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実写映画『ムーラン(2020)』感想(ネタバレ)…実写版ではここが変わった!

ムーラン

実写版ではここが変わった!…実写映画『ムーラン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Mulan
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:ニキ・カーロ

ムーラン

むーらん
ムーラン

『ムーラン』あらすじ

国家の命運をかけた戦いを前に、すべての家族から男性をひとりだけ兵士として差しだす命令が下る。ファ家のひとり娘であるムーランは、家族で唯一の男性である病気の父親を守るため、自分が行くしかないと決心し、男性と偽って戦地へ赴く。ファ家の守り神で、風変わりな不死鳥に見守られながら、やがてムーランは戦士としての才能を開花させていくが…。

『ムーラン』感想(ネタバレなし)

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「ムーラン」はなぜ期待されるのか

2020年の映画業界のショッキングなニュース。正直、これほどそれがいっぱいある年は他にないと思いますが(ほんと、しばらくはこんな大混乱はやめてくれ…)、おそらくこの一大トピックは映画ファンに衝撃を与えました。

それが、実写映画『ムーラン』、劇場公開を断念!

『ムーラン』以外にもコロナ禍のせいで映画館での公開を取りやめた映画というのは残念なことにたくさんあります。延期ではなく配信に移った作品は数知れず。おそらく明確に発表していないけどもこっそり劇場公開予定を断念してビデオスルーになっている映画もあるはずで、それらを含めると相当な作品数になるでしょうね。

それなのになぜこの実写映画『ムーラン』の劇場公開中止に対してこれほどまでに世間の映画ファンが失望したのか。

もちろんそれはディズニーという業界最大の企業がそう決断したことのインパクトと、あとは何よりも作品自体の期待値の高さでしょう。

これまでディズニーは往年の名作アニメーション映画を実写映画化する企画を連発してきました。『シンデレラ』(2015年)、『ジャングル・ブック』(2016年)、『美女と野獣』(2017年)、『プーと大人になった僕』(2018年)、『ダンボ』(2019年)、『アラジン』(2019年)、『ライオン・キング』(2019年)、『わんわん物語』(2019年)…。

巷では「また実写化か」と飽き飽きした声もチラホラ聞かれますが、それでも業界での影響力は大きく、実写映画を連発した2019年は日本の映画館興行収入もかつてないほど儲かりました。

2020年の当初の予定ではそんなディズニーの怒涛の実写映画化ラッシュも少し落ち着き、この『ムーラン』一本に賭ける一点突破なラインナップになっていました。なので映画館側の期待も非常に大きかったはずです。

加えて『ムーラン』に期待が集まる背景が他にもあります。

それはこの感想ブログでもたびたび言及してきたように、最近のハリウッド映画界におけるアジア勢の勢いです。白人中心なエンターテインメント界は昨今になって襟を正し、多様性を意識するようになり始めました。その影響はアジア系にも及んでおり、とくに恋愛ジャンルというアジア系が排除されていた分野は変革が起きています。そして大作にも変化が起きようとしており、この実写映画『ムーラン』は、MCUが企画するアジア系主人公初主演作『Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings』と合わせて、どでかい花火になるはずでした。

それがただでさえアジア系の偏見が渦巻く原因となったコロナ禍のせいで鎮火してしまうのは何とも心苦しい話です。

また、もともとオリジナルであるアニメ版『ムーラン』(1998年)が“主人公女性が男装をして男社会に挑んでいくという物語”であり、最近も第4波の潮流に乗るフェミニズムの土台にマッチしているというのもあります。こういうプリンセスを待っていた!という声も多いでしょう。

実写映画『ムーラン』は無念なことに劇場公開はなくなり、Disney+でプレミアアクセスというかたちで有料配信されることに。値段が割高なこともあって一部ではこれにも不満が出ていますが、実は2人以上で観れば普通の映画館鑑賞よりお得(ディズニー側には不利ですけど、そのぶん利益のほとんどがディズニーに入るので多少単価が安くてもいいという計算なのでしょう)。なお、勘違いしている人も多いですが、あくまでDisney+での先行配信であり、独占ではなく、加えてDisney+内でもしばらく後にプレミア有料ではなく通常の見放題と同じ扱いに移行します。

今回の決定にあれこれ意見はあるでしょうが、おそらく配給や監督などの作り手も、観る側としてのファンも、みんな本当は劇場で観たかったのが本音だと思います。コロナ禍では無用な誹謗中傷が感染症以上に拡大する中、これ以上の邪心は避けたいところです。

まあ、どっちにせよ映画館と基本は同じ。観るかは観ないかは個人の自由です。

実写映画『ムーラン』の監督は、『クジラの島の少女』『スタンドアップ』『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』など女性を主体にした映画を手がけてきたニュージーランド出身の“ニキ・カーロ”。初の大予算映画ですね。

ヒロインのムーランを演じるのは米中合作映画『ドラゴン・キングダム』の“リウ・イーフェイ”。さらには『秋菊の物語』(1992年)でヴェネツィア国際映画祭の最優秀主演女優賞を受賞した“コン・リー”、『イップ・マン 完結』(2019年)で素晴らしい名演技を堪能させてくれたばかりの“ドニー・イェン”、こちらもハリウッドでも多数活躍する“ジェット・リー”。さらには“ジェイソン・スコット・リー”、“ツィ・マー”、“ロザリンド・チャオ”など。アジア系総動員の超豪華キャストになっており、これだけでも鳥肌ものです。

ちなみに脚本には『猿の惑星』リブート3部作のシナリオを手がけた“リック・ジャッファ”&“アマンダ・シルヴァー”のコンビもクレジットされています。

アニメ版『ムーラン』の方を事前におさらいで観るのも良いと思います。結構違っている部分も多いので、見比べるのもワクワクします。実写映画の方を観るならDisney+に加入しているはずですから、そのままアニメ版の方はとくに追加料金なしで観られますし。

もちろん映像の迫力を余すところなく味わうためにも大画面でね。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(ファンも初見も必見)
友人 ◎(みんなで観ると値段もお得)
恋人 ◎(お家デートのときに)
キッズ ◎(家族で観ると財布に優しい)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ムーラン』感想(ネタバレあり)

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ムーランは真実を誇れるか

とある村。鶏を追い込むひとりの少女。1羽の鶏はすばしっこく逃げ惑い、少女も負けじと身軽に追いかけます。村の大事な守り神の不死鳥の像の翼の片方を壊してもお構いなし。屋根を疾走し、うっかり自分が落ちてしまうも、途中で態勢を立て直し、華麗に着地。けれどもそれを見ていた村の者たちは呆れるやら目を逸らすやらで、誰も褒めません。

この少女、ファ家の長女であるムーランは、おてんばで活発すぎる性格が災いしてか、村では変な子扱いでした。そんなムーランを母は心配します。結婚こそが娘の役割だと語る母は、次女でムーランの妹のシウは心配いらないが、ムーランだけはこのままではマズいと不安な様子。

そんな妻を案じて、夫でムーランの父は、ムーランに「その力を隠せ、誰にも見せるな、お前を守るためだ」と説きました。

それから年月が経過し、ムーランは立派な女性へと成長しましたが、野原を馬で駆け回るアクティブさは相変わらず。親にも呆れられてしまいます。

そのムーランにも結婚の時が迫ってきました。両親はムーランにきちんとした嫁となるべく、まずは修業をさせます。慣れない化粧やおめかしに愚痴を言いつつ、指導する女性にお茶のマナーを教わりますが、そこで大失敗。この娘は恥だと言われてしまう始末です。

その頃、シルクロードの最前線では恐ろしい事態が起きていました。北方の柔然族の首領であるボーリー・カーン率いる軍勢が馬で守護する関所を襲い、首都に迫るべく、確実に一手一手進軍していたのです。

首都では守備隊の陥落が皇帝に伝えられ、唯一の生存者である兵士は「カーンは女と一緒です」と伝えます。この女とは魔女シェンニャンであり、実はこの兵士もその魔女が変身した姿ですが、気づくわけもありません。皇帝は配下のものに「軍隊を早急に準備しろ」と指示を出しました。

魔女はハヤブサに変身し、カーンにそのことを報告します。戦いの日は近づいていました。

ムーランのいる村にも首都から徴兵の指示が下ります。村にいる男たちが各家庭から集められますが、ファ家には娘しかおらず、足の弱い父が戦場に向かうしかありません。家族の心配をよそに父は自分の身を捧げるつもりです。でもムーランは「息子がいれば…」と考えます。

息子、そう「男」…だったら、自分が男のふりをすればいいのでは…。

夜中。静まり返った家で家宝の剣をふるうムーラン。父が着るはずだった鎧を身に着け、誰にも言わずに家を出ていきます。

翌朝、剣と鎧が消えており、ムーランが出ていったことを知る父。バレたら処刑される。先祖の不死鳥に祈り、娘の無事を願うしかできません。

朝、ムーランの前に不死鳥が舞い降りてきます。それは吉兆なのでしょうか。

あちこちから集まってきた男たちに交じり、招集地点に到着。男らしく振る舞わねばと気を張りすぎて、たまたま流れで喧嘩に発展したホンフイと剣を向け合うと、タン司令官に怒られました。「名前は?」と聞かれ、「ファ・ジュンです」と答えます。

全員を前に司令官は「脱走や不正、女を連れ込んだ者は処罰だ」と告げます。そして、男だけの集団生活のもとで訓練が始まりました。

訓練はハードでどれも気を抜けません。またそれ以外のときも自分は女だとバレないようにしないといけないので、水浴びもできずに苦労ばかり。ある時、女の好みを語り合う男たちに交じりながら、自分も女の好みを聞かれたので「私の好みは勇敢な女、頭が良くて、外見はどうでもいい」と答えました。

最初にここに来たときに衝突したホンフイとは何かとライバル関係になり、うっかり自分の本気を見せてしまいそうになります。

ひととおりの戦闘修行を終え、出陣することになり、それでもムーランは引っかかっていることがありました。嘘をついていていいのか。司令官に相談しようとしますが、「君は善人だ」「娘を紹介しよう」とまで言われ、言葉を飲み込んでしまいます。

偽りの自分のまま戦に臨むムーランに待ち受けるのは…。

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ディズニーらしさをあえて捨てる

ディズニーの『ムーラン』は実写でもアニメでも原作があって、「木蘭」という中国の伝承文芸に由来しています。なので相当に歴史があり、有名です。実はすでに中国では何度も実写映画化されており、例えば、日中戦争の最中である1939年でも映画が公開され、最近だと2009年にヴィッキー・チャオ主演で『ムーラン』というタイトルで映画が製作されていました。

そんな中でディズニーのアニメ版『ムーラン』はお得意のミュージカルとロマンスを加えて、独自のオリジナリティを発揮していました。

一方でこの今回の実写映画はどうか。ミュージカル要素は完全にありません(BGMで少し使われている程度)。そしてロマンス要素もほとんど脱臭されています。

ちなみに本作ではアニメ版ではムーランの婚約相手になるリー・シャンという司令官が、タン司令官とホンフイという2人の男性に分割されています。私はこのアレンジはとても良かったなと思いました。なぜならアニメ版の司令官と交際関係になる展開は正直、現実感覚として不適切なものとして見なされかねないですし、そもそも恋が主軸になってしまえば、「結局は婿探しにすぎないじゃないか」ということにもなります。本作ではホンフイとの関係も匂わす程度で大きく恋愛に偏らず、むしろ対等なライバルとして尊敬し合うことになります。ほどよい恋愛規範との距離感です。

このようにミュージカルとロマンスをバッサリ切り捨てるのはこれまでのディズニー実写映画(とくにプリンセス系)にはなかったことであり、ディズニーもここまでやるようになったかと時代の変化を感じさせます。

一応、コミカルなシーンは序盤を中心に点在していますが、今作ではアニメ版にいたムーシューというギャグ担当なキャラクターが削除された(その代わり不死鳥になった)ぶん、かなりグッとドラマ部分に重点を置いています。

ディズニーのアニメ実写映画化の作品群史上、これほどまでにストイックな作品はあったでしょうか。

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武侠映画に変身

ではこのディズニー実写映画『ムーラン』はミュージカルとロマンスというディズニーの十八番を捨てて、何になったのか。それはキャスティングからも薄々勘付いていたと思いますが、「武侠映画」になりました。

武侠映画というのは、中国文学によくあるジャンルで、武術に長けて義理を重んじる主人公が信念を貫いていく姿を描くもの。映画だったら『グリーン・デスティニー』や『黒衣の刺客』などがありますし、日本で映画にもなった『キングダム』もそうですね。

結果、非常にアクション方面で力が入っており、そのアクションもハリウッドのよくあるテキパキしたコンバットスタイルではなく、いかにも武侠映画っぽい大盤振る舞いな武術を中心にしています。

今回のムーランはアニメ版と違って幼い頃からやたらと身体能力が高い設定になっていましたし、なんとかスーパーヒーローっぽいなと思ったかもしれませんが、典型的な武侠映画キャラクターです。

そのムーランを演じた“リウ・イーフェイ”、私はとてもピッタリだったなと思います。凛としており、それでいてパワフルさもある。さすがオーディションで勝ち抜いただけあります。よくハリウッドでのアジア系描写はいかにも非アジア系の人が連想しがちなステレオタイプなアジア人表象を背負わされることも多いのですけど、今回の“リウ・イーフェイ”はすごくナチュラルな感じで良かったです。

ちょっとムーランが強すぎかなと思いますけど、まあ、でも司令官が“ドニー・イェン”ですからね。もはや“ドニー・イェン”ひとりいれば、敵を全滅できるんじゃないかと思わなくもない。

できれば“ドニー・イェン”とあの魔女を1対1で戦わせてほしかったです。あの魔女は魔法(物理)で戦うスタイルで、完全に武侠映画流になってましたからね。それであの司令官さえ負けてしまったところで、ムーランが魔女に打ち勝つだけの力を見せる!…だったらアツかったのだけど。

そういえば、アニメ版でおなじみの雪崩シーン。なんか今回のはやや納得がいない雪崩の起こし方だったのですけど、敵さん、バカすぎない?

そうは言いつつも、ラストはボーリー・カーンにムーランの力だけで戦ってみせるという完璧な主役活躍を見せられましたから、なにかと男とタッグを組むしかなかったアニメ版よりも大きく前進したのではないでしょうか。

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アニメ版からの女性描写の進化

ディズニー実写映画『ムーラン』の忘れてはいけないもうひとつの改変ポイントは、魔女シェンニャンの立ち位置。アニメ版にはいなかったキャラクターですが、実質のヴィランであり、同時にムーランにとっての女性メンターになります。

ここも地味に思うかもしれませんが、大切な要素だと思うのです。アニメ版は気になる点があるとすれば、常にムーランを導くのは男性だったということ。男社会のルールからの脱却を目指すのに、男の導きが必要なのはなんだか釈然としません。

アニメ版のコミックリリーフだったムーシューだって男キャラであり、それゆえに“女性”の性を象徴する不死鳥にこの実写版では置き換えたわけです。

魔女シェンニャンの追加で女性の解放が女性の力でなされることが強調されました。

もう少し不満を言うなら、もっとその解放を踏み込んでほしかったなと思う部分もあります。本作はなおも国家権力という構造の中にムーランは存在し、そこからは抜け出せていません。

ちなみにアニメ版の『ムーラン』には続編があってその『ムーラン2』では、政略結婚させられる女性たちが自由恋愛に目覚めていく過程を描き、ややではありますが、そういう巨大な枠組みからの脱却が描かれていました。

せめてエピローグとして、ムーランがあの村の長になり、幼い女の子たちに武術を教えているというシーンがあったらなお良かったのですけども。

ディズニーの実写映画『ムーラン』は全肯定できるほど優れているわけでもないかもしれません。キャストはアジア系でも、製作陣にアジア系が乏しいのは残念です。また、中国との政治をめぐる対立もあり、ボイコットも起きています。あらためて中国を題材にした映画を作る難しさが浮き彫りになったかたちとも言えます。
一方で、2005年の『SAYURI』なんかと比べたらハリウッドの作るアジア映画は半歩ずつでも前進していると喜んでもいいのかもしれません。

クラシックを保守していたディズニーがここまで実写映画化で挑戦してきている以上、これは挑戦の初期段階でしょう。ここで「色々面倒だったから、やっぱりいつもの定番に戻ろう」となったら台無しです。『ムーラン』の打ち上げた花火は映画業界に雪崩を起こせるでしょうか。

今度は映画館で観れるといいな。

『ムーラン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 74% Audience 50%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

以上、『ムーラン』の感想でした。

Mulan (2020) [Japanese Review] 『ムーラン』考察・評価レビュー