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『アンチソーシャル・ネットワーク 現実と妄想が交錯する世界』感想(ネタバレ)…本当に不適切にもほどがある

本当に不適切にもほどがある…「Netflix」ドキュメンタリー映画『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Antisocial Network
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:ジョルジオ・アンジェリーニ、アーサー・ジョーンズ
アンチソーシャル・ネットワーク 現実と妄想が交錯する世界

あんちそーしゃるねっとわーく げんじつともうそうがこうさくするせかい
『アンチソーシャル・ネットワーク』のポスター。2人の人物がスマホに顔が吸い込まれているようなデザイン。

『アンチソーシャル・ネットワーク』簡単紹介

それはアニメや漫画の話をするだけの場所だった。もしくは普段は口にできないちょっと意味不明な言動を眺めるだけの趣味欲求を満たす場だった。しかし、そんな現実社会から逃避するための匿名の掲示板サイトが、いつしか現実社会に影響を与えることに快感を感じる者たちによってコントロールを失っていく。いかにして社会に騒乱を巻き起こす反社会的活動の拠点へと発展していったのかを初期の関係者の声と共に探る。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』の感想です。

『アンチソーシャル・ネットワーク』感想(ネタバレなし)

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インターネットとの付き合い方を見直す時期

私事ですが、この最近1年は自分の「SNSとの付き合い方」を改め直すことを心がけて実行した節目となりました。

SNSの利用時間を減らすために「スマホからSNSアプリを削除する」「ひとつのSNSに頼りすぎない」「あまり他者と積極的に繋がることを求めない」「一方的に情報を流すだけにする」「情報には出典をつける」といったことを行うようになりました。

これは自身のSNS依存の緩和、オンライン・ハラスメントの被害低減、そしてSNSの有害なシステムへの関与を抑える…そうした目的があります。

あくまで私の取り組みなのでこれを他人に強要するつもりとかは一切ないのですし、この試行が完璧だとも思っていませんが、できる限りのことはしたいなと思ったので…。

しかし、今やSNSの影響力は増すばかりです。いや、SNSというか、それはある特定の企業のサービスを指すものではなく、一種のインターネット・システムそのものですね。ありとあらゆるかたちでインターネット空間が私たちの人生に浸食し、それなくしては成り立たないようになってしまいました。

だからこそ今の時代、私たちはインターネットの有害さに自覚的でないといけません。これは「不適切な情報に触れないようにする」みたいな従来的なコンテンツ制限とはまた違うものが求められます。要するにインターネットのメカニズムの有害さとでも言いましょうか。

今回紹介するドキュメンタリーは、この2000年代の約20年において最たるインターネットの有害な現象の歴史に焦点をあてたものです。

それが本作『アンチソーシャル・ネットワーク:現実と妄想が交錯する世界』

本作は、日本生まれの匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」に始まり、その英語版といえる「4chan(4ちゃん)」、そこから派生した「アノニマス」「Qアノン」といったインターネット発祥の現象を主題としています。

「4chan」や「アノニマス」の初期に関わった人たちのインタビューなどを基に、これらのインターネット現象がどのように生まれ、何をもたらしたのかを整理していきます。かなり内部的な自己批判の目線もあったり、ある意味ではこの約20年を総括するようなドキュメンタリーで、ちょうど今ぐらいの時期は振り返りにちょうどいいでしょう

題材についてだいたい知っている人でも、関係者による振り返りはなかなか貴重ですので一見の価値あり。

『アンチソーシャル・ネットワーク:現実と妄想が交錯する世界』を監督するのは、ある漫画のキャラクターが暴走するインターネットの餌食となってヘイトのシンボルになってしまった過程をまとめたドキュメンタリー映画『フィールズ・グッド・マン』を手がけた“アーサー・ジョーンズ”です。

『アンチソーシャル・ネットワーク:現実と妄想が交錯する世界』は『フィールズ・グッド・マン』のさらに広範な背景を補足するような一作と言えます。

「Qアノン」と絡んでいくことからもドキュメンタリー・シリーズの『Qアノンの正体』を補足する内容でもあるので、できればどちらも鑑賞すると良いのではないかなと思います。

繰り返しますけど、2000年から2020年までのインターネットは激動の時代でした。そして2020年代から新しい時代に突入しようとしています

そのインターネット新時代を前に、本作で映し出される問題を「知らない」とは言えません。これは必須知識です。自分の身に降りかかってきます。全員が当事者です。そのうえでこれからの未来にどうインターネットと向き合っていくかを各自で考えるときです。今はそのタイミングなんじゃないですか。

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『アンチソーシャル・ネットワーク』を観る前のQ&A

Q:『アンチソーシャル・ネットワーク:現実と妄想が交錯する世界』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2024年4月5日から配信中です。
✔『アンチソーシャル・ネットワーク』の見どころ
★インターネットの有害なメカニズムの歴史を振り返られる。
★問題の当事者の語りで初期の頃が整理されている。
✔『アンチソーシャル・ネットワーク』の欠点
☆広く浅い内容なので個々の問題は別の資料で学ぶのを推奨。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:知識として知っておくべき
友人 3.5:議論し合って
恋人 3.5:関心あれば
キッズ 3.5:学習の教材として
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『アンチソーシャル・ネットワーク』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アンチソーシャル・ネットワーク』感想/考察(ネタバレあり)

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始まりはただのオタクだった

ここから『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』のネタバレありの感想本文です。

気が付くと世界自体が偽情報をばらまく巨大な掲示板になっていた…。そんなダークSF設定みたいなことが現実でどのような経緯で起こったのか。ドキュメンタリー『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』はその原点を紐解いていきます。

始まりは1990年代。オタクたちでした。当時、日本のアニメや漫画が一番クールだと思っていた外国人オタクたち。その中のひとり、「ムート(moot)」という人物が、日本にあった匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」を模倣して(本当にスクリプトを流用している)、2003年に同様のサイト「4chan」を立ち上げます。

サイトの仕組みだけでなく、利用者のノリも一緒で、単にその英語バージョンというだけ。現実世界から逃避したいオタクたちにとっては、格好のふざけまくることができる遊び場で、空想の世界に浸りながら、ただただくだらないネタ画像を投稿していく時間を過ごしていました

本作ではその「4chan」初期のユーザーが顔出しで出演し(ファックスネット、アマンダ、キルタナー、カードキャプター・ウィル…)、その当時の空気を語っているのが印象的です。ファンダムの初期勢ですから、まあ、よく熟知してます。昔の思い出を語るみたいな感じでした。

「4chan」内でしか通用しないジョークがあって、次々と新しい投稿がとめどなく流れ、ずっと見続けられる中毒性。見始めると止まらない、それはSNSの原型とも言えて…。

この空気というものは、別に「2ちゃんねる」や「4chan」に限らず、いろいろなコミュニティにありがちなことだと思います。気の知れた身内同士で無駄話をしているときが一番楽しいという…。

でもその空気は永遠に続かないんですね。利用者自身も最初はその危険性を把握できていませんが、このインターネット・メカニズムの最大の恐ろしいところ。それは際限なく無限に膨張するという点。「現実と幻想と区別くらいできる」なんて何の根拠もない自信だけの建前は通用しません。コントロール不能なまでに暴走していってしまうことになります。

先行する日本ではもう問題が社会に表面化していました。作中で取り上げられるのは、2000年5月3日に発生した当時17歳の少年による西鉄高速バスを狙ったバスジャック事件。「2ちゃんねる」のハンドルネームから「ネオむぎ茶事件」とも呼ばれるこの一件は、氷山の一角。十数年後、1台のバスどころか世界全体が乗っ取られます。

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悪ふざけが楽しいだけ

「4chan」でのその危険な兆候として『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』で言及されるのが、「ハボ・ホテル」事件。チャット空間サービス内で、黒人キャラで黒スーツ格好で並んでハーケンクロイツ(鉤十字)を描くという悪ふざけ。しかし、それを現実でもやってみせる者が現れ、ネット空間内だけの遊びではなくなっていきます。

「4chan」の管理者であるムートはこれを問題視し、規制し始めますが、これに反発し、「アノニマス」というアイデンティティで団結する者が登場。これによって「現実逃避の場」ではなく「ネットから現実に何か影響を与える場」へとその本質が決定的に変化していきます。

2008年には、カルト組織として知られる「サイエントロジー」の”トム・クルーズ”の信者向けの内部動画がネットに流出したことをきっかけに、大手メディアは報道を控える中、アノニマスとして動画で宣戦布告。チャノロジー作戦という抗議に発展し、『Vフォー・ヴェンデッタ』の仮面をトレードマークとして、予想以上の規模の大きさの活動になります。

アノニマスはハッキングを駆使するようになり、政府施設や大企業をターゲットに攻撃を繰り返すようになると、中心人物の“ジェレミー・ハモンド”らは逮捕され、2010年代初めにアノニマスの組織は解散し、沈静化します。

ここで重要なのは、これらの活動は、よく日本のメディアが知ったかぶって「正義の暴走」なんて批評をつけたりしますが、実際はそういう背景ではないということです。

2007年のネオナチの司会者”ハル・ターナー”を攻撃した件でも、当事者が語っていましたが、別に人種差別に反対していたわけじゃなく、嫌がらせが面白かっただけなんですね。

つまるところ、社会に影響を与えることが楽しいのです。ネットに引きこもっていたオタクたちは中身では承認欲求をこじらせていて、社会に自分の存在感を示したかったのでした。

2011年のウォール街の占拠など、社会運動として善意がある人も中には混ざっていたかもしれませんが、肝心の「4chan」の本質はそこになく…。

そこに前述の悪ふざけのノリが混ざるとろくなことにならないのは自明です。コミュニティ内で平気でナチスの敬礼するものも現れ、オタコン会場は異様な空気に。

コミュニティは、いたずらをやめて抗議に専念する者と、いたずらをしたい者の2つに分裂し、前者は離れ始めます。するとヤバい奴らしか残らないので、コミュニティはますます悪化。2010年年代の社会への失望や制度への不信がネットでの私的制裁に需要をもたらし、どんどん勢いづいていきます。

この激変が起きるのがたったの数年間の出来事ですからね。いかにネットのコミュニティというのはあっけなく悪い方向へ変貌するのか、よく物語る事例ですね。

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悪ふざけから反社会的勢力への加担へ

悪ふざけから憎悪へとコミュニティの内なる動機が明確に変化した事件が、2014年の通称「ゲーマーゲート(Gamergate)」事件でした。

”ゾーイ・クイン”(当時は女性と認識されていることが多かったですが現在はノンバイナリーと公表)というクリエイターが鬱病を主題にした少し変わったインディーゲームを作り、そのわりと些細なことがきっかけで、なぜか「4chan」内で「女性がゲーム業界を破壊する」という主張が支持を集めて拡散。

これは今や日本でもあちこちで見られる「フェミニストが○○の文化を壊す!」「ポリコレのせいでダメになる」みたいな反Woke運動の原点です。

要するに自分たちの不満のはけ口として「敵」を設定し、徹底的にハラスメントしまくって中傷するというノリが生まれます。今までは単に面白そうな相手を敵としていましたが、この一件から政治的な動機で敵を選定するようになりました

ムートは「4chan」でゲーマーゲートの話題を禁止すると、”フレデリック・ブレナン”の「8chan(8ちゃん)」という類似サービス内が台頭。このへんからはドキュメンタリー『Qアノンの正体』のほうが詳しいですね。

とにかくこのゲーマーゲート事件で露呈したのは「4chan」などの「CHANカルチャー」が特定の政治的運動と相性がいいということ。これに目を付けたのが極右や保守系メディア、そして政治家そのものでした。

2016年、「4chan」などの「CHANカルチャー」系サイトは、”ドナルド・トランプ”の支持を拡大させるための宣伝ツールへと成り下がります。居場所のない人をトランプ支持者に変える装置です。

”ドナルド・トランプ”が本当に大統領になってしまうと、今度は「Q」の登場で、悪ふざけは陰謀論へと変化。トランプはヒーローで、ハリウッドと民主党の小児性愛者と人食い悪魔と戦っているというストーリーが構築されて生きます。実際は「CP」を「児童ポルノ(child porno)」と「チーズ・ピザ(cheese pizza)」で重ねた「4chan」のミームの古いジョークを流用したものだったり、ノリは全く昔と変わらないのですが…。でも冗談になっていません。

アノニマスのイメージは「Q」や「Qアノン」に変化し、現実を歪める存在になってしまいました。

そして、2021年1月6日、「stop the steal」という妄言の中、議事堂の襲撃という前代未聞の歴史的汚点が作られ…。

『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』は、インターネットのメカニズムとその中毒性が、どれほど短期間で最悪に辿り着くかを、そのRTA(リアルタイムアタック)を見せつけられるようなドキュメンタリーでした。

何度も言いますけど、20年間でこのありさまですからね。次の20年では何が起こるんだっていう…。

すでに懸念事項はあります。生成AIもそのひとつです。これからは匿名のさらに上をいく、全く得体のしれない”人ならざる存在”が勝手に大量生産する情報によってインターネットは埋め尽くされることになるでしょう。その世界で何が起きるのか。考えたくもないですが、もう目の前に迫っています。

「アクティビズムというのは他者への理解から生まれるべきものだ」という作中の言葉が、本当に問われる時代です。本当に心からそう思います。

『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 67%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix アンチソーシャルネットワーク

以上、『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』の感想でした。

The Antisocial Network (2024) [Japanese Review] 『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』考察・評価レビュー