは非常に有害な男性神話なので、これがエンターテインメントとして受け入れられてしまうのはそれはそれで不安になる状況でもあります。同時にやはりまだまだエンタメの世界は男の支配権にあることを如実に示している事例でした。

インド映画界もフェミニズムが徐々に芽生え始め、それに根差して活動する映画人も出てきていますが、こういう『K.G.F』シリーズ大ヒットな社会をどんな気持ちで眺めているのだろうな…。

『CHAPTER 3』がありそうなエンディングでしたが、このノリを継続させられるのは勘弁してほしいかなと思います。

『K.G.F: CHAPTER 1/CHAPTER 2』
ROTTEN TOMATOES
C1: Tomatometer 67% Audience 88%
C2: Tomatometer 43% Audience 94%
IMDb
C1: 8.2 / 10
C2: 8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
3.0
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関連作品紹介

インド映画の感想記事です。

・『おかしな子』

・『シークレット・スーパースター』

作品ポスター・画像 (C)KRG Studios KGFチャプター1&2

以上、『K.G.F: CHAPTER 1』『K.G.F: CHAPTER 2』の感想でした。

K.G.F: Chapter 1/Chapter 2 (2018/2022) [Japanese Review] 『K.G.F: CHAPTER 1』『K.G.F: CHAPTER 2』考察・評価レビュー