やっぱり終末でも最強です…Netflix映画『バッドランド・ハンターズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:ホ・ミョンヘン
自然災害描写(地震)
ばっどらんどはんたーず
『バッドランド・ハンターズ』物語 簡単紹介
『バッドランド・ハンターズ』感想(ネタバレなし)
マ・ドンソク・ユートピア
2024年の元日に石川県の能登地方で最大震度7を観測した大地震、そして津波。発生から約1カ月が経過し、被災の現状が整理され、ボランティアの派遣も始まりだしました。しかし、多くの被災地ではインフラは壊滅的で、支援対応の遅れも指摘されています。
2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議にて東日本大震災の経験と教訓が取り入れられた「仙台防災枠組2015-2030」が採択され、そこでは「より良い復興(BuildBack Better)」の指針を前提に、弱者に配慮した包括的な支援の重要性が明記されていました(LGBTQIA+ People & Disasters)。それが今回の能登元旦大地震で活かされたのかというと微妙なところ。
例えば、被災者の“女性”支援と言っても、少数派の人種や民族の女性、身体障がい者の女性、非定型発達の女性、セクシュアル・マイノリティの女性…そうした周縁化されやすい女性は考慮されていなかったり…。
災害事態も怖いのですが、被災支援は「支援を受けられる人」と「受けられない人」を選別する場になりかねない怖さがあります。「災害は差別しない、災害対応は差別する」という言葉どおりのことが現実に起きています。本来は救われる待ちわびた支援の存在が、追い打ちで被災者を傷つけるって本当に最悪なのですが…。
今回紹介する映画はそんな被災時に起きる“選民”の恐ろしさをエンターテインメントの味付けで表現した作品です。
それが本作『バッドランド・ハンターズ』。
本作は2024年の韓国映画で「Netflix」独占配信となっていますが、実は日本では2024年1月早々に劇場公開されたばかりの韓国映画『コンクリート・ユートピア』の続編ということになっています。
ただ、続編と言っても、とてつもない大震災で韓国のソウルが崩壊して廃墟になったという世界観が共通しているだけで、物語やキャラクターの続きが描かれるわけでは全くありません。
しかも、『コンクリート・ユートピア』のほうは社会風刺の要素が濃い群衆パニック・サスペンスになっていましたが、こちらの『バッドランド・ハンターズ』はアクション・エンターテインメント要素に振り切った終末モノです。そのため、映画の味わいはかなり違うと思います。
なにせ『バッドランド・ハンターズ』の主演はあの“マ・ドンソク”ですからね。ひとたび暴れ出せば、一瞬でその映画を支配してしまう魅力の持ち主。デカいのは図体だけではない、スーパースターとしての占有率もハイパワーです。
早い話が、最強すぎる“マ・ドンソク”が大暴れする『マッドマックス』ですよ。乗り物はでてこないけど…。
ということで、『バッドランド・ハンターズ』は『コンクリート・ユートピア』を観ていなくても何も問題ありません。むしろあの映画みたいなのを期待するとダメです。『コンクリート・ユートピア』のあのエンディングの余韻が台無しになりかねないほどにリアリティラインを超えまくってハジけているので、綺麗さっぱり忘れるか、完全に頭から切り離しておくと備えにはなるかな?
『バッドランド・ハンターズ』は“マ・ドンソク”のワンマンショーになっているのはひとつの事実ですけども、他の共演者も頑張っています。アイドルグループで歌手活動をしつつドラマ『マスクガール』など俳優もやってきた“イ・ジュニョン”が本作では冴えない非力なサイドキックを熱演。さらにドラマ『その年、私たちは』の“ノ・ジョンウィ”が誘拐されてしまう良識のある少女の役を、そして『スレイト』の“アン・ジヘ”が今回もパワーファイターなアクションを見せてくれます。
加えて、『KCIA 南山の部長たち』の“イ・ヒジュン”が今作におけるヴィラン的なポジションで君臨。今回は眼鏡キャラですね。
他にも『オオカミ狩り』の“チャン・ヨンナム”、ドラマ『魔女は生きている~妻たちの復讐~』の“ソン・ビョンスク”などが出演しています。
とりあえず『バッドランド・ハンターズ』は“マ・ドンソク”の腕力を堪能したい人なら、最初から最後まで目を楽しませてくれるでしょう。
なお、設定上、多少の地震描写があります(そんなにリアルではありません)。
『バッドランド・ハンターズ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年1月26日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :マ・ドンソクを味わう |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :暇つぶしに |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『バッドランド・ハンターズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):バッドランドに鉄拳制裁
白衣の男が研究室で立ち尽くしています。床には別の研究員が倒れていて、血が無惨に流れているのみ。その男は「ソヨン」と呟き、血で汚れた手でパソコンを操作。手術着で寝かされている娘の傍に駆け寄り、「もう少しで生まれ変わるぞ」と興奮気味に声をかけます。
そこにドアを激しく叩く音。武装隊が突入してきて「ヤン・ギス」と呼びかけながら解放を促します。「あなたの実験で100人以上が死んだ」と言われても、ヤン・ギスは「実験が成功したんだ。私が生き証人だ」と耳を貸さずに興奮してまくしたてるだけ。
自分にも打った注射をソヨンにも打ちますが、すぐに発砲され、連行されようとします。
そのとき、建物全体が激しく揺れ、地震警報が間髪入れずに鳴り響きます。窓には高層ビルが次々と崩壊する信じられない光景が広がり、この建物も足元から何もかも崩れ…。
それから3年後。ほぼ荒れ地となった廃墟のソウルを歩くひとりの男、ジワン。ワニを見つけて、火の矢を放ちます。倒したかと思ったら猛然と襲ってきたので車に逃げ込み、叫ぶしかできずに絶体絶命。
しかし、その凶暴なワニを尻尾を掴んでナタで首を一刀両断にした帽子男が現れ、事なきを得ます。一緒に行動しているナムサンという屈強な男です。2人はこうやって狩りをするのが日課でした。
一方、別の場所。祖母と暮らすスナはここも水不足になり、生活は困窮していました。移り住むことも考えますが、スナはここで祖母と一緒のほうがいいようです。スナは人は信用できないと言います。
バス地区ではナムサンとジワンはワニ肉を物々交換で売っていました。政府は存在せず、かつての経済社会が復興する気配は微塵もなく、今では金品や宝石に価値はありません。
そこへスナと祖母も来ます。ナムサンはスナの命の恩人でもあり、親しいです。スナはいつも描いた絵をくれます。
そのとき、サイレンを鳴らしながら、柄の悪そうな集団が登場。チャムシル警察署だと拡声器でまくしたて、犯罪者を捜索していると主張。そしてテキトーにめぼしい男を連行し、逆らった者には暴力を平然と振るいます。
その集団はスナを見て、若い女だという理由で連れて行こうとします。すかさずジワンが守ろうとするも袋叩きにされ、見かねてナムサンが手を差しのべます。ナムサンは容赦なくぶちのめし、ボスの名を問い詰めます。
なんでも隠れた地にマンションがあって、タイガーというボスはそこと取引して水も確保しているようです。その情報を残し、集団は逃げ帰っていきました。
ある日、スナのもとに先生と呼ばれる女性、キムが来訪してきます。10代の子をソウルの安全な場所で保護しているらしく、ここで住むよりもマシだろうとナムサンたちも背中を押します。
こうしてスナと祖母はキムのグループに導かれながらこの地を離れていきました。ところがその先には欲深い執念を燃やす人間が待つマンションがあって…。
感想「気持ち悪かったな」
ここから『バッドランド・ハンターズ』のネタバレありの感想本文です。
『バッドランド・ハンターズ』の世界観、これであの『コンクリート・ユートピア』と同じ世界だって言うんですから無理やりすぎますけど、まあ、あの大地震も地殻変動が尋常じゃなかったし、たぶん地球の自転軸がズレて、地球環境そのものが激変したんだろうな…。そういうことにしておこう。
冒頭からワニをモンスターハントする荒業を見せてくれるナムサン。しかも首を真っ二つにするというパワープレイ。腕力も凄いけど、刃物の切れ味も凄すぎる。なんで韓国の、そのうえ水のない荒廃した砂地にワニがいるんだよ!というツッコミが真っ先にできますが、”マ・ドンソク”がワニをぶった切るシーンが見たかっただろ!?というサービスに答えてくれた結果なんでしょう。これもそういうことにしておこう。
そんな”マ・ドンソク”ですから今回も敵なしです。そこらへんの人間なんてネズミのような雑魚同然。『犯罪都市 THE ROUNDUP』とかでもよく見た”マ・ドンソク”無双の光景。
それだと面白くないので今作では、マッドサイエンティストであるヤン・ギスが新たな人類の創造を掲げてこの過酷環境でも生存できる人間を後天的に作成。要するに強化人間です。そんな強化人間と化したクォン曹長らが立ちはだかります。おまけに失敗作のようなゾンビ状態の群れも出現して、大盤振る舞いです。
でもやっぱり倒せちゃうんですけどね。
超人となった新人類よりも“マ・ドンソク”のほうが強いってどうなんだ…。チートすぎるのみならず、世界観的にあのナムサンの異次元のバイタリティを研究対象にしたほうがいいと思うんですよね。ヤン・ギスの娘だってナムサンの血を輸血したら再生するかもしれないぞ…。
空軍特殊部隊だった真っ当な正義感と倫理観を持つこの世界の希少種であるイ・ウノもなかなかの格闘センスを持っていてカッコよかったのですが、いかんせんナムサンが際立って最強なので霞んでしまうという、ちょっと可哀想なポジションではあります。
ジワンは…頑張れ…。せっかく冒頭のワニでヘマしているシーンを入れたのだから、最後は弓矢でパーフェクトにきめる大見せ場を用意してほしかったなという気も…。
個人的には強化人間が登場するのだから、この際、ワニの突然変異の強化モンスターも出てきていいとは思ったけど(ちょっと期待しながら最後まで観てた)、それをやると完全に『バイオハザード』になるからね…。
ただ、「気持ち悪かったな」の感想で済まして強化人間の首をもぎ取れるナムサンにはそれくらいの特大敵じゃないと物足りないでしょう。
こんな世界でも崩壊しない学歴社会
『バッドランド・ハンターズ』は相当にやりたい放題にエンタメ特化していましたが、一応、多少なりの社会風刺要素は残っています。
今作の諸悪の根源であるヤン・ギス。『コンクリート・ユートピア』のアイツと同じで、マンションを根城に権力を手にして大衆を従える人間という意味では同じ。ヤン・ギスは最初からマッドサイエンティストっぷりが全開なので、あからさまに悪い奴です。
そのヤン・ギスが統治するあのマンションですが、未曽有の大災害に苦しむ被災者に対して「支援」を餌に「救われる人」と「救われない人」を選別しています。
注目したいのが、その選別が学生のような若い年齢の子たちに懸かっており、学校の授業風に評価されて「1位になれ」という圧を受けていること。その結果がそのまま家族全体の生活の質に影響を及ぼします。
これはつまるところ、学歴社会と同様の構造ですね。この被災サバイバルにおいて学歴社会の歪みを持ち込んで痛烈に描き出すあたりは、とても韓国映画らしいアプローチだと思います。
ヤン・ギスのほかにヴィランとなるキムという女性の教師は、そうした学歴社会が世の中を良くするのだと純粋に信じているタイプの人間なんだろうなと感じさせるキャラクターでしたし、世界の崩壊後もそんな理想に逆にイキイキとしているところさえありました。
スナがマンションに移送される途中で知り合った同年代のイ・ジュイェは本当に良い子で、その良い子とはつまり従順という意味であり、社会の期待に応えれば報酬が貰えるという仕組みに疑いを持ちません。「良いことすればご褒美がでるってステキだよね!」と信じてしまうというのは、独裁者には都合がいい話で、水という物資だけでなく、そうした心理も巧みにコントロールしてあのコミュニティを成り立たせています。
本作はフィクションですが、こういう歪んだメカニズムが生じるのって実際の被災現場にも普通にあることだと思います。
ここぞとばかりに、助けてくれる国や自衛隊を称賛して「模範的な良い人」になろうとしたり、被災者に「模範的な良い人」になれと周囲の人間が圧力をかけたり…。メディアでも被災者の姿を報じる際に模範的に見える人ばかりを映そうとします(例えば断水が解消して「申し訳ない」と口にする被災者とか)。
本来、支援とはその当事者の性格とか性質なんて関係なしに平等に与えられないといけないはずなのに、模範的かどうかで優先順位がつけられてしまうという怖さ。
『バッドランド・ハンターズ』はこういう薄っすら提示される社会風刺のテーマ性は結構いいのに、それが“マ・ドンソク”演じるナムサンと食い合わせが全く悪いので、たいして深まりもせずにエンディングを迎えてしまうのが少し残念です。腕力で解決するからな…。
どんな被災地でも、全ての人に支援が行き渡るようにしてください。それが正しい「より良い復興」の在り方です。
あと被災した際に野生動物を狩ってその肉を食べるのはあまり推奨できませんので(安全が保証されている食品をまず最優先すべきです)、マネしないでね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience –%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix バッドランドハンターズ
以上、『バッドランド・ハンターズ』の感想でした。
Badland Hunters (2024) [Japanese Review] 『バッドランド・ハンターズ』考察・評価レビュー
#韓国映画 #ポストアポカリプス #マドンソク